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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
第四章 アンジェリカの希望とバミンガム侯爵家が求める婿
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第七話 バミンガム侯爵領

 翌日。バミンガム侯爵領の話が公表された。学生達の反応は様々だ。討伐に参加すると意気込む者、Bランク魔獣と聞いて諦める者、参加する気のない者。それぞれが意見を言い合い、活発な議論が見られた。


 身内で言うと、リアとセラは案の定乗り気になっていた。しかし、保護者の許可は二人を参加させないための条件だと話すと、渋々諦めてくれた。ダミアンとコリーは意外にも不参加を決めた。他領の婿に入る身で、Bランク相手に無茶は出来ないとのことだ。レイチェルとモニカはホッとしていた。


 俺とローレンスさんは訓練を続けた。久しぶりに模擬戦をしたら、攻撃魔法なしでは到底敵わない強さになっていた。俺の体が成長すれば差は縮まるかも知れないが、現状ではどうにもならない。


 アンジェリカも訓練していた。リアやセラに攻撃魔法の指導を受けていたようだ。


 休日の訓練では、ベティさんの指示で、ローレンスさん対俺達三人の模擬戦が行なわれた。結果は俺達の全勝だったのだが、ローレンスさんは回数を重ねる度に強くなっていった。恐ろしい成長速度だが、それより強いベティさんは何なのだろうと思う。


 そして二週間が経った。



 ◇



 討伐隊がバミンガム侯爵領に進んでいる。騎士団は百人ほど動員された。近衛騎士は俺と一緒にいるトーマスさん一人だけだ。


 学園の生徒は少数の参加にとどまった。大半は不参加を決め、参加を希望した生徒も保護者が許可を与えなかったのだ。Bランクが相手では仕方のないことだろう。俺自身、無理を言って許可して貰っている自覚はある。


 今は馬車に乗って進んでいる。同乗者はトーマスさん、アンジェリカ、ローレンスさんの三人だ。


「見えてきましたわ。あれがバミンガム侯爵領の魔物領域です」


 アンジェリカが指を差す方を見ると広大な森がある。手前には軍の姿も見える。


「あれはバミンガム侯爵領の領軍か?」

「ええ。間違いないと思いますわ」


 流石に侯爵家だ。かなりの人数がいる。


 馬車が森の手前の広場に到着する。馬車が停止すると扉が開かれ、俺達は順に降りる。そこには、武装したバミンガム侯爵が待っていた。


「お待ちしておりました。アレクシス殿下」

「今日は学生の一人です。他の学生と同じように扱ってください」


 公的な場以外は叔父と甥の関係なので、普通に接してくれる方がありがたい。


「分かりました。では、そうさせていただきます」


 ニヤリと笑みを浮かべて俺を見る。侯爵はアンジェリカに視線を向ける。


「騎士隊長に挨拶に行く。付いて来なさい」

「かしこまりました」


 侯爵とアンジェリカが騎士隊長に挨拶に行った。俺達は学生なので後回しだ。


「ん?」


 アンジェリカの隣にもう一人女の子がいる。あれは――クラリス?

 クラリスはアンジェリカの妹で、俺達の一つ下の十二才。当然、貴族学園に入学もしていない。


「クラリスまで連れて来たのか……」


 流石にクラリスまで連れてくる必要はないと思う。


「クラリス様ですか?」


 俺の呟く声が聞こえたのだろう。ローレンスさんが聞いてきた。


「ええ。アンジェリカの隣にいるのが多分そうです」

「ああ。確かにクラリス様ですね」


 面識はあるようだ。


「クラリスまで連れて来る必要はないと思うのですけどね」

「……今後のことを考えているのかも知れません」

「今後ですか?」

「その……クラリス様が侯爵家を継ぐ可能性もありますので……」

「ああ……」


 その可能性は確かにある。ローレンスさんが侯爵に認められなければ、俺が婿にならないことを明言している以上、次の候補はアルフ殿下だろう。その場合は同い年のクラリスの方が都合が良い。


 時間があれば、クラリスにも謝っておこう。



 ◇



 討伐の方針と編成が決まった。十人で一班として、騎士団、領軍、冒険者を編成し、班ごとに森に入っていく。普段、冒険者が入る範囲を想定し探索を行う。確認出来る範囲のサーペントを討伐し終えたら作戦終了だ。


 学生は三班編成になった。一班が俺とアンジェリカ。二班がローレンスさん。三班がそれ以外の学生だ。全ての班に護衛が付く。


 俺とアンジェリカの班の護衛は当然トーマスさん。加えて、騎士団の護衛と領軍の護衛の両方がつく。他の学生と同じ扱いと言いつつ、特別扱いになっているのだが仕方ない。クラリスも俺達と一緒に森に入る。入学前なので実戦経験はない。この班は戦わないことが前提となっている。森の浅い所までしか入らない。


 二班の学生はローレンスさんのみだ。これは、トーマスさんから実力が保障されているのが理由だ。他の学生とでは力の差がありすぎるため別枠になった。加えて、侯爵自身と領軍の護衛が一緒だ。領軍の護衛は侯爵の護衛を兼ねているため精鋭部隊だ。侯爵がいる目的は、言うまでもなくローレンスさんの力を見ること。この班はローレンスさんの力を見つつ、森の深い所を目指す。


