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50、最強HPのボス魔物


 大分HPが回復したところで、セイジが立ち上がった。

 

「そろそろ大分体力回復したろお前ら。準備はいいか? いい加減中で暴れようぜ」

「おう!」


 軽めの口調で皆を見回しそう言い放ったセイジの声につられるように、皆一斉に立ち上がりながら気合いの入った返事をした。

 最終ボスの待つ部屋のドアは、簡単に開いた。しかし全員が入った瞬間開けられていたドアがひとりでに締まり、最後に入った月都が確認のために押してみてもピクリとも動かなくなっている。

 全員の息の根がとまるか、この部屋の主が光と化さないとここから出られないようだった。


「逃がさないってことかよ……望むところだぜ」


 研がれて鋭利さを増した片手剣を構えた月都が、影になってよく見えない巨体を見上げる。

 暗がりの中から、赤く光る合計12の光が、二組のパーティー及びセイジを見下ろしていた。

 今まで襲ってきたドラゴンが子供かと思うようなとんでもなく大きな体躯の首が6本ほど生えたドラゴンが、大きく息を吸って。


「ゴアアアアァァアオオオオオオ!!」


 岸壁を震わせるほどの咆哮を放った。


 咆哮によって、走り出そうとしていた前衛が動きを止める。それほどに威圧の強い咆哮だった。

 入り口付近で何とか耐えたセイジが、一度舌打ちして精神力向上の魔法陣を描き、前衛に飛ばす。途端にドラゴンの黒いブレスがセイジのいるところまで届いた。前振りは全くなかった。



「やっべえ。強い!」


 高橋が目の前に現れた黒い巨体に気圧されそうになるのをとどめるかのように大声を出す。

 最後のボスドラゴンは、首が6本ほど生えたブラックドラゴンだった。このように首が多数あるドラゴンは稀有な存在であり、伝説の古龍に並んだ希少な種とされていた。

 そのドラゴンが目の前で赤い12の目を光らせ、一斉に、まるで心臓を鷲掴むような錯覚を起こさせる咆哮を上げている。

 そのでたらめな威圧に、セイジは自然と笑いが浮かんだ。

 まるで。


 そう、まるで、昔感じた魔王と対峙した時の圧力のようだった。

 魔王とドラゴンでは、その個体の強さは段違いだが、それでも否応なく緊張感が高まっていく。

 すぐさまセイジは手を動かし、魔法陣を描いた。描かれた魔法陣はすぐさま広がり、ドラゴンと対峙するメンバーを包み込み、身体能力を上昇させた。

 高橋とガンツ、そして海里が飛び出し、ドラゴンに切りつける。


「HPバーが黒くなってて見えねえってなんだよ!」


 構えた大剣を、重さを感じさせない動きで振り回しながら、高橋が叫ぶ。

 ガキンという硬質の音と共に、高橋の手に反動が来た。

 

「黒くて見えないんじゃないみたいだぞ」


 ガンツが槍を突き出しながら、迫りくるドラゴンの爪から身を躱し、ちらりとドラゴンの頭上に視線を向けた。


「白の上が、黒のバーみたいだ!」


 ドラゴンの頭上に掲げられたHPは、今まで見たことのない黒い色が少しだけ削れて、白い色が見えていた。

 ガンツに向かって爪を振り下ろしたドラゴンが、間を置かずに息を吸う。高橋が「やべ!」と逃げの体制に入る前に、ドラゴンの口から黒い炎が噴き出された。

「くそ!」とセイジは舌打ちし、防御の魔法陣を描く。と同時にドレインの杖から魔法防御アップの魔法が飛び出した。

 ユイは飛翔を使い、ドラゴンの頭上に跳び、そこから背中に向かって高威力の攻撃魔法を紡ぎだす。

 後衛が光の矢を次々射て、ドラゴンのHPを削りにかかる。しかしドラゴンのHPはなかなか思う様に減らなかった。

 とにかくドラゴンの攻撃は溜めがなく、しかも各首が連携して攻撃をしてくるので、逃げるタイミングを間違うと首同士のコンボを食らってしまい、一瞬で戦闘不能にもなりかねない。


「各個撃破ってのが出来ないのが厄介だな」


 惜しげなく攻撃の魔法陣を打ち続けながら、セイジがぼやく。

 一つの首対一人だったならまだ勝機も幾分高かっただろうが、連携で6体の首と爪、そして尻尾が次々攻撃を加えてくるのだ。連携においてはプレイヤーの中でも上位に位置する二組のプレイヤーたちですら、その連携は苦戦を余儀なくされた。

