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第12話 人の幸せを壊して

理沙は迷いながら部屋のドアを開けた。


「ただいま…。」


「あ!おかえり!リサ!」


と、うれしそうな理沙の彼氏の声が聞こえた。

彼は部屋から立ち上がり玄関まで彼女を迎えに来たが、和斗を見て驚いた。


「マナブ…話があるの…。」


「こんばんわ。」


と和斗は優し気に微笑む。


「え?リサ…こんな夜にお客さん??」


和斗は、玄関先でスッとキレイに土下座した。


「すいません!俺たち、愛し合ってるんです!リサと…別れてください!!」


余りの言葉に彼氏のまなぶは驚きたじろいだ。


「え?…リサ…ホント…??」


「……ウン…。」


「え!?…いつ…から…??」


「ごめん……。今日から…。」


「え?え?え??」


「前から…話してた…この人が…カズト…。」


「はぁ??この人を好きなの??リサをさんざん遊ぶだけ遊んで…体に…タトゥまで入れさせた…この男を??」


「…ゴメン…学のこと…好きだよ…??…でも…カズトのこと…ずっとずっと…捨てれないの!!この思いが!」


「……勝手にしろよ…。」


学は二人の間を抜けて、外に飛び出した。

愛していた理沙に裏切られ、さらに彼女の元の男を見てしまった。

やるせない思いで一杯だった。


理沙は彼を追いかけようとした。

だが和斗は立ち上がり理沙を止めた。


「オレが…追いかけるよ。ちゃんと言ってくる。物分かりがよさそうな人だ。話せば分かってもらえるよ。」


「う、うん…。ありがとう…。」


と言って、和斗は理沙の部屋をでて行った。



学は前を歩いていた。

肩を落として小さくなって震えながら…。

おそらく泣いているんだろう。


和斗は、追いかけるといってもとてもゆっくりだった。

走るわけでもない。かと言って見失うほどでもない。


道行く人が二人を見ても、関係のない通行人同士としか思えないだろう。


薄暗い、人気のない歩道橋を登ったところで、学は欄干によりかかり、和斗を待っていた。


「…どこまで…ついてくるつもりですか…??」


「…いやぁ。」


と言って頭をかき辺りを見回した。

住宅街からは離れ、下には国道がありビュンビュンと車が走り抜けている。


歩道橋の脇には大きな樹木が立ち並んでさらにこの場所を暗くしていた。

街灯は中央に一本だけあるものだけだ。国道のおかげで下は明るくなっている。

走る車は上に人がいるなど気付かないだろう。


「…ところで…あなたは、行く当て…あるんですか??」


「…いや…あそこが…オレの…。オレたちの家だから…。」


「ホントにスイマセン…。」


といって、いつものように朗らかに笑った。

記憶を失った恵子は嫌っていたが、すべてを魅了するような笑顔なのだ。


学は理沙がなぜ和斗を未だに好きなのか分かったような気がしてフッと笑った。


「…でも…知ってましたよ…リサが、あなたを思っていること。ずっと、悪く言ってましたけど…。忘れられなかったんだと思います。はは…頑張ったんですけど…。結局…勝てなかった…。」


「そうでしたか…。」


「あの…お願いがあるんですが…。」


「なんでしょうか??」


学の目から涙がこぼれ、声を絞り出しながら言った。


「どうか……リサを…リサを、…ウグ……幸せに…してやってください。」


和斗はその言葉を受け止めにこやかに笑った後に


「さぁ…ね…。」


「え?」


「正直、興味ないです。あなたたちの恋愛とか。リサはただ、美人な性欲処理道具ですよ。」


「は??」


「ふふ…。ただ、オレを好きなの知ってるし…、今までヤってきたから、具合がいいってだけですよ。」


「え?え?え?」


そういうと、和斗は学の顎先に狙いをつけて拳を打ち込んだ。ボクサーだった和斗の必殺の拳だ。それに耐え切れるはずもなく学は後ろに吹き飛んだ。


「鼻だと血が出ちゃうからね…。でも、顎も急所だから、起き上がれないでしょ?」


学は顎を真っ赤に腫れ上がらせ、


「な…なにを…。」


「オレだけ不幸で、アンタ方が幸せなんて許せませんからね。そういうの一つ一つ壊してやろうと思って。幸い、リサはあんたとの部屋をもってた…。あそこに住まわせてもらいますよ。でもさ、リサが…婚約解消してオレと暮らし始めると…まわりも不振に思うしイメージ悪いでしょ?…学さん、ここで死んでくれませんかね?」


「え?…いやだ…いやです…。」


「そんな、お願いしますよ。リサのことを思うなら。アンタが死んだからオレと付き合った。そういう筋書きができるでしょ??」


這いながら逃げようとする額の両足を掴んで自分の方へ引きずりその靴を脱がせた。


「あ、あ…。で…電話を…。」


学は吹き飛んだ拍子に、飛んで行ったスマホに手を伸ばした。

しかし、和斗はスマホを足で押さえてしまう。


「リサ…リサに…。」


「はぁ~。海よりも深き母の愛。空よりも広い君の愛かぁ。リサに教えてあげるんだ?オマエは騙されてるって??」


和斗は学を両手で起こし、歩道橋から道路に乗り出させた。


「お願いします!リサに…一目!一目会わせてください!遠くからでもいい!!」


「さっき、会ったばっかでしょ?オレはランプの魔人じゃないんでね?願いは叶えられませんよ。」


「くそぉ!リサぁ!!オレはもうダメだぁーー!!!どうか幸せになってくれーーー!!」


「おあつらえ向きにトレーラーが来ましたよ。じゃぁな。」


といって、和斗はその手を放した。学の体が歩道橋から落ちてゆく…。


トレーラーの鼻先にぶつかり、ちぎれる学の体。


それを冷たい目で歩道橋の上から眺める和斗。


学の体は飛び散って、その先でも車に潰されていった。

そこらじゅうに響き渡るブレーキ音。


和斗は学の靴をキレイに並べて、自殺したように偽装し歩き去った。



そしてポツリとつぶやく。


「待ってろよ?佐藤秀樹。オマエもあんな風にしてやるからな…。」



関係のない、学をなぜ死に追いやったんだ?和斗。


家族を失った哀しみで…


妻を盗られた切なさで…


鬼に…鬼になってしまったのか…??




和斗は無言のまま理沙の部屋に向かって行った。


そのころ理沙は、部屋で和斗と学の帰りを待っていた。

和解して和斗の雰囲気にのまれて学も一緒に戻ってくるかもしれない。

そんな期待感があったのだ。



 あれ??パトカーの音…。どこかでスピード違反かなぁ…。



と思うと玄関のドアが閉まり、体の大きな和斗の姿があった。


「ただいま…。」


「あ…カズト…。マナブは…。」


「あ…ウン…。追いかけたんだけど…。」


「だけど…??」


「ウン…歩道橋から飛び降りて…。間に合わなかった…。」


「え!!??」


「リサにフラれたの…、悲観しちゃったんだろうなぁ…。」


「そんな…そんな…マナブ…。」


崩れ落ち、泣きだす理沙。そんな理沙の頭に和斗は手を乗せて言った。


「これから…オレが守るから。リサのこと…。」


「カズト!カズトぉ!!」


和斗を抱きしめ、泣きじゃくる理沙。

しかし、和斗の顔は邪悪に微笑んでいるのであった…。

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