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59、それぞれの道


「んじゃ、最後の一つと行きますか。今度は物理だけじゃなくて、呪い系もガードするやつで行くかね」


 セイジは受け取ったアイテムをカバンにしまい、立ち上がった。

 皆も立ち上がり、残り一つの罠に目を向けた。

 〈爆発制御〉〈物理防御〉〈呪術透過防御〉〈威力減少〉

 考えながら文字を並べ、最後のトラップの仕掛けられている柱に飛ばす。

 柱を魔法陣が包み込むと、ユーリナがすかさず矢を射た。

 矢が刺さった瞬間、キンと金属がぶつかるような甲高い音がして、柱の中でピシピシと何かが割れる音がした。


「え、嘘、やった。リリースできた。やった快挙! 今回も絶対無理だと思ってたぁ」


 最後で罠の解除に成功したユーリナは、弓を持ったまま飛び跳ねた。

 レベルが上がったよ! などと報告しているユーリナに視線を向けていると、アルの声が聞こえてきた。


『ようやく魔物が消滅しやがった……』


 その言葉で、ここの罠と力の道の魔物は連動していたんだということに、全員が気付いた。



 トラップの部屋を抜け、奥にあったドアを開けると、そこは密林のような場所だった。

 広い空間は木が生い茂り、至る所から魔物の気配が漂ってくる。

 セイジは危ない植物がないかと近くに目を配った。

 すると、そこにあった植物は、鑑定をしても『謎素材』としか表示されないものだらけだった。

 

「なんだここは……」


 その素材は、錬金術師しか扱うことの出来ないとされている、エルフの里にのみ伝わっている素材、のはずだった。

 釜に素材を入れて楽しそうに混ぜている彼女の姿が脳裏に浮かび、すぐに首を振る。

 何が、どうして。

 ふと、横を見ると、サラが持っていた釜を引き継いだ異邦人、マックが目を輝かせて素材に手を伸ばしていた。


「そうか、錬金術師がいるから、こんな素材があるってことか……」


 罠といい謎素材といい、この神殿は人を見抜くのが上手いらしい、とセイジは苦笑した。もしここにサラがいたら。

 素材集めで制限時間が過ぎてしまうのが簡単に想像できてしまって思わず吹き出した。

 


 そこそこ現れる魔物を消しながら進むも、周りはすべて『謎素材』で進んだ気もしない。

 溜め息を吐きつつ手近にあった蔦を引っ張りながら「エルフの里みてえだ……」と呟くと、マックが頷きながらポツリと呟いた。


「サラさんに見せてあげたいですね……」


 そうかこいつは、とセイジは視線を巡らした。

 さっきの目を輝かせて鑑定をしていたマックと、想像したサラの姿が重なる。

 そして、安易に動かなくなってしまうサラまで想像していたセイジは、思いっきり首を横に振った。


「ダメだ、連れてこれるわけねえよ……」


 先に進むぞと促しても、絶対に「嫌」の一言で動かなくなる。梃子でも動かないのは長い付き合いで知っている。そして、制限時間が過ぎたらどうなるのか。未知数だからこそ、恐ろしい。

 セイジは身震いして「絶対だめだ!」と口調を強めた。


「あいつはここから絶対に動かなくなる。引き摺って行こうもんなら、俺は半殺しの目に合う。ダメだ、怖くて連れてこれねえ……」


 自分の身体を抱き締めて震えると、冗談だと思ったのかマックは軽く笑った。





 今度の妨害は、まさに錬金術を駆使しないと進めないという代物だった。

 必死で魔物を倒し、素材を集め、それを錬金し、ようやく先へ進むことのできるというもの。しかも今度も他の道を行った者たちの力が必要になった。

 それぞれの道に出てくるユニークボス的魔物を倒すことで現れるアイテムを最後の素材として錬金釜に投入し、出来たアイテムを所定の位置に放り込む。するとそこから道が伸び、先に進むことが出来た。

 念話が出来なかったら終わってたな、と錬金術師であるマックが切り開いた道を見上げながら胸を撫で下ろす。

 

