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49、大所帯でシークレットダンジョン


 辺境に戻ってきて数日付近を探索していたセイジは、今度は守りの要である大きな壁沿いに歩いた。たまたまもう一度魔大陸を拝もうと壁に上がったら、壁間際の森の中に亀裂を見つけたからだ。

 気分が変われば状況も変わる。

 まるで今の状況のようだった。

 セイジは壁付近で、現在アルについて鍛えられている『白金の獅子』と『高橋と愉快な仲間たち』を見つけて声を掛けると、二組は間を置かずに「行く!」と返事をした。

 アルは全く手を出さず、ただそこで見ているだけで、二組だけで魔物討伐をしていたようだ。

 ためらいなく答えた二組の異邦人パーティーに、今回は大所帯だな、とセイジは苦笑を浮かべた。



 壁の間近にある亀裂に近付くと、セイジは魔法陣を描いた。

 瞬間、視界が暗くなる。

 周りは岩場、そして、なんとなく蒸し暑かった。

 先ほどまで一緒にいたアルは、「せいぜいセイジの力になりやがれ」と二組を快く貸し出してくれた。

 たまに地面が揺れるのは、地脈が活発化しているせいか他の理由か。


「もしかして活火山みたいな所かもな」


 ガンツが周りを見回しながらぽつりと一言零す。


「活火山……?」


 訊いたことのない単語に、セイジが訊き返すと、ガンツの代わりにドレインが嬉々として答えてくれた。


「俺たちの所では、地面の下にマグマが流れてるんだよ。それがたまに山から吹き出すんだけど、それを火山っていうんだ。その吹き出すときに地震が起きてこんな風になるんだけど、ここにはそういうのないの?」

「ないな……マグマってのはなんだ? ここの地の下には地脈が流れていて、そこには地を正常に保つ力を持つ魔素が流れてるんだ。それの調整を司ってるのがエルフと言われてるが、まあ俺は実際にエルフが地脈を調整してるところを見たことはねえな。エミリが詳しいからそのうち訊いてみろよ」

「へえ。マグマの代わりに魔素か。この世界の魔素ってすごく便利っていうか万能なんだね」


 感心したように呟くドレインの言葉を聞いて、セイジは苦笑を漏らした。確かに便利だけれど、一番ままならないのも魔素だった。

 穢れ切った魔素の塊を思い出し、セイジの目が少しだけ細められる。


「それよりも来たぜ」


 先頭を歩いていた高橋が、後ろに向かって注意を促した。

 全員がその言葉を機に臨戦態勢を取る。


 地鳴りが起こり、壁の岩がその地響きで揺れ、小さな石がころりと落ち足元をカラカラと転がる。

 次の瞬間、横合いの岩場から破壊音が響き、岩の崩れる音と共に身を震わせるような咆哮が聞こえてきた。

 崩れた岩の間から出てきた大きな赤い魔物に、皆の顔が驚愕に変わる。


「おいおい、最初からレッドドラゴンかよ……」

 

 現れた魔物は、全身を赤い鱗で覆いつくした、ドラゴンと呼ばれる種類の物だった。身の丈は人二人分くらいの高さがあり、じろりと下を見下ろす瞳は冷たく光っている。

 セイジは瞬時に魔法陣を描き、全員の防御力を上げた。

 前衛の高橋、海里、ガンツ、月都は早速ドラゴンに攻撃を仕掛ける。

 弓を使うユーリナ、ブレイブも赤いドラゴンの弱点と推測される水の弓矢を飛ばした。

 一斉に攻撃を受けたドラゴンは、尻尾を一振りして高橋と海里を跳ね除けると、その回転の勢いでガンツに噛みつき攻撃を繰り出した。

 ガンツの目の前でガキン! と大きな牙が噛み合わされる。逃げの動作に入っていなかったら一瞬で身体のどこかを持っていかれそうなスピードだった。

 ユイが飛翔を唱え、ドラゴンの上部に浮かび上がる。ユイは、力強い尻尾を、鋭利な爪を振り回し前衛をあしらい続けるドラゴンに向かって、上から魔法で攻撃を開始した。


「生命の源なる水よ、その力を結集させ石よりも固くナイフよりも鋭利に姿を変え、邪なる物を切り裂け! ウォータースラッシュ! 二連発!」


 シュン、という音と共に上からドラゴンの身体を水が切り裂く。背の裂けたドラゴンは、しかし致命傷には程遠いかのように咆哮し、スゥ……鼻から息を吸った。


「ゴォォォォアアアア!」

「きゃ!」


 一拍置いた後、口からユイに向かって炎が飛び出す。

 咄嗟に避けれなかったユイにドラゴンの炎のブレスが襲い掛かり、ユイが頭上から落ちて来る。

 セイジは咄嗟にユイを受け止め、後ろに無造作に置いた。すぐさまドレインが回復魔法をかける。

 

「一匹目からこれって酷くねえか?!」


 ちらりとユイの姿を目に収めた高橋が、手にある大剣を振り回しながら叫ぶ。それに同意しながら、海里が岩を足場にして上に跳んだ。手に持った双剣をドラゴンに向け、「クロススラッシュ!」と剣を振る。剣から赤い光の斬撃が飛び、ドラゴンのHPを少し削った。反対側にいたガンツが槍をわき腹に突き刺すが、鱗が邪魔をしてそこまで深いダメージを与えることが出来なかった。

 

