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第10話 あれから…

あれから一年…。


恵子は和斗に、毎日のように電話していた。

そのうち、電話番号を変えられてしまった。


和斗にしてみれば、養育費以外にも金をせびられると思ったのかもしれない。

恵子の後ろには佐藤秀樹があり、自分からむしり取ろうとする陰湿なヤツだということは容易に想像できたからだ。


恵子は…恵子たちの昔の家の前を歩いていた。

恵子の横には長男の恵斗、長女の恵美が並列して歩く。

手には次女のあいが乗ったベビーカーが押されていた。


「ボクたちのおうちだ~。」


と恵斗が言う。


芝生の上には「売約済み」の札がまだ貼られたまま。


まだ、引っ越してくる気配はない。


それが、唯一の救いだ。


いつか、また、5人で暮らせるんじゃないかと思っている。


養育費は毎月きちんと入金されている。

と…いうか…少し多めに入っている…。20万円。

おかげで、幼稚園も変えず…実家で生活できている。

片親の手当はもらっていない。


それでも余るようにちゃんと貯めている。

家を売ったお金も…。

和斗に会ったら、ちゃんと返せるようにしている。



和は、ちょこちょこ歩いて目が話せない。ちょっとだけしゃべれるようになった。ママとは言うが、パパとは言わない…。その存在を知らないから言えないのだ。


恵美は、本を読んですごくおりこうさんだ。和の面倒も見てくれてる。近所のピアノ教室にもいってる。


恵斗は、空手をやり始めた。年長さんの大会で優勝した。普段は温厚だけど、女子とか守ってケンカとかして、恵子が謝りにいくのはしょっちゅうだ。


そんな幼稚園からのお帰りの時、恵斗は心配そうに


「パパかえってきたら、なんていうかなぁ…。」


まだ、遠くで仕事をしていると思っているのだ。

恵子もそのつもりだ。もう帰ってこないとは子供に言わない。希望だ。希望なのだ。


「うーん…。空手やってるんだから、ケンカしちゃダメっていうよ?」


「なんで?」


「空手やってる人はケンカしちゃダメなの。」


「そーなんだ…。」


「そ…。だから、そう言う…。」


「じゃ、パパかえってきたら、ケイくんおこられる??」


「……家族でしょ…。あたしたち…。弱いもの守ってだったら…許してくれるよ…。」


「パパ…いつ帰ってくるのかなぁ…?」


恵子の胸が締め付けられる。


「うーーん…忙しいみたいだからねぇ…。」


「ケイくん、ママのお手伝いしていい子だからすぐ帰ってくるよね!」


「そだね……ゥ…。」


「……??ママ…泣いてるの??」


「ゴメンね…。みんないい子なのに…ママ…悪い子だから…。」


「ママ…泣かないで…。ね…見て?いないいないばあっ!いないいないばあっ!」


「……ふふ…。ケイくんは優しいね。」


「ママ笑っててね。すぐパパ帰ってくるよ!」


「うん。ありがと…。」


子供の成長を……和斗にも見てもらいたかったと思った。



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 



休日…。今日も和斗を探している。

この街にもういないのかもしれないのに…。


昔の友人を訪ねて聞いても誰も知らないという。

中には、すごく恵子をなじる人もいた。

だが恵子はそれを受け入れた。自分への罰だと思った。

そればっかりは仕方ない。



恵子の父親は…誰もいない薄暗いキッチンで、二つのグラスを用意してウイスキーを飲んでいた。


「どうしたの?」


「いや……最近、息子を亡くしちまってね…。はは…。」


そういって、グラスを回した。

寂しそうだった…。


「それって…山崎の25年じゃない…高いんじゃないの…?」


「…いや…息子と…記念日に飲もうって言っててね…。あいつ18年飲んだことあるっていうから…。ちと、へそくりくずして…買ってたんだ。」


「そんなの…今日みたいな日に飲んでいいの??」


父親は、ふとカレンダーに目をやった。

赤いマジックで、「和斗&恵子結婚記念日」と書いてあった。



 あ…そうか…忘れてた…。なんてこと…?大事な日なのに…。



「家に呼ばれると思ってたんだが…。息子がいなきゃしょうがないな…。」


恵子は、涙がこらえられなかった…。


「ケイトが…一緒に飲んでくれるまで…あと何年かかるかなぁ…。」


「…そうだね。あと…14年かな…。」


父親は寂しそうな顔で


「ま…元に戻っただけだ…娘も戻って来たし…孫もいる…。」


「父さん…。」


「息子が遺してくれたたからがある…。それだけでも…充分世間様よりは幸せだよなぁ…。」


それを言って、突然父親は、テーブルに突っ伏してしまった。


「…娘を大切にするって言ったじゃないか!息子にしてくださいって…言ったじゃないか…クぅ…。それを…それを…!あのバカが!クソ!こんな酒、ちっともウマくない!」


そういって、父親は、立ち上がって、寝室に行ってしまった。

恵子は、ウイスキーの蓋を閉めて、棚にしまった。


「…あたしが…探すから…もう一度…やり直すから…。ゴメン父さん…。」

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