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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第七話 理不尽は風の如く

 第七話 理不尽は風の如く




 次の日になって流星は再び奈落街へと赴いた。

 そして再び明美について聞いて回った。評判や過去。最近の様子や出来事など。聞ける範囲を広げて調査していく。

 といっても「最近店を閉めている」「歩いてる姿も見なくなった」など、あまり重要そうな話は出てこなかった。


『この町の人はおしゃべりが苦手なのか?』


 昨日と違い店の場所だけではなく詳細な話を切り出すと途端に住民は話をしなくなってしまった。


「ここは犯罪者、ブラックガードの勢力圏だ。下手なことに関わったら危険どころか命にかかわるからな。昨日程度の人探しならともかく身辺調査まがいのこと聞きまわってたらなにかあると察するのは簡単だろ」


『その恰好じゃ怪しんでくれと言ってるようなもんだもんな』


 流星は相変わらずの赤いカッターシャツに紺のベストと柄物のネクタイを締めていた。小奇麗ではあるが奈落街では目立ちすぎもいいとこだ。


「釣りって知ってるか? それに使う疑似餌は派手であればあるほど食いつきがよくなる。しかも撒き餌まで巻いたんだ。そろそろ喰い付くだろ」


『おい。この二時間以上も無駄にしたのお前が原因か』


「聞き込みしたのは俺だけどな」


 チラリと流星は視線を自分の後方に向ける。かなり離れているがぎりぎり人相がわかるくらいの距離でこちらを見ている男が二人いた。

 また聞き込みをしようと移動を開始すると、その男も距離を保って後に続きだした。


「ユーピー後ろから人相の悪い男二人が付いてくるのが見えるか?」


 ポーチから顔を出して後ろを見るユーピー。そこには大柄で肌の焼けた男と、顔に傷のある小柄な男が見えた。歩いている奈落街の人と比べても危険そうな人物だとひと目で分かる雰囲気を持っていた。


『どれどれ。あれかな? 見ただけで犯罪臭漂うことこの上ないあの二人でしょ』


「たぶんあってる。そいつらの顔で検索かけてみてくれ」


『オーケー』


 返事をしたユーピーはポーチに頭を引っ込めると取り込んだ顔の画像から検索を始める。


「さて、あとは尾行をまくだけだな」


 まっすぐ歩いていた流星は急に道を曲がり細い路地裏に入り込んだ。急に目標が視界から消え、慌てて追跡者は路地裏の入り口まで駆け寄る。

 だがそこには長く続く路地裏があるだけで、流星の姿はどこにも無かった。











 殺風景なビルの屋上を流星が走る。その勢いのまま隣のビルへと飛び移っていく。


「どうだ? 情報は見つけれたか?」


『探すならもっと綺麗なおねーさんがよかったぞ。なにが悲しくて強面なにーちゃんの画像と睨めっこしなきゃいけないんだ』


「仕事だ仕事。あとでお気に入りの天気のおねえさんのコーナー見せてやるから」


『仕方ないなぁ。ちっちゃいほうはわからなかったけど。でかいほうはすぐにかかったゾ。四年前に暴行でしょっ引かれて去年出所してる。逮捕された時の所属は紅虎組だね』


 奈落街を二分して支配ているブラックガード【紅虎組べにとらぐみ】。武力を売りにする本部とその傘下に治まる多くの組織。構成員の数だけなら刹利よりも多い。さらに先日の大捕物でライバルだった刹利せつりというグループは、ほぼ解体されてしまったので実質この地域のトップとなった。

