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57、神殿攻略開始



 三人が岩をすり抜けて神殿の中に入っていくと、岩肌に青い光の古代文字が並んでいた。

 その文字は、入ってきた15人それぞれの祈りの言葉だった。

 セイジ、エミリ、アルの三人の祈りの言葉は『友を救える力』。それぞれがバラバラに壁に描かれていたけれど不思議と自分の祈りがどれだかわかった。


 祈りの言葉が光となり、一か所に集まっていく。

 その光が一瞬目が眩むほどに強い光となり、その後すぐ散っていく。

 散っていった先には、三つの入り口が出来ていた。それぞれの、祈りの言葉の下に。


「ここからは別行動ってことか」

「そうね。私は中央かしら」

「セイジが右で、俺が左。なかなか粋なことをしてくれるじゃねえか」

 

 それぞれが同じ場所に行くメンバーを見回しながら、好戦的な笑みを浮かべる。

 そんな中、マックが地面に自分で作ったというアイテムを並べ始めた。

 薬師としての役割を全うしようとしているらしい。見る限り、この国で最高と言っても過言ではない回復薬だった。

 早速高橋がアイテムを手に入れ、代わりに『炎虎の真革』という簡単には手に入らない素材を差し出している。

 セイジはカバンに手を突っ込むと、最近入ったダンジョンで手に入れた魔物素材『玄固げんこ剛皮ごうひ』という岩蜥蜴の皮を取り出し、マックに渡した。そしてありえないほどに効果の高いポーションとマジックポーションを各10本ずつ手に入れた。おまけと言ってその他アイテムも貰ったので、セイジはそれも受け取ってカバンにしまった。全部トータルすると、あんな素材ひとつでは釣り合わないな、と思いながら皆と物々交換をするマックを見下ろした。

 

 セイジはちらりとメンバーを見た。

 クラッシュ、ユーリナ、マック、ヴィルがセイジと共に入るメンバーだ。

 アルと共に左に入るメンバーは、ガンツ、月都、高橋、『幸運』と呼ばれる男ヴィデロ。見るからに攻撃特化のメンバー。

 エミリと共に中央に入るメンバーが、ドレイン、ブレイブ、海里、ユイ。

 面白いほど綺麗に得意分野別に分かれたメンバーに、セイジはなるほどな、と肩を竦めた。

 同じように行動を共にするメンバーを確認していた二人と拳を合わせ、互いの武運を祈る。

 しかしセイジはそれほど心配はしていなかった。それは、仲間への信頼であり、一緒に行くメンバーの実力を知っているからでもあった。

 この先に待ち受ける試練に向かって不敵に笑った。



 皆が入り口をくぐると、案の定入ってきた道は塞がれた。

 後ろが閉まると、神殿の声が響いてくる。


『知を欲する者よ、己のすべての力を使い先に進め』


 その言葉にセイジはフッと笑う。


「そうか。ここは『知』の場所なのか」

「ってことは、向こうの入り口は『力』と『魔』ってところ?」


 セイジの呟きを補足するように、ユーリナがなるほどと頷く。

 知ねえ……とセイジはメンバーを見回した。入り口にあった祈りの言葉。「更なる知恵」「更なる知識」というものが、ここにいる誰かの祈りということになるな、と青く浮かんでいた文字を思い出していたセイジは、ふむ、と息を吐いた。


「アルが更なる『力』、エミリが更なる『魔力』ねえ……」


 あれ以上の力を手に入れちまったら、もうあいつらは化け物に近いよな、と笑いがこみ上げ、それに並ぶ自分は既に人族の道をはみ出ている存在だということに気付き、がっくり肩を落とす。でも後悔はしていなかった。少しだけ下降した気分を浮上させるかのように、セイジは足を前に進めた。



