第十話 コリーの気持ちとモニカの気持ち
寮に戻った。女性陣の不満が溜まっているようなので、早めの対応が必要だろう。夕食前の時間、自室にコリーとダミアンを呼んだ。
「コリー、モニカが寂しがっている」
二人が座るなり、俺は早速切り出す。コリーは困り顔で言葉に詰まる。
「唐突だな」
コリーの様子を見てダミアンが聞いてきた。
「今日のお茶会の話だ」
ダミアンは「ああ」と言って納得する。俺はコリーに向き直る。
「レイチェルから聞いたが、今週はほとんど会話していないそうだな」
「うん。話す機会がなくてね」
「他の令嬢に目移りしているのではと疑われているぞ?」
「え!? 何で?」
コリーが焦る。
「モニカではなく、リア達からだけどな」
俺がそう言うと、コリーはホッとした表情になる。
「コリーが令嬢に囲まれていることについて、何故か俺が責められた」
「それは……なんかゴメン」
「その心配はないと思うと答えておいたが……ないよな?」
「勿論!」
コリーが断言する。俺がホッとする番だ。
「なら、悩んでいるのは進路か?」
ダミアンがコリーに聞く。コリーは少し考え、話し始める。
「進路というか……岩ゴーレムからミスリルが取れるようになるだろう?」
「可能性は高いな」
ダミアンが答えるとコリーは頷く。
「今まではアルハロ男爵家の婿になろうという人は他にいなかった。でも、ミスリルが取れるとなれば話は別だ」
「そうだな」
ダミアンが同意する。
コリーの悩みは分かってきたが、このまま話を聞くことにする。
「実際、モニカちゃんに声を掛ける男子も出てきて、その中には良家の子息もいる……」
そう言ってコリーは俯く。
俺とダミアンは視線を交わし肩を竦める。何ということもない。コリーはライバルが出てきて自信がなくなっているだけだ。
「コリーはモニカと婚約したいと思っているよな?」
コリーに質問する。
「それは……したいと思っている」
「なら、それをモニカに伝えろ」
「でも――」
「でもじゃない。モニカの婿としてお前以上に相応しい人間はいない」
断言する。コリー以上の婿はいない。
高い魔法の才能を持ち、岩ゴーレムとの戦闘も容易にこなす。加えて、ミスリルを抽出出来る希少な火魔法の使い手だ。
何より、二人がお互いに好意を持っているのは明白だ。
「俺もそう思う」
「ダミアン……」
「モニカよりも、パトリックさんの誘いの方が良いというなら別だが――」
「そんなことはない!」
「……なら、答えは決まりだろう?」
ダミアンがニヤリと笑う。
コリーがあたふたしている。表情の変化を見ると、気持ちは傾いてきているように見える。
もう一押しだ。
「それに、コリー」
「……何」
「夏季休暇前に岩ゴーレムが倒せたら、モニカに求婚するって約束したよな」
「!?」
コリーがハッとする。
「したよな?」
「……しました」
「約束は守るよな?」
「……はい」
押し切った。
俺とダミアンは視線を交わす。ダミアンは満足そうな表情で笑っている。きっと俺も同じだろう。
◇
その日の夕食。普段は三人で食事をすることが多いのだが、今日はモニカ達を誘った。セラも帰ってきたようで、顔ぶれはいつも通りだ。食事中の話題は、城での報告の話が中心だ。お茶会と同じ話題だが、とても明るく和やかな雰囲気になっている。コリーが積極的に会話をし、モニカも会話を楽しんでいる。
夕食を食べ終わり、食後のお茶を飲んでいる時にコリーが動く。
「モニカちゃん。この後少し時間を貰えないかな?」
「は、はい!」
そう言って二人は立ち上がり、食堂を出て行く。二人が食堂を出たところで、女性陣の視線がこちらに向く。
「もしかして……求婚?」
リアの言葉に頷く。すると、女性陣が好奇心全開の顔になる。
「どうしよう、見に行く?」と、セラが言う。
「気になりますわ」と、アンジェリカが同意する。
「え…でも…良いのでしょうか?」と、レイチェルが迷う。
放っておいてやれと俺は思う。ダミアンは無言を貫いている。
「私も気になるわ」
「いや、駄目だろ」
リアまで言い出すので止める。
「アレクは気にならないの?」
「気にはなるけど」
リアがぐいぐい来る。
「なら行こうよ。バレないって」
セラが凄く楽しそうだ。
「わたくし気になるので行きますわ。レイチェルさん、行きましょう!」
「えっ!?」
アンジェリカがレイチェルを連れて行く。レイチェルも言葉では迷っているが、動きに迷いは見えない。
「あっ、私も行く」
セラが追いかける。席にはリアと俺とダミアンだ。
「私達も行きましょうか?」
リアが有無を言わせぬ目を向けてくる。俺は頷き、ダミアンは黙って従った。
◇
食堂を出て少し歩いた所に、セラ達がいた。壁に隠れながら中庭の方を見ている。
セラ達の視線の先には、コリーとモニカがいる。
二人の会話が聞こえてくる。
「――モニカちゃんが好きだ。僕と婚約してほしい」
おお!
丁度、告白するタイミングだったようだ。モニカが両手で口を押えている様子が見える。
「アルハロ男爵家の婿として、岩ゴーレムに対処できるだけの力を付けた。今後も努力するつもりだ」
コリーは努力し、十分な力を付けた。
「ミスリルも効率良く取り出せるように研究を進めて、アルハロ男爵領に貢献したいと思っている」
コリーなら、ミスリルの抽出も可能だ。
「僕じゃ……駄目かな?」
コリーの告白を聞き、モニカは目に涙を浮かべている。一瞬の沈黙の後、モニカが笑顔を浮かべる。
「はい。お受けします」
モニカがコリーの告白を受け入れた。その直後、女性陣が飛び出す。
「モニカおめでと~」
「良かったですわ~」
笑顔で駆け寄るセラと、嬉し泣きのアンジェリカ。リアとレイチェルも後に続き、祝福の言葉を掛ける。
「え、見ていたんですか!?」
モニカがあたふたしている。コリーも赤面で俺とダミアンに顔を向ける。恥ずかしがっているようだが、怒っている様子はない。
「二人が無事婚約出来て本当に良かった」
「あ、そうでした!」
セラの言葉に、モニカが何か思い出したようだ。コリーの方を向く。
「私はコリー君のお申し出を受け入れますが、お父様の同意が必要です」
「それはそうだね」
「それで……夏季休暇にアルハロ男爵領に来てもらうことは可能でしょうか?」
「勿論! 一緒に行くよ」
モニカのお願いにコリーが即答する。モニカは満面の笑みを浮かべる。
「そうすると、パトリックさんのお誘いは断るのか?」
「そうだね。次の休みに行ってくるよ……あ、アレクも一緒に頼むね」
「それは問題ない」
俺とコリーの会話に、女性陣が気になる様子を見せる。モニカはコリーの方を向いて話しかける。
「お誘いって、何のことですか?」
「夏季休暇の間、岩ゴーレムからミスリルを抽出する研究に参加しないかって」
「え!? 断って良いんですか?」
「大丈夫だよ。次の休みに回答するって言ってあるし、研究はアルハロ男爵領でも出来るから」
「でも……」
「男爵に婚約を許してもらう方が重要だよ」
「……うん。ありがとう」
コリーとモニカの甘々な雰囲気に、女性陣が満面の笑顔になっている。
「とりあえず……戻るか?」
「そうね。そうしましょう」
俺の言葉にリアが同意し皆も頷く。全員で食堂に戻ることにした。
 