 さっき流星を尾行していた男は紅虎組と関わりがある可能性が高い。


『そういえばスナックで最後に出てきた男。アレも紅虎組だったゾ。なんでも最近自分が束ねてたグループごと傘下に入ったらしい』


「あれがトップなのか?」


『小悪党の集まりみたいだけど一応そうなってる。名前は門鞍庄司。そこらのチンピラをまとめあげて地上げをして稼いでるチームのトップみたい』


 三下臭まる出しだと流星は笑ってしまっていたが、どうやら人を率いる何かを持った人物だったらしい。驚きはしたが人は見かけによらないものだと流星は感心した。

 だがこれで紅虎組の名は早くも二回絡んできた。


「当たりかな。ほいっと」


 ビルからビルへと飛び移っていた流星は最後にそこから飛び降りた。少しばかり走って汗ばんだ額にあたる風がとても涼しく感じられた。

 しかし地面に降りる頃にはその勢いはほぼなくなり無事に着地する。


「あ」


 飛び降りたところから少し離れたところで声が上がる。流星はずれた帽子をかぶり直しながらそちらを見る。


「んんん? お前イタチか」


 人気のない場所を選んで降りたそこには、小柄な体にねずみ色のコートを着た男がいた。顎髪を揺らして男は目線を逸らす。


「……ここで代行屋ですかい」


「お前がなんでこんなとこにいるんだ?」


「……仕事でさぁ。それ以上聞かないでほしいですね」


「はあ? 大事専門の特殊課の刑事がなんでまた……」


 彼は先日壁の検問所であった奏雲と同じ課のメンバーだ。専門は潜入と情報収集。簡単に言えば内偵役として日々活動している。

 だが特殊課はその希少性から大きな事件に優先的に回される。奈落街で起こる程度のことに首を突っ込むような暇はないはずだ。


「いろいろとあるんでさぁ。いろいろと」


 背が低く。パーカーを着て頭を覆っているイタチは視線をそらして答える。


「じゃあ仕事があるからアッシはこれで」


 会話を切り上げてその場を去ろうとするイタチ。

 それを流星は服の襟を掴み上げて引き止める。


「ぐおっ。なんなんですかい」


「その仕事俺に関係してるだろ」


「……なんでそう思うんで?」


「さっきお前俺を見て驚くならまだしも嫌がっただろ。もしかしたら仕事の内容を知られるかもしれない。俺がその事件の一端を知ってる、もしくは関わったから。そんな事思ったんじゃないか?」


「困った洞察力でやすね」


 背を向けたままだったイタチは不機嫌そうな顔で流星の方に向き直す。


「一緒に仕事した仲だろ? それに前回は命の恩人と言っていい働きしたとおもうんだけど」


 フフフと微笑を浮かべてなにかを言いたげにしている流星。


「はぁ最近厄日が続きやすね。付いてきてくだせえ。ここじゃ流石に話せねえでやすよ」


「やっぱ持つべきは良き友人だな」


 いい笑顔を浮かべながら後に続く。


『脅してるようにしか見えない。不思議!』


 貸しを盾に無理を言っているのは間違いない。











 打ちっぱなしのコンクリート。雨風に吹かれて剥がれ始めている塗装。所々に見える錆び付いた後。

 ボロ屋といった表現が似合う建物の一室で流星は椅子に座っていた。


「インスタントしかねえけど」


 ティーカップにいれたホットコーヒーを流星に差し出すイタチ。


「ありがと。それでどうなんだよ?」


「……知ってのとおりアッシは内偵係だ。そして今回はある事件の真相を探ってるんでさぁ」


「事件? この奈落街でそんなややこしい話なんて持ち上がってたか?」


「事件自体は解決してるですが、問題はその結果にあったわけで……」


「もしかしてこないだの【刹利せつり】の取り押さえの件か?」


 刹利。この奈落街を仕切っていたブラックガードの一角。といってもそれは過去形だ。武器商人として知られる彼等だがつい先日警察とヒーローによる共同作戦で、そのほとんどが捕縛され刑務所送りとなった。

 そう、あの家出少年斗夢を人質に取って暴れていたあの集団だ。


「あの一件の最後にあんたいたでしょ」


「よく知ってるな」


「あそこまで介入されたら重要参考人で呼び出されてるのが普通でしょうに。警察の民間協力者として登録されてるからなんのお咎めもなかったわけで。この件の資料見たら思いっきり名前載ってますからねアンタ。ウチの課長にまで連絡がいったと聞いてますぜ」


