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異世界で王位継承争いに巻き込まれた(字下げ版)  作者: しゃもじ
第二章 モニカの悩みとアルハロ男爵領の問題
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第一話 モニカとコリーとアルハロ男爵領

 お茶会翌週の休日。今日はコリーとダミアンと一緒に、魔法の自主訓練をしている。貴族学園に入学して二週間。二人ともかなり成長の実感があるらしく、意欲に満ち溢れている。


 今日は入学前にセラとやった訓練を、コリーとダミアンの二人で行う。俺は事故が起きないように、監督を務める。二人は今、水弾に込める魔力の調整をしている。


「ダミアンは少し魔力を込めすぎだ。それだとコリーが怪我する」

「……これくらいか?」

「もう少し、少なく」


 ダミアンが魔物役の水弾を調整している。この調整自体が訓練になっていたりする。


「アレク、僕の方はどうかな?」

「少し多いけど、大体丁度良いくらいだ」


 コリーは上手く水弾を作っている。


「もっとも、ダミアンに当てさえしなければ、多少強くても問題はないけど」

「失敗する可能性もあるからね」


 コリーはそう言って水弾を調整する。

 今回は、コリーの水弾も一つに限定している。数を増やすのは制御が上達してからだ。


 二人は水弾の調整を終え、準備を整える。


「準備は良いな?」

「万端だ」

「いつでも良いよ」

「では……開始!」


 俺の合図とともに、二つの水弾が動き出す。コリーはダミアンの水弾を目掛けて、自分の水弾を飛ばす。ダミアンの水弾はそれを大きく回避し、コリーに向かい突撃する。


「うわっ!」


 コリーはそれを間一髪で躱す。ダミアンの水弾の速度は、それほど早くはなかった。


「コリー、身体強化も併用しろ。魔物相手に素の身体能力だけでは戦えないぞ」

「わ、分かった」


 すぐにコリーの動きは良くなった。身体強化魔法を発動したようだ。

 素の身体能力で戦える魔物は極一部だ。それも、体格の良い成人男性以外では、まず無理だろう。

 身体強化魔法は、魔物と戦う上で必須の技術になる。


 コリーがダミアンの水弾を必死に躱し続ける。自分の水弾の制御は失っていないようだが、とても迎撃は無理そうだ。

 二人の戦いを見ていると、訓練場にお客さんがやって来た。



「おー、頑張っているね」

「セラ達も自主訓練か?」


 訓練場にやって来たのは、セラとモニカだ。


「私服で訓練には来ないよ。アレク達が訓練しているって聞いたから、見学に来たの」


 セラの言う通り二人は私服だ。貴族学園には制服があり、訓練の場合も指定の訓練着がある。俺達三人は訓練着だ。


 俺達が会話する横で、モニカがコリーとダミアンの戦いを、興味深そうに見ている。


「コリー君が攻撃を躱す練習ですか?」


 確かにそう見えるし、それも間違いではない。


「コリーを攻撃している水弾はダミアンが操作していて、水弾は魔物を想定している」


 モニカが頷くのを見て、説明を続ける。


「魔物の攻撃を回避しながら、自分の水弾で迎撃する訓練なんだけど……迎撃する余裕はないみたいだな」

「この訓練をするのは今日が初めてでしょう? 自分の水弾の制御を失っていないだけでも、凄いと思うよ」


 セラがフォローする。俺達が初めてこの訓練をした時は、逃げ回る間に水弾の制御を失った。確かに制御を維持しているだけ凄いと思う。


 俺達が会話している間に、ダミアンの水弾がコリーの顔に衝突し訓練が終了する。コリーの顔は水浸しだ。

 セラとモニカを連れて、二人に近づく。



「お疲れ様。どうだった?」

「躱すので精一杯だよ」

「最後の方、動きが変だったぞ。身体強化魔法が維持出来なかったのか?」

「水弾の維持と同時だからね。二つの魔法を同時に使うのって難しい」


 確かに魔法の並列制御は難しい。多くの人は身体強化魔法を使って前衛で戦うか、後衛で攻撃魔法を使うかのどちらかだ。


「良い魔力制御の訓練になるぞ」

「そうね。魔法は魔力制御が全てだから」


 セラの大雑把な意見に、俺は苦笑する。


「全ては言い過ぎだけど、間違いでもないな」


 魔法の特性は生まれ持った才能で決まる。魔力量は訓練で少しずつ増えるが、それでも才能でほぼ決まる。努力の余地があるのは魔力制御で、大きな差が生じるのも魔力制御だ。


「アレクやセラフィナさんが言うなら、そうなんだろうね」


 コリーがセラの言葉に微笑を浮かべ納得する。俺はダミアンに視線を向ける。


「ダミアンは問題なさそうだったな」

