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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
第二章 モニカの悩みとアルハロ男爵領の問題
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第八話 ミスリル検証作業

 魔物領域を出た俺達は、休憩がてら昼食を取り、夕方前に王都に戻ってきた。馬車は貴族学園の寮に到着し、俺達は馬車を降りる。背中には、岩ゴーレムの部材の詰まった背嚢を背負っている。


「明日の放課後にまた来ます。岩ゴーレムの部材は、各自部屋で保管しておいてください」


 トーマスさんはそう言って、城に帰っていった。この後報告を行い、ミスリルの鑑定をしてもらうそうだ。


 俺達はトーマスさんを見送って、部屋に戻ることにした。寮の中に入ると、エントランスでセラとレイチェルが話をしている。二人は俺達に気付くと、こちらに歩いてきた。


「お帰り」

「ただいま」


 笑顔で近づいてきたセラに返事をする。


「怪我は……大丈夫そうね」

「無傷だ。疲れたけどな」


 セラは俺達の様子を見まわし、怪我がないかを確認する。全員怪我がないことを伝えると、レイチェルもホッとした表情になる。


「それで、倒せたの?」

「全員討伐成功だ」

「おー、おめでとう」


 セラの祝福に俺達は笑みを見せる。


「それで、その荷物は何?」


 セラは俺達が背負っている背嚢に視線を向ける。ミスリルの件は、まだ秘密にしておいた方が良いだろう。


「まだ内緒だ。明日の放課後トーマスさんが来るので、それからだな」

「そうなの? 分かった」


 セラは詮索することなく納得した。


「それじゃあ俺達は部屋に戻る」

「うん、分かった。皆には無事戻ってきたことを伝えておくね」

「ああ、頼む」


 そう言って、セラ達と別れて部屋に戻った。



 ◇



 翌日の授業が終わり、校舎を出たところで、トーマスさん達が待っていた。周囲には友人以外にも学生が大勢おり、トーマスさん達に視線を向けている。


「トーマスさん。お待たせしてしまいましたか?」

「授業が終わる時間は分かっていますから、大丈夫ですよ」


 トーマスさんは笑顔で答える。隣には女性騎士が一人と、文官らしき男性が一人いる。

 女性騎士は知り合いだ。近衛騎士の一人で、リアやミュラ様の護衛をすることが多い。女性騎士にリアが声を掛ける。


「ベティも一緒なのね?」

「はい。今日はトーマスさんのお手伝いに呼ばれました」


 女性騎士のベティさんは、リアに笑顔で答える。ベティさんはまだ若く、確か二十才前後だったと思う。近衛騎士になれる実力者ということもあるのだろうが、未婚の女性だ。美人で話しやすい人なので、モテないわけではない。


「とりあえず移動しましょうか。許可は取りましたので、学園の訓練場を使います」

「分かりました。部材は寮の部屋に置いていますので、すぐに取って来ます」

「お願いします。私達は先に移動しています」


 トーマスさん達と別れ、俺、コリー、ダミアンの三人は、一旦部屋に戻る。寮は学園に併設しているのですぐ隣だ。



 ◇



 岩ゴーレムの部材を持って訓練場に戻ると、リア達や他の学生が数人集まっていた。


「トーマスさん、持ってきました」

「ありがとうございます。こちらに出してください」


 トーマスさんは一画を指示する。周りに人が大勢いるが、良いのだろうか?