 あの人質にとられた場面に居合わせた流星だが、実際にはあの出来事は大掛かりな計画の最後の一場面だった。

 もちろん報告書は事細かに作られた。その中にはあの時乱入してきた人物である流星を記載する必要性も出てくる。だが警察のデータベースを調べれば民間協力者として何度か警察と作戦を共にしていた情報がすぐに出てきた。そのおかげで事情聴取の必要性はないと上の人が判断したのだ。

 現場の人間にすればあの場面に横槍をいれただけでも大事だったが、それを不問にするほど信用度があるというのもそれはそれで衝撃だったらしい。


『無駄に格好付けるから』


「うるせえ。でも刹利は実質無くなった。残党はいくらかいるかもしれないが、お前が出るような事じゃないと思うんだが」


「確かにこの件は特殊課案件てほどじゃねえです。事後処理ぐらいなら普通の警官だけで事足りますぜ。ですが問題はあの大捕物自体にあった。流れをざっと説明しますとあの日、別の場所で大きな違法武器の取引が行われてた。それを検挙して、その大元である刹利の一味も全員逮捕に踏み切ったわけで」


「取引現場抑えてたらそれぐらいあるといえばある話だな」


「問題はこの話がタレコミから始まったということ」


「……内通か?」


「そうなんでサァ。刹利の幹部筋から流れてきた話をアッシが裏を取った。かなり念入りに調べた。なんせ刹利の幹部から裏切り者が出るとは思えませんでしたからね」


「そこまでか」


「幹部格はマジで血の繋がりがある親族で構成されてやした。そうでない者も子供を娶らせて取り込む徹底っぷり。まさに血で出来た結束なんでさあ」


 がっちがちの親族経営だった刹利は正しく血の結束によって纏まった組織だ。警察から見てもその団結力は強固なものに思えていた。


「でもタレコミは正しかった」


「そう。だからこそ一斉検挙に踏み込んで成功を収めた。ところがそのタレコミが罠だった可能性が出てきたわけで」


「ワナ……。まさか紅虎組か」


 縄張り争いをしていきた紅虎組。敵対組織を潰すために警察に情報を流したと考えれば辻褄は合う。


「理解が早くて嫌になりやすぜホント」


「なんで事前に気付かなかったんだ」


 これでは紅虎組にいいように警察が利用されただけになってしまう。もしもその疑いがあったとすればもっと他に方法があったはずだ。


「タレコミしてきた奴は十年も前から刹利が後ろ盾だった。紅虎組とはそのせいで接触は見受けられない。そしてタレ込んだ理由は刹利と揉めて命の危機に瀕してだったらしくて。ようはその時に違和感を見つけられなかった警察の落ち度でもあるんでさぁ」


「じゃあなんで今更」


「そりゃ刹利を裏切っておきながら、そいつがこの奈落街に戻って紅虎と接触すれば嫌でも気づくってもんでしょ。司法取引で内側に住む権利をもらったというのにね」


『ツラの皮が鉄で出来てるな! オレも鉄の面だけどね!』


 刹利を潰すほどの情報を流しておいて帰ってくるなんて正気ではない。潰れたといってもまだ残党はいくらか残っているだろうし、内通者が出た可能性は内情を知っているものなら誰もが思いつく事だ。そうなれば裏切り者を狙う者が続発するのは目に見えている。

 普通ならしばらく身を隠すくらいはするものだ。

 なのに帰ってきたということはとんでもない大馬鹿野郎。もしくは自分に危険が迫らないという保証がどこかにあるということだ。


「警察のメンツ丸つぶれだな」


「だから必死こいて調べ直してんでサァ。普段なら態々手を出すような組織じゃありやせんが、こうまで虚仮にされたら意地でも潰さなきゃ面目がたたねえでやすよ」


 本来取り締まらなければならないブラックガード。それなのにその思惑に乗ってしまい利益を渡してしまったようなものだ。

 このまま放置すれば刹利の勢力をまるごと飲み込んだ紅虎会は躍進して更に厄介な組織になりかねない。


「それでなんか掴めたのか?」


「この騒動の黒幕は分かった。だけどそれだけで逮捕できるような事じゃありやせん。なんせただ通報しただけの話。それこそ民間人の義務だって言われりゃそれで終わり。今のとこ英雄会に協力してもらい巡回増やして縄張り広めようとしてる紅虎会に嫌がらせするのが限界でさぁ」


