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第8話 俺たちは家族

それから数日、恵子は近所の実家に子供を連れて帰っていた。

恵子の両親はものすごく怒っていた。勘当だともいっていた。

だが孫がかわいくて追い出せないのが現状だ。


和斗から、家が売れたとLineが来た。待ち合わせ場所に向かってお金を受け取った。

その時、和斗が口を開いた。


「ケイちゃん…最後にお願いが一つだけある…。」


「ま…お金も用意してくれたし、いいでしょ。なに?」


「子供たちに…最後に会わせて欲しいんだ。」


「うーーん…。変なこと言わない?」


「ウン…。」


「じゃぁ…。今から、駅前公園で。」


「分かった。」



一時帰宅し、子供たちを連れて地下鉄で駅前公園に向かった。

途中、秀樹から連絡があった。


「もしもし?ヒデちゃん?」


「どう?」


「ウン。成立成立。全部終わったよぉ~!」


「やった…!…で…今どこ?」


「あ、今から、子供あわせるの。駅前公園で待ち合わせ。それで最後だよ。」


「そーか。じゃ、迎えにいくよ。」


「やった!じゃ、タイミングよく来てね。」



恵子は地下鉄から子供たちを率いてエレベータで地上にある駅前公園に到着。

和斗はすでに待っていた。


子供たちは、久しぶりに父親に会えたので、飛びついていた。

和斗は、子供たちの目線に大きい体を縮めて座った。


「よしよし!ケイト!メグミ!」


「パパも一緒にばあばの家に行こう!つまんないよぉ!」

「パパも一緒にあそぼう!ねぇ!あそぼう!」


と子供たちははしゃいで和斗の手を引いたのだ。


「うーん。ゴメン…パパ…お仕事で…遠くにいかなくちゃならないんだ…。」


「そーなの?」


「ケイト…手を出してくれ…。」


「ウン。」


和斗はガッチリと長男恵斗の手を握った。


「いいか?パパの仕事中は…代わりに、しっかりと、ママと妹を守るんだぞ!?がんばれよぉ!男だろ?」


「ウン。わかった!ケイくん、男だもんがんばるよ!」


「よしいいぞぉ!」


今度は長女恵美の方を見て、片方の手を出した。


「メグミ…手を出してくれ…。」


「ウン。パパどーしたの?」


和斗は、恵斗と手をつなぎながら、別の手で恵美の手を握った。


「いいか?メグ…。オマエはママに似て美人だ。きっと幸せになれる。お兄ちゃんとアイを助けてやってくれ。な?おねーちゃんだもんな?」


「ウン。できるよ。おねーちゃんだもん。」


和斗はそのまま、二人を引き寄せて抱きしめた。


「頼むぞぉ?パパの代わりにな?オレたち離れてても…家族だから。な?」


「ウン。」


和斗は、ただの一滴も涙を流さなかった。

いつもの、楽しいパパの顔だった。


恵子に…、いや恵子が抱く次女のあいに近づいてきた。


和斗は両手で和の手を握った。


「アイ…お前の成長が見れなくて残念だけど…ママとかおねーちゃんみたいにきっとキレイになれるよ。パパの名前の一字なんだ。友達たくさんできるぞぉ~。友達に支えられて…立派な女になってくれ。」


和斗は、恵子の顔はもう見なかった。

ポケットから手紙をだして、スッと渡してきた。


「これ…読まなくてもいいから…。捨ててもいいから…。」


そういって、家族に背を向けて、手を振った。

右手はギュッと握ったまま、血がこぼれていた。


和斗は泣かなかった。

でも恵子の目からは、ポロポロと涙が何度もこぼれて落ちて行った。





 ………カズちゃんが行っちゃう…。




 え?なに?




 ………カズちゃんがあたしから離れていく…。




 え?誰が…??




 ………そんな…だめだよ…。なんで?

 ………5人でいれないの?

 ………いっちゃやだよ…。



 ………カズちゃん…。



恵子の胸の奥底から別の声が何度も何度も溢れては消えていき、その思いを恵子は強引に押しつぶしたのだった。


その時、後ろで車が止まった。クラクションを軽く2回ならし、窓が下がって秀樹の顔が現れた。


「よ!」


恵子は涙をすっとふいて、秀樹の方を見た。


「来てくれたんだ!さ!みんな、このおじさんの車に乗って!」


恵美はポカンとしていた。

恵斗は目を吊り上げて秀樹を見ていた。

その顔は沸騰したように真っ赤になってた。



 なに?その顔…。…子供のくせに…。

 誰かが怒ったような顔…。誰だったろう…。



そんな二人の手を強引に引いた。


「早く乗りなよ!ママ、アイちゃん抱っこしてばっかりで疲れてんだから。」


強引に恵斗を押し込み、恵子は和を抱いたまま恵美の手を引いて、秀樹に


「さぁ!行っちゃって!」


「なんか…杉沢がこっちに来るんだけど…。」


見ると和斗が、車の方に向かってきた。

髪の毛が逆立って、目が吊り上がっているように見えた。



 あ…。恵斗と同じ顔なんだ…。



車の前に立つ和斗。


「オイ。じゃまなんだけど。」


秀樹はそう叫んでクラクションを二度鳴らした。すると和斗は、深々と頭を下げ…



「どうか…、ケイコをよろしくお願いします。」


といった。

また、恵子の目から涙がこぼれた。




 なんで…??




