第6話 悪魔のささやき
冬子の説得空しく、恵子に秀樹からの電話がかかってくる…。
見られてもいないのに髪を整え嬉しそうにそれをとる。
「ねぇ…ヒデちゃん?」
「なに?ケイコ。」
「一回、外で会わない?あたし、もうストレスで一杯なの!一番下の子は実家に預けるから…。」
「うーん。そうしたいけど…。」
「なに?」
「人妻をアレするのはねぇ…。」
「えー!昔は奥さんいるにも関わらずあたしを抱いたくせにぃ!そんな常識的なこというんだ。」
「まーオレも大人になったしね。」
「でも、だまってればわかんないでしょ?いいでしょ~。」
「…でもなぁ…。もしも見つかったりしたら、慰謝料とかすっごい請求されんだぜ?ケイコだって離婚されて、後悔しながら慰謝料とか養育費とか払いたくないだろ??そこは慎重にいかないと。」
「えーでも、じゃぁ、どうすればいいんだろ…。」
電話口で秀樹はニヤリと悪魔のように笑った。
「…離婚しちまえよ…。」
「え??」
「もう…ないんだろ?杉沢に心…。」
「ウン…でも、子供もいるし…経済的にもねぇ…。」
「オレが…」
「え?」
「オレが面倒見るっていったら?」
「ええ??」
「ケイコも、ケイコの子供たちも。」
「えー…そんな…無茶でしょ?」
「いやぁ…。オレも、養育費払ってる立場だしね。」
「あーウン。」
秀樹も離婚して二人の子供に養育費を払っている立場だ。
離婚して結婚しても自分の3人の子供を育てながら養育費を支払うなど難しいであろうと、恵子は推測しため息をついた。
「だから、もらえばいいじゃん。」
「え?」
「オレは2人の養育費払ってる。で恵子は3人分の養育費もらえる。プラスマイナス、プラスだろ?」
「わ…すごい…。」
「ましてや、うちの子は年上…養育費は高校卒業か、大学だったら2年までだけだから、先に払い終える…。そっちの子は小さいだろ?けっこうもらえる時間が多いだろ。」
「なるほど…なるほど…。」
「ウチは、一人3万だけど、杉沢…結構もらってんだろ?もう、アイツが生活出来るギリギリまでもらっちまえよ。」
「あ~、ちょっと計算してみる。すごいね!」
「そ。そして、慰謝料とはいわないけど、財産分与を折半すんの。」
「なるほどなるほど。」
「家も売ってお金に換えて、どっさりもらってオレんとこ来いよ!」
「わぁーーーー♡」
「どう?」
「すごい!なんか、目の前が一気に明るくなった気分。」
「だろ?だろ?」
「やっぱ、大人の男は違うわ。」
「どーだ!エッチばっかり考えてる訳じゃないぞぉ!」
「すごい!すごい!頭いい!…なんて…なんて…ロマンチックなの…!?」
世間から見れば、ゲス…。ゲスの会話だ。
しかし、これでようやく秀樹と一緒になれると恵子の胸は高鳴った。
和斗が墜ちていくことなんてどうでもいいと思った…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そこから、数日…。恵子は秀樹に、離婚や養育費についてのアドバイスをもらった。
和斗の月収を聞くと秀樹は驚いていた。
「えーー!あいつ、そんなにもらってんの??」
「うん…。係長なんだけど…なんかいろいろと待遇がよくって…。」
「ほぼ年収1千万かぁ~。負けたなぁ~。見た目だってカッコいいしよぉ~…。」
「いやいや、男ぶりではヒデちゃんにはかないませんよ!あんなのただのトロフィーハズバンドだって!」
「ふふ?ありがと。ま~、そんぐらいもらってるなら、一人10万もらってもいいんじゃない?」
「マジ?じゃぁ、月30万?…でも…家のローンとか、車のローンも残ってるし…家売るなら、どっか別のところに住まなくちゃならないだろうし…。ちゃんと生活して、子供たち成人するまで払い続けて欲しいしね。」
「そっかぁ。優しいなぁ。じゃぁ、一人6万でいいだろう。」
「ところで、あたしはローンは…。」
「…まー…ホントは払わなくちゃならないだろうけど…、子供三人も引き取って無理だから、払って?って言えば、払ってもらえるだろう。」
「ホント?…もう…すっごい悪人だね。」
「愛には障害がつきもんなのさ。ちょっとくらい悪にならないとねぇ…。」
「ちょっと?ちょっとじゃないでしょ~…。ふふ。」
悪だくみの計画も終わり…。
ルンルン気分で恵子は夕食の支度。
あ~、なんかレバー食べたくなって来た。作ろうかな?
杉沢クンは夜遅いから、子供たちと楽しく団らん!
二人の楽しい幼稚園の話しを聞くのも楽しみの一つ…。
子供たちは料理上手の恵子の肉料理を喜んで口に入れた。
「あれ…このお肉かたくて…にがい…。」
「うん…。」
と、二人は一度口に入れたものを出して皿に置いたのだ。
あ…そうか…子供はレバー苦手か…。
「ゴメン!違うの…作り直すね…。」
あ~、失敗失敗。
そうか…子供はお肉、柔らかくて普通のじゃなきゃダメだよね。
ま…杉沢クンにはいつも通り(意地悪で)、カップ麺食べてもらおうと思ってたから…
今日はおかずができたか…。残飯処理してもらいましょ…。
夜の23時。子供が寝た頃、玄関のカギがカチリと開く。
寝ている和と寝室にいて、その音を聞いていた。
なぜか、恵子の胸は初恋のように高鳴っていた。
「…ただいま…。」
杉沢クン、帰って来たみたい。台所に行ったんだ…。
なぜだろう…恵子は、むくりと起き上がって、台所に向かっていた。
テーブルで…和斗は…無言で泣きながら、レバニラ炒めを食べていた。
恵子は、ムッとして
「泣きながら食べる程、キライなら捨てれば!」
といって、皿を掴んだ。
すると、和斗は、いつもとは打って変わって、エサを取られそうな猫のように、皿をがっしりと抑え別の方を見て食べていた。めずらしく恵子に歯向かったのだ。
レバーは和斗の好物だったのだ。彼は久しぶりの彼女の料理で好物のレバー料理を泣きながら食したのだ。
「なんだ…。好きなんじゃん…。そんなにガッツかなくてもいいのに…。」
恵子は、自室に戻った。
………フフ…フフフフ…
………レバー食べてた…食べてくれてた…。
…となぜか、気付くと微笑んでいた。
なんだ?あたし…。バカなの?
まるで…好きな人に始めてお弁当を渡したような…そんな気持ちが…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇




