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流星deよろしく  作者: 本間 一平
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第三話 隔たる壁

 第三話 隔たる壁




 部屋に充満していたコーヒーの香りが薄れてきたころ、流星は仕事に出掛ける。

 『代行屋ナガレボシ』の事務所は一軒家なのだが立っている場所がビルの屋上というなんとも変わった建物だ。

 家という観点から見れば不便な場所にあるのだが、流星としては自分の寝室から見下ろせる街の風景が気に入っていた。

 しかしその逆側。流星が開けた玄関の先に広がるのは殺風景な壁だけだ。

 五階建ての屋上にいながらもまだ見上げなければならない巨大な壁。


「今日も無愛想な面してるな」


 丁度百年前のサム彗星事件から始まったとされる激動時代。その中でも特別大きな三つの出来事。


人類進化宣言じんるいしんかせんげん


第三次世界大戦だいさんじせかいたいせん


生命氾濫せいめいはんらん


 人類の文明を壊滅一歩手前まで追い込み。総人口の八割と生存圏の九十九パーセントを失ったこれらの出来事。それらに対抗する為作られたのが一つがこの厚さ三十高さ五十メートル、直径百キロを取り囲む途方も無く巨大な壁だ。

 何としても社会を維持し、文明を残し、種の存続を図る。脅威から逃れる方法としてなりふり構わずに造り出された人類の遺産。

 結果としてそれは想定通りの成果を生み出した。壁の外側を切り捨てるという事実を残して。

 流星が生まれた時には既に存在していた壁ではあるが、どうもこの圧迫感には今だに慣れていない。


「さて行きますか」


 ベージュのズボンとグレーのベスト。赤いカッターシャツを着て今お気に入りのハンチングを被って事務所の玄関を出る。

 さすがに五階建ての屋上だけあって強めの風が吹き帽子を飛ばそうとする。


「おっと」


 手慣れた様子で流星は帽子を押さえる。

 一息だけ深く息を吐いて流星は屋上の淵まで移動する。手すりから体を乗り出すとビルとビルの間にある路地を見回して誰もいない事を確認すると、勢いよく八階建てのビルから帽子を手で固定させて飛び降りた。

 普通なら怪我どころか命が危うくなる行為だ。現に凄い勢いでその落下速度上がっていく。しかし地面に到達する頃にはその速度は緩やかになり、とても静かな着地になった。


「今日も元気か」


 路地裏の突き当りに作られたガレージ。それを開けた流星は自分の足でもあるバイクに挨拶する。

 帽子を仕舞いヘルメットを取り出す。キーを回すとバイクが震える。完全に電気エンジンが普及した中でわざわざ旧世代のガソリンエンジンを再現した音が響きだす。


「いいね。やっぱりこの震える感じじゃないとな」


 いつも通りに満足した流星は上機嫌になりながら出発した。











「ハローみなさんコンニチワ。トライ&エラー&サクセス。略してTESラジオのお時間だぜぇい!」


 バイクのスピーカーから流星が毎日聞いているラジオ番組が流れ出す。


「みんな挑戦してるかい? そして失敗しちゃったかい? でもその先にしか成功は待ってないんだぜぇ?」


 日曜日以外毎日やっているだけあってそれなりに人気の番組だ。DJ風のラジオパーソナリティだが意外と為になる話もしてりするので子供から大人まで聞いている層は幅広い。前時代に比べて娯楽が減ったというのも合わさってラジオを聞く人は多い。


「では早速最初のコーナー行ってみよう! 挑戦は知ることから始まりそれはいずれ道となる。題して【ザ・ロード】。今月のテーマはずばり【覚醒者かくせいしゃ】! 今世界で最も重要で最もホット、熱いキーワードだ。学校行った奴らは知ってるかもだがまずここは歴史の振り返りから始めようか」


 覚醒者。その言葉を聞いて流星は興味を引かれていく。一応知っていることはあるのだが、学校に通わなかった彼は教科書に載っているような基本的な部分が抜けているという自覚があった。

