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第2話 退院…はじめての家

数日たったが恵子の記憶は戻らなかった。

和斗が気を張ってにこやかに見舞いに行っても顔を背ける日々。


和斗は医師に話しを聞きに行った。


「どうやら…だいたい、ダンナさんと初めてあった当時くらいまでの記憶までしかありませんね…。」


「…なるほど…。ハイ…。」


「しかし…、退院して、家に帰って…思い出の場所とかに行ったりすれば…あるいは…。」


「はい…。」


「ちょっと、ダンナさん、頑張ってみてください。」


「ハイ…それはもう…。」


恵子は退院、経過観察ということになった。

子供たちは、家で恵子の母が見てくれるということで和斗は一人で迎えにいった。


たくさんの荷物を、車に入れる和斗。

腕組みしながら、目をそらして待っている恵子。

和斗は恵子を車の助手席に乗せて走り出した。恵子は外を見ながら何か考え事をしているようだった。


 あ~…。あの同じ課内にいるのも…

 車に同席するのもいやだった杉沢クンと一緒に暮らすのか…。

 こりゃ大変だなぁ~…。

 なにがよくて結婚したんだろ…。当時のあたしは…。


恵子は、和斗の顔を見ないまま話しだした。窓ガラスが呼吸の度に白く煙る。


「あの…。」


「う、ウン…。」


「その…ケイちゃんっての…やめてくれない?」


「…え?…うん…。」


「なんか…ホントに嫌なの…。あたしの中では…その…ただの会社の部下としか思ってないから…。」


「あ…そっか…。」


「思い出すまででいいの…。ゴメン。今自分のことだけで精一杯だから…。」


「ウン…協力するよ…。」



車は新興住宅地に向かい、ゆるい坂道を上って、カーブを曲がった。


「あれ?あたしの実家近いよね?実家に帰るの?」


「いや…。ケイ…ママの家に近い方がいいと思って。ここにしたんだ。」


「へー。まさか、あのでっかい家ではないでしょ?」


「いや…そうだけど…。」


「え?あんなにでっかいの?へー…。」


一目で他の住宅とは違う、大きな家に到着。和斗は車から荷物をおろした。

子供たちが出て来て、母親に絡み付いていた。


「ホラ。まだママ大変なんだから。離れて。離れて!」


「いいよ…。子供なんだから…。パパ怖いですね~。」


「あ…ゴメン。」


恵子は和斗が言うことがどれをとっても面白くないらしく、すぐに噛みついた。


「でも…素敵なおうちだね!」


「そう…ママが…設計から携わったんだ。いろいろこだわりあるって。」


「へー。あたしが?…ウン。そうだね。あたし好み。」


「オレも…この家が大好き。」


「あそ…。…けっこう広いね。庭。あ。ブランコ。芝生もすごい!わー!ウッドデッキ!」


「そ…。友だちたくさん来て、みんなで作ったんだ。ママがたくさんの唐揚げだしてくれて…みんなでビール飲みながら、1日で作ったっけ…。」


「え?手づくりなの?これ。」


「そう。作ってもらうと高いから、友だちが知ってるヤツいて…。10人くらいでやったっけなぁ~。」


「へー。すごいね。」


「あん時の、山盛りの唐揚げ!普通の鶏肉のもあるし、豚肉のもあるし、レバーもモツも、軟骨もあったね!みんなのテンションあがっちゃってさぁ!憶えて…ない??」


「…うーーん…。」


 ウッドデッキ忘れてるのに、唐揚げのことなんて憶えてるわけないでしょ?