『お次はどんなもんが出てくるのか楽しみだなっと』

「アルの所は苦戦してるからな」

『エミリとセイジは苦戦してねえってのかよ』

「俺たちもエミリも楽勝だな。そっちに一人でも魔法をまともに使えるやつがいればよかったんだけどな。ま、頑張れ」

『それならもう問題ないぜ。ヴィデロがいるからな』


 アルの言葉に、セイジはふと幸運の顔を思い浮かべた。

 見る限りあの男も物理攻撃が主流のはずだが、と思っていると、アルの弾んだような声が聞こえてきた。


『あの鎧面白えなあ。雷を貯め込んで一気にぶっ放せる。まさに怖いもんなしだ。でもって、俺は役立たず』


 自身を役立たずといい、豪快に笑い飛ばすアルに、セイジもまた声を出して笑った。


「アルが役立たずなんて笑い話だな。たまにはお荷物も楽しめよ」

『なになに、アルが役立たずなの? やだ面白い。こっちはなかなか楽しめてるわよ』

「全く物理攻撃が効かねえらしくてよ、お荷物と化してるぜ」

『あはは、お荷物のアル! 目の前で見てみたいわ』

『セイジお前何言ってんだよ……ってもしかしてエミリにチクってんのか? そういうセイジはどうなんだよ。そこの魔物ってのはどんなもんが出てくるんだ?』


 エミリとアル、お互いの声は聞こえていないからか、ちぐはぐな会話が続く。

 セイジは二人に伝わるように言葉を紡いでいった。


「俺の所は普通の雑魚だな。魔法も物理攻撃も結構効くから楽勝だぜ。それ以外では俺がお荷物だけどよ」

『セイジもお荷物って。もうどうなってるのよここ。あなたたちがお荷物とか』

「あいつだったら無双できるだろうよ」


 魔力の道でも、この知の道でも。力の道でも。

 セイジはそう言うと、一人の懐かしい顔を思い浮かべて優しい顔をした。


『そういう場所なのか』

『そういう場所なのね』


 しみじみとした呟きを聞き、セイジは前を向いた。



 違うフロアに出たセイジたちは、無機質な通路に出た。

 魔物の気配もなく、トラップの気配もない。ただ、まっすぐな薄暗い回廊。


「どうにも気持ち悪いところだな」


 ただ一つの心配事は、ヴィルが一言つぶやいた今のセリフだった。



 時間はさかのぼり。

 力の道に進んだアルフォード、ガンツ、月都、高橋、ヴィデロは、出てくる魔物にひたすら苦戦していた。

 基本的に物理攻撃がほぼ効かない魔物ばかりが出てくる。

 魔法を使える者も、ほぼ初級魔導師よりもどうしようもない魔法ばかりで、魔力を含んだ攻撃じゃないとHPが削れず、苦戦の一途をたどった。

 高橋とガンツはMPを使うスキルじゃないと攻撃が効かず、かといってMPが高いわけではないから数手で手詰まりになる。月都は魔法も多少は使えるが、やはり魔導士には遠く及ばず、ヴィデロも似たような状態、アルに至っては潤沢な魔力はすべて身体強化以外に使えないという代物だった。

 それでも剣を当てればほんのちょっとはHPが削れるからと地道に倒して先に進むと、倒しても倒しても復活してくる魔物が現れた。

 扉も見えないことから、その魔物を倒さないと先に進めないのは明白である。

 魔法をガンガン打ち込んできながらスピードも速い魔物を相手に、全員が苦戦していた。

 ダメージも蓄積され、敵も復活するという最悪のループに皆が段々と苛ついてくるのがわかった。

 やけくそ気味に攻撃を繰り出す高橋を見ながら、アルは手を止め溜め息を吐いた。


「どうもおかしい。どうしてまた復活してくるんだ……」

「なんかしかけでもあるんじゃねえの? ここじゃねえ道で何かをすれば魔物を倒せる的な」


 高橋の言葉に他のメンバーの顔が苦い物になる。

 それだけは自分たちでどうにもならないことだったからだ。


「くそ、俺はとんだお荷物じゃねえか、よ!」


 他の奴ら頑張れよ、心の中でエールを送ったアルは、目の前の魔物を、何度目かの光にするために剣を揮った。



 その頃、エミリの進んだ道でも魔物の属性の偏りに皆が眉をひそめていた。

 エミリ、ドレイン、ブレイブ、海里、ユイ。

 魔法のみで物理攻撃のつてを持たないのが回復バフデバフ系魔導師ドレインと攻撃魔法特化のユイである。

 出てくる魔物はほぼ魔法防御がとても高く、魔法攻撃が訊かなかった。

 エミリは舌打ちすると、腰に差していた愛剣を抜き、手にする。

 海里も得物である双剣を抜き、ひたすら物理攻撃を繰り出した。

 エミリ、海里、ブレイブの攻撃により、エミリたちはさほど苦戦することなく回廊を進めた。


「ねえ、海里、ブレイブ、どうしてこの道を来たの? あなたたちならもしかしたら、アルと一緒にいた方がよかったんじゃない?」

 

 どちらかというと物理攻撃寄りの二人に、エミリが問いかけると、2人は肩をすくめて口を開いた。


「私、双剣だから、高橋の様に力で魔物をねじ伏せることもできなくて、かといって身軽かというとそうでもない、手数は多くても攻撃は軽くて、どうにも中途半端だったんです」

「ならなおさら」

「だから。何かを特化して育てるんじゃなくて、すべてが出来るオールマイティなスタイルになりたくて。魔法はいまいちなんですけど、MPが高ければそれだけ魔力を乗せたスキルを打てるんですよ。そうすると、物理攻撃に強い魔物も大抵は貫通してダメージを受けてくれるっていうスキルが双剣には多くて。だったら伸ばすのはそこかなって。もっといい考えが浮かんだらそれはそれで方向転換しようとは思ってるんですけどね」

「そう……それもまた一つの道ね。ブレイブ、あなたは?」

「俺は、弓を極めようかと思って」

「弓ねえ」

「弓って力よりも精神力、そしてMPが物を言う武器なんすよね。普通の矢じゃ弱すぎて大物なんかには太刀打ちできない。だからこそ、魔法を纏った矢が案外効くんですよ。だからこそ、ガンガンそれを使って、海里のサポートをしたくて」


 まっすぐエミリを見る二人の目は、しっかりと先を見据えている目だった。

 エミリは厳しい表情を緩めて、2人の肩にポンと手を置いた。


「応援するわ。その目指した先で、ぜひアルを助けてあげて」

「あの人は助けなんかいらない程強いですけどね」

「案外あれで弱いところがあるのよ。きっと、あなたたちの方が強くなる。だから」

「サラさんを助け出す手助けをすればいいんですね。わかってますって」

「そのための勇者の訓練ですから」


 目を丸くするエミリの肩に、今度は二人の手が乗った。

 細いその手は、案外力強かった。

 

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