72、ダンジョン攻略メンバー
『白金の獅子』『高橋と愉快な仲間たち』『マッドライド』等々、そうそうたるメンバーが並ぶクラッシュの店の前に、セイジは歌いだしそうな足取りで近付いた。
そこで目についたのは、幸運と呼ばれるトレの門番、ヴィデロ。
ヴィデロは異邦人ではなく、このグランデで『幸運』の名を持つ母親の元に生まれた生粋のグランデ人だ。
そんな男が、アルの眼鏡にかなったという。
一緒に神殿に入り、その力を見せつけたという彼は、後々アルに『異邦人だったら魔大陸に連れて行きたかった』という太鼓判を押されるほどの実力を有しているという。セイジは違う道を通ったので、その片鱗しか見ることは叶わなかったが。
そのヴィデロは、薬師マックをその手に抱え、クラッシュと談笑していた。
セイジはく、と口角を上げた。
決して彼の幸運にあやかろうというわけではなかった。ただ、実力が見たかった。見たところで、穢れた魔素に侵されてしまうので、魔大陸には連れて行けないけれども。
「よ、久しぶりだな。幸運。相変わらずだな。もしよければ俺の手伝いをしてくれねえか? 今人手が欲しくて」
近づいて行って声をかけると、周りの者たちがセイジに注目した。
幸運が驚いたような表情でセイジに向き合う。
「俺が……? 一体何を」
視線を少しだけ動かし、眉を寄せる幸運の肩にポン、と手を置くと、セイジは答えようと口を開けた。
瞬間、周りの異邦人たちがハイハイハイ! と手を上げた。
「セイジ! 手伝いなら俺らも行く! シークレットダンジョンだろ! 誘ってくれ!」
「俺も俺も!」
「俺も手伝いたいな。シークレットダンジョンって実入りが違うから」
「それいったら俺らだって行きてえ。セイジ、誘ってくれよ」
次々上がる異邦人の手にセイジが苦笑すると、ヴィデロも苦笑した。
「俺でいいんですか?」
「ああ。アルが直々に指名したその力、直接見てみてえからな。前に一緒に入った神殿では違う道に進んだだろ」
「まあ、そうですが。俺でいいんですか?」
まっすぐ見つめてくるヴィデロに、同じくまっすぐ視線を返したセイジは、軽い口調で「ああ」と頷いた。
その隣で、またしてもハイ、と手が上がる。マックだった。そのすぐ後に、クラッシュまでハイ、と手を上げた。
「マックに続いてクラッシュもかよ」
「もしセイジさんがシークレットダンジョンのメンバーを探しているんだったら、俺を連れて行ってください」
さっきまでのにこやかな笑顔はどこかへ行ってしまったかのように、真剣な顔をしている。セイジの目には、その顔がエミリの顔と重なった。
エミリもいつもはにこやかなのに、ふとした瞬間こんな真顔を向ける。その時はどれだけ断っても諫めても聞く耳持たず、自分の意見を変えることはなかった。そんなエミリとクラッシュの真顔がまるで同じで、ここで断ってもクラッシュは納得しない、というのはすぐにわかった。
「……ったく、段々顔つきがエミリに似てきやがって。んじゃ、クラッシュも行くか。……ただし、帰って来れないって場合もあるから、その覚悟がなきゃ連れて行けねえ」
「もとより承知のことです。そんな危険なところにセイジさんはいつでも入っているんでしょう?」
「ああ、まあな。俺はいいんだよ、結構強いから」
クラッシュから視線を外したセイジは、もう一度ヴィデロに視線を戻して、「お前さんはどうする」と聞いた。
「お前の『幸運』に縋ろうと思って声掛けたわけじゃねえからな。もしそういう意味でつかわれたくないと思うんなら、断ってくれ。強制じゃねえから」
ヴィデロは、セイジの言葉にふ、と表情を緩めた。
「クラッシュは、行くんですよね。じゃあ、手伝いましょう。俺の力で何とかなるのであれば」
「充分だ。期待してる」
セイジはヴィデロとこつんと拳を合わせると、もう一度周りの異邦人たちを見回した。
そして目につく、白い蜥蜴もどき。
それは、ディーやノワールと同じような魔力を持っていた。
その蜥蜴は、クラッシュの肩の上で、じっとことを見守っているようだった。
「聖獣か……?」
「その蜥蜴はリザ。俺たちの仲間だ」
セイジがまじまじと蜥蜴を見ていると、その主と思わしきパーティーが一歩前に出た。
そのパーティーは、だいぶ前にシークレットダンジョンに一度一緒に入ったことのあるパーティーだった。
我先にと手をあげていた異邦人たちは、セイジの目に留まったのが『リターンズ』だと瞬時に悟り、その顔を苦笑に替えた。
「お前ら久しぶりだな。『リターンズ』だったか? そいつは新顔だな。手伝ってくれねえか」
「おう、覚えててくれたのか。嬉しいねえ」
『リターンズ』のリーダーである剣士の陽炎がガッツポーズを作る。そしてクラッシュの腕にいるリザの首を撫でた。それに倣ってセイジもリザの喉を撫でてみる。ひやりとした柔らかい鱗が指に心地よく、リザも気持ちよいのか、目を細めて細長い舌をチロ、と出した。
不意に、幸運のすぐ隣にいたマックが「俺もセイジさんに用事があるので連れてってください」と、セイジを見上げてきた。「伝えたいことがある」と言って。
薬師とは言え、マックの場合はわけのわからないアイテムを持っており、剣の腕こそ全くないものの、戦力及び回復要員として十分に力を発揮してくれるため、足手まといになることはない。
そして、セイジはマックに蘇生薬を作ってくれという頼みごとをしていた。
「用事ってのは……もしかして」
「はい。そのもしかしてです」
力強い返事に、セイジは笑いたくなった。今になって、次々とあらゆるものが舞い込んでくる。
自分自身を最終局面に向かわせるべく、周りが動いている。そんな感じがした。
大分前に逢った、この目に力をくれたハーフエルフの言葉が頭をよぎる。
運命なんて反吐が出る、と吐き出したセイジに、あのハーフエルフは顔色も変えずに「捻じ曲げられた運命だ」と口にした。
その捻じ曲げられた運命は、ここに来てまた転機を迎えているのだろうか。
流れ行く状況の移り変わりの速さに、セイジは盛大な溜め息を吐きそうになって、そっとそれを呑み込んだ。