「見せても構わないのですか?」


 周囲に視線を向けて尋ねる。


「構いませんよ。城には報告済みですし、隠す内容でもありませんから」

「そうですか。なら広げますね」


 俺達は背嚢から岩ゴーレムの破片を取り出す。部位ごとに分けてあるので、混ざらないように広げて置いていく。


「岩? もしかして岩ゴーレムの破片?」


 リアが聞いてくる。


「正解」

「どうするの」

「見てのお楽しみだ」


 俺の意味深な言い方に困惑している。俺はトーマスさんに向き直る。トーマスさんが俺達三人に向い、話し始める。


「作業の前に紹介しますね。こちらの男性はパトリック。城の鑑定士です」

「お話するのは初めてですかね。初めましてアレク様。それに、コリー君とダミアン君も。鑑定士のパトリックです。今日は自分の目で確認するために同行しました」


 パトリックさんは、四十才くらいだろうか? 父上や王太子殿下よりも、年上に見える。


「「「よろしくお願いします」」」


 パトリックさんに挨拶を返す。次に、ベティさんの紹介だ。


「こちらの女性はベティ。アレク様はご存じですね。私の同僚の近衛騎士で、優秀な火魔法の使い手です。今日はコリー君のお手伝いに来てもらいました」

「ベティです。よろしくお願いします」

「「「よろしくお願いします」」」


 ベティさんにも挨拶を返す。得意魔法までは知らなかった。


「それで、確認は取れたのでしょうか?」

「ええ。間違いなくミスリルです」


 俺の質問に、パトリックさんが笑顔で答えてくれる。ミスリルという言葉に、周囲が騒めく。そんな中、リアが話しかけて来る。


「ミスリルって……岩ゴーレムから?」

「ああ。昨日コリーが発見した」


 リアの質問に答えると、周囲の騒めきが大きくなる。岩ゴーレムからミスリルが取れると聞けば、驚くのは当然だろう。トーマスさんは手を叩いて、騒めきを鎮める。


「見学の学生に説明しますね。昨日、私とこちらの学生三名で、岩ゴーレムの討伐に行きました。その際に、岩ゴーレムから少量のミスリルを抽出出来ることを発見し、今日はその検証作業を行います。見学は構いませんが、近づきすぎないように」


 トーマスさんの説明に、さらに周囲が騒めく。


「岩ゴーレムからミスリル……」


 モニカが呟く。


「コリーの発見だ」


 ダミアンがモニカの呟きに答える。


「コリー君の?」


 ダミアンは頷き、俺も同じように頷きを見せる。


「コリーが火魔法で、岩ゴーレムを溶かしたんだ。そうしたら、溶けた岩ゴーレムの中からミスリルが浮かんできた」

「僕だけじゃないよ。狩りは皆でしたことだし、ミスリルかも知れないって気付いたのは、トーマスさんだもの」


 俺の説明に、コリーが微笑を浮かべて謙遜する。それでも、一番の功績はコリーにある。


「検証を始めましょう。まずは昨日と同様に、頭部の欠片を使います。コリー君、お願いします」

「はい」


 トーマスさんに促され、コリーが欠片に近づき火魔法を使う。昨日と同じバーナー状の青い炎だ。パトリックさんとベティさんが食い入るように見ている。


「この火魔法は凄いですね」

「ベティさんでも可能ですか?」

「出来ると思いますが、このレベルの火魔法が必要なんですか?」


 ベティさんとトーマスさんが会話をする。


「検証は必要ですが、私の火魔法では溶けませんでした。アレク様やダミアン君も同様です」

「トーマスさんでも無理ですか……相当使い手を選びますね」


 トーマスさんも火魔法が不得手というわけではない。ベティさんが少し悩む素振りを見せる。


「出てきましたな」


 パトリックさんの言葉で、破片に意識を向ける。昨日と同じように、表面にミスリルの粒が浮かんでくる。ミスリルが十分に浮かんできたところで、全員が距離を取る。


「これから水魔法で冷やすので蒸気が発生します。近づかないように注意してください」


 トーマスさんが周囲の学生に声をかける。学生の様子を確認したトーマスさんは、水魔法を行使する。溶けた岩ゴーレムの欠片から、水蒸気が上がった。水蒸気が落ち着いたところで、パトリックさんが近づく。欠片を手に持ち、表面を確認する。


「……間違いありません。ミスリルです」


 周囲の騒めきがまた大きくなる。パトリックさんが満面の笑顔でコリーを見る。


「素晴らしい! 大発見です!」

「えっと……、ありがとうございます」


 パトリックさんの言葉に、コリーが照れながら返事をする。俺もダミアンもトーマスさんも、その様子を笑顔で見つめる。


「私もやりたいです。トーマスさん良いですか?」

「そうですね。では、ベティさんも頭部の欠片から始めましょう。コリー君は別の部位をお願いします」


 ベティさんがやる気を見せ、トーマスさんの指示で作業を再開した。俺とダミアンも水魔法で協力する。


「ベティさんが溶かした物も、差はなさそうですな」


 ベティさんの溶かした破片を見て、パトリックさんが呟く。ベティさんも、コリー同様に溶かすことが出来た。コリーの時よりも早く溶けていた気がする。


「腕からは、あまり抽出出来ていませんな」


 パトリックさんが、コリーの溶かした腕の部材を見ながら言う。確かに頭部と比べて、浮かんでくるミスリルの量は少ない。頭部の欠片二個と、右腕、左腕、右足、左足、胴体の欠片を、各々一個ずつ調べた結果、頭部以外からは、あまり抽出出来なかった。


「この結果を見ると、頭部に集中している感じですか?」

「そうですな。まあサンプルを増やさないと、何とも言えませんが」


 トーマスさんとパトリックさんが会話をする。個体差もあるかも知れないし、適当に砕いてきたので欠片の位置による違いもあるかも知れない。


「明日以降も同じ時間に作業を行いましょう。一週間もあれば、持って帰ってきた部材の検証は終わるでしょう」


 トーマスさんはそう言って俺達の方を向く。


「次の休みに報告書を提出します。時間を指定しますので、三人は登城の予定を入れておいてください」

「分かりました」


 俺が代表して答え、その日の検証作業は解散となった。


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