69、獣人の村シークレットダンジョン
『獣同盟』とセイジと豹の獣人ドウランの6人は、獣人の村にあったシークレットダンジョン内に立った。
鬱蒼とした森は、さっきまでいた獣人の村にある森とそう変わりなくて、シークレットダンジョンであることを忘れそうになる。
シュル……と音が聞こえた瞬間、ドウランが手を横薙ぎにすると、その鋭利な爪で半分になった蛇の魔物がキラキラと光になった。
「うわ、魔物がいたんだ……全然気付かなかった」
「気配はなかったからな」
「気配ないのにどうやって魔物に気付くんだよ」
「今の魔物、マップに表示されてなかったよ。もしかして、ここってそういうダンジョン?」
LLと名乗ったエルフの異邦人が宙を睨みながら唸る。
金色狼の異邦人の金狼が眉間に皺を刻み、辺りを見回した。
「あ、じゃあちょっと待って。こういう時こそ可視化の魔法じゃん。『この世に溢れる光よ、見えない悪意をその光で反射し我の目に映せ、乱反射!』」
LLが魔法を唱えると、異邦人の間からおお! と声が上がった。
「マップに魔物の印が現れた! って、おい、なんだこの大量な魔物! 既に囲まれてんじゃん!」
「なんで襲ってこないんだよ」
「こっわ、マップに見えるだけで30くらいいるじゃん」
騒がしいパーティーに、セイジとドウランが苦笑する。今のLLの魔法で、セイジにも魔物の気配が感じられるようになったので、実力があるのはわかったけれど。
「隠密が高い魔物ばっかりの所だな。LLの今の光魔法が肝だ。期待してるぜ」
「お! やった! ダンジョンサーチャーに期待されちゃったよ僕! じゃあとっておきの見せちゃうね!」
セイジの言葉に舞い上がったLLは、杖を構えて、宙に何かを描き始めた。
「魔法陣魔法か」
LLが描いたのは、皆の防御力を上げる魔法陣魔法だった。
セイジが感嘆の声を上げると、隣にいたドウランが「俺が教えたんだ」と魔法のかかり具合に満足そうに頷いた。
「あれだな。獣人たちは皆魔法陣魔法の使い手なんだな」
「俺らにはこっちが主流だからな。異邦人みてえに詠唱を唱える魔法は、どんな効果があるのかわからなくておっかねえ。魔法陣魔法は魔法陣に描いた文字がすべてだから単純明快なんだよ」
「はは、なるほどな」
「だから、自分の得意属性とかあんまり関係ないから効率的なんだ」
合理的な考えに、セイジが声を上げて笑った。
異邦人たちは、魔物が一切マップに映らないと言う。ドウランも、魔物の気配が探れないと溜息を吐く。
ここは、隠密に優れた魔物が主流のシークレットダンジョンだということは、最初の時点で全員が気付いていた。
厄介だな、とセイジも肩を竦めた。気配が薄いわりに、魔物の数は多い。ほぼ連戦で、休む間もなく魔物が寄ってくる。その魔物にも、近付かれない限り気付かないし、光魔法の効果が切れた途端に異邦人たちは魔物を追えなくなる。ある程度気配察知が出来るドウランですらたまに追えないという状況がいただけない。
「なあ、フジ。気配察知は今までどれくらい育ててきた?」
全く目で魔物の姿を追えていない人族の異邦人にセイジが声をかけると、剣を構えながらフジは「気配察知レベルはこれでも50あるんだぜ」と弱った顔をした。
「結構真剣に気配察知は上げて来たのに、ほんとここの魔物はわからねえんだよ。なんだよここの魔物」
宙に視線を向けながら、無造作に剣を振るったフジは、掠った程度の手ごたえに舌打ちする。
「金狼もわかんねえだろ。俺より気配察知レベル上だよな」
「ああ。俺もさっぱりわからねえ。LLの魔法が切れたらお手上げ」
「マップに目を向けてねえと魔物位置わからないのに、それだと魔物から目を離しちゃうし、どうしたらいいんだよこれ」
もう一人の人族異邦人トレジャーも口を尖らす。
蛇のような魔物は、次々襲って来ては、徐々に皆の体力を減らしていく。
「ああもううざい! 噛まれてもHPちまっと減るだけだけど、ここまで大量だとうざい!」
「地味に痛いしな。踏みつぶしただけで消えてくような雑魚なのに」