「水弾一つだけだったからな。でも、動く的に攻撃するのは初めてだ。……正直面白かった」


 ダミアンが照れたような笑顔を見せる。ダミアンは言葉の通り実戦経験がないらしい。

 コリーも同じで、他の同級生も同じだろう。セラやリアも、実戦経験をしたという話は聞いていない。

 普通は貴族学園の実地訓練が初めての実戦になる。……俺は違うけど。


「二人とも凄いですね。私よりもずっと上手です」


 モニカが二人を褒める。二人は照れ笑いを浮かべる。


「アレクのおかげだよ。この二週間、自分の成長を実感している」

「そうだな。こんなに伸びるとは自分でも驚きだ」

「二人には才能があるからな」


 コリーとダミアンに才能があることは断言出来る。何故なら知っているから。


「コリー君、入学前は私と変わらなかったはずなのに」

「モニカちゃんもアレクに教われば上手くなるかもよ」


 モニカちゃん?

 コリーとモニカが笑顔で会話している。親しい仲を感じさせる雰囲気だ。


「二人は仲良いの?」


 二人の雰囲気が気になったのは、セラも同じのようだ。興味津々の表情で尋ねる。


「領地が隣同士なので」

「あらら、幼馴染ね」


 モニカの答えに、セラが嬉しそうな表情になる。ダミアンとレイチェルの関係と同じだ。

 ……くっつけるか。


「あっ、でもそういう関係じゃないですよ」


 モニカが焦ったように否定する。


「残念ながら、僕はアルハロ男爵家の婿には向いていません」


 コリーも苦笑を浮かべて否定する。否定はしているが、好意は持っていそうだ。


「向いてないって、岩ゴーレムの相手に向いてないってこと?」

「そうです。僕は火魔法以外苦手ですから」


 コリーがセラの質問に答える。確かにコリーの魔法特性は、岩ゴーレム向きではない。

 岩ゴーレムに魔法攻撃はほとんど効果がない。戦鎚で魔石を破壊する。これに尽きるのだ。



 ◇



 先週、モニカにアルハロ男爵領の話を聞いた。アルハロ男爵領は王都の東にある。

 農地の広がる普通の男爵領なのだが、一つだけ問題を抱えている。アルハロ男爵領は、領地名と同じ名前のアルハロ山という魔物の領域を抱えており、これが不良資産なのだ。


 領地貴族には、領地内の魔物領域を管理する義務がある。適切に討伐をしないと、魔物が溢れて町や村を襲うことになるからだ。

 一方で、魔物から取れる魔石や素材は領地を潤す。領地貴族は、魔物領域の近くに冒険者を誘致するための町を作り、インフラを整備する。冒険者はその町を拠点に魔物を討伐し、収入を得る。その一部が税金として領地の収入になる。


 本来、魔物領域は有益な資産になるのだが、アルハロ山はそうではない。

 出現する魔物は岩ゴーレムだけで、岩ゴーレムは金にならない。全身が岩で出来ており、岩自体は丈夫だが、非常に重い上に加工が難しい。石材としては使いにくいのだ。金になるのは魔石くらいだが、岩ゴーレムを倒すには魔石を砕く必要がある。結果、岩ゴーレムの価値はゼロで冒険者は来ない。


 アルハロ男爵領は農村からの収入で領軍を組織し、アルハロ山を管理している。当然、当主自身も岩ゴーレムの討伐に参加する。アルハロ男爵家の当主には、岩ゴーレムを倒せるだけの戦闘能力が必須なのだ。


 では、モニカにそれが出来るかと言えば、おそらく無理だろう。

 身体強化は、魔法だけでなく素の身体能力も影響する。魔法力が高い人ほど、素の身体能力がボトルネックになるのだ。

 モニカの婿には戦闘力のある相手が求められる。



 ◇



「コリーは火魔法以外が苦手ではなく、火魔法が得意という言い方が正しい。水魔法も身体強化魔法も普通に使えているからな」

「水魔法はともかく、身体強化魔法は僕の体格だと厳しいよ」

「成長期が始まったばかりだろう?」


 コリーは男にしては小柄だが、まだ十三才だ。これからいくらでも成長する。確か成長するはずだ……憶えてないけど。


「それに、岩ゴーレム程度なら、どうにでもなると思うぞ」

「仮に倒せたとしても、アレクの方が向いているのは変わらないよ」


 コリーは自信がないのだろうか? 先程の様子だと、モニカに対する好意はあると思うのだが。


「モニカの婿は嫌なのか?」

「べ、別に嫌ではないよ!」


 焦ったように答える。この様子は間違いないな。セラも確信したようで、コリーを煽る。


「よし、コリー君! 頑張ってモニカを振り向かせよう!」

「セ、セラちゃん、なに言ってるの!」


 セラとモニカがじゃれ合っている。本当にそうなってくれると嬉しい。コリーには身体能力強化を中心に、訓練してもらうことに決めた。


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