「オラオラ! 『ドラゴンクラッシュ』! 連発してやるぜえ!」


 片手剣を自在に操り、スキル攻撃を繰り出す月都は、最初から飛ばしていた。

 腹の下に潜り込み、一番皮膚の弱い白いところに『ドラゴンクラッシュ』を連発する。

 一斉に攻撃されたドラゴンは、瞬く間にHPを減らし、白かったHPバーは一気に赤まで削られた。

 

「来るかよ、最後のあがき!」

「構えとけよ!」


 HPバーが赤くなった瞬間、ドラゴンの身体からズン、と周囲が重く感じるほどの圧が発せられた。

 皆腹の底に力を入れて構えていたせいか、次に来た咆哮の威圧はほぼ影響がなく、涎の垂れ始めたドラゴンにさらに追い打ちをかけていった。

 セイジが手を出すまでもなく、一匹目のドラゴンは光となって消えていった。

 

「あれが雑魚なんておかしいよねこのシークレットダンジョン」


 光を見送りながら、ドレインがため息とともにそんな言葉を零す。

 そして、その言葉がきっかけか、皆に「もしかして……」という想いが沸いてきた。

 ここは、「当たり洞窟」なんじゃないか。

 今セイジが持っているクリアオーブのひとつが、目の前にいる『白金の獅子』によって手に入れることが出来たものだった。

 高橋がセイジと供にシークレットダンジョンに入ったのはこれで三度目。そのうちクリアできた二つは風魔法の入ったグリーンオーブだったが、その時の魔物とは強さが段違いだった。あの時は下手をするとユイ一人でも走破出来る程度の魔物だった。一緒に入った者のレベルも関係しているのかもしれないが。

 

「ま、とにかく進もうぜ」


 何事もなかったかのように、セイジは足を先に進めた。



 そこから出てくるのは大小属性バラバラだったが、すべてが大型の爬虫類、ドラゴンと呼ばれる物だった。

 一匹現れるごとに苦戦していく戦闘に、皆が早々に手持ちのアイテムを切らせたりMPが枯渇寸前まで行ったりと不具合を出し始めた。

 周囲の空気が蒸し暑いのもスタミナを早く消耗する要因の一つだった。まるでここは、火山の中の洞窟のようだった。

 救いなのは、不意に地面からマグマが吹き出したりはしないところくらいである。


「やべえよ……こんなにドラゴン祭りだとは思わなかった。ゆっくり見れないけど、クリアあとのインベントリを見たら笑いが止まらないんじゃないか? ……と、あぶねえ」


 独り言なのか隣にいたガンツに零したのか、月都がそう言ってため息を零した瞬間、小さめのドラゴンのブレスが月都を襲う。何とか避けて反撃するが、小さいがゆえにすばしっこいドラゴンは、月都の剣をひらりと躱した。

 天井の高さと道幅が関係あるのか、大きなドラゴンの場合は一匹で、小さなドラゴンの場合は群れで襲ってきた。

 セイジも魔法陣を駆使して攻撃と防御、そしてバフ掛けを間を置かずに飛ばしまくっている。

 

「もうやだ! 切りがないよ! 『ストムプレス』!」


 泣き言を叫びながら、ユイは広範囲に風の圧縮魔法を飛ばした。

 その魔法に巻き込まれた魔物が地面に叩きつけられ、潰され、次々光となる。

 肩で息をしていたユイが顔を上げた時には、抉れた地面と空中に舞う魔物の光しか目に入らなかった。


「流石ユイ。ユイの魔法はぴか一だね」

「ええと、そんなことないですよ」


 褒めにかかるドレインと謙遜するユイに海里が「次すぐ来るよ」と注意を促す。

 二人とも慌ててマジックハイポーションを煽った。




 最後の部屋の前と思われる場所に着いた頃には、皆の装備の耐久値があらかた落ちていた。まともにドラゴンの攻撃を受けたら数発で鎧が使えなくなる程度の耐久値に、それぞれが苦笑する。

 前に出過ぎて二度ほど鎧を変えた高橋の手には、二本目の大剣が握られていた。


「俺もうハイポーション全滅」

「残ってる奴の方が珍しくないか?」

「私、まだハイポーション持ってるからあげるよ」

「じゃあ俺のマジックハイポと交換な」

「え、高橋はスキル沢山使うでしょ。自分で持ってないと」

「いいんだよ。まだ最高級の味のやつキープしてるから」

「ありがと」


 ユイと高橋がアイテムの交換をし、ブレイブが弓の調整をする。海里は双剣を研ぎ切れ味を上げていて、ガンツは削られたHPを回復する。

 それぞれが最終ボス前の準備に余念がなかった。


「しかし、最終ボス前でまさかのエンカウントなしエリアがあるなんて、すげえなこの洞窟」


 狭いながらも岩に囲まれた小さなエリアは、岩のおかげか何なのか、敵影が岩の外以外全く現れない安全区域の様な場所だった。

 皆がそれぞれ自然回復できるよう、腰を下ろす。


「でも逆にここがあるから次が最後だってなんとなくわかっちゃうから、緊張するね」

「海里なら大丈夫だろ」


 腕を伸ばし、身体を解しながら海里とブレイブが会話していると、ユイがしゃがみ込んで何かを拾った。


「見て、ここ素材もあるよ。このお花可愛い」

「わ、ほんと。あたしも何個か摘んで行こう」


 ユーリナとユイが花を摘み始め、他のメンバーがその姿に少しだけ心を和ませた。 

 


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