「雑魚に地味ーにHP減らされるのが余計にうざいんだってば」
杖で蛇を追い払いながらLLがむきーと奇声を上げる。
セイジはトレジャーの肩に食いついている蛇を鷲掴んで握り潰しながら、LLの言葉に心の中で同意した。
でも、と魔法陣を展開しながら思う。
LLと自分とドウランの魔法陣で防御力を上げる効果を重ねて掛けているのに、この小さな蛇に体力を削られるというのが、少しだけぞっとした。
全ての効果が切れた時、一体どれだけダメージを受けるのか、それが少し怖いなと、セイジはさらに防御魔法陣を描きながら顔を顰めた。
蛇の魔物の雨が降る場所を早めに抜けるために、皆が足を速める。前を走る金狼の背中に蛇が3匹ぶら下がっている姿は、滑稽ですらあった。それを取ろうとしたフジが蛇を掴んだ瞬間、フジの動きが止まった。そして、その場に膝をついた。
「フジ!」
「……やべ……痺れ……」
魔物に噛まれて、麻痺してしまったらしいフジに、慌ててLLが状態異常解除の光魔法を飛ばす。その間に、ドウランがフジの手に噛み付いていた蛇を踏み潰した。
「状態異常まで出るのか。厄介だな」
「痺れ付き蛇の雨なんてもうやだよー! 何とかならないの!? ねえセイジ、ここの森って燃やしちゃってもいいの!?」
LLが手で魔物を払いながらマジックハイポーションを飲み干す。
「次元の狭間で、オーブがなくなりゃ自然に消えるからいいんじゃねえの?」
セイジの返答に、LLは顔を輝かせて、杖を構えた。
「この世の熱という熱を統べる炎の聖霊よ、あまねく万物のすべてを呑み込み、己が身体で溶かし尽くせ! 溶岩地獄!」
LLが詠唱を終えた瞬間、地面に亀裂が走り、そこから溶岩が吹き出した。溶岩は隠れていた魔物と鬱蒼と茂った樹木を巻き込み、辺り一面を文字通り地獄に変えていった。
それを呆然と見ていたセイジとドウランは、我に返るとスッキリした顔のLLに視線を向けた。
「こんなところどうやって前に進むんだ?」
「この魔法、絶対に獣人の村では使用禁止な」
溶岩の中心に水を流し、地面を固めて前に進んだ一行は、行けども行けども隠密性の高い魔物に辟易しながらも、更に深い森の一角に、木が積み重なる様にして先が見えない場所に辿り付いた。
中からは、何の気配もない。それが逆に、その場にボス魔物がいるんだということを知らしめる。
「この分だとボス魔物も隠密使いだね……僕もうMPなくなるよ。マジックハイポーション切れちゃった」
しゃがみ込んだLLが口を尖らす。
ったくしゃーねーなぁ、とドウランが腰の袋から数本の瓶を取り出した。
「ほらよ。俺らの所で作ったやつやるよ。これ飲んで、ヤル気出せよ」
「あ、ありがと」
受け取ってそれを飲んだLLは、カッと目を見開いた。
「うっま! 凄い美味い! ヤル気でた! っていうかこれ買い占めたい」
よし、と気合を入れたLLが立ち上がると、皆は先に足を踏み入れた。
途端に何も見えないところから咆哮が上がり、一瞬だけ皆が硬直した。
その硬直の隙を突かれ、先頭の三人が何かに横薙ぎにされ、飛んでいく。
目の前には、ただ木に囲まれただだっ広い空間が広がっているだけだった。
「え、目の前にいるのに認識できないって、攻撃できるのかよ……!」
そこまでダメージの入らなかったらしいドウランが立ち上がりながら、唸る。
走り出し、何もないところで爪を翻す。
途端に、異邦人たちが「HPバー出た!」と騒ぎ始めた。
「本気で見えない厄介な魔物か」
セイジにはそのHPバーというものは見えないが、確かにドウランの爪が何かを抉ったのを、その目で見た。
ありったけの知識を駆使して、セイジは魔法陣を描いていった。
数個の魔法陣を飛ばしても、なかなか効果は表れない。
その間にも、透明な何かが皆を尻尾のような何かで前衛を薙ぎ払っていく。と思うと、上の方で光が収束し、後衛にその光が飛んできた。
「魔法まで使いやがるのか」
光の球を避けながら、セイジはさらに眉間のしわを深くした。




