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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
最終章 アレクシスの婚約者と王位継承争い
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第八話 出発、そして到着

 軍議から戻り三人に伝えると、案の定セラとアンジェリカも参戦を決めた。多少説得は試みたが、意味はなかった。仕方ないので出撃の準備をする。相談相手は近衛騎士のベティさんだ。彼女がリアの護衛に付くそうなので、セラとアンジェリカの装備を含め相談したところ、全て整えてくれた。女性の用意はよく分からないので、とても助かった。


 そして翌朝。公爵邸に近衛騎士の迎えが到着し、父上と共に邸を出た。馬車でセラとアンジェリカを迎えに行き、その後、集合場所に向かう。集合場所は王都西門の外にある広場だ。


 広場に到着すると、騎士達が出発の準備を進めていた。近衛騎士の案内で向かった先には、王族、近衛騎士、騎士団の幹部が集まっていた。


 俺達はリアの元に歩いて行く。


「おはよう、リア」


 リアに朝の挨拶をする。


「おはよう、アレク。二人もおはよう」

「おはよう、リア」

「おはようございます。オフィーリア殿下」


 二人がリアに挨拶を返すと、リアがクスッと笑いアンジェリカに視線を向ける。


「そろそろオフィーリア殿下は止めて。普段はリアで良いわよ」

「そ、そうですの?」

「同じアレクの婚約者同士でしょう?」


 二人は仲が良く気さくな間柄なのだが、それでも壁を感じていたのかも知れない。リアが呼び方の変更をアンジェリカに求める。


「……分かりました。リア様と呼ぶようにしますわ」

「様もいらないわ」

「はい……リア」


 リアが笑みを浮かべる。


「すぐに慣れるよ」

「う~、頑張りますわ」


 セラとアンジェリカのやり取りを見て、周囲も笑みを浮かべている。この場を公的な場と見るか私的な場と見るかは、人によって意見が分かれるだろう。しかし、この場にいる人達は不快に感じている様子はない。


 軽く雑談をしていると、ベティさんに呼ばれる。


「皆さん馬車の中へ。出発します」

「あれ、全体への説明とかないんですか?」

「小隊長以上には伝達済みですから。皆さんには馬車の中で説明します」


 そういうものかと思い、馬車に乗り込む。俺達が乗り込むと、馬車の中にはアルフ殿下もいた。


「あら、アルフも同じ馬車なのね?」

「はい。姉上達と同じ馬車だと言われました」


 アルフ殿下は無邪気な笑顔で答える。


「アルフ殿下は討伐に参加するのは初めてですし、未成年でもありますから」


 俺達の後に同じ馬車に乗り込んだベティさんがそう話す。ベティさんの言葉は説明になってないのだが、察することは出来る。この馬車の人員は実際に戦うことを想定していない。バミンガム侯爵領の時の、アンジェリカやクラリスと同じだ。そして、ベティさんがそういう説明をしないのは、アルフ殿下の性格が理由だ。


「私は初陣ですが、アレク兄上のように功績を挙げて見せます」


 アルフ殿下はやる気満々の顔で言う。彼はドラゴン討伐にも興味津々で、将来は騎士か冒険者という王族らしからぬ性格をしているのだ。……俺の影響なのだが。


「到着はまだ一週間は先よ。張り切りすぎないようにね」


 リアはアルフ殿下の扱いに慣れているので、殿下の発言を軽く流す。セラもアンジェリカも何度も面識があるので、特に緊張はない。

 軽く挨拶をした後、ベティさんが説明を始める。


「魔の森への到着は七日後の予定です。急ぎの行軍となりますので、通常の馬車旅に比べるとかなり早いです。移動時間を多く取り、その分休憩時間が少なくなります。不便も生じるかと思いますが、ご理解ください」


 俺達は頷く。通常の馬車旅で十日なので、少々大変ではあるが無理な速度でもない。それに、俺達は常に馬車に乗っての移動だ。


「現地の状況が分かりませんのであくまで予定ですが、皆さんは先行しているブリスト伯爵領軍に合流します。当然、私を含め近衛騎士が数人護衛につきます」

「近衛騎士は何人来ているのですか?」


 ベティさんに尋ねる。


「昨日連絡が入った後、トーマスさん以下一小隊十人が出発しています。本隊にも王族の護衛として、一小隊十人が参加しています」

「近衛騎士が二十名ですか……もう一体ドラゴンが出てきても大丈夫そうですね」


 俺の冗談にベティさんは「お任せください」と自信あり気な顔で答えてくれる。

 皆も笑い声を零す。


「ですが、実際にもう一体出ると護衛に支障がでるので困りますね」


 ベティさんが苦笑して補足する。

 それはそうだなと思う。俺は兎も角、リアとアルフ殿下や、一緒にいるセラとアンジェリカの護衛は万全にしてもらいたい。今回参加している王族は、俺達以外にも、王太子殿下、父上、オーウェン殿下、カール殿下、ベンジャミン、の計八人もいる。護衛も大変だろう。


「合流後はあちらの状況次第ですので未定です」


 ベティさんが説明を終えると、丁度馬車が動き出した。



 ◇



 馬車に揺られること七日。ウェルズ侯爵領の北部にある広大な魔物領域――通称『魔の森』――近くの町へ到着した。魔の森を巡回する兵士や冒険者は、この町を拠点に活動している。


 俺達は馬車を降りると、討伐軍の本拠地となっている兵の屯所に入った。案内された部屋には、先行した近衛騎士達、ウェルズ侯爵と領兵が数人、それから、数ヶ月ぶりに会う男がいた。


