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60、最悪の道



 回廊に足音が響く。 

 何もない回廊だった。

 ただ、酷く険しい顔をしたヴィルの表情それだけで、セイジたちの警戒は最大級になっていた。

 後ろを歩いているクラッシュとマックの何気ない会話を聞きながら足を進めていると、「痛い」という声が聞こえた。


「なんだあれ!?」


 その声につられるように天井を見上げたセイジは、思わず「マジかよ……」という声を零していた。

 

「おいおいおい、よりによってダークスライムがお出ましかよ……! とりあえず走れ!」


 最悪の魔物の出現に、セイジが声を荒げた。

 その声で固まっていた皆が弾かれたように走り始める。

 天井の石の隙間から、壁の隙間から、床から。全ての隙間から黒いドロドロの粘状の液体がじわじわと染み出してくる。

 その液体は、まるで意志を持っているかのように、セイジたちを追い始めた。


「セイジさん、ダークスライムって……!?」


 全速力で走りながら訊いてきたクラッシュに、セイジも全速力で足を動かしながら教えた。


「こいつはな、こういう回廊系ダンジョンに出てくるやつなんだけどな、物理攻撃が全く効かず、捕まると途端にあの黒い物体に取り込まれて骨まで溶かされちまうやつなんだよ! 魔法は効くが、可燃性の物質も含まれてるらしく、火炎系で攻撃すると大爆発、雷だとしっかりと電気を通すらしく、電気を纏ったあっぶねえダークスライムの出来上がりっていう滅茶苦茶難しいやつなんだ!」

「こわ! じゃあどうすればいいんですか! セイジさん今まで遭遇したことは!?」

「ある! が、こんな大量なもんは初めてだ! いつもはひと塊くらいだから燃やして終わったんだけどあの量じゃそれも難しいな。ちょっとでも触ると溶けるわ闇にやられて穢れるわでダンジョンでは一番遭いたくねえ魔物だ」

「最悪じゃないですか……!」

「まあな」


 息を切らしながらも後ろを振り向いたクラッシュは、迫りくる黒い液体にさらに顔を顰めた。

 一番後ろを走っているマックは、そのうちのみ込まれそうな距離まで迫られている。


「弱点とか!」

「さあな! 俺は見つけた瞬間燃やして終わりにするから知らねえ!」


 セイジがそう答えた瞬間、横を走っていたヴィルが「弱点は聖属性だそうだ」と真剣な顔つきで答えた。嘘をついているようには見えなかったセイジは、聖属性って一番無茶苦茶じゃねえかよ、と顔を顰める。

 この世界の聖魔法は教会でのみ伝えられてきた。

 その教会も腐敗して久しく、すでに聖魔法は廃退の一途をたどっていた。

 唯一セイジが使える聖属性魔法を出せるのが、魔法陣魔法なのだが、どうにも言葉がしっくり魔法陣に合わないのか、セイジの聖属性の魔法陣魔法はあまり威力はなかった。

 ここまで溢れるほどの量では効きはしない、と歯噛みしていると。

 一番後ろを走っていたマックが、息を切らして言葉を途切らせながらおかしなことを言い出した。


「セイジさん! あのスライムの上一面に高濃度魔素の雨を降らせることは出来ますか!? 魔法陣魔法で!」

「高濃度魔素? そりゃ出来るけど、あいつら水は全然効かねえぞ!」


 セイジが叫ぶと、さらにおかしなことをマックが言い出した。


「聖水をぶっかけようかと思って!」

「はあ!?」


 マックの言葉に声をあげたのは、当の本人以外の全員だった。

 本気かよ、とマックを見ると本人は真剣な顔で早く、と訴えていた。


「お願いします!」

「わかったよ! 降らせてやるよ!」


 無茶振りをするマックにそう怒鳴ると、セイジはスライムに向かって魔法陣を描いた。

 今まで描いたことのない、高濃度魔素の雨を。

 その場でマックが止まる。


「おい!」

「マック!?」


 じわじわとマックの身体に近付いてくるスライムに向かって、マックが何かを呟き始めた。

 それは何かの詠唱のようでいて、旋律のような響きを持った、不思議な言葉。


「何でこんな時に祈りなんか……」


 セイジも足を止めてマックを振り返る。

 すると、セイジが飛ばした魔法陣から降り続ける高濃度魔素の雨が、キラキラと輝き始めた。

 それと共に、スライムから溶解していくような耳障りな音が聞こえてきた。



 マックの足にまでまとわりついていたスライムは、キラキラした雨と共に、綺麗さっぱり消えていった。

 いったい何が起きたのか理解が出来なかったメンバーたちは、ただ茫然と未だ祈り続けているマックを見ていることしかできなかった。

 

「よかった、聖水攻撃大成功」


 祈りを終えたマックが笑顔で振り返る。

 が、その足は爛れ、靴はすっかり溶かされており、痛みのためかすぐにその場にしゃがみ込んでしまった。

 すぐさま動いたクラッシュが、手持ちのポーションを掛けて足の傷を治していく。説教と一緒に。

 マックが一人で突っ走ったことを怒っているようだった。

 すぐ横で予備の装備品を取り出しながらヴィルも険しい顔でマックを見下ろしている。

 セイジのすぐ隣に立っていたユーリナは、呆れた顔をしていた。


「とんでもないことをする子だよね」


 ユーリナの呟きに、セイジは「全くだ」と同じように呆れながら返していた。




 複数の道が交わる広い場所に出た。

 進む道への指標は全くなかったが、他の道から響くように足音が聞こえてきたので、おのずと進む道を知ることが出来た。

 悲鳴や足音で、他も自分たちと同じようにダークスライムに追われていることが分かる。

 マックが一歩前に出て、どの道から誰が来るのかを見定め始めた。セイジもその横に立ち、ちらりと真剣なその瞳を盗み見る。

 先ほどと同じような感じでダークスライムを消す気満々だとその瞳が語っていた。


「ちょ、鎧に垂れて来るんじゃねえ! 耐久値が減るだろ!」

「いいから走れ、高橋!」

「待ってぇ、スカートが溶けてるよお」

「あとで高橋が買ってくれるから! 今は何も考えずに走って、ユイ!」


 声は交差し、どちらの道から響いているのか全くわからない。

 じっと待っていると、先に姿を現したのはエミリたちだった。

 ユイが身体を浮かして一人猛スピードで逃げてくると、ユーリナに抱き着くようにして止まり泣き始めるが、装備がなるほどほぼ溶かされダメにされていた。

 その後を次々エミリメンバーたちが駆け抜け、後ろには黒くうごめくスライムたち。

 セイジが魔法陣を飛ばし、マックが祈る。

 先程同様、ダークスライムはジュウジュウ言いながら融解し、その後光となって消えていった。


 すぐにまた違う通路からアルたちの姿が見えた。

 今度はその通路の方を向きながら、驚いた顔で「いったい何したの……?」と訊いてくるエミリに答える。


「聖水のキッツいのを飲ませてやっただけだ」

「え……ちょ……」


 言葉もないエミリに笑いを誘われながらそう応えていると、見えてきた鎧の集団に向かってマックが走り始めてしまったので、慌ててセイジは追いかけた。

 全員が走ってくる二人の足を止めようと騒ぐが、それを振り切ってマックはダークスライムに向かって行く。

 舌打ちしながらセイジは足を止めずに魔法陣を描いた。

 雨が降ってきた瞬間マックも走りながら祈りを唱え始め、何とか誰も消化されずにダークスライムを消すことに成功した。



「あれだけデカいダークスライムを倒しちまうなんて、一体何したんだ」


 合流した三人が顔を合わせると、アルがポーションで体力を回復しながら今まで走っていた道を振り返った。

 セイジが薄く笑いながらアルの肩に手を置く。


「俺が高濃度魔素の雨を降らせて、マックがそれを聖水に変えただけだ。ランクSのな」

「ランクSの聖水……そんなものがこの世に存在してたなんて」

「面白い発想じゃない」

「ほんとにな。俺はあいつに会ってから常識を覆されっぱなしだ。何せ最初のトラップで複合呪いに掛かったんだぜ俺ら」


 セイジが笑いながらそう言うと、2人は目を見開いて息を呑んだ。 

 エミリは口を押えて、笑いながら話をしているクラッシュに視線を向ける。

 見る限りどこもなんともなそうだけれど、と口を開こうとすると、セイジは声を出して笑った。


「もう何ともねえよ。複合呪いを消せるディスペルハイポーションですでに呪いは消えたからな」

「え……」

「な、どういうことだ……?」

「ランクSを作り上げたそうだ。だからもう複合呪いも怖いもんじゃないんだとよ。なんかもう、あいつを彷彿とさせるような無茶振りで思わず挙動不審になっちまったぜ」


 笑い続けるセイジの荒唐無稽な話に、アルとエミリは何か恐ろしい物を見るような視線で、一人の薬師を射抜いていた。



 




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