 三班は残りの学生。護衛の騎士団と一緒に浅い範囲を探索する。フォレストスネークを数体討伐出来れば十分だ。実地訓練の延長上と考えられている。



 ◇



 俺達は森に侵入した。他の班が既に入った後なので、探知範囲に魔物はいない。俺達はあまり深く進みすぎないようにゆっくり歩く。右隣にはクラリス、その向こうにアンジェリカがいる。


「ごめんな。クラリス」

「何のことでしょう?」

「俺のせいで討伐に参加する羽目になっただろう。まだ十二才なのに」


 クラリスは俺の発言を聞いて笑みを浮かべる。その表情に不満の色は見えない。


「アレク兄さまの責任ではございません。むしろ感謝しております」

「感謝? なんでだ?」


 俺が質問すると、クラリスは顔を赤らめ視線を外す。


「その……自分で言うのは恥ずかしいのですが、……アレク兄さまは事情を御存知と聞いておりますので、話しますね」


 事情? 何のことだ?


「わたくし、今年の初めに縁談のお話を頂いた時、とても嬉しかったのです。ですが、お父様はお認めになってはくださいませんでした」


 ん?


「正直、もう諦めてしまっていたのです。ですが、アレク兄さまと一緒に訓練をして、見違えるほど強くなられたと聞きました。推薦してくださったのもアレク兄さまなのですよね?」


 あれ、何かおかしい? これではまるで……


「その通りですわ。アレクがお父様に推薦してくれたのです」


 アンジェリカがクラリスに答える。俺がアンジェリカに視線を向けると、アンジェリカも俺に視線を合わせ――


「そうですわよね」


 とびっきりの笑顔を見せて来た。

 その顔を見て、ハッと気付いた。ローレンスさんの縁談の相手は――クラリスだ。

 俺はクラリスに視線を合わせ、必死に笑顔を作って見せる。


「ああ。今のローレンスさんなら、きっと侯爵も認めてくれると思う」

「ありがとうございます。アレク兄さま!」


 クラリスはとても嬉しそうな笑顔でお礼を言ってくれた。その向こうにいる姉は、笑いを堪えているが。


「アンジェリカ。聞きたいことがあるのだが?」

「その話は討伐が終わってからで良いのではないですか?」

「そうですね。森の中にいる間は、周囲に注意した方が良いでしょう」


 そう言うトーマスさんも、笑いを隠しきれていない。

 ――トーマスさんも知っていたな。


「……そうですね。集中しましょう」


 討伐が終わったら全部聞き出してやる。



 ◇



「魔物、来ませんね?」


 クラリスが退屈そうに呟くが、来たら困る。討伐開始から一時間くらい経った。相変わらず探知範囲に魔物はいない。


「クラリスがいるのに、魔物が来たら困りますわ」


 アンジェリカがクラリスに笑いかける。この姉妹はとても仲が良い。


「そうだな。来ないですむなら――」


 突如――

 魔物の咆哮が鳴り響いた。


 その声は俺達の遥か前方から聞こえて来た。ブリスト伯爵領の時の声に似ている?


「トーマスさん!?」

「撤退します。全員速やかに森の外へ」


 俺が声をかけると、トーマスさんはすぐさま撤退の判断を下す。


『了解』


 騎士と領兵はすぐさま応じる。アンジェリカは大丈夫そうだが、クラリスは動揺している。


「クラリス。落ち着け」

「は、はい!」

「森から出る。動けるか?」

「大丈夫です!」


 少し心配だが、返事は出来ているので大丈夫だろう。クラリスの様子を確認した騎士が先行して進む。俺、アンジェリカ、クラリスがその後に続き、トーマスさんは俺達の近く。左右と後方を領兵が囲んで進んで行く。


「アンジェリカは平気か?」

「ええ。多少は訓練もしていますから」


 実地訓練の成果はあるようだ。

 少し早いペースで進んで行く。だが、断続的に聞こえる声は近づいて来ている気がする。


「トーマスさんは探知出来ますか?」

「声の主は捉えていません。ですが、他の魔物は探知範囲に入って来ています」

「追いつかれますか?」

「分かりません。ですが、その場合は私が食い止めますので、アレク様達は先に森を出て隊長に連絡をお願いします」

「……分かりました」


 俺達がいても足手まといなだけだ。


「声の主が何かはまだ分かりませんが、状況によっては森の外に引きずり出して戦います。森からは極力離れてください」

「了解です」


 二人の安全が最優先だ。納得したところで、また叫び声が聞こえた。


「お父様やローレンス様は大丈夫でしょうか?」


 クラリスが心配そうな声を出す。


「大丈夫だ。護衛も付いている」


 ……嘘だ。


 先程の叫び声の感じだと、多分戦闘を行なっている。それが侯爵達でないとは言い切れないし、無事という保証はない。


「……はい」


 クラリスも分かってはいるのだろう。自分を無理やり納得させているように見える。


「アレク様」

「はい」


 トーマスさんから声をかけられる。


「声の主の反応を捉えました。迎撃が必要ですので先に行ってください」

「……分かりました」


 トーマスさんが歩みを止める。どうやら声の主は、相当強い魔物のようだ。


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