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77/99

77、最先端は

申し訳ありません。昨日の更新分、後半まるまる書き直しております。

読み直しを推奨します……



「それにしてもセイジ、ここの所どこにいたの? 異邦人たちからの目撃情報もなかったけど。クラッシュも心配していたのよ」

「俺? ずっと獣人の村にいた」


 エミリの質問にセイジが答えると、エミリは「気付かなかったわ」と呟いた。何度か行っていたらしい。引きこもってずっと魔法陣魔法を頭に叩き込んでいたから、仕方ない。

 エミリは「まあ、いいわ」と話を戻した。 


「今ね、魔大陸に異邦人たちが行く手段を確保したの。その方法を見つけたのはマック、実用化したのはヴィル、そして、繋げたのはクラッシュよ。あの子、魔大陸進出の立役者なのよ」

「待てって。どうやって魔道具で魔力値を測ったんだよ」

「それは、私と王宮の魔道具技師で親交があるからよ。最近一緒に飲み交わす約束もしてたの。直通の通信魔道具も設置したのよ」

「は……?」


 彼女とてもいい人よ、と茶目っ気たっぷりにウインクするエミリに、セイジは脱力した。遠いと思っていた魔道具は、思った以上に身近なところにあったわけだ。間抜けな自分に呆れて笑いしか出てこなかった。


「でもよ、クラッシュをあんな死地に送り込んでエミリは本当にいいのかよ」

「よくないわよ。全然よくない。そんな中で私なりに最高の条件を整えたのが、今の結果なの。周りにも協力してもらって、なりふり構わずあの子の周りの布陣を考えちゃったわ。アルもそれを汲んでくれて、弟子たちをクラッシュにつけてくれてるの。それをしないとあの子、一人で行っちゃいそうなんですもの。両手を開いて通せんぼしても、あの子はするっと抜けて行っちゃうのよ。だからセイジ、お願い」


 セイジのぼやきに、エミリは笑みを消して真顔で返してきた。

 そして、その内容はとても頷けるものだった。

 セイジは溜め息を吐いて、天を仰いで、「あーあ」と声を上げた。自分一人でと思っていた野望は、いつの間にやら大規模なことになっている。せいぜいセイジとエミリとアル、この三人だけの密かな野望だと思っていたサラ奪還は、いつの間にやら、国を巻き込み、異邦人を巻き込み、とてつもなく大ごとになっていた。

 

「まあ、諦めが肝心ね。それよりセイジ、これを見て」


 セイジの思考を止める様に、エミリはテーブルに大きな地図を開いた。

 魔大陸全体の地図だった。

 色々と記しの付いているそれの一つにエミリが指をさす。


「ここにクラッシュがいるわ。その付近を『マッドライド』『マーメイドドロー』『リターンズ』が固めてる。彼らは周りの魔物を狩ってるわね。その隣の村は今異邦人たちは立ち入れなくなっていて、守護樹がいるの。管理は私がする予定。異邦人と魔物以外なら入れるのよ。でも聖魔法が使えないから聖水を撒くだけしかできないけれど、まあ、種族的にも私が適任ね。そっちは異邦人たちにも近付かないよう忠告はしているわ。入れない場所として。それから、ここら辺の素材集めが『ワンダリング』『ミスマッチ』。『ブルードルフィン』と『トランス』は出来る限り先にすすんで、まだ形のない村を探ってもらってる。『白金の獅子』と『高橋と愉快な仲間たち』は先に先に進んで、今頃は帝都の国境を越えた辺りね。一人長距離転移魔法陣魔法が使えるから進行がまったく止まらないわ。『紅蓮連合』『獣同盟』『フラウリッター』『エンゲージ』『限界態勢』は魔物の種類と強さの判別を行ってもらってるの」

