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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
第二章 モニカの悩みとアルハロ男爵領の問題
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第四話 岩ゴーレムに遭遇

 迷子にならないように注意しながら、森を中を進む。

 探知魔法については、その後もコリーかダミアンが最初に捉えている。女性陣は不満そうだが、これは仕方ない。コリーとダミアンは、事前に俺と学園で訓練している。差があって当然なのだ。


 戦闘は男女で交互に行なっている。女性陣の一回目は、魔法がまったく当たらず、討伐に失敗した。ウルフの接近を許してしまったので、俺が対処することになった。

 二回目以降は攻撃も当たるようになり、順調に討伐している。時間が掛かって別の個体が来ることもあったが、コリーとダミアンが問題なく処理した。

 今の所、問題らしい問題は起きていない。


 戦闘を重ねつつ森の奥に進んでいると、ダミアンから声がかかる。


「アレク、少し休憩しよう」


 そう言われ、ダミアンの方を向く。特に疲れた様子は見えない。

 不思議に思っていると、ダミアンが視線を動かす。


「あっ!」


 視線の先では、女性陣が疲れた表情を見せていた。


「ゴメン。気づかなかった」

「いえ、大丈夫ですわ」


 アンジェリカはそう言うが、無理は良くない。レイチェルもモニカも疲れているだろう。

 完全に俺のミスだ。


「いや、一旦休憩にしよう」


 そう言って背嚢をおろす。それを見て皆も休憩に入る。


「ダミアン、助かった」


 小声でお礼を言う。


「アレクは先頭を歩いていたからな。気づかないのは仕方ない」


 ダミアンがフォローしてくれるが、全然仕方なくない。

 落ち込んでいると、トーマスさんがニコニコ笑顔を向けてくる。あの顔は面白がっている顔だ。


「……なんですか?」

「アレク様が失敗するのを久しぶりに見たので、嬉しくなりました」

「ひどいですね」

「セラ様に水弾をぶつけて泣かしてしまったのは、七歳の頃でしたね」

「思い出さなくて良いです」


 怪我をさせたわけではないが、あの時は大人達から凄く怒られた。アンジェリカとモニカが興味津々で、俺の小さい頃の話を聞いている。レイチェルも男二人も楽しそうにしているので、まあ良いとしよう。



 ◇



 二十分ほど休憩をとり、戻ることにした。まだ実習時間に余裕はあるが、無理をすることはないだろう。そう思い、歩き出したところで、ウルフよりも強い反応を捉える。


「……トーマスさん?」

「ウルフではないですね」


 トーマスさんも気付いていたようだ。声を掛けなかったということは、危険な魔物ではないのだろう。俺にはまだ判断できない。


「何かいるの?」

「戻る方向にウルフより強い反応がある。まだ距離はあるけど」


 コリーの質問に答える。この辺りはウルフしか出現しない。近くの領域から紛れ込んで来たのだろう。この近くの領域というと――


「……もしかして、岩ゴーレム?」

「正解です」


 俺の呟きが聞こえたのか、トーマスさんが嬉しそうな顔で教えてくれる。


「えっ!? 岩ゴーレムですか?」

「ここの近くに、岩ゴーレムが発生する領域があるんだ」


 モニカが驚きの声を上げ、コリーが説明する。

 二人の様子を、トーマスさんが不思議そうに見ている。モニカの反応が、不自然に大きかったからだろう。


「モニカは、アルハロ男爵家の令嬢なんです」

「ああ、なるほど」


 それだけで通じたようだ。まあ、それはそれで良いのだが。


「どうされますか?」

「戦槌持ってないですからね」


 戦うかどうかを聞いているのだろう。でも、戦うにしても装備がない。トーマスさんならどうにでもなるのだろうが……


 ダミアンとコリーの方を向く。


「どうする? 戦ってみる?」

「興味はあるな」

「でも、勝てるかな?」


 ダミアンもコリーも意欲はあるようだ。


「戦槌がないから、接近戦は禁止だな。土弾の集中砲火で何とかなると思う」

「なら、やって見るか」

「そうだね」


 二人が戦闘の意思を示したので、岩ゴーレムと戦うことにする。


「接近されたら私が介入しますので、合図をしたら攻撃を止めてください」


 トーマスさんに指示され、俺達は了承した。



 ◇



 五分ほど歩いた所で姿を捉える。

 予想通り岩ゴーレムだ。岩ゴーレムは、高さ三メートル程度の、二足歩行の魔物だ。


「作戦はウルフと同じ。使う魔法は土弾。遠目からコリーとダミアンは土弾で攻撃。岩ゴーレムが速度を上げてくるので、各自の射程に入り次第攻撃。魔石は頭にあるので、なるべく頭狙いで」


 俺の説明に全員が頷く。今回も俺は手を出さない。倒せないかも知れないが、その場合はトーマスさんに処理してもらう。コリーとダミアンが、掌を岩ゴーレムに向って構える。既に二人の射程内だ。


「三、二、一、発射」


 俺の合図で土弾が放たれる。土弾は勢いよく進み、豪快な音を立て岩ゴーレムに衝突した。


「当たった! ……あれっ、効いていない?」


 モニカが二人の魔法を見て、声を上げる。彼女の言う通り、岩ゴーレムに変化はなく、速度を上げて進んでくる。各自、土弾で攻撃を始める。岩ゴーレムは回避する様子を見せず、土弾は面白いように当たる。しかし、岩ゴーレムは止まる様子を見せない。距離は三十メートル、二十五、二十……


「攻撃を止めてください」


 トーマスさんが静かに合図をし、全員、攻撃を止める。直後、トーマスさんが弾かれた様に飛び出す。剣は抜いていない。どうする気だろう? ――そう思った時には、トーマスさんの拳が岩ゴーレムの頭を捉えていた。拳はあっさりと頭を砕き、岩ゴーレムは活動を停止する。


 速い……


 仰向けに倒れた岩ゴーレムとトーマスさんを前に、皆が呆然としている。


「凄い……」


 静寂の後、コリーが呟く。コリーを皮切りに、皆が興奮したように話し始める。これが近衛騎士の実力なのだろう。今の俺にはとても無理だ。トーマスさんは賞賛の声に微笑を浮かべる。


「土弾の威力が不足していましたので、もう少し圧縮と速度が必要です」


 優しい目で俺達を見ながら助言をくれる。


「勿論、本来は土弾ではなく、長柄の戦槌を用意する方が簡単です。岩ゴーレムの腕が届かない距離で、頭を叩くのがセオリーですね」

「トーマスさんは拳でしたけどね」


 一応、指摘する。


「あれはアレク様達には当分無理ですね。身体強化魔法だけでなく、素の身体能力も鍛え続ければ、いつか出来るようになるかも知れません」


 トーマスさんが微笑みを浮かべながら話す。分かってはいるけど、トーマスさんの背中は遠い。

 皆は羨望の眼差しで、トーマスさんを見ている。特にモニカの視線が、恋をした女の子のようだ。


 残念ながら、トーマスさんは子持ちの既婚者だ。

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