 ………大事な人…。あたしの…。



「パパ…。」


恵美の口から寂しく声がこぼれた。

秀樹はそんなことは意に介さず


「わかったよ。もうどいてくれ。」


と、クラクションを一つならした。和斗が路肩に体を寄せると、車は走り出した。恵子は楽しそうに


「ねぇ。あたしの実家に行ってくれない?子供置いてきたいの。」


「ああ。そのつもりだよ。」


恵子は振り返り、後ろの窓を見た。




 ………カズちゃんが離れていく…。


 ………カズちゃんが…



 ………離れていく…。



そんな思いが胸の底にある…。

少しだけキュっと締め付けられる思いがした。



突然、アイが、割れんばかりに泣き出した。


「わ!ビックリした…。」



 どうしたの??

 今までこんなこと…なかったのに…。



するとスッと恵美が手を出して和を抱っこした。


「大丈夫だよ。おねーちゃんがいるから。」


和はしばらくウグウグ言っていたが、すぐにクゥクゥと眠りだした。



 いつもだけど…この顔…遠い昔…どこかでみたような…。


 ま、赤ちゃんの顔なんてみんな同じか?



「あたしたちは、かぞく…。」


と恵美がつぶやく。秀樹は感心したように


「ふぅ~。さすがおねーちゃんだね。赤ちゃんでもおねーちゃんだって分かるんだねぇ。」



 いやいや、おかしーでしょ。実の母親が抱っこしてるのに?



その間、恵斗はずっと鬼の形相で秀樹の後ろを睨みつけていた。



 こんなケイト…初めて見た…。



車は、市街地の…昔の杉沢家を通り越して、そのすぐ近くの実家に止まった。

恵子は子供たちに


「ほら。あんたたち。降りて。ばあばのところで待っててね?」


「はーい。」


と言って恵美は和を抱っこしたまま、実家に入っていった。



 三歳児には…和は重いだろうに…。



そして恵子を乗り越えるように、恵斗が表にでようとした。


「じゃぁな。ボク」


そういって、秀樹は恵斗の頭をなでようとした。

だが恵斗はその指先をかみついたのだ。


「いで!なにしやがんだよ!」


「あ!!ケイト!ごめんなさいは?」


恵斗はまたあの目で睨みつけて家の中に入って行った。


「もう!ケイト!待ちなさい!」


「くぅ~。可愛げのねーガキだなぁ。」


恵子は、恵斗を追いかけて実家の中に入っていった。

恵斗はどこかに隠れてしまい叱りつけることはできなかった。

恵子は、まぁいいかと諦めた。


「かぁさん!かぁさん!子供置いて出かけてくるから!」


「はぁ?出かけるってどこに??」


「いいから!夜遅くなる!」


「はぁ!?いいかげんにしてよ!アンタ!」


そんな言葉、どこ吹く風テキパキと化粧を直した。



 あ…そだ…お金…。

 これは置いていこう。大金持ってたら…危ないもんね。



恵子は実家の自分の部屋に家を売り折半したお金の入った袋を置いた。


そして小走りで秀樹の車に戻った。


「行こ!ヒデちゃん。」


「行くってどこに?」


「市役所!離婚届け出しに行く。」


「あ、そうか。それで、ホントの自由だな!」


市役所に向かい走り去る車。




【M市市役所】


恵子は窓口に立ち緑色の紙を提出した。


「じゃ、これで…受理していただけるんですよね?」


「別に…不受理届もでてませんし…。大丈夫です。受理いたします。」


「あは!ありがとうございます!」


「…どうなされました?」


「え?」



 ………いやだ…。



「いや…手を放していただかないと…受け取れないんですが…。」


「あ…ごめんなさい…。」



 ………放さない…。



「あの…」


恵子の手が離婚届を放さない。ガタガタと硬直して、握っている部分にしわが寄っていた。


「大丈夫ですか?」


「あ、大丈夫です。なんででしょ?おかしいな…。」


こころを緩めた…。次第に力が緩まっていく。

紙を放して、所員に受け取ってもらった。



 いったい、なんだっつーのあたしの体…。

 どうして?

 泣いてんだっつーの。バカかよ…。



恵子は流れてい来る涙を乱雑に拭ったのだった。

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