 神殿の中は、石造りの柱が立ち並ぶ、かなり広い回廊だった。

 セイジが前に進んだとたん、壁に三本の光が現れた。何かの魔素が作動したトラップかとセイジは警戒したが、特に何かが起こるということはなかった。

 光は、閉まった入り口からちょうど今セイジが立っている横まで伸びている。何とはなしに足を止めてみていると、一本はそこで止まり、残り二本はさらに伸びていった。


「なんだこれ」


 セイジが呟くと、皆が首を捻る。

 でもまあ今のところ害はなさそうだ、とセイジは視線を前に戻した。



 壁を走る光と共にしばらく足を進めると、突然ヴィルが口を開いた。


「そこから先、ちょっとこのまま進むのはよくない気がする」


 どうしたんだとセイジが振り返ると、その言葉に従うように、クラッシュとマックの足が止まった。

 なんで、なんていう疑問も飛び出さないことから、この男の何かしらの能力が発動したんだということに、セイジも気付いた。


「そこから先はトラップだらけよ」


 ユーリナが、ヴィルの言葉を肯定するかのように呟く。

 シーフの能力も持つユーリナは、前に一緒にシークレットダンジョンに入った時もこの能力をいかんなく発揮してくれていた。セイジが足を止めると、ユーリナは早速罠の解除を開始した。

 すぐに半数以上の罠を解除してしまう。その手際に、セイジ含め皆が感嘆の眼差しをユーリナに向けた。

 しかし、当のユーリナは難しい顔をして、辺りに目を配っている。手を伸ばして、「リリース」と罠解除の詠唱を唱えている姿を見て、クラッシュがポツリと一言呟いた。


「俺もああいうのちょっと覚えたい」

「クラッシュは盗賊シーフになりたいのか?」


 呟きを聞いたセイジが横にいるクラッシュを見下ろすと、クラッシュはハッとしたように顔を上げて、慌てて首を振った。


「そういうわけじゃないんですけど、俺、特技とか持ってないですし」


 その言葉に、セイジは思わず吹き出した。

 クラッシュは前に魔力暴走しそうになってから、いきなり体内魔力がグンと増えたのを、セイジは見抜いていた。

 その魔力量は、すでにエミリに近い物がある。もしかしたら、クラッシュも魔大陸で活動できるかもしれない、そう思えるくらいに。さすがエミリの子だよな、と目を細めた。


「クラッシュは魔力が増えただろ。今じゃエミリに近いもんがあるんだぜ。それって化け物並みだってことだ。今のクラッシュなら魔大陸にだっていけるんじゃないかな?」

「え、ほんとに?」


 目を輝かせたクラッシュの髪を、わしわしと乱暴に撫でる。今までどんな能力もほぼ現れなかったクラッシュにとって、魔力が多い、ただそれだけでも嬉しい物があるようだった。



 そんな無駄話をしている間にも、ユーリナは一人トラップに奮闘していた。

 横ではヴィルがユーリナの手を観察しているかのように眺めている。


「何でそんな無造作に歩いてトラップ作動させないわけ」

「なんとなく歩いていい場所がわかるからな」

「何よそれ。そういえばこの神殿を見つけたの、ヴィルさんだったっけ。もしかしたらそんな感じでなんとなくこの神殿を見つけたんじゃないでしょうね」

「まさにそれだ。気になる方に歩いて行ったら、ここを見つけたんだ」

「……嘘でしょ」


 呆れたようなユーリナの言葉に、セイジは耳を傾けた。

 セイジの感想も「まさかな」だったが、クラッシュとマックが「冗談みたいだけどほんとだよね」と頷き合っていたので、自然に眉が寄る。

 最近当たりダンジョンにぶち当たっていないセイジは、そんな簡単に見つかるようだったら、シークレットダンジョンも見つけやすいだろうな、とちょっとだけヴィルの能力を羨ましいと思った。

 そんなヴィルが、どうしてもユーリナが解除できない罠をどうやっても解除したほうがいいと言い出した。

 残っていたのは3つのトラップ。ユーリナでは罠解除のレベルが足りなくて、手が出せない物だった。

 

 ふと壁を見ると、同じようなところで三本の光が止まっている。

 自分たちの動きに合わせて伸びる光に、後ろの方からマックの呟きが聞こえた。


「もしかして、これ、俺たちが進んでるのを示してる、とか?」

 

 言われて、そうかもな、と気付く。しかし、トラップで戸惑っている自分たちだけじゃなくて、他の二組も全く進んでいないのが気になった。


「なあ、ユーリナ君、あのトラップを解除する気はないか?」

「え、無理よ。成功率20%よ? 失敗したらどうなるかわかったもんじゃない」

「でも、あの罠は解除しないとだめだ」


 ことごとく奇跡のような発見をした男の言葉に、一同が唸る。

 それはあのトラップに何か仕掛けがあるということに他ならなかった。



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