98、VSゴーレム
「大剣でブッ叩いたらばらばらにならねえかな!」
「っていうかどうやって瓦礫をゴーレムに出来るんだろ! あの黒いの魔素だよね! だったらそういう魔法もあるかもしれないってことだろ! ヤバい覚えたい!」
高橋とドレインが歓声を上げ、目の前にそびえるように現れた瓦礫のゴーレムに目を輝かせる。
それに呆れたような視線を向けた月都は、心配げにアルに視線を向けた。
「アルさんたちはこれと戦っちゃダメ、なんだよな」
本気で心配をしてくれる異邦人たちを少々くすぐったく思いながら、アルが豪快に笑った。
単なる魔素で作られたゴーレムだったら戦ったところで何ら支障はない。それは四人ともわかっている。触れてはいけないのは、ただあの女神を模した紋章だけ。全ての元凶が、そこに集約されているようだった。
女神の紋章のその先に向かう異邦人が一ヶ所に集うと、その他として残る『白金の獅子』ともう一人の異邦人がゴーレムの前に立ちはだかった。
「なかは『高橋と愉快な仲間たち』とユキヒラ、マック、ヴィデロさんだな。こっちのゴーレムはドレインに任せとけ」
ガンツと月都が笑いながらドレインを指さす。
それに乗るように、アルが「いいなソレ」とニヤリと笑った。
目の前の一団がドレインに激励をして、消えていく。
無事あの力を使いこなせたことにホッとしながら見送ったルーチェは、一歩下がってサラの隣に並んだ。
目の前では、ドレインが一人、泣き言を叫びながらゴーレムに魔法を飛ばしている。誰一人手を貸そうとしなかった。
「これが何とかなれば、本当に終わりだな」
「あら、ルー。まだ終わりじゃないわ。だって私達、まだ若いのよ。これからなのよ。アルだってちゃんと前を向いたじゃない。クラッシュだってあんなに小さかったのに今はもう一人立ちしちゃって……」
「っていうかそういうのいいからちょっとマジ俺一人でこれ倒すのかよ!?」
ドレインの叫び声が二人の会話に割り込んでくる。
二人がアルに視線を向けると、アルはにこやかに首を横に振った。
「こんな大任を任されたんだ、気張れよ、ドレイン」
「マジかよ! ガンツ! 月都! ユーリナ!」
「ここは師匠であるアルさんの言葉が絶対だからなあ」
「だってドレイン、ゴーレム好きなんでしょ。思う存分堪能したらいいと思うんだ」
「骨は拾ってやるよ」
ドレインのパーティーメンバーは、アルと同様ドレインに檄を飛ばすだけで、手を出そうとはしていない。
文句を言いつつも、ドレインは一人でゴーレムの体力を削っていった。半分涙目であるのは、皆見なかったことにしている。
ゴーレムはもともと魔法の効き辛い魔物である。それを魔導師であるドレイン一人には荷が重いかと思いきや、ドレインは口こそ情けないことを叫びつつも、その合間に唱える詠唱は上級魔法であり、飛ばす魔法はかなり攻撃力があった。
程なくして、ドレイン一人でゴーレムを崩れさせることに成功した。本人はほぼ無傷だった。
「くそ、アルさん、これで文句ないだろ!」
もうMPスッカラカンだ、と口を尖らすドレインに向かって、アルは手を叩いて「よく頑張った」と褒め称えた。
と同時に、崩れたはずの瓦礫が、カタン、と音を立てる。
「上出来上出来。流石ドレインだな。でもな、ドレイン」
「何!」
「魔力は回復しといたほうがいいと思うぞ」
「少しは休ませて……え?」
地面にお尻をつけてへたり込んだドレインは、魔力が枯渇しそうなのか、頭を押さえてカバンから回復薬を取り出した。
そして、自身の背後の異変に気付く。
未だ紋章からは魔素が漏れ出しており、崩れたはずの瓦礫を包み込み……。
「また……?」
回復薬を手に、ドレインは呆気にとられた顔で、無傷状態で再び現れたゴーレムを見上げた。
作られるごとに攻撃の精度を上げていくゴーレムに、4体目にはとうとうドレインも満身創痍になっていた。
他のメンバーも手を貸そうとしたところ、ドレインが「いいよもう! 俺一人で頑張るから!」と強がってしまい、それにアルが反応し、結局は4体目までドレイン一人でゴーレムの相手をしたことになる。
一体倒すごとに魔法は効かなくなり、攻撃力が上がっていく。それに対峙するドレインの装備と備品は既に三体目討伐と共に底をついている。
も、流石に無理。
ドレインの口からポツリと零れた言葉を拾った瞬間、体力残りわずかだったゴーレムの肢体が砕け散った。
「よく頑張ったな、弟子」
剣を手に、アルがへたり込んだドレインの頭を撫でる。
剣の一撃で、ゴーレムの体力の残り全てを刈り取ったアルは、未だ魔素を出し続けている紋章を見ながら、喉で笑った。
またしても身体が目の前で出来上がっていく。
全体が復活する前に、アルが剣を振り、崩した。一撃だった。
「ほんとならな、これくらい出来るくらいにはなって欲しいんだが」
「俺、魔法使い! アルさん勇者! 俺後衛! アルさん前衛! 同じもの求めないでよ!」
「まあそう言うなよ。ユイを見習え。あいつは前衛後衛関係なしに全て魔法で潰していくぞ。まるでそこにいるサラみたいにな」
アルが顎をしゃくると、皆が一斉にサラに目を向けた。
注目を浴びたサラはにっこり笑って、「期待に応えないとね」と足を進めた。
口が何か動いたと思った瞬間、ドレインの体力魔力が全回復する。
サラの魔法だった。
アルの隣に並んだサラは、紋章周りを漂う魔素をその目に収めながら、ねえ、と隣に立つアルに声を掛けた。
「中の方、苦戦してるのかしらね」
「してるだろうなあ。なんたって古代の女神だかなんだかだろ。どう対処したらいいかもわからねえ状態で行っちまったんだ。そんなすぐには出てこねえだろ」
「そうね。あとは中に行った子たちの底力に期待するしかないわね。私たちは、ただこの木偶の坊を崩し続ければいいだけかしら?」
「だな」
「なかから魔素を引きずり出してるみたいだから、このまま倒し続けたら中の魔物に割く魔力は減るんじゃないかしら」
「だったら、俺らもなんかの役には立つかもなア。なあ、ドレイン」
そこで俺に振らないでよ! もう無理! と喚くドレインに皆が笑い声を上げている間にも、ゴーレムは復活してくる。前より強く、前より硬く。
「この世のすべてを照らし標を掲げる光の精霊よ、その力で迫りくる闇を沈め、押し流し、打ち消しなさい『光の洪水』」
サラが詠唱すると、その手から光が溢れ出し、黒い魔素を呑み込むように広がった。光はゴーレムまで達し、そしてその巨体を呑み込んでいく。皆眩しくて目を開けていられないほどに、光が乱舞する。
その光が落ち着いていくと、あの巨体は崩れ去り、またも瓦礫と化した。
魔法一撃でゴーレムを倒したサラに、見物していた皆は尊敬と畏怖の視線を向けた。
「じゃあ、次に出て来たら今度こそ俺たちが」
ドレイン以外の『白金の獅子』メンバーが戦闘態勢に入り、ゴーレムの生成を待っていると、どこからか震えるような細い歌声が聞こえてきた。
黒い魔素は、もう溢れてこなかった。
「中のやつらが、やりやがったか」
アルは剣を腰に収めながら、ホッと小さく息を吐いた。