「そこまで進んでんのかよ……でも待てよ。聖獣って魔大陸に向かって大丈夫なのか?」

「もとは魔素から生まれた獣だから、大丈夫だそうよ。ただ不快なだけですって。異邦人たちと同じようなものだと言ってたわ」

「なるほどな。それにしても、すげえな。今辺境ガラガラなんじゃねえの」

「そうでもないわ。向こうに行かない異邦人も多いもの。上級職に就いてない異邦人は最初から除外しているの。あなたならわかるでしょ」

「ああ、まあ、な」


 地図上に次々小物が置かれていく。

 その配置を頭に入れながら、セイジは突出した二つの石に苦笑した。

 セイジが連れて行かなくても、自力で辿り着きそうな異邦人たちの進行が、とても頼もしい。

 街の位置や廃墟の位置を確かめ、覚えている村の位置を書き入れ、エミリは満足そうに地図を閉じた。


「それにしても、北の方の村は行ったことがねえな」

「そうね、異邦人たちが行き来できるようになったのがその村なのよ。でもそこに守護樹を植えたから、固定の転移魔法陣を設置したのよ」

「さっき異邦人と魔物は入れねえって言ってたな。どうやったんだよ」

「魔道具よ。魔道具ってホント便利ね。実物を見に行ってきたけど、本当に異邦人は透明な壁に阻まれたみたいになって入れなかったのよ。私達には何の障害もないのに」

「なんでそんな魔道具手に入れてんだよ」

「言ったじゃない。私、魔道具技師と友達なのよ。彼女の腕は恐ろしいわよ」


 セイジは苦い顔を崩さずに目の前に出されていた茶を一気に飲んだ。

 

「知らねえ間に一人前の男になったもんだな」

「セイジに抱っこされて大喜びしてたものね、あの子。サラもこんな赤ちゃんが欲しいって騒ぎだして大変だったわよね、セイジ。誰の子が欲しいんだとか言って滅茶苦茶焦って……」

「忘れろ」


 エミリがニコニコと昔の話を持ち出すと、セイジは慌てて言葉を遮った。大笑いするエミリの横には、神妙に座っているマック。

 セイジはゆっくりと視線を移動し、マックに忠告した。


「今の話は忘れろ。いいか、忘れろよ」


 その言葉に、マックが神妙な顔つきのまま、頷いた。



 ともあれ、一度クラッシュが向かっているという魔大陸に行ってみるか、と腰を上げようとしたセイジに、エミリは頼みごとをして来た。

 装備品を渡して欲しいらしい。それを取りに行く間、部屋はセイジとマック二人になった。


「浄化ってどういうことだ?」


 セイジの質問に、マックがええと、と答える。

 この国でも使っている魔物を通さない魔道具を、魔大陸の村にも設置して、その魔道具の範囲内の穢れた魔素を浄化したらしい。試しにやってみたら、村の中だけはこちらの国と同じような魔素になったんだとか。魔道具がどういう作用をするのかも教えてもらったが、マック自身そこまでは理解していないらしい。そこが知りたい場合はエミリ経由で魔道具技師に聞けばいいかと切り替えたセイジは、魔大陸布陣の幅広さに唸った。


「っつうか何でエミリと魔道具技師が仲良くなって、そんな大物が仲間入りしてるんだよ……」


 完全な独り言だった。これで思った以上にサラに近くなったことを喜ぶべきなのに、激流とも言える流れに、乗り切れていない自分がいる。

 きっと、魔大陸に行けるようになったクラッシュは、最後のクリアオーブをセイジに渡してくるだろう。それで、クリアオーブは揃う。

 魔法陣魔法は前よりも強力な物が描けるようになった。それでも、自身の流れと世間の流れは、やはり勢いが全く違う。

 やはり自分はまだまだ未熟だな、とセイジは長い前髪を掻き上げた。


 


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― 新着の感想 ―
[一言] 『歯車』が上手く噛み合わさったためあれよという間に、魔大陸に行くことになりましたからね~。関わっていたエミリさんやマックも怒濤の勢いみたいに感じているのに、世間に乗り遅れ気味のセイジさんでは…
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