 仕事をする上では知らなくても別段問題ないものなのだが、それでも世の中を動かしていると言っても過言ではない。それの話となると知りたいと思うのが人情だろう。


「覚醒者ってのは本来生命として持ち合わせていないパワー、力に目覚めた者の総称だ。その覚醒者が初めて確認されたのは今からおよそ九十八年前に遡る。公式記録だと念動力者サイコキネシス、いやゆる念じるだけで物を動かすことが出来るという奴だったわけだ。しかも見つかったのはここ日本国。そこまではオカルトと思われて非現実的な存在だったそれが世間の前に現れたってことで当時は大騒ぎになったようだぜぇ。その反応は実際に見たかったと思っちゃったりしちゃうわけなオレ」


 このあたりは初等部の学生ですら知っている話だ。


「そこから世界中で次々とそういった能力者が現れ始めた。瞬間移動能力者テレポーター思考伝達者テレパス。さらには狼男なんて呼ばれた人もいたそうだ。急にそんな特異な奴らが出てきて一般人は物珍しさにエクセメント、興奮してたが学者やら政府やらの人間はそりゃあ頭を悩ました。なんせ原因がさっぱりわからないし、原理さえ解けなかったからだ。だがそれを打開する者がいた」


 経緯のほどは流星は知らないがこの先に起こったことぐらいは知っていた。それは文字通り世界を変えた出来事の一つだからだ。


「ある研究をしていた学者達が発見したものの発表。それでわかったのがぁ覚醒者を生み出す原因。隕石に乗ってはるばるやってきた地球外からのお客様【イルミナティガーム】だぜぇ」


 イルミナティガームと言い切ったところで演出なのか、ジャジャーンと効果音が付けられている。これは堅い話すぎると思ってのことなんだろうなと流星は勝手に解釈して鼻で笑ってしまう。


「地球外生体の発見とそれによってもたらされた結果に世間は大慌てだ。その発表は演説みたいな形でやったんだが、ながーい話ですっごい重大な事を言ってたらしいけどそこらへんは年末とかにやる教育番組とかで見てくれ。だけど後の人はこの演説を世界を大きく変えた一つとして【人類進化宣言】って呼んでるぜぇ。つまりここが覚醒者というものの始まりとなったわけだ」


 歴史上もっとも有名な演説としてテレビで何度も流されてきた演説。なぜ研究発表が演説になったのかはその研究部の主任がとても変わった人物だったためだが、世界中の人が注目している事柄に関するものだっただけあって、当時これは大いにうけた。


「あれ? 挑戦の話してない? いやいやこの【人類進化宣言】をして彼らこそがまさに挑戦者だったのだよ。彼らは政府からの依頼で太平洋に落ちた隕石の調査を行っていた。そのおかげでその中にいた細菌群体生命さいきんぐんたいせいめいイルミナティガーム、通称IGを発見、ディスカバリー出来たわけだ。そこからいろいろ実験している中で世間で覚醒者発見の報が飛び交った。そしてなんと研究室内の者からも同時期に覚醒した者が出た。そこからなんとここの研究主任は覚醒者とIGの関係性をまっさきに疑ったのよ」


 ただの偶然とは考えられ無かったとは後の談だが、この主任は相当に勘のいい人物だったのだろう。


「そして調べた結果、研究員で覚醒した男は最も保存されていたIGの近くに長くいた男だと分かった。そこから体を調べるとワンダー、驚くことにいつの間にか男の体内にはIGが入り込んでいることが判明した。今じゃ当たり前の話って言えるんだけどこの頃はそうとうな混乱をよんだ。なんせ地球外生命体がいつの間にか人間の体に寄生してましたなんてとんでもないホラー、恐怖だったろうぜ」


 細菌の類が知らずに体に感染しているなんてのは日常茶飯事だが、それが地球外からのものからだとどんな影響があるのか想像もつかない。そしてその想像のさらに斜め上の結果が覚醒者だったのだ。


「そこである実験を行った結果、IGこそが覚醒者を生み出している原因だと結論付けた。これはなかなか危ない橋を渡る実験だったらしいが、そのおかげでIGへの研究と覚醒者への対処は世界的に加速したのは確かなんだよねぇ。しかも彼らが残した研究結果はいまだにIG理論に多大な影響を与えているとなればよっぽど優秀な集団だったんだろうぜ」