 そしてなにより一番厄介なのは。


「うわ、ブレス触れたとこ穢れた!」


 一つの首が吐いたブレスから逃げそびれて腕にそれを浴びてしまった高橋が、黒ずんだ腕を見て吐き捨てる。

 穢れという物は、バッドステータスの一つで、聖水やそれに準ずるものがないと消えない、身体の自由を奪っていく軽度の呪いのような物だ。穢れると、その場所の動きが緩慢になり、いつもの動きが出来なくなる。

 両手で大剣を持ち攻撃するスタイルの高橋にとって、片手の穢れであっても、かなり戦闘に響いてしまう。

 前線を一旦退き、カバンの中から酒瓶を取り出すと、高橋はそれを黒ずんだ手に掛けた。ジュ、と音がして、高橋が顔を顰める。その後、元に戻った手を振って調子を見てから、また前線に戻っていた。

 黒い体躯だけあり、目の前のドラゴンは属性が闇だった。


 

「HP全然減らねえなあ!」


 片手剣を振り回し、月都が叫ぶ。

 一本の頭を一斉攻撃しようとしても、それを庇うかのように他の首が攻撃する者を蹴散らそうと動き、前衛組はなかなか致命傷となる攻撃が出来なかった。

 爪を避け、その後すぐ飛んでくる尻尾を切りつけ、唸りと共に降って来る何本もの牙から身をひるがえす。身体上昇のバフがかかっていなかったら、すでに今の一連の攻撃でHPがなくなっていた程の強力な連続技。それを必死で避けた月都は、それでも剣を構えて挑発する。


「全然当たらねえなあ!」

『ゴアァァアアアアア!!』

 

 月都を獲物に決めたらしいドラゴンが、すうっと目を細め、息を吸う。


「ブレス来るよ!」


 上からドラゴンの動きを見ていたユイが叫ぶと、一つの頭がユイを見上げた。


「大空を翔る風の聖霊よ、目の前にそびえる魔の物を……きゃ!」


 魔法の詠唱をしていたユイに、一本の首がブレスを吐く。まともに食らってしまったユイは飛翔の魔法を解除されてしまい、宙から投げ出された。それをブレイブが素早く動き受け止め後衛に連れて来る。すかさずドレインがユイに回復魔法をかけた。

 その間にもガンツと月都が連携で首にコンボを決めている。そこに高橋も加わり、さらに攻撃回数重視の海里が双剣でコンボを繋いでいく。途中入る光の矢も問題なく入り、首の一本が力なく垂れた。


「一本沈めたか?!」


 喜色の込められた声を月都があげるが、目の前で信じられない光景が展開された。

 残りの首が一斉に項垂れた首を食べ始めたのだ。それを見てしまった皆が、無意識に顔を顰めた。

 

「共食い、かよ!」


 高橋がまだ食べ続ける首の一つに剣を叩きつける。ガキン! と音がし、高橋の口から舌打ちのような音が洩れた。


「さっきよりかってぇ……!」

「強化してるのか……?!」

『ゴアァアアアアァァァァア!!』


 首の一本減ったドラゴンが、尻尾を一閃し、咆哮をあげる。先ほどよりも強い威圧が部屋全体を覆った。

 

「高貴なる光の聖霊よ、その高貴なる稀有な力をこの幾多の矢に宿し、目の前の穢れた者を駆逐せよ! ギガフラッシュアロー!」


 ユーリナの声が震える空気の中響き渡り、その直後手に持った弓から十数本の光の矢が射ち出された。

 そこにセイジの描いた魔法陣が重なり、光の矢の輝きが増す。

 十数本の矢はドラゴンの首ではなく、身体全体に次々と命中していった。

 首一本ではそこまで減らなかったHPバーが一気に減る。

 

「首じゃなくて身体を狙ったら!?」


 HPの減りを見てから、ユーリナが前衛に発破をかけると、前衛から「この攻撃をどうやって掻い潜ればいいんだよ!」とちょっとした泣き言が聞こえた。

 言われた通り身体を攻撃しようとも、すかさず首がガードしてそこから連続攻撃が入って来る。

 爪が引っかかり腕を牙が掠め、前衛陣はじわじわと残り5本の首に翻弄されていた。

 

 



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