83、大事な物を取り戻した
セイジの一言で、皆がざっと構えた。
セイジはサラの入った巨大な水晶を見上げると、手を上げ、魔法陣を描いていく。その魔法陣が水晶に吸い込まれていくと、そこからピシリ、と亀裂が入った。
「マック」
サラを唯一復活させられる蘇生薬を持つマックを呼ぶと、セイジはピシピシとひび割れていく水晶にさらに近付いた。
ガラガラガラ……と崩れ始めた水晶と共に頽れたサラをその腕の中に収めると、セイジは片手でサラの乱れた髪を梳いた。
「ようやく、この腕に取り戻せたぜ」
腕の中に収まるサラの身体の重みが、泣きたくなるほどに愛しい。
叫びたくなるのをぐっと堪えると、地響きと共にサラの身体から黒い魔力の塊が飛び出してきた。
支えるだけでも腕に衝撃が来る。
ゴゴゴゴゴゴゴ、と揺れる地面にサラの身体を抱く腕の力を強めると、目の前に黒い巨大な塊が聳えたった。
皆の間に緊張が走る。
黒い塊は、段々と巨大な人の形となり、前に対峙した時と変わらない姿になった。
黒く虚ろな、底知れぬ虚無の瞳、生気のない白い顔。壁のような大きな身体から生えた枯れ枝のような二本の腕には、長くて鋭い爪のついた指がある。
髪のようなそれは闇の魔力の塊で、人の様に見えるその姿とは裏腹に、人ならざるものであるという気配がビンビンに伝わってくる。
アルが凶悪な笑顔で「久しぶりだな」と呟くのを聞きながら横に控えたマックを見ると、どうやら魔王の雰囲気にのまれているようだった。
「しっかりしろよ。後は任せた。サラを頼んだぜ」
声をかけるも、身体が固まって威圧に負けそうになっているようだった。肩を竦めると、マックの様子に気付いたエミリが背中をトン、と叩いた。
「大丈夫? サラをよろしくね」
次いでアルもマックを正気に戻すべく気合いの一撃を背中に入れる。たたらを踏んだマックは、ようやく威圧から抜け出したようで、表情に生気が戻っていた。
しっかりと自分を取り戻した表情に満足したセイジは、腕の中のサラをマックに託した。
サラを抱き上げたのを確認すると、セイジはその身体に転移の魔法陣を飛ばした。すぐさまマックとサラの身体が消える。
「海里! ブレイブ! マックとサラを避難させたから、お前らはそっちを優先して守ってくれ!」
セイジは構えていた二人に声をかけると、頷くよりも早く二人に魔法陣を跳ばした。
こちらの方はまだまだ戦力がある。直接攻撃手段のない向こうの方が心配だった。
聖騎士ユキヒラが先頭に立ち、剣を構えながら魔法の詠唱を始める。
光が集結するのを見て、アルが口笛を吹いた。
「流石聖騎士だな。上位の攻撃系聖魔法だ。俺の肌もビリビリする」
「聖剣の持ち主ってのは伊達じゃないってことだな!」
ユキヒラの攻撃が魔王に着弾したと同時に、聖剣が魔王を切り付け、戦闘の火ぶたは切られた。
魔王が両手を広げて空に向かって咆哮する。
地面を揺るがし大気を震わせるようなその咆哮に、皆が足を踏みしめ、必死でとどまる。
今までの魔物とは一線を画すのが、その咆哮ひとつでもわかるのか、さっきまでは笑いながら話をしていた異邦人たちも真剣な面持ちで魔王に対峙している。
セイジが皆の身体能力を上昇する魔法陣を飛ばすと、それに応えるように前線の者たちが一斉に剣を構え、飛び出していった。
ユイとドレインも強力な魔法を繰り出し、確実に魔王の体力を少しずつでも削っていく。
「HPバー、今まで見たことねえくらい長くて太いんだけど」
「それで黒とか、シャレにならないよな」
異邦人たちには見えているという、魔物の体力を表す表示は、今までで最大の黒を示している。
セイジたちにはそのHPバーというものは見えなかったが、魔王がどれだけの力を持っているのかは、身をもって知っている。
全員が出来る限りの力を出し、魔王に攻撃を加えた。
魔王もただじっとしているわけではなく、その闇の塊である身体からは闇属性の魔球が飛び出し、その鋭い指全てが剣となり、辺りを無尽蔵に切り刻む。
その身体は手応えはあれど、切り刻んでもすぐにくっつき、再生能力の高さを見せつけてくる。救いなのはたとえ身体がくっついてもHPバーのゲージが回復することはないということだけ。
「至高の神よ、その気高き神気で魔を打ち倒し給え、『聖球』!」
詠唱と共に頭上に現れた聖球を撃ちつつ聖剣に光を纏い魔王に切りかかったユキヒラは、魔王の身体半分を消滅させながら魔王の後ろへ通り抜けた。よし、と振り返ると、すでに元に戻っている魔王がおり、魔王の目がユキヒラを捉えていた。
魔王がユキヒラに狙いを定めたことにより、皆に背中を向けることになった魔王は、その身体から出す魔法も全てユキヒラに向けて放ち始めた。
「今だ!」
魔王の無防備な背中に、一斉に攻撃を開始する。
ユキヒラも高度な聖魔法で防御を展開しつつ聖剣で反撃する。
そこに次々皆のスキル攻撃が決まり、魔王のHPが目に見えて減った。
「ちまちましか削れないのほんと辛い!」
弓を引き絞りながら光の弓を飛ばすユーリナが大声で愚痴ると、隣で光魔法を引っ切り無しに繰り出していたユイが「わかる」と同意する。
「くそ、削れねえのがいらいらする」
「俺の槍も、相性悪いかもしれねえ! まるで手応えがねえのが不完全燃焼だ」
「魔法もあんまり効かないから仕方ねえ。防御と魔法防御が異様に高いだけだ。ちまちま削るぞ」
ガンツと月都もなかなか減らない魔王のHPに顔を顰める。
「つうかそもそも聖剣だけだろまともに削れるの」
高橋の言葉に皆が頷く。
アルはそんな会話をしながら攻撃を繰り出す異邦人の愛弟子たちを一瞥すると、渾身の力を込めて剣を振るった。
「お前ら呑気だな! さすが異邦人だ。こんなものを前にしてそんな軽口が叩けるとはな!」
「アル、諦めろ、異邦人ってのは能天気でおおらかな奴が多いんだよ」
「頼もしいじゃない。あいつが叫ぶたびに硬くなられるよりは全然いいわよ」
「俺は怖いですけど! だってなんか、別格」
「クラッシュは実戦経験が足りねえだけだ」
異邦人に釣られるかのように、セイジたちも軽口を叩く。実際には攻撃しても攻撃しても効きもしていないように見える魔王の姿に舌打ちしたかったが、異邦人たちの会話を聞いて、いい具合に肩の力が抜けていた。




