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第5話 やっとあなたに会えた!

店を出ると、恵子はすぐさまそっぽを向いた。


「あのさ…。」


「え?」


「もうさ…いいよ?無理に記憶を戻さなくったって。子供たちもいるし…普通の生活できるし…。」


「そんな…そんな…やだよぉぅ…うっうっう。」


和斗は人目をはばからず泣き出したのだ。呆れてうんざり顔の恵子。



 はぁ…また泣いてる…。

 正直めんどい。コイツ…。

 なんでこんなのと一緒にいたんだろ?

 あたしはもっと大人な人が好きだったのに…。

 こんなのガキじゃん。


 泣き虫!




 …ん……泣き虫…?


 なんだろ…

 この変な気持ち…

 変な感覚…。


 ………せんせい…。


 誰?それ?


 ………先生…。先生…。




「せんせい…」


「え?」


「いや…なんでもない…。」


恵子の胸の奥からキーボードが湧いてきた。それを思わず口にした。

先生とは和斗が昔、恋をしていた自殺した先生だった。

恵子は夢の中で和斗を託されたのだが、それを思い出すことができない。通りに向かって歩き出す恵子。

和斗は、涙をふいて後を追った。


その時、恵子が突然、大通りに向かって走り出した!


和斗は驚いて夢中で追いかけた。



恵子は一人の男の背中に追い付き、スーツの肩を叩いた。


「あの…すいません…。」


その男は驚いて振り返った。


「え?あ!」


「お久しぶりです…。佐藤…さん。」


それは恵子が前に付き合っていた不倫相手の佐藤秀樹だったのだ。


「うん…渡良瀬くん。あ…今は杉沢だっけ。」


「えと…そうみたいです。」


「そうみたい?」


和斗は二人の間に入り込んで秀樹を睨みつけた。というのも、恵子が別れを告げたにもかかわらず、彼は無理やり強姦しようとしたのだ。

和斗はそれを助けていた経緯があった。


「ちょっと何やってんだよ!」


と言って、秀樹の胸ぐらを掴んですごんだ。

和斗は190cmもある大男で高校時代、ボクシングインターハイ1位だった男だ。

秀樹は前のこともあり、震えて目をそらした。


「ちょっとやめてよ!杉沢クン!あたしが話しかけたの!」


掴んだ手を緩める和斗。秀樹はホッとした顔をした。


「ごめんなさい。こんな凶暴な夫で…。」


「いや…「杉沢クン」って…。」


「いえ…なんか…ちょっと事故で…思い出せなくなっちゃって…。でも…佐藤さんのことは覚えてますよ!」


和斗は若干涙目になりながら


「え??」


と驚いて恵子の顔を見た。秀樹も驚き


「え?そうなの?」


「ハイ。…最近…どうしてました?」


「いやぁ…恥ずかしい話し…。離婚した。今は独身。」


「え?…じゃぁ…。」


「ウン。自由気ままな一人暮らし。」


「へー。そーなんだぁー…。」


和斗は無理やり恵子の腕を掴んで引っ張った。


「ケイちゃん。帰ろう!」


「ちょっと待ってよ!」


「ケイちゃん!」


強引に手を引いて駐車場まで連れ去る和斗。

恵子も少し怖くなってしまった。



 なんなの?昔もこうして、あたしたちを引き裂いたの?



