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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
第三章 レイチェルの不安とメア子爵領の問題
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第七話 王都への連絡

 メイドさんに起こされた。


「おはようございます。アレク様」

「……おはようございます」


 目の前に、昨日お世話をしてくれたメイドさんの顔がある。まだ眠い……が、誘惑に抗い体を起こす。窓の外はまだ暗い。


「朝食の用意が整っております」

「分かりました。すぐに行きます」


 俺はベッドを出て着替えをする。メイドさんがいるが、昨日色々見られているので気にしない。準備を終え、メイドさんに連れられ食堂に向かう。食堂には伯爵とトーマスさんがいた。


「おはようございます」


 挨拶をして席に座る。


「おはようアレク。体調はどうだ」

「軽い疲労はある感じですが、問題はなさそうです」


 伯爵の質問に答える。すぐにメイドさんが朝食を運んできてくれた。


「このまま残っても構いませんよ?」

「……いえ、行きます」


 トーマスさんは暗に残れと言っているのかもしれない。だが、俺の気持ちに変化はない。


 俺は食事をしながら伯爵に話しかける。


「魔物は来ましたか?」

「ボアが数頭、城壁の近くまで来たくらいだ」

「それなら問題なさそうですね」

「サザーランドは城壁に囲まれているからな。問題は周辺の村だ」


 城壁で囲われている街というのは、サザーランドのような相当大きな街だけだ。普通の農村に防壁はない。良くて丸太の柵と空堀くらいだ。ボアが一頭でも来れば、それなりの被害は出るだろう。


「サザーランドから兵士を出したが、実際どうなるか予想できん」

「避難はさせないのですか?」

「周辺に偵察は出しているので、その結果次第だな」


 兵士を出しているなら、一匹二匹来ても問題はない。群れで来たら偵察が気付くだろう。伯爵の言葉に納得して頷く。


 トーマスさんが食事を終え、席を立つ。


「馬の用意をしておきます。食事を終えたら邸の外へ来てください。日が昇り始めたら出発します」

「はい」


 トーマスさんが食堂を出て行く。俺は手早く食事を済ませ、その後を追った。



 ◇



 邸を出ると、空が明るくなり始めていた。俺はトーマスさんの元へ歩いて行く。


「お待たせしました」

「丁度用意が終わったところです」


 昨日と違いトーマスさんも装備を外している。


「トーマスさん、装備は?」

「今日は馬で行きますから」


 重くしたくないということだろうか?それなら昨日と同じように走っても良い気がする。――あっ、俺がいるからか。


「馬を使わなくても走った方が早いのでは? 俺も走りますよ?」

「王都に着いたら即出兵もあり得ますから。なるべく体力は温存します」

「でも、走った方が早いですよね?」


 俺やトーマスさんなら、身体強化魔法で走った方が早い。長距離なら尚更だ。トーマスさんの反応を窺う。すると、トーマスさんが腰に下げた袋から何か丸い物を取り出す。


「それは何ですか?」

「魔法薬です。馬に飲ませることで、身体強化魔法を使ったのと同じ状態になります」

「そんなものがあるんですか!?」

「高価な上に使用期限が短いですけどね。こういう事態が起きたときのために、領地貴族は常備しています。これは伯爵から頂きました」


 そう言うと、トーマスさんは魔法薬を馬に飲ませる。おお! 馬から魔力を感じる。


「出発します。騎乗してください」


 トーマスさんが馬に跨る。俺も同じように、もう一頭の馬に跨った。



 ◇



 街を出るまでは普通だった。人通りのない早朝の通りを速歩で進む。城門まで辿り着き兵士と挨拶を交わす。サザーランドの外に出て、王都へ向け――駆け出した。


「えっ!」

「舌をかまないように気を付けてください」


 魔法薬を飲んだ馬は、昨日の俺達と同じ――いや、それ以上の速さで走る。馬車でのんびりやって来た街道を、その何倍もの速さで進む。三十分程度で、サザーランドを見渡せる小高い山の頂上だ。馬に疲れは全く見えない。通常時の全速力くらいの速度かも知れない。


 ……


 昼前には来る時に泊まった村を越えた。馬は延々走り続ける。


「アレク様、大丈夫ですか?」


 前方を走るトーマスさんが、視線を前に向けたまま聞いてくる。


「俺は大丈夫です。馬は平気なんですか?」

「夕方くらいまで効果は持つはずです。その頃には王都に到着しているでしょう」


 ……魔法薬凄いな。


 トーマスさんの言う通り、馬は休むことなく走り続けた。そして、日が落ちる前に余裕を持って王都に到着した。



 ◇



 王都南門に詰める兵士が近寄って来た。兵士は俺達の顔を見て敬礼を行う。

 トーマスさんは騎乗のまま兵士に告げる。


「急使だ。このまま城へ向かう」

「はっ!」


 兵は城門の方を向く。


「トーマス様とアレクシス殿下だ。道を開けよ!」


 兵士達は一斉に道を開ける。南門に詰めていた騎士が馬に跨り、俺達を先導する。王都の通りは大勢の人で賑わっていた。


「急使だ! 道を開けよ!」


 騎士の声で人々は次々に道を開ける。俺達は速歩で城へ向かう。城への移動中、気になっていたことをトーマスさんに聞く。


「トーマスさん。この馬、死んじゃったりしないですよね?」


 魔法薬のドーピングで死ぬのは可哀そうだ。


「大丈夫ですよ。酷い筋肉痛にはなるでしょうが、数日すれば元気になります」


 俺はホッと胸をなでおろす。トーマスさんが笑顔を浮かべているのが見えた。


 そのまま走り続け、十数分後に城に到着し馬を降りる。


「良く頑張ってくれたな」


 首元を撫でながら馬を労う。


「アレク様、行きますよ」

「はい」


 トーマスさんの後ろに続き、城内へ入って行く。



 ◇



 トーマスさんは陛下や騎士団に報告を入れた。すぐに関係者が招集され、緊急の軍議が開かれた。


「――という状況です」


 トーマスさんが説明を終える。この場には陛下を始め、王太子殿下、父上、それに国家の重鎮達。王太子殿下の子で、既に成人しているオーウェン殿下とカール殿下もいる。


「森から溢れた魔物が何処まで進むかだね」


 王太子殿下が発言する。ブリスト伯爵領の魔物領域の付近に人里はない。一番近いのがダミアン達の向かったメア子爵領の村で、次がサザーランドとその周辺の村々だろう。ブリストとその周辺の村々も同程度の距離のはずだ。


「まずはブリストへ使者を出しましょう。同時に情報収集と騎士団の出撃準備を」


 父上が提案し、王太子殿下が頷く。二人は陛下に視線を向け判断を仰ぐ。


「ブリストはそれで良い。サザーランドとメアはどうだ?」


 陛下がトーマスさんに発言を促す。


「サザーランドは伯爵が既に対応していますので、問題ないと思われます。仮に群れでやって来ても、城壁外の民の避難は間に合うでしょう。サザーランドの城壁が破られることはありません」


 トーマスさんの説明に陛下が頷く。


「問題があるとすればメアです。領境に川が流れていますが、ビッグボアなら越えて来るはずです。バート達が急行しましたので、最も近くの村の避難は問題ないと思います。ですが、他の村の避難が間に合うかどうか……」


 トーマスさんがメアの防衛について不安な点を述べる。


「避難が間に合ったとしても、メアに城壁はないからな……」

「メア子爵の対応に期待するしかないね」


 メアに城壁はないらしい。父上が心配そうな表情を見せる。王太子殿下も同じような表情だ。


「……メアの防衛に兵を出したりはしないだろうな」


 陛下が呟く。声にはしなかったが、「ブリスト伯爵はメアの防衛に兵を出さない」ということだろう。そんな人ならこの状況を招いてはいない。ダミアン達は大丈夫だろうか。


「使者はいつ出られる?」


 陛下が同席している騎士団長に尋ねる。


「もう日が暮れます。夜間移動も出来なくはありませんが、意味はないでしょう。明朝、馬でブリストに向かわせます」


 馬は夜でも走れるが、夜行性というわけではない。今から向かうなら身体強化が得意な騎士だろうが、魔法薬を使えば馬の方が早い。騎士団長の言う通り、明朝の方が良いだろう。陛下も納得したように頷く。


「騎士団はメアまで向かうことを想定して準備を進めよ。明朝、使者を出すのと同時に騎士団を出撃させる。指揮は騎士団長に任せる」

『はっ!』


 陛下の判断が下り、軍議は終了した。



 ◇



 軍議が終わり、俺は父上の執務室に呼ばれた。執務室にいるのは俺と父上だけだ。


「まずは座れ」


 父上に席を勧められ、ソファに座る。父上も俺の正面に座った。


「ご苦労だったな」

「恐れ入ります」


 父上は真剣な顔で俺を見ている。何の話かは想像出来る。


「……討伐に参加するつもりか?」

「はい」


 父上が僅かに顔を歪ませる。俺を討伐に参加させたくないのだろう。俺は未成年だ。予想はしていた。


「お前は氾濫の情報を短時間で王都まで伝えた。既に十分な仕事をしている」

「俺は討伐に参加するために戻ってきました。そうでなければ、トーマスさんに任せてサザーランドに残っています」


 父上は困った表情で考え込む。俺は父上の返答を待つ。


「何故参加する?」


「何故」か……返答が難しい。そもそも冒険者志望なわけで、性分だというのが一番正しいのだろう。でも、父上を納得させる答えは――


「俺も王族の一員ですから。王族としての責務を果たします」


 陛下はともかく、王太子殿下も父上も参加するはずだ。オーウェン殿下にカール殿下、ベンジャミンも当然参加だろう。俺が参加するのは普通のことだ。


 俺の言葉に父上は一瞬固まった後、瞑目してまた考え込む。それほど参加させたくないのだろうか?


「友人も戦っています。何もせずにはいられません」


 ダミアンは間違いなくメア子爵領で防衛に参加している。レイチェルも参加しているかも知れない。


「……未成年を軍に組み込むわけにはいかない」


 視線を下に向けたまま父が言う。正論かも知れないが、査察に参加出来るように協力してくれた人の言葉とは思えない。


「お前は騎士団に組み込まない。これは公爵としての決定だ」

「納得出来ま――」

「下がれ」


 俺に有無を言わせず父上は退室を命じる。不承不承部屋を出て、帰りの道を歩き出す。騎士団に参加出来ないなら俺にも考えがある。冒険者として参加すれば良い。……冒険者登録は必要だろうか?


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