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第4話 思い出を呼び覚ます。

次の休みの日…。和斗は、たくさんのアルバムを引っ張り出してきて恵子に見せようとした。


「ママ、アルバム、一緒に見よう?」


「いや…あとで見るから置いといて…。」


「いや…説明したりとかしたいから…。」


「あ…そ…。わかった…。ハイハイ…。」


和斗が、一冊目を開く。そこには小さい小さい赤ん坊が写っていた。

笑った顔のアップ。すやすやと寝ている顔。靴下をはいた足のみというのもあった。


「これが…ケイトが生まれたとき。3800gの元気な男の子!」


「かわいいね。」


「でしょ?初めての子だったから…。オムツのさせかたとか…ミルクの作り方とか…二人してわかんなくて…。でも、一生懸命だったよね?二人とも。」


「うーん…。」


「ママが、育児書いっぱい読んで、あれダメ、これダメ、言ってたけど、結局、メグミとアイの時は扱いがぞんざいになってさぁ。」


「へー…。」


「でも、みんなすくすく成長。ケイトが初めて歩った時…これがケイト初めての運動会…。」


いろいろと説明する和斗。しかし、恵子には見たこともない写真ばかり。


 へー…。ディズニーランドにもいってたんだ…アイちゃんが生まれる前に…。


「これは…二人の新婚旅行のアルバム。」


「どこ行ったの?」


「ハワイ。ほら。ダイヤモンドヘッドと、ママ。」


「あ…へーー。…ハワイ…。行ってみたかったんだ…。」


「だよね。ママがずっとここって譲らなかったよ?これは…白い砂浜に立つ、ママ。ママも白いね。」


「色白だからねぇ…。」


少しずつ…少しずつ、雰囲気が変わっていくことが和斗には伝わった。

和斗は、ここぞとばかり張り切った。


「帰国したあと、大変だった。二人で、皮むけちゃって…はがしっこしたよね?ベッドの上で…。」


「やめてよ……。あれ?この写真…。」


「え?なんか思い出した?」


「アンタ…腕に入れ墨いれてんの??」


「あ…ウン…。」


「素行悪そうだったもんね~。あー。指だけじゃなかったと思った…。」


「あ…はい…。」


「猫」


「え?」


「あ…いや…なに?」


「今、猫って言った??」


「いや…なんとなく…。なんでもない。」


和斗は思った。和斗の胸にはライオンのような意匠のタトゥがあったのだ。

それを恵子は“猫ちゃん”と呼んでいたのだ。


 猫って言った…猫って…。

 シャツ来てるから、胸のは見てない。

 腕のタトゥだけで、猫って言った…。

 思い出してる。もうすぐ思い出してくれる…!



「これは…陽気な現地の人が、ビーチで撮ってくれた、二人の写真。」


見ると、1枚目はツーショット。

2枚目は、和斗が恵子の頬にキスしてるショット。

3枚目は、恵子が和斗の頬にキスしているのだが、とても嬉しそう…。しかも、片手で、和斗の顎を押さえ、片手で肩を抱いている。絡みついているようだった。


「気持ち悪い…。」


「え?」


「考えられない!到底受け入れられない!」


「なんで?どうして?」


「アンタとキスなんて…。」


そう言って、恵子は部屋に駆けて行ってしまった。


 なんで?どうして?ケイちゃん…。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



数日後…。和斗の休みの日…。

和斗に連れられて来た、一軒の居酒屋。


「ここって…。」


「うん。思い出した?」


「いや…知らない…。」


「ここは…オレたちのスタートの場所。願いを叶えられる場所。今は…ママの職場。そんなんで…店は臨時休業だけど…ね…。」


「そうなんだ…。」


縄のれんをくぐって、中に入る。

中には、板前の老人と、若い男の人。キレイな女の人…。

それにつれられて、双子の子供…。


「ケイちゃん。久しぶり!」


「ケイコさん、どう?調子は?」


と、若い夫婦が話しかけてくる。続いて板前の老人が


「ケイちゃん。元気そうだね。もう…復帰…できるかな??」


あきらかに始めてみた人に人見知りしている表情の恵子に変わって和斗が


「いや…まだ…。」


「スイマセン…。あの…ちょっと覚えてなくて…。」


「そうよね。分かってる分かってる。」


「ママ…。思い出の料理…作ってもらうから。ここに座って?」


そういって、和斗は自分の横を指定して来た。


「いや…ここでいい。」


そういって、恵子は間隔を置いたカウンターに座った。

和斗は、また下を向いて泣きそうな顔をしていたが恵子は気にしない顔をしてそっぽを向いた。


 できれば…この店にだって…来る義理ないわけだし…。

 でも職場だったのかぁ…。


 やっぱ覚えてないなぁ…。


「亀…。」


「え??」


一同驚いて声を上げた。恵子は驚いてみんなを見て自分も驚いた。

大将が食材として買い入れたスッポン。しかし大将は情にほだされそれを飼い始めた。一堂呆れた経緯があった。その亀も今では死んでしまい、大将はペットロスになり、生まれた孫に「亀」の一字まで入れようとした過去があった。


「え?なんか言った?」


「そう、亀だよ!ケイち……ママ!!」


「いや…ただなんとなく…。なに?亀って…。」


和斗は泣き出して、身を乗り出してカウンターの向こうにいる大将に抱きついた。


「でもすごい!大将!」


「泣くな、泣くな!カズちゃん!」


 また泣いてる…。意味わかんない…。

 あんなキャラだったっけ?

 もっと軽くて…嫌なタイプだったよねぇ?


「これなら、大将の料理食べたらもっと思い出すかも!」


「そうだなぁ!そうだなぁ!」


若い男の人が、こっちを見て笑いながら、キレイな女の人の肩にポンっと手を乗せる…。

なんか、よさげな夫婦…。


それにしてもいい匂い…どこかで嗅いだような…

なんだろ…胸の奥から…思い出すような…思い出さないような…。


「ハイ。牛スジチャーハン!」


みんなの注目を浴びながら、一口食べてみる…。


「ウン。美味しい!…これが想い出の料理なの?」


「うん…。どう?」


「とっても美味しい。なんか…いつも食べていたような気がする…。」


「そうだよ。そうだよ!」


「これ…でも、一つ足りないような…。あ!ごめんなさい!」


大将はニコニコと笑いながら


「そう。ケイちゃんがこの店で出す時は、ちょっとアレンジをしてた。」


「…レタスを入れる?」


「そうそう!すごいじゃん!」


「いえ…思い出した訳じゃなく…そうすればもっといいかなって…。」


「あ…そうなんだ…。」


和斗は少し残念に思った。

感触をつかめなかった一同。

しかし、「亀」だけでも充分な成果だったのだろうか?


和斗は、みんなに別れを告げ、店を出た…。

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