 いまだにイルミナティガームはその全容を解明しきったとは言えていない。最重要事項だけあってそれを研究している者は全世界に存在する。


「じゃあ今日の総論。「挑戦は時に危険を伴うが行かなきゃならない時もある」だ。けど普段は無理ない範囲でやることを俺はおすすめしとく。これはいざって時に思い出してくれ。それじゃあ一曲いってみよう。最近なにかと話題のアイドルユニット【トーンカラー】で――」


 コーナーが一区切りしたところで流星は自分の手を見る。自分自身に地球外生命体がいるというのはなんとも不思議な気分になるが、少しだけ感謝の気持ちを握りしめておいた。











 今回の仕事は人捜しだ。あの家出少年から受けた話なのだがどうも実の母親を探しているらしい。

 彼は施設出身で今はいいとこの養子となっている。一般的な家庭で平均よりはやや裕福な家で育ったごく普通の少年。まったくもって危険とは無縁でいられる層の人物だ。

 彼の義両親も二人そろって人柄のよさそうな夫婦で捜索依頼では真剣に斗夢少年を心配していた。早期解決を願って相場より高い金額を払っていた。本人としても今の生活に不満が有るわけでもないし、養父母の事を本当の親だと慕っているようだ。

 不自由ない暮らしで順風満帆な生活をしている青年がなぜ今になって自分の生みの親を探しているのか。そして危険と分かっている場所まで自分で探しに行ったのか。

 正直首を捻ってしまう話だ。


「夢を見たんです。なんとなくその人が母親だと分かって。会わなきゃいけないって思ったんです」


 夢を見た。

 それが危険を承知で家出した理由で、流星を困らせている理由だ。

 普通の考えなら一笑に付す話。しかし覚醒者と呼ばれる者がこの世に現れてから、あり得ないなどあり得ない世界となった。

 覚醒者はその身に超常的な力を宿す。

 時に触れもせず物を動かし。時に体を異形の姿に変え。時に人の身でありながら肉食獣を素手で屠る。

 超常の力を携えた存在。他社の力を取り込んだ存在。人間の枠を超えた存在。


 それが【覚醒者】だ。


 ほとんどなんでもやる代行屋だが流石に荒唐無稽な依頼までは受けない。だが流星はこの曖昧とも言える話を信用することにした。

 予感なのか予知なのかその正体こそ判明してはいないが無自覚にその覚醒者としての力を使っている可能性が考えられるからだ。

 おそらくあの少年【七橋ななはし斗夢とむ】には確信的なものがあったのだ。内側の都会に住む一般人が外側に行くというのは命懸けだ。自分の身を顧みずに実際にやってみせたというのは何にも勝る説得力があったのだ。











 バイクでしばらく走るとかなり広大な広場に出る。反対側の建物が少し霞んで見える。その中央あたりには車、バイク、大型トラックと多くの乗り物が列をなしていた。


「今日は混んでるな」


 壁を作りはしたが外側との交流が断絶したわけではない。壁の外には内側に住めなかった人々が独自に建物を用意して住み着いている。たとえ内側に住めなくても都市のそばにいるだけで安全の度合いは格段に変わってくる。

 生きていられる。今の時代それだけでも大きな価値があった。

 基本的に外側の住人は国民として見られていない者達だが、特別に許可を得て出入りを許可された者もそれなりにいる。

 また他の都市からの交易品や人材、または物資の調達の為に頻繁に人が行き交っていた。

 その出入り口となるのがこの通称ゲートと呼ばれる関所なのだ。


「やっとか」


 半時間ほど列に並んでいた流星の順番が回ってきた。

 門という言い方をしたがその横二百メートルを超える幅は門という規模ではない。重装備の兵が警戒にあたり。自動機銃とカメラがそこかしこに設置され。壁の上には砲塔まで設置されている。門というよりも砦といったほうが分かりやすい物々しさだ。

 これが東西南北とその間の八ヵ所に設けられている。といってもおよそ三百を超える長さの壁に対しての数としてはとても少ない。

 利用者の数が多くなっている昨今ではいつも混み合っているのが現状だ。この渋滞をなんとかしてほしいという要望はよく届けられている。

 だがもしもを考えた場合、これ以上ゲートの数を増やすのは危険だと誰もが思ってもいた。


「IDカードと外出目的をお願いします」


「はいこれ。目的は仕事で人捜しだ」


「わかりました。それではこのまま進んで荷物検査を受けてください」


「了解」


 エンジンを切ったバイクを押して検査所まで移動する。


「あれ? 奏雲そううんのおっちゃん?」


「おや流星くんか。今日は仕事かね?」


 荷物検査の場所にいた壮年の男。眼鏡に糸目。白髪の混じっていながらきちっと揃えられた七三分けからは良い人感が醸し出されていた。

 この寺々てらでら奏雲そううんは今まで何度か仕事で一緒になった警察本庁の特殊室の者だ。見た目通り気のいいおじさんで、協力関係になったことがある流星にも気を使ってくれる紳士の人だ。


「そんなとこですってなんで警察の奏雲のおっちゃんがここに?」


 ここは軍の管轄だ。警察関係者が捜査の上でいるだけならともかく、ここの制服まで着ているのはどういうことなのか。

 奏雲は周りを少し見まわして流星に近づいて小声で話しかける。


「ここだけの話なんだけど、この南ゲート担当の探知役が何人か病気になっちゃってね。応援に駆り出されてるんだ」


「いやおっちゃんの部署も忙しいでしょ」


 特殊室というのは名前通り特殊な技能を扱う部署だ。その有用な力を警察全体で共有していろんな案件に出向してもらい、事件解決の一役を担っている。


「ハハハ、まあそうなんだけど。僕は比較的ましだからね。午前中だけのお手伝いさ」


「警察から人を借りるとか人材不足もいよいよ深刻だな」


「探知系の覚醒者って希少なのに需要は高いですからね。わざわざ公務員を選ぶ人って少なくて」


 何かを察知する力を持つ覚醒者は護衛、捜索、判定と活躍の場が多い。しかもそのほとんどが科学では代用できないものばかりだ。

 嘘発見器。金属探知機。麻薬犬。これらの精度が百パーセントの物を持っているといえばどれほどの価値があるかわかるだろう。


「確かに一般企業じゃ高給取りな奴ばっかりで――」


『ニャーオ』


「……」


「……」


 流星が喋っている最中に突然響いた猫の鳴き声。二人は無言で硬直する。


「今日は猫ですか」


「最近娘にプレゼントされてね。これがまた可愛くてついつい動画にして携帯に保存しているんですよ」


 さらりとのろけ話をする奏雲は腰にあった無線を取り出してボタンを操作する。


「今入ってきた一番から五番までの車両をチェック。あと気付かれないように移動して包囲してください」


「相変わらず便利だね。奏雲のおっちゃんの【自鳴鍾じめいしょう】」


「機械のスイッチを押す程度の脆弱な力も使い様ですから」


 奏雲の能力【自鳴鍾じめいしょう】。能力の範囲内で設定した条件が整うとスイッチを入れる。人差し指一本分のエネルギーしか生み出さない力ではあるがセンサーとしての性能はこの上なく高い。

 現在の設定は違反物の接近だ。

 話ながら奏雲が視線を向けた先では指示された通りに積み荷の検査が行われていた。そしてその周りに徐々に銃器を持った兵達が集まって来る。


「密輸か。命知らずな」


「まず抜けれないはずなんですけど、それでも一つのゲートで月二、三件はあるらしいですよ」


「八か所合わせて二十前後……。多くない?」


「余程実入りがいいんでしょうね。どれだけ検挙しても後を絶たないようです」


「勝率は低そうなのにな」


 物を偽装したりごまかしたりする方法はいくつもある。このゲートに備わっている最新の検査装置であってもいつか突破する者が現れるだろう。だがそれらの対抗策が探知系能力者に通じるとは限らない。

 そんな能力者が各ゲートに配備されているのだ。密輸が成功する確率は極めて低い。


「なんで――」


「ですから――」


 なにやら言い合う声が聞こえる。荷物を点検しようとした警備兵とその対象となったトラックの運転手が揉めているようだ。

 奏雲からの報告で最初から疑ってかかっているのをどこかしら感じたのだろう。ひどく動揺しているようにも見えた。

 すると男は窓から拳大の黒い箱を前方へ投げつけた。それを流星と奏雲は目で追う。


「あ」


 その先。内側から外へ出る為の列に並んでいたフルフェイスのヘルメットを被ったバイク乗りがソレを受け取る。そしてエンジンを唸らせてバイクを反転させた。

 こうなるかもしれないこと想定していたのだろう。もしも発覚した時に荷物だけでも逃がす手立てを用意していたようだ。

 アクセルを回し込みエンジンを唸らせて逃走を図るバイク乗り。最高速で発進しようとしたバイクはわずか数メートル先でまるで後ろに鎖でも繋がれていたように突然空転した。


「な、なんだ!?」


 バイクから投げ出された男は何が起こったのか分からずに起き上がる。


「両手を上げろ! 動けばすぐさま発砲する!」


 既に男が周りを見渡した時には銃を構える警備兵に取り囲まれていた。男は抵抗する様子も無くゆっくると手をあげる。

 ここにいるのは犯罪者を捕まえる警察ではなく、国を武力で守る軍隊だ。危険と判断すれば即座に実力行使でかねない。


「助かりましたよ流星くん」


「転ばすのは得意ですから。あと人死にをわざわざ見たいとも思いませんしね」


「おそらく車の列に紛れて逃げる魂胆だったんでしょう。しかしそれで逃げられるほど甘くは無いですからね」


 ゲートはただ検査だけが最新鋭の設備ではない。外的から国民を守る為の重要な防衛施設でもある。もしもあのバイク乗りが警備兵を振り切って逃げていたとすれば、超高精度の砲撃がその体を打ち砕いていただろう。


「さて」


 奏雲が懐から携帯を取り出して新たな条件を設定して自鳴鍾を発動させる。


『ニャーオ、ニャーオ、ニャーオ』


 何度か繰り返し猫の鳴き声が聞こえてくる。


「今日はいつもに比べてバイクの利用者が多いと警備の方が言っていたがそういうことなんですね」


 何度か自鳴鍾が反応したことで納得した様子で首を縦にゆっくりと動かす奏雲。


「さっきの奴らの仲間探しですか」


「同じタイミングで検査所に居合わせるというのはこの人の多さですから調節できませんからね。受け取り側は何人か用意してそうなるように備えたのでしょう。それにしても何人いるんでしょうかこれ」


 自鳴鍾はその性質上、有るか無いしか分からない。さっきは能力の範囲内に入った瞬間に鳴ったので密輸犯をすぐに特定できた。だがいま共犯者はいるという情報だけは確定したのだが、どれがそれなのかを今すぐ判明させる術はなかった。


「この場にいてバイクに乗っている奴……俺も候補に入ります?」


「ハハハ。君は最初に調べて白だと確定させておいたよ。これから総当たりで探さなきゃいけないからゲートはしばらく封鎖されてしまうだろう。今のうちに行ったほうがいいよ」


 さすがはお気遣いの紳士。すべての密輸犯を検挙するまで誰も通せなくなると見越し、流星をゲートから先に出れるように算段をつけていた。


「助かるよ奏雲のおっちゃん」


「助けてもらっといて待たせるわけにもいかないからね。今更かもしれないが外は危険に満ち溢れてる。気を付けていくんだよ」


「身に染みて承知してますよ」


 ゲートが騒がしくなる中で流星はバイクを走せる。一度だけ後ろに並んでいる人を振り返り「お先に悪いね」と心の中でつぶやいてその場を後にする。


「さてお昼までに終われますかねこれ」


 目の前に広がる長蛇の列を見渡してそこから密輸犯を探し出す作業に乗り出す奏雲。応援で来たのになんとも大掛かりなことになったと力無く笑ってしまった。

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