「バレたとこまで想定済みか。強かだな。馬鹿でもあるけど」


「まあそうでやすな。警察に売るなんてのはブラックガードの道理からすれば最悪もいいとこですやすし。しかし相手にするには、この手段を選ばないという手合いはどうにも困りもんでさぁ」


 確かに刹利を潰すとしう意味では警察を使うというのは効果的と言える手段だ。

 しかしその結果同業のブラックガードからは筋を違えた外道として信用を失い。警察からは一層厳しく目をつけれる。

 縄張りが増えて目の前の障害が消えたといっても、その倍以上の問題が山済みになってしまっている。

 長期的目線の損得で考えればかなり損な方法を取ったと言える。


「それでそのタレコミした奴はどんな奴なのさ」


「いやいや。流石にそれは言えまやせんぜ。嵌められたとはいえ司法取引した相手ですやすからね」


「そこをなんとかしろよイタチちゃあん」


『うわ気持ち悪い』


 社交辞令感が満載の笑顔を浮かべて頼みごとをする流星。

 ポーチから出て机の上に座っていたユーピーも、正面に座っていたイタチも若干引いている。


「勝手に調べるのは構わないでやすけど、これ以上はアッシの口からはちょっと……」


 そこまで言ったところで二人は同時に立ち上がった。イタチは拳銃を抜いて入り口のドアの横に、流星は窓のそばの壁に体を貼り付かせる。


「この場所に誰か来る可能性は?」


「無いでやす。特殊課の増員はまだ有り得えやすが、事前連絡はきてやせん」


「そっか。じゃあこの囲んでる連中はなんなんだろうな」


 窓の端から外の様子を伺う。そこには建物を囲うようにうろつく強面の男達がいた。

 この建物は裏街の中でもかなりの貧困層が住む建物だ。彼らのような者が何人も押しかけてくるような用事は無いはずだ。


「アッシか代行屋の客でしょうな」


「逃走経路はあるのか?」


「ありやすが既に廊下にも何人かいやすぜ。あれをなんとか――」


 ガシャンと窓ガラスの割れる音と共に飛来物が部屋に転がり込む。


「スタン!」


 それを見た流星は咄嗟に叫ぶとすぐに、部屋が強烈な光と爆音で満たされ空気が震えた。

 スタングレネード。光で視力を潰し、音で耳と平衡感覚を狂わせて一時的に対象を行動不能に陥らせる非殺傷兵器。

 それが起爆したのを合図に正面のドアを男たちが蹴破って侵入してくる。


「ぐわぁっ」


 先頭に立っていた男に木の椅子が投げつけられる。


「訪問販売はお断りだ」


 ぶつけられて戸惑っている男に、助走をつけて流星が飛び蹴りを放つ。

 その威力に後ろに待ち構えていた者を巻き込んで何人かが将棋倒しに倒れていった。


「イタチ無事か!」


「すいやせん。アッシ目と耳が自慢でして……。手でふさいだ程度じゃなんともなりやせんでした。三分稼いでくだせえ」


 ドアのそばにいたイタチはさっきのスタングレネードの衝撃で体がいうことを聞かないのかその場で蹲っていた。


「俺だって大して見えてないっての」


 目を塞ぎ手で耳を覆ってなんとやり過ごそうとした流星だったが、よほど性能がよかったのか瞼越しでも視力をいくらか奪っていた。ガラスが霜で曇っているようにぼんやりとしか見えていなかった。

