弾幕の戦火をその身に捧げる
逃げ惑え、行き場無い安置へ
噴石や火の粉が弾幕のように容赦なく襲いかかるが決して脚を止めるなかれ、私達一行は建物へと全力疾走を試みる。
目と鼻の先に建物は見えるが行く手を阻むはさすが自然の猛威と言うヤツか、侵入者を易々と寄せ付けてはくれないらしい。
だが負けてたまるか、これを乗り越えなければ七刻の発展は無いッ!!
大人げなく全力疾走をするのは久々で100メートルの距離を走った所で息切れを起こすとはなんとも情けないヤツだな……、私は。
だがまだこれでも走った距離は半分にも満たない、この距離をもう倍近く走るのは勘弁してほしいものだ。
これじゃあ生命力が尽きる前にスタミナが尽きてしまうじゃないか。
「ちょっとぉ、冥綾っ!! そんなんじゃ死ぬわよっ。 早く早くぅっ!!」
うるさいっ、こちらはノートパソコン抱えて走ってるんだからそんなにキンキン声で私に無茶を言ってくれるな……って、ひゃわぁああぁっ!?
そんな時だ、身体が一瞬フワッと軽くなった感覚を覚え何が起こってるのか理解するのに3秒ほどかかっただろうか?
なんと【玄弥が私をお姫様抱っこ】して跳ぶように走っているではないか。
「ちっ、遅ぇモタモタすんな。 死神の癖に死にたいのかよ。」
「うっ……仕方無いじゃん。」
玄弥の顔をこんな近くで見たことが今までにあっただろうか。
険しくも凛々しい表情で空中を滑空するかのようにタァーンタァーンと地面を蹴る様はまるで野生の獣のよう、少しでも油断したら……襲われちゃいそうなようでさすがの私も畏怖を覚えざるを得ないな……、これは。
……でも、玄弥になら襲われても……いいかな、……なんて。
こう多少強引でも今なら私は何でも許しちゃうかもしれないな。
っていや、私はいったい何を考えているのだ。
まやかしの妄想などブンブンと首を振って全否定する。
そんな考えを今命の危機にさらされてるこの瞬間でも考えてしまう私はどうにかしてるんだろうか、否……どうにかしてるから私はこの男の事を……。
考えるのは止めよう、そう思った時だ。
「なんだ、俺の顔になんかついてるか?」
「い、いやいや……。」
少し見つめすぎたか?
玄弥がギロリと私の目を見つめてそう言う。
彼もまたそういう男である、人と話すときはきちんと目を見て話す……だから人を釘付けにしてしまうのだ。
結局私はなにも言えないまま優しくゆっくり建物の前に下ろされては一息ついた。
正直お姫様抱っこしてあんなに滑空されると思ってたより恐怖感がヤバイのはなぜだ。
もはや少女漫画のようなトキメキを期待してたのだろうか……、実際はジェットコースターに振り回されるような感覚で恐怖でしかないから全国の夢見る乙女にはオススメ出来やしない。
激しく動かされたのかそれとも別な意味なのか頭の中がクラクラするがここで一番乗りの結愛が決めポーズ。
「さぁ、突撃よ!!」
「どこに突撃するんだよ。」
結愛はいつも通り左手を腰に右手を斜め45度の角度で人差し指を天井に向けてはビシィっとお決まりの決めポーズをするも、呆れ顔の玄弥はそのままスタスタと我先に建物の奥へと進んで行く。
私にとってはこの数分間がまるで数十分のようにも思え、たぶん一生忘れられない大切な思い出となったに違いないだろう。
建物の中といえども火山の内部をくりぬいて作られたことには変わりはない、噴石から逃れられたとて暑さからは誰一人逃れられる訳じゃない。
それも平等に無慈悲にだ。
【燎煉地熱発電所】は溢れでる莫大な溶岩の熱をエネルギー及び電力へと変換する場所、七刻の電気の半分はここで作られている。
そのためか大型の設備の機械音が耳を突き刺すような勢いで聞こえてくるのがわかるだろう?
タービンやモーター、あげくのはてには採掘工事の混ざりあった騒音のオーケストラ。
「こんなところにいたら聴力オカシクなっちゃいそう!!」
耳を塞いで結愛が文句を散らすも、あの彼女のうるさいボリューム声すら大半かき消すほどの音量が爆音で響いてるのだ。
でもなんだ?
こんな音量の中で音を拾おうと研ぎ澄まされた聴力を兼ね備えた耳が、コツコツというハイヒールの音をキャッチした。
まさかこの音は……、いいや間違いない。
私達に勘づいてあっちから来てくれたとは探す手間が省けたようだが、まぁそれはそれでいいのだがいつ感じても火曜神の圧力はハンパ無い。
たぶん曲がり角を曲がった先に居るんだろうがすぐ真後ろで殺意を全開にして突っ立たれているような気がしてならない。
研ぎ澄まされた五感が死神でもさすがにこればかりは私の生命に警告を発する。
さすが土地柄の女神様だと脱帽せざるを得ないな……これは。
暑いのに背筋が凍るこの感覚