第13話 もうお終いなの?
「だめーーーーー!!!」
ガバ!
恵子は跳ね起きた。心臓が早鐘のように打っていた。
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。
ん………ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……。」
大きく深呼吸して時計を手に取ると夜中の3:08…
周りを見回してみると右隣りに和、左隣りに恵美…。離れた小さい布団に恵斗が寝ていた。
「…ウソ……夢??…サイテーな夢…。」
夢と現実の区別がまだつかない恵子…。涙で頬が濡れていた。
「エッエッエッエッ…。ダメだよぉ…カズちゃん…そんなことしちゃぁ…。」
まだ心臓の音が止まらない。ドキドキドキと聞こえるくらい大きかった。
しかし、わずかに笑う恵子。
「ふふ…あたし…ヒマだからって昼ドラの見過ぎだぁ…。そういえば…こんなドラマ見た事あったっけ…。もーー…。カズちゃんがそんなひどいことするわけないじゃん…。」
するとムクリと長女の恵美が起き上がった。
「どうしたの?ママ。」
「あ…ゴメン…なんでもない…。」
恵美は手を伸ばし、恵子の頭をなでた。
「こわいゆめをみたのね…。もうだいじょうぶよ??」
「…ふふ…ありがと…。」
そのまま、もう一度布団に倒れ込む二人。
あ~…あたしのカズちゃんの若い頃のイメージってあんなんか…失礼だなぁ…。
カズちゃんがあんなことするわけないじゃん…。
優しさが服着てあるってるような人なのに…。
でも…夢で良かった…。
あ~…ホント良かった…。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
また休日…。恵子は和斗を探して、アパートやマンションに聞き込みをしていた。
会社にも電話しても…家族じゃない人には言えないと断られた。
だがこれからもこれを続けるつもりだ。
愛しい和斗にただ会うために。
来週の休みもそれが楽しみだ。
荒神で、また働きだした。
最初はギクシャクしていたが次第に元に戻れた。
客の中に和斗の友人が居たら、必ず聞いて回るが最近だれも見ていないという…。
いつも、恵子の荒神での仕事が終わると迎えに来てくれてた和斗。
仕事終わるの遅いのにも関わらず。
笑顔で車のドアをあけて、「おかえり」って言ってくれていたのに。
今、恵子は一人で最終の地下鉄にのって、駅から実家まで歩いて帰る。
緩やかな坂道をのぼって、カーブを曲がると、和斗と恵子の家族五人の家…。
あれ?
あたしたちの家に電気がついてる…。
売家の立札もとられてる…。
やだ…ウソ…。まさか…引っ越してきた?
誰かが…。
やだ…やだ…。
もう…ダメなの??
表札は?
ついてない…。
車も…
カズちゃんのじゃない…。
呼び鈴を…。
でも、知らない人でしょ…?
夜中の0時過ぎてんだよ??
どうしよう…。
ピンポーン
押しちゃった…。
「はい?」
男の人の声だ。
カズちゃんかな?お願い。カズちゃんでてきて…。
ガチャ。
「はい…あれ…?」
カズちゃんだ…。
髪は黒髪のまま。ピアスなんて入れてない…。
元の…あのまんまのカズちゃんだ…
「ウ……カズちゃん…。」
「どうして?」
「カズちゃぁん…。」
「あれ?…カズちゃんって…。」
「カズちゃん…会いたかった…。」
「いや…ちょっと待って…記憶…もどったの?」
「うん…離婚届…だした…その日に…」
「なんだ…そか…。」
恵子は前よりもずいぶん変わった和斗の姿を見て
「痩せたね…。」
「まぁね。」
和斗はぷいと恵子から視線を逸らした。
そしてドアを大きく開けて、外を見渡した。
「…佐藤さんとは…?一緒じゃないの?」
「うん!一緒じゃない。ずーーっと一緒じゃないよ!」
「そうなんだ。ふーん…。」
「ね…カズちゃん…。」
「なんだよ…別れたんだから…やめてくれよ…。」
「え…いや…。ゴメンなさい…。」
「なに?用事?お金足りない?」
「チガウの…。あ…あの…この家は??」
「うん…。売って、その日のうちに、オレの分の…半分のお金入れて買い戻したんだ。借金して…。だから…オレの家…。」
「そうなんだ…。よかった…。あは…。あ、あの…車は…。」
「売ったよ。もう…ファミリカー必要ないし。借金の足しにもなるし。」
「あ…そ…なんだ…。」
「じゃ、もういい?」
といって、和斗は扉を閉めかけた。
「ダメ!待って!カズちゃん!」
「なに?」
「あたしのこと…キライだよね…?キライになった…?」
「うん…。」
「やだ…。キライじゃやだ…。…ウグ…」
「…ごめん…もう…夜遅いから…。明日…仕事なんだよ。」
「…やっと会えたのに…。」
「子供たちは?」
「…ウン…元気…。」
「…じゃ、よかった……。」
「…カズ…。」
「…じゃ、サヨナラ…。」
パタン。
扉は閉められた。
閉められてしまった。
感情のない顔で扉は閉められてしまった。
恵子はもう一度ドアを叩いた。
何度も何度も。
当然なのに…。当然の結果…。
あたしは裏切った。
裏切者。
夫を裏切って…別の男に走った…。
あたしは…カズちゃんに…
石で打ち殴られて殺されても仕方のない女…。
わかってる。
わかっていた…。
カズちゃんに愛されてた。
それを捨てた。
でも、カズちゃんなら、きっと待っててくれてる。
全て受け入れて、また元通りになってくれる…。
そう思って甘えてた。
会ったら…記憶が戻ったって言ったら…。
絶対にあの言葉を言ってくれるって思ってた…。
「ケイちゃん…愛してる」って…。
バカだ…。もしもあたしでもあたしが許せないのに…。
カズちゃんが許してくれるわけ…
ない…。