第三話 一年生の終了と公爵邸での話
両親達との話し合いから二週間経ち、十一月の最終週。今週で貴族学園の一年生課程も修了だ。
最近は学園内でも、俺達の婚約やブリスト伯爵就任の話が聞かれるようになった。王太子殿下達は、積極的に広めて根回しをしているらしい。俺達も質問をされるが、婚約が決まったのは事実だし、伯爵就任もそういう話があるということは認めている。
ダミアンからは「将来はアレクが寄親だな」と言われた。メア子爵は寄親変更を希望していたが、前ブリスト伯爵が爵位剥奪となったので現在は保留となっていた。順当にいけば、将来の寄親は俺で間違いない。
また、後期課程が修了するということは冬季休暇に入るということだ。大半の学生は領地に帰り、領地で新年を迎える。年が明けると貴族会議があるので、その際に親と一緒に王都に戻ってくる。俺達の中でも、俺とリア以外は全員領地に帰る。
一番距離が遠いのがダミアンだが、それでも片道一週間くらいだろう。王国内で一番遠い領地というと、西のウェルズ侯爵か、北のマンチェス侯爵だ。王都は国全体でいうと、東南よりにある。両侯爵は馬車旅で十日近くかかるので大変だ。急げばこの限りではないが……
◇
「よいお年をー」
セラが年越しの挨拶をして屋敷に戻った。明日、サザーランドに帰るそうだ。既に他の皆は出発している。
最後はリアと俺だ。目の前でリアが迎えの馬車に乗り込む。
「アレクも良いお年を」
「年内も普通に会いに行くよ」
リアはクスクスと笑い馬車に乗り込んだ。護衛の近衛騎士が俺に挨拶をし、馬車は城に向かう。
リアは約一年ぶりに城へ戻る。夏季休暇も半分以上をサザーランドで過ごし、残りは寮で過ごした。城に戻ることで、ウェルズ侯爵やお婆様が近づいて来るかも知れない。
「大丈夫かなあ」
「王太子殿下は万全の準備を整えておられますから、大丈夫ですよ」
俺の隣に立つトーマスさんが言う。トーマスさんが言うなら大丈夫だのだろう。
「では帰りましょうか」
「王都内なら、俺は護衛がいなくても問題ないんですけどね」
「あくまで体裁です」
トーマスさんは俺のお迎えだ。普段から一人で出歩いているのに体裁もないのだが、俺の現状を考えると、長期休暇の帰省に馬車の迎えがないのは良くないそうだ。
「面倒ですね」
「今だけですよ」
俺の伯爵就任が決まる貴族会議の前だからということだろう。今はそれ相応の体裁を取り繕う必要がある。
俺とトーマスさんは馬車に乗り込んだ。
◇
公爵邸に戻り母上に挨拶をする。父上はまだ城らしい。母上と向かい合って座る。
「こちらです」
一枚の紙を母上に渡す。母上はその紙を受け取り、内容に目を通す。一通り目を通し、顔を上げる。その顔は笑みを浮かべている。
「よく頑張りました」
「ありがとうございます」
母上が確認したのは、俺の成績表だ。貴族学園では、年度の終わりに成績表が配られる。成績表には学年の順位表と個人の詳細な点数が記載される。順位が晒されるので、就職にはとても影響が出る。俺の場合は特に関係ないのだが、真面目に授業に出席し相応の成績を取った。
「実技は学年一位ですね。素晴らしいことです」
「トーマスさん達のご指導のおかげです」
俺の実技は断トツ一位だ。
実技の順位は、一位が俺、二位がダミアン、三位がコリーとなっている。トーマスさんやベティさんの指導のおかげなのは間違いない。四位はセラで、五位がリア、六位がアンジェリカと続く。来年以降は身体能力の差で男子に抜かれ始めるだろうが、現状は彼女達の方が上だ。
「学科の方も上位に入っていますね」
「女性陣に教わって何とか頑張りました」
「素敵な婚約者を貰いましたね」
母上がニコリと笑う。母上の言う通り、俺の婚約者達は頭が良い。
学科の一位がアンジェリカ、二位がリア、三位がセラだ。四位がレイチェル、五位に俺、六位がモニカと続く。上位三人の教育の成果と言って良い。
科目ごとの詳細な報告を続け、丁度報告が終了した所で父上が返ってきた。
「お帰りなさい、あなた」
「お帰りなさい、父上」
「ただいま……アレクも戻っていたのか」
父上は俺がいることに一瞬驚いたようだ。知らなかったのだろうか?
「忘れていましたか?」
「すまんな。今日は色々あって頭から抜けていた」
「色々ですか?」
城での出来事が原因らしい。父上はメイドさんに上着を渡し、席に座る。着替える前に話をするつもりのようだ。俺と母上も席に座る。
「これは?」
父上はテーブルの上の成績表を手に取る。
「貴族学園の成績表です」
「褒めてあげても良いと思いますよ」
母上は俺の成績が良かったことを示唆する。父上は頬を緩めて「後で確認する」と言った。
「それで、城で何かあったのですか?」
「ああ。お前の伯爵就任について母上がな……」
父上は疲れた表情で話す。
「お前を伯爵にするのは、オーウェンを王位に就けるための策略だと兄上に直接言った」
「「……」」
俺と母上は絶句する。俺の伯爵就任は陛下も賛成していることだ。いくら何でも問題がありすぎる。
「当然兄上は誤解だと説明したが……」
「聞くわけがないですね」
父上が頷く。こんなに疲れ切った父上は久しぶりに見た。
「母上はメイドに連れていかれたのだが、廊下での出来事で人目があった」
「話が広まったのですね」
母上が展開を予想したように問いかける。
「そうだ」
父上が肯定する。二人ともこのまま頭を抱えそうな雰囲気だ。
「流石に問題があると思いますが、お婆様はどうなったのですか?」
「陛下も兄上も問題にしなかった。『いつものことだ』とな」
いつもなのか? そういえば、以前はリアがベンジャミンとの婚約を望んでいると言いふらしていた。いつものことなのかも知れない。
「良かったのか、悪かったのか、分かりませんね」
俺が感想を述べると、父上の話は続く。
「その話をベンジャミンも聞いて、アレクの方が王に相応しいと言い出した」
「兄上がですか? 何故です?」
あんなに目の敵にしていたのに?
「捕まえて話を聞いた。ここで詳細は言わんが、純粋にアレクが王に相応しいと思って言っているわけではない」
父上は御立腹だ。ベンジャミンは何を言ったのだろう。母上も聞こうとはしていない。
父上は自分を落ち着けるように、ゆっくり息を吐く。
「まあ、お前の伯爵就任について、城の大部分は肯定的だ」
「騎士団もですか?」
「伯爵就任に前向きだということも広めたからな。勿体ないという意見もなくはないが、反対している人間はほとんどいない」
「それは良かったです」
伯爵就任とリア達との婚約の話はセットで広めている。リアの周囲もおそらく穏やかだろう。
「それと、これはオーウェンからだ」
父上は懐から手紙を取り出し、俺に差し出す。
「お茶会の誘いだ」
「お茶会ですか?」
「お前とオフィーリアへの誘いだ。直接話をしたいらしい」
会うのは構わないが、何の話だろうと考えハッとする。
「もしかして、オーウェン殿下まで策略と思っているのですか?」
俺が無理やり王位継承争いから外されたと思っているのかも知れない。
父上は俺の質問に微笑を浮かべる。
「本気でそう思っているわけではないだろう。オフィーリアも城に戻ったから、弟妹と四人で会いたいということだ」
四人ということは……クリスティーナ様も一緒だ。