和斗は強引に車のドアを開け恵子を押し込んだ。

ドアを勢い強く閉め、走り出す…。


「どうして…?」


「は?」


「どうして、アイツを覚えて、オレを忘れてんの?」


「は?知らないし。」


「オレは!オレは…オレは…ケイちゃんをこんなに愛してるのに!忘れないのに!なんで、ケイちゃんはオレを…ウウ…。」


「また泣いてる…。いい加減にして。…もう…別れたい…。」


「え??」


「うざいよ。アンタ。」


「ゴメン!ケイちゃん!そんなつもりは!」


「ちょっと前見て運転!…ホント…頼りない…。」


「え…ちょっと…ゴメン…。ホントにゴメン!」


「いいよ…ハイハイ…。」



 この空間にいたくない。

 疲れる…。

 助手席に乗るのもいや。

 めんどい。

 窓の外でも見てよう…。


 はぁ…。ヒデちゃんに会えた…。

 また…会えるかなぁ…。


 独身か…。


 なんか…前と逆…。


 思ってる人はフリーで…

 あたしは、足かせをはめている…。


 どうしよう…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



後日、和斗は会社。

恵子は、子供たちを幼稚園バスに乗せて、家事をしていた。



 アイちゃんは寝てるし…。

 ふぅ。お茶でも飲むか。



と、ひと段落つけてソファに座った。


すると携帯が「ヴヴヴヴヴヴ」と音を立ててテーブルの上で揺れ動いた。

恵子はそれを手に取って見た。



 あれ?誰?名前がない…。



「もしもし?」


「あ、まだこの番号だったんだ!良かった!」


「あ!ヒデちゃん!?」


「ふふ。まだそんな風に呼んでくれるんだ。」


「ウン。だってぇ…ヒデちゃんでしょぉ~。」


「ウン。そうだよなぁ~。え?今どこ?」


「今、自宅。掃除して、お茶飲んでた。」


「主婦業かぁ。」


「ウン、そーだよー。ヒデちゃんは?」


「あー、外回りの途中。ところで…この前…。」


「ウンウン。」


「事故で記憶がどうこういってたけど…。」


「そうなの。階段から落ちちゃって、頭打ったみたいで。今までのこと全部忘れちゃった!結婚したことも、子供のことも。…でもまぁ…子供のことはカワイいけどね…。」


「でも…オレのことを…。」


「そ!ダンナのことなんて、さっぱり覚えてないのに、ヒデちゃんのことは覚えてた。付き合いだしたこととか。愛し合ったこととか…。」


「またまたぁ~。」


「ホント!ウチのダンナなんて、ガキ!毎日毎日、メソメソしてさ~。辛気くさいっつーの!記憶が戻んないってことは忘れてもいい。どーでもいいって思ってたんだと思う。…もうね…子供いなかったら…別れたい…。」


「そうなの??ストレス溜まってるねぇ~。」


「そうだよ~。ヒデちゃんに会いたいなぁ~。」


「そう?フフ。じゃ、また連絡するよ。」


電話が切れた。途端に恵子の顔がパァッと明るくなった!



 フフ。楽しい!いつ以来だろ。こんなに楽しいの!

 やった!やった!ヒデちゃんがまた電話してくれるぅ~!!



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



それから…


秀樹は平日の営業にでたとき、恵子に電話するようになった。


その時だけは、恵子は自由な鳥。

こんな鳥かごから一時的に声だけは表に飛んで行けるのだ。



 ヒデちゃんに会いたい…会って…抱いてもらいたい…。


 ダンナの杉沢クンとは数日口も聞いてない。

 目も合わしていない。

 どうせ、つまらない記憶のことしか言わないし…。



そんな恵子の後ろから和斗が声をかける。


「ママ…。」


「あ?」


「なんか最近あった?」


「はぁ?なにも…。」


「目が…哀しいよ…。」


 は?なに言ってんの?意味がわかんない?

 こいつホントにガキガキガキガキ!


「どこか遠くに行ってしまいそうな…。」


「はぁ…そうかもね…。」


 子供の弁当のついでにアイツの弁当も作っていたけど、もうなんかとても面倒になってきた…。


出勤する和斗に恵子はお金を渡した。


「ハイ。お金。これでなんか食べて。」


「う…うん…。」


「これからは…玄関に置いておくから…勝手に持って行って。」


「え…。」


「じゃ、よろしく。」



 イジメてもイジメてもハリがないっつーか…。

 ま、夕食ももういっか~…。カップラーメンで…。



和斗は恵子の料理が大好きだったのだ。

このイジメは和斗を徐々に追い詰めていった…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



長男の恵斗と長女の恵美がリビングのテーブルでクレヨンを使ってお絵描きしていた。

楽しそうに、幼稚園で習った歌を口ずさみならが。


「な~に描いてんの??」


と近づくと、恵斗の顔はパァっと太陽のように笑う。


「これ、ケイくん。これ、犬。これ、ママとパパ。これメグ。これアイ!」


といって、家族の絵を見せてくれた。



 犬がとてつもなくデカい!家族はみんな棒…。

 犬が描きたかったのね…ふふ…。



「メグちゃんは?」


というと、恵美はスッと絵を隠した。


「まだ、できてないから。」


といって顔を伏せた。

そのうち、恵斗に誘われて、庭のブランコで遊びだしたので、恵子はそっと絵を見てみた。


見ると、パパらしき人が木の下で泣いて、その近くで女の子も泣いている。

割れたハートがたくさん散らばっている…そんな絵だった。



 あたしだって…


 あたしだって…


 意地悪なんてしたくないわよ…。

 なんなの?みんなして…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



平日の昼間…

次女のあいを寝かしつけると、秀樹から電話がかかってくる…。

この時が恵子の一番の官能の時間。


幸せなひと時…。テンションが上がった恵子は、友人の冬子とうこに電話してみた。


「もしもし~。フフフ。」


「あ、ケイコ?どうしたの?ごきげんだね?カズトくんのこと思い出したんでしょ?そーでしょ?」


「…やめてよ…。テンション下がる。」


「え?」


「連絡付いたんだ~。」


「え?誰と??」


「あたしの恋人!佐藤秀樹さん!」


「は?」


「あのね…電話してきてくれたの。」


「あんた、まだ登録してたの??」


「いや…最初は未登録だったんだけどね。でも平日の昼間は電話してきてくれるの。離婚して独身なんだって!」


「あっそ。で、なにしたいの?子供三人もいて。カズトくんもいるじゃん。」


「いいよ。あんなの。」


「あんなのって…。」


「ね。ヒデちゃんに抱いてもらってもいいかなぁ?」


「は?ダメに決まってるでしょ?」


「そーゆーと思った。」


「きっと、思い出すよ?今までのこと。カズトくんのこと。そん時、そんなことやってたら絶対後悔する!」


「あ~、そうだね。」


「そーだよ。今のことばっかり考えてちゃダメ!今のアンタは偽物なんだから…。」


「あ。ゴメン。アイちゃん泣いてる。」


「あ、そうか。じゃ、ダメだからね。」


電話を切った。



 どうせそういうと思った。

 ま、秘密のデートをしますよ。そんなら。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 

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