 なんとか声を頼りにイタチの服を掴むと近くのトイレの個室に投げ込む。


「鍵閉めてろよ!」


 戦闘不能の者を抱えて戦えるような状態ではないので、なんとか凌げる場所に一時的に隔離する。

 ちょうどトイレの鍵が閉まる音がしたところで入口に入ってきたいた男達が立ち上がり何人かが侵入してくる。

 入ってきたのは三人。そして真ん中にいた男は拳銃を片手にこちらに狙いをつけていた。


「動くな! こっちは生きてようが死んでようがどっちでもいいん、ぐわっ!」


 警告を発していた男の顔にどこからともなく熱湯が入ったヤカンが飛んでくる。あまりの熱さに思わず持っていた拳銃を落として転げまわる。


「こいつ覚醒者だぞ! 気をつけろ!」


 残った二人は突然の出来事にも驚かずにすぐさま流星を取り押さえようと鍛えられた腕を伸ばす。

 だがなぜか一人は踏み出したその一歩目で躓いて転んでしまった。そして倒れようとするその顔面に流星は膝を合わせる。


「とったぞ!」


 一人を撃墜している間に、もう一人が流星の肩を掴むことに成功していた。

 だがその瞬間に何かが目になかに触れる。僅かに触った程度だが目に異物が入るという本能に逆らえない痛みを感じ男は両目をつぶってしまう。


「ほいしょ」


 伸ばしきった手を取った流星は体格の勝る相手を見事に一本背負いで投げ捨てる。

 さっきまでコーヒーを飲んでいた机がその勢いで砕け割れてしまった。


『あぶなっ。おれをボール型からピザ型にする気か!』


「この状況でなにくつろいでんだよ。少しは働け」


 苦情を入れつつ起き上がろうとしていた男に蹴りを入れてとどめを刺す。

 鉄火場になったというのにユーピーはまだ部屋の端で休息していた。


『残念ながら武力装置の実装はされておりません。次回アップデートをお待ち下さい』


「嘘つけこの!」


 ユーピーを雑に手に取った流星は更に部屋に侵入しようとしてきていた賊に投げつける。


「モードC放電!」


 投げられて丸い球体になったユーピーは見事に命中し、そして流星の声を認証して青い電光を発した。


「ぎゃああああ」


 入口にいた何人はそれに巻き込まれて悲鳴を挙げる。


「やれば出来る。いい言葉だな」


『デリケートなオレを投げるとはいい度胸だ。褒めてやるから殴らせろ』


「さてこれで終わりだと楽なんだが」


 足を生やしてテケテケと歩いて流星の元に戻るユーピー。それを拾ってこしのポーチに納めると、流星は廊下の様子を伺った。

 耳を澄ますとガチャリという金属音がいくつか廊下に響いて聞こえてきた。


「撃鉄を起こしたかぁ。イタチ! まだか!」


「今なんとか立てはしやしたが動くのはもう少し」


「きついぜ全く」


 逃げるのが正しい選択なのだが動けない奴がいてはそれも厳しい。イタチを見捨てるという手段もあるのだが包囲されている現状で、このあたりの地理に詳しくない流星一人で逃げ切れるかというのもまた難しい。

 薄ぼんやりとした視界が戻ればもう少しなんとかなるのにと、流星は少し痛みの残る瞼を手で擦る。


「仕方ねえ。奥の手を……ん?」


 どこからかなにかが爆発したのような音が聞こえ足元が僅かに揺れを感じる。ボロ屋を震しながら音がどんどん近くに近付いてきだした。


「てめぇなにもんだ!」


 廊下にいたと思われる男がなにかを口走ったと思った途端。そこに待ち受けていた数名の男がまとめて廊下の反対側に吹き飛ばされていってしまった。

 ドアから廊下を覗き見していた流星は、その飛ばされた者の一人と眼が合ってしまい。なんとも言えない感情でそれを見送っていた。

 恐る恐る顔を出してそうなった原因を確認する。


「ヒーローナンバー3989レッドラワン。私が来たからには悪事もここまでです!」


 突然現れた暴風雨。襲撃者からはたまったものじゃない横槍の張本人。

 ヒーロー少女レッドラワンがそこに胸を張って立っていた。

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