「アレクシス様!」

「久しぶり。マックス」


 ブリスト伯爵領軍の新しい兵士長であるマックスだ。


「アレクシス様が来るとは思いませんでした」

「一応、次期ブリスト伯爵だから……って、もう聞いている?」

「はい。トーマス様から聞きました。領兵一同大喜びです」


 マックスは満面の笑顔だ。歓迎されているようで何よりである。リア達の顔にも笑顔が見える。

 マックスがリア達に視線を向ける。


「そちらの方達は?」

「俺の婚約者達だ」


 リア達をマックスに紹介する。王族、侯爵令嬢、伯爵令嬢の登場に、マックスが凄く緊張していた。でも、すぐに慣れるだろう。マックスはそういう奴だ。


「アレク様。こちらへ」


 声を掛けて来たのはトーマスさんだ。これから現状の説明をするようだ。王太子殿下やウェルズ侯爵を始め、討伐軍の幹部が揃っている。トーマスさんは、大机に広げられた地図を指さしながら説明を始める。


「この町と魔の森との位置関係になります。魔の森の入り口……といっても広いですが、最も近い此処です」


 トーマスさんは森の一か所を指さす。


「町から徒歩で三時間、馬車だと二時間くらいの距離にあります。ドラゴンが目視されたのが森の上空でこちらの方向だそうです」


 トーマスさんが指で示したのは、森の入り口から北東の方向だ。


「ドラゴンは森の奥に飛んで行き、その後は確認されていません。その他の魔物の状況ですが、ドラゴンの確認後、広範囲で森の外に溢れています。ですが、規模自体はそれほどでもなく、順次領軍と冒険者によって討伐が進められています」


 状況はそれほど悪くはないようだ。


「このまま収束するようであれば、折を見て撤退の判断となると予想されます」


 撤退になるなら、それが一番良い。リア達もいるのだから、無理に戦いに出る必要はない。


「そうなると、軍を何日待機させるかだな」


 父上が発言すると、トーマスさん達も同意を示す。無駄に軍勢を待機させる必要はない。領軍と冒険者で対応出来ているなら、大半は即時撤退でも構わないと思う。

 ここでアルフ殿下が不満を漏らす。


「折角来たのに戦わないのですか?」

「アルフ。少しの間、黙っていなさい」


 リアが嗜める。

 リアに注意されたことで、アルフ殿下はしゅんとしてしまう。その様子に大人達は頬を緩ませる。そういう表情が出来るのは、深刻な状況ではないからだろう。


「溢れている魔物の討伐を領軍が進めていますから、それに参加するくらいは可能ではないでしょうか?」

「トーマスさん?」


 アルフ殿下の討伐参加を許容する発言に、俺は思わず聞き返す。その俺を見て、トーマスさんが肩を竦める。


「良い経験だと思いますよ。アレク様のように黙って行かれるより余程良いです」

「うっ、それを言われると……」


 俺は今のアルフ殿下より小さい頃に、数回魔物領域に出かけたことがある。一度しでかした後は、近衛騎士が付いて来るようになったが……


「王太子殿下、ウェルズ侯爵、如何でしょうか?」


 トーマスさんが二人に尋ねる。二人は視線を交わし、王太子殿下が代表して話し始める。


「溢れている魔物は何がいるんだい?」

「ほとんどがEランクのスモールチキン、偶にDランクのノーマルチキンです。入り口周辺にいたCランクのビッグチキンとBランクのキングチキンは、既に討伐済です」


 魔の森に現れるチキンという魔物は、見た目が大きなニワトリだ。


 Eランクのスモールチキンで、体長一メートル。

 Dランクのノーマルチキンで、体長二メートル。

 Cランクのビッグチキンで、体長四メートル。

 Bランクのキングチキンで、体長八メートル。


 共通している主な攻撃手段はクチバシだ。首を上下左右に振って刺突攻撃を行う。

 足はボアほど早くはないが、ボアと違って回避行動をする。

 羽毛は柔らかく、布団の主な材料だ。

 肉の味も鶏肉系の味だ。王都周辺には出ないので、ウルフ肉に比べると高級肉となる。

 残念ながら卵は産まない。


 ビッグチキンになると羽根を広げて飛び上がる。何故か巨体のチキンほど高く飛ぶのだ。ビッグチキンで五メートルほど、キングチキンは十メートル近く飛ぶ。

 キングチキンはその上、火を吐く。正確には火魔法を放つのだ。

 見た目はニワトリだが、とても危険だ。三人やアルフ殿下に戦わせるわけにはいかない。


「入り口周辺というと、他の場所にはいるということかい?」

「おそらくいると思います。討伐は最初に村の周辺、次に森の入り口周辺、以降順次、東西に向って進めています」


 トーマスさんは地図上で指を動かす。


「領軍の精鋭部隊と高ランクの冒険者が先行し、キングチキンとビッグチキンを優先して討伐してもらっています。ノーマルチキンとスモールチキンは、後追いの部隊が順次討伐を進めています。今日か明日にも森の入り口周辺の討伐が終わります」


 つまり森の入り口付近には、ノーマルチキンとスモールチキンが少数いるだけの状態ということになる。


「森から出て来る可能性は?」

「絶対に出て来ないとは言えません」


 トーマスさんは王太子殿下の質問に対して、危険がゼロでないことをはっきりと認める。もっとも、その可能性を無視できないなら、魔の森での討伐は諦めた方が良い。


「私は行きたいです!」


 アルフ殿下が主張する。王太子殿下はその様子を見て結論を下す。


「まあ、良いんじゃないかな。私も森の入り口くらいは見ておきたいし」


 王太子殿下が許可を出し、明日の午前中に行くことになった。近衛騎士も護衛に就くので、大丈夫だろう。


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