表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
パーフェクトファンタジーオンライン  作者: バミノベルズ
3/9

うらひと作:詫び石で言い訳選手権

「……えーと、これで家に帰ってないの何回目だ?」


 午前3時、宏明はうんざりした表情でスケジュールを確認する。

 サーバーのメンテナンスで何度もテストサーバーに反映してテストすること数十回。一向に原因が特定できず、『今日』の作業をあきらめたところで、愕然した。


「は? 誰だよバグチケットこの時間に投げた奴……」


 苛立ちがおさまらないが、寝ないと体を壊して状況が悪化する。責任者がいないのは胃に優しいようで優しくない。別種のストレスがのしかかる。


 数えきれないメンテナンスの度に「詫び石」を配布するため、面倒になってバグ報告のシステムを弄り、「詫び石の理由」を入力する欄を作った。

 元々報告が上がれば自動的に社内チャットへbotメッセージが出るようなシステムだが、開発メンバーを笑わせる用とプレイヤー向けのネタが用意され、最もリアクションの入ったものをチームリーダークラスが最終チェックして承認ボタンを押せば、メンテ明けの配布時に表示されるという流れだ。

 最初こそ面白おかしくやっていたのだが、次第に思考停止したりテンションがハイになったりなどして、最近の3回の「理由」がコレだ。


7/XX 21:15 〇〇石 300個 「キーボードにエナジードリンクをこぼしたおわびです」

7/XY 2:00  〇〇石 50個 「歩行のhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhhh」

7/XZ 7:00 〇〇石 (null)個 「Null Pointer Exception」


「……最後のぜってーやべーだろ。朝っぱらで、誰もリアクション送ってないな」


 呆れと不意にこみ上げる笑いが混じった、変な気分になりながら仮眠室へ向かう。仮眠室といっても、実際にはサーバールームの出口にとりあえず置かれたソファーに寝転がるだけだが。


 「『サーバールームで寝られるわけねー』って抗議してよかった」


 ふと「理由」のネタが浮かんだので、ロッカーに入れていたスマホにメモしておいた。


7/YY 10:00 〇〇石 100個 「サーバーのランプが蛍の光のように見えたのに、帰れなかったので」


「怪談ってものではないけど、エンジニアはゾッとする話だ」


 『滅びの呪文』はこの業界にもある。度々、技術記事でも上がる『アレ』だ。

 ゲームやシステムに関わる人間なら『絶対に間違えるな』、あるいは『間違えそうならやるな』と言われる。それこそ、そうしたことに関わりのない人にはすべてが呪文に見える業界だし、『魔法使いみたい!』と言われるような夢の世界――


「なわけねーだろ。自分の開発マシンだったからとは言っても、本番環境どころか開発環境でも叱責ものだぞ」


 クマの入った目は、まさにその復旧に徹夜を重ねた疲れの表れだ。連日のメンテナンスが一旦収束したかと思った矢先にこれだ。


8/AA 13:00 ○○石 200個「ガス業者に心配されたので」


 直後、電池切れして『泥のように眠る』を体現する宏明に、帰宅に合わせて掃除にきた母親も休憩に入った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