 なんなの?バカみたい…。


和斗は張り切って、恵子の手を引いて家に入れた。手はすぐ振りほどかれたのだが、それでも和斗は頑張った。


「じゃ、家の中をご案内しまーす!」


荷物を置いて、家の中を説明しだした。


「ここがリビング。キッチンとつながってるよね。このカウンターから、ママが料理を出してくれるんだ。それを、オレがとって配膳する。ママの料理は最高!ね♡」


「へー。いいね。」


「このキッチンの扉をあけると、一つ目がトイレ。突き当たってバスルーム。洗濯機は…ママの大好きなドラム式。」


「けっこう、お風呂広いじゃん。」


「うん。そうなんだ。それは、オレがこだわった。一日を疲れをゆっくり取りたいし…。」


「へー。掃除とか、洗濯は?」


「あ…ママが…やってくれて…。」


「アンタは…何もしないの…?」


「あ…ウン…。ママが…カズちゃんは休んでてって…。」


「は?あたしがそんなこといったの?カズちゃんって…あんたのこと?」


「あ…うん…呼んでくれるよ…ね?」


「ま…思い出したらね…。」


「……ウン…。」


「で?次は?」


「あ、この廊下。この壁の一本の線は、ケイトが2歳の時に書いちゃって、ママにすごい怒られてた。」


「はは。」


「そして、玄関から左側の扉は和室が2間。まだ、使う予定ないんで…。子供たちの遊び場だけどね。今は。」


引き戸をガラリと開けるとオモチャが散乱。恵子の顔が曇った。


「あ…ゴメン…オレ…片付けるのヘタで…。」


「ふーん…。家のことなんにもできないんじゃん。」


「あ…ウン…。」


「ハン!」


恵子は鼻で笑った。

和斗は焦った。


 たしかに…ケイちゃんが退院したら片付けてもらおうって思ってた…恥ずかしい…。


「あっと…玄関から正面は二階にのぼる階段。」


「見りゃわかるけどね。」


「うん。で、階段上がったら、4部屋あるんだけど、正面がトイレ。左が、ケイトとメグミの寝てる部屋。」


和斗は子供部屋のドアをあけた。


「いいじゃん。ザッツ・子供部屋って感じ。」


「うん。ここ数日はお義母さんが面倒見てくれてんだ。」


「やっぱりね。片付いてると思ったら。」


「うん…で、右側が普段は使ってないんだけど、今はお義母さんとアイが寝てるんだ。」


「ハイハイ。母さん、泊まり込みでやってくれてたんだ。」


「うん。お義父さんも晩ご飯は一緒で…賑やかだったよ。」


「あ、そうなんだ。父さんと仲いいの?」


「あ、ウン。すっごく。実のオヤジより仲良いかも。」


「へぇ~。」


「でね。この右の廊下をいきますと、奥がオレと…ママの部屋♡」


そう言って、和斗はドアを開ける。薄いピンクの壁紙…。二人の写真が貼られたコルクボード。観葉植物の横には、恵子が昔から使っていたドレッサー。

ベッドの横には背の高いライトスタンド。そしてダブルベッド。


「…ダブルベッド…。」


「うん。いつもはここに、アイも一緒に木枠のベッドで寝てるんだ。」


「いや…ダブルベッドなの?」


「うん。そうだよ?」


「今日から、あたし、ここに寝るの?アンタと一緒に?」


「うん、そうだけど。」


「それだけは絶対にイヤ!」


「なんで?ケイちゃん!愛し合って結婚したんでしょ?」


と、今度ばかりは和斗は引き下がらず、恵子の前に回ってすがった。


「やめて!想像したくもない!」


「そんな、夜だけは一緒にいようよ!」


「ちょっと、ホントマジ…やめてくんない?身の毛もよだつ!」


「ケイちゃん!ケイちゃん!ウウ…だめだぁ…もう…ウグ…。」


「ちょっと…なに泣いてんの…?気持ち悪いんだけど…男のクセに!」


「ケイちゃん!愛してる!」


そういって、和斗は恵子を強く抱きしめて強引にキスをした。

恵子は、両手で押し返し、袖で唇を何度も何度も拭いた。


「やめて…ホントに…うざいよ…。とにかく…今日からしばらく…アイちゃんと一緒に向こうの部屋で寝るから…。いいでしょ?記憶が戻るまで。」


しばらく、二人とも沈黙…。


「…好きにしなよ…。」


黙って、和斗は自分の部屋に入ってドアをしめた。


 ホラ。やっぱり思った通り。強引に自分のものにしようとした…。

 結婚当時…たぶん、そんな感じだったんだろう…。

 無理矢理おどされたとか…。

 なんか、軽い感じだったもんね…昔から。

 女なんてモノみたいに扱ってた感じだし。


 あたしなんて、多分、ていのいい家政婦…

 子供を産む道具くらいにしか考えてないんじゃないの?


 三人も作らされて…。

 ああ嫌だ。あんな悪魔みたいな男に…。


 ヒデちゃんは…どうしてんだろ…。


 ヒデちゃんに…会いたい…。


と、当時付き合っていた男のことを思い出した。

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