第11話 暗闇に堕ちて
その渦中の人物…和斗の髪の色は…以前の黒髪から赤い色に変わっていた。
顔中にピアスをあけ、さながら恵子と出会った20代前半の…恵子の嫌いな姿に戻っていた。
仕事も、夜の盛り場の仕事に変えており、昔付き合いのあった侠栄組からいくらか店を任されていた。
住む場所は定まらず、知り合った女性の家に転がり込んで点々としているようだった。
その日は、友人を呼んで宴会していた。
「では!第12回和斗を励ます会を開催します!かんぱーい!」
パーティルームが大勢の「イエーーー!!!」と言う声が鳴り響いた。
「どんどん呑めよ~。金ならたんまりあるから。」
「家売った金だろーよ。とっとけよ~。」
「いいんだ。いいんだ。こうしてるほうが楽しいし。」
「まー、いいけどさ。昔の和斗が戻って来てくれて楽しいわ~。最近付き合い悪かったもんな~。」
「ゴメンゴメン!もう、みんなを悲しませないぜ~!!」
またも大勢のノリの良い声が「ウォーーーー!!!」と響く。
和斗が友人たちに
「女の子呼ぼうぜ~!」
と言うと、セッティングのうまい友人が
「もう、連絡付けてある。リサもくるみたいだよ。」
「…へ~。リサかぁ。久しぶりだなぁ~。」
一人の友人が近づいて、和斗に耳打ちした。
「やっぱ、和斗のこと忘れられねーみてーだよ?最近、婚約までいったんだけど、オマエが離婚したって聞いて、彼氏と距離置いてるみたい。」
「ふーん…。ま、来たら聞いてみるかな…?」
と言ってニヤリと笑った。
そして会が進むにつれ、女の子が一人、二人と増えてくる。
友人の女友だちなんだろうが、みんなキレイに着飾り、蝶のよう。
友人の間に入り、みんな楽しそうに会は進む。
やがて遅れて…
「ごめん。遅れた。」
リサだった。露出の多い服で輝くアクセサリーをつけて現れた。
顔だちもいいので一段と目立った。
「お!リサ。オレの横に来いよ。」
「やだよ。なんで…好き好んでアンタの隣に…。よ!ヤスシ!」
「おう。」
理沙は靖史という男の隣に座る。しかし、杯が重なるにつれ…。
「ヨーちゃん、なに飲んでた??」
と、洋介という男の隣に座る…。がそのもう片方の隣には和斗。
洋介、理沙、和斗という形。
洋介と会話し、笑いあったあと、おもむろに和斗の方に目をやる理沙。
ニコリと笑った和斗と目が合う。
「久しぶり。」
「…ウン…。」
「婚約したんだって?おめでとう。」
「…ウン…。」
「なんだよ。しおらしいなぁ~。幸せいっぱいだろ?」
「…ウン…。」
「じゃ、良かった!あの時はゴメンな…今さらだけど…。」
といって、またニコリと笑って顔を見る和斗。
「…そんな…そんな顔で見ないでよ…。もう…あの時だって…何回騙されたか…。」
「騙してなんてないよ…。ちゃんと…愛し合ったじゃないか…。」
「…ウン…。」
「ちゃんと、ちゃんと…愛し合ってたよね?俺たち…。」
「…ウン…。」
フワっと、理沙の目に涙があふれてくる。
「オレが裏切ったんだよね。ゴメンね。リサ。」
「やめて…。やめて…。やめて!優しくしないで!」
両手で顔を抑える理沙。みんな知らぬ顔をして飲んでいる。
「あ~…でも…リサも人妻かぁ…。」
「う…ウン…。」
「その…今から…リサに告白してもいい??」
「え?」
「あの時…若過ぎて言えなかった言葉…。いつも、バカみたいなことばっかいってたけど…。」
「え?なんて言うの…??」
「愛してる…。」
といって、ニコリと笑った。
「うぅ…」
理沙は顔を抑えて、外へ飛び出していった。
スっと立ち上がる和斗。
「ヤスシ、ここの払い済ませておくから。あと、リサと出かけてくると思う…。多分戻らない。」
「オウ。しっかりやれよ。」
といって男同士拳を合わせた。
扉を開けて、すぐの通路に理沙はいた。肩をふるわせている。
和斗はその肩に手を乗せた。
「リサ?」
「ずるい!ずるいよぉ!カズトはいっつもそうやってアタシのこと振り回して!」
「ウン。ゴメンな。」
「好きなのぉ!まだ、好きなのぉ!」
「10年も思っててくれた。」
「ウン…。やっと踏ん切りついたのに…。」
「ありがとな。」
そういって、和斗は理沙をポフンと抱き寄せ大きな体で包み込んだ。
理沙は抵抗しなかった。
「…なぁ…リサ…。好きなもの同士…一緒にいれないなんておかしいよな?」
「ウン…。」
「ここ出て…どこか二人っきりになれるとこに行こうか?」
「ウン…。」
「じゃ、行こ!」
「あ…みんなには…。」
「いーよ。いーよ。こっそりなんだから…。」
「あ。ウン。じゃ、抜き足、差し足。」
「フフ。なんだよぉ~。かわいいなぁ…。」
と二人は夜の街中に消えて行った。
そしてホテルの一室…。
大きいスウィートルーム。二人は体を寄せ合っていた。
「夢みたいだなぁ…。」
「そうかぁ?」
「あ~…すごかった…。」
といって、肩にもたれかかるリサ。
「昔を思い出した??」
「ウン。」
「もう、離れたくないなぁ…。」
「ホントだねぇ…。」
「ずっとこうして…いたかったんだ。本当は…。リサと…ずっと一緒にいたいよ…。」
「あたしも…そうしたい…。」
「オレといようよ…。付き合いなら…彼氏と負けてないだろ??」
「ウン…。」
「幸せにするから…。」
「…ウグ…その言葉…待ってたの…ずっと…ずっと…待ってた…。」
「今…彼氏とは…婚約してたんだろ?同棲とかしてないのか…?」
「あ…うん…してる…。」
「そっかぁ。どうするんだ?」
「ちゃんと…別れるっていうよ。」
「でもさ…彼氏の心を考えるとかわいそうだなぁ…。」
「…ウン…。」
「オレが…言うよ…。リサをあきらめてくれって。ごめんなさいって…。」
「ホント?…でも、あたし、カズトのこと…ゴメン…彼氏にボロクソ言っちゃってるから…。キレちゃうかも。」
「そうか…。でもしょうがないな。だって、リサのこと好きなんだもん。」
「えへ…。」
「彼氏って…どういう人?」
「あ…いや…昔、不良とかじゃないよ?真面目な…ケンカとかしらない人…。ホント、まっすぐで…あたしのこと好きで…。…あは…あたし…最低だぁ…。」
「いい人だねぇ…できるだけ、傷つけたくないなぁ…。」
ホテルを出て、駐車場へ向かう二人。
「え?さっきまでお酒飲んでなかったっけ?」
「あー…。でも、2時間たってるし、運動もしたし♡大丈夫でしょ。」
「そーかなー…。」
車を走らせ、理沙の家へ向かう二人。
理沙の部屋は電気がついていた。理沙の彼氏が帰りを待っているのであろう。