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47、手に入れた宝物


「それにしても、何でクワットロの呪術屋から」

「たまたま行ったときに頼まれたそうだ。持ってきたのは一通の手紙と一つのアクセサリー。俺が持ってても仕方ねえのに、呪術屋はなぜか俺に託しやがった。多分、『高橋と愉快な仲間たち』を育てろってことなんだろうけどな。ジャスミン、前に預かっててもらったアレ、どこにしまった?」

「あれはあなたの部屋の机の引き出しに入っていますよ」

「持ってきてくれねえか?」

「わかりました」


 アルの頼みを二つ返事で了承したジャスミンは、アルの腕から解放されると、失礼しますと言って部屋から出ていった。


「どうもな、サラの魔力の残骸で、呪術屋にアーティファクトが形成されたらしい。それは既にあるべき者の手に渡ったと書いてあったが、同封されていたアクセサリーがな」

「サラの魔力……」


 アルの言葉に、セイジはふと、この特殊な目を手に入れた時のことを思い出していた。

 カウンターから感じた、とても懐かしい様な、泣きたくなるような魔力のことを。あの魔力がアーティファクトとして形成され、それが然るべき者の手に渡ったと。その然るべき者が自分じゃないことに少しだけ寂しさを感じたが、それも一瞬で霧散した。自分にはサラと同じ能力はなかったから。サラと同じことをする者の手に渡ったということなんだろう。


 ぐっと上質の酒を一気に煽ったところで、ジャスミンが部屋に戻ってきた。

 手にしていたのは、手紙と、昔よく目にしていた、アクセサリー。

 魔力を増幅させることが出来るんだ、と耳に着けたそれを自慢げに見せていた姿が、まざまざと脳裏に浮かぶ。


「……サラ」

「やっぱりサラのだったか。魔力増幅ピアスだろそれ。どっかで見たことあったよなあって思っててよ」

「ああ。これを手に入れた時、すげえ自慢された。「ほしいでしょう。でもあげないわ。でももっといい物をプレゼントしてくれたら、もしかしたらこれをあげるかもね」って言われたな」


 コロンと手の上に乗せられたそれを見下ろし、口元をほころばせる。今思えば、プレゼント交換をしたかったんだろうなというのがわかるが、当時はそんなこと気付きもしないで「いらねえよ」の一言で済ませてしまった自分を悔やむ。


「それは好きにしろと書かれてたから、ルーチェにやるよ」

「ああ……でもまだこれ以上にいい物をプレゼントしてねえから、預かっとくだけにする」

「馬鹿だな、前借りしとけばいいじゃねえか。あとでもっともっとサラが喜ぶものを返せよ」


 今度こそアルの腕から逃げて横に座ったジャスミンの勝ち誇ったような顔に笑いを誘われながら、セイジは「喜ぶものなんてわからねえよ」とピアスを握りこんだ。


「あら、簡単ですわ。セイジさんが「愛している」と伝えれば、それだけでおつりがくるくらいですから」


 こともなげにそういうジャスミンに、とうとうセイジは笑い出した。

 物でもない、プレゼントでもない。でも、一番サラが欲しい物。

 実はジャスミンの答えは的を射ていたのだが、それを証明してくれる本人(サラは、遠く彼方で眠っている。

 サラのピアスは、セイジの耳に飾られることなく、そっとセイジのカバンの中にしまわれた。



 アルの家に泊まったセイジは、しばらくは辺境付近を探索することにした。

 街の大通りは、物々しい鎧を着た異邦人たちが闊歩している。朝から鍛冶屋の鉄を打つ音が街に響く。

 大きな壁に阻まれており、門を守っている者たちがいるのでこうして街の中は気を抜いていられるが、壁一枚隔てた街の外には、一筋縄ではいかない魔物が跋扈しており、アル率いる辺境騎士団や腕に自信のある異邦人たちがその魔物を倒すことで街の安全が保たれていた。

 異邦人もかなり多くなり、街付近の魔物は大分減ってきていた。しかし、サッと見ただけでも騎士団が疲弊しているのがわかる。

 きっとアルは率先して外に出て魔物を狩りたいだろうと思う。一人でもきっと魔物に苦戦することもないだろうとも思える。しかし、その油断や一瞬の隙が命取りとなる魔物との戦いにアル一人で出向かせることは出来なかった。かといって、騎士たちと一緒に出たとして、変異した魔物が出た場合、最悪足手まといになりかねない。しかもアルには騎士団長という肩書がある。そして、この国の第三王女を娶ったことにより、さらにアルの足を止めさせる枷は強固なものになっていた。


 不幸ではないようだが。

 と目の前の風景にセイジは溜め息を吐いた。


「ジャスミンと離れたくない」

「あなた、今日も騎士の方があなたを待っています」

「騎士たちに待っていてもらってこれっぽっちも嬉しくない。俺はジャスミンと離れると心臓が止まるという病に罹っているんだ」

「ではあなたは心臓が止まっても生きていられるということね。強くて素敵。そしてあなたが騎士団を率いる姿も素敵」

「そうか? 俺はジャスミンにとってかっこいいか?」

「キリッとして鎧を着たあなたはとてもかっこいいわ。お仕事をしっかりやるあなたを愛しているわ」

「わかった行ってくる。だから今日も俺を愛してくれ」


 にっこり笑うジャスミンをようやく離し、アルがキリッとした顔つきで鎧を身に着けに行く。

 アルが鎧の部屋に消えていくと、ジャスミンが本当にコロコロと笑い始めた。


「毎日これか? 大変だなジャスミン嬢も」

「いいえ。私も楽しんでおりますから。本当にアルフォード様はお変わりなくて可愛らしいですわ。それに、全身で私を愛していると言ってくださるのがとてもいいのです。……私を娶ることでこの国に縛られてしまうという枷を着けてしまうのに、それを苦とも思わないと、全身で言ってくださるのがとても愛おしいのです」

「あいつはマジであんたにベタ惚れだからな。笑っちまう。国から鎖が付いてたとしても、アルはあんたがいる限り幸せ一色だろうよ」

「ふふ……本当は、もっと国に重用されてもおかしくないのです。しかし、上層部の中には、アル様とエミリ様を怖がる層がとても多くて。きっと皮を剥ぐととても黒い物が零れ落ちる方たちばかりなのでしょうね。父は、すでにそういう者を見極める力が衰えてしまった。きっと今父の顔を見たら、「くそ親父」と罵ってしまいそうで里帰りもできませんわ」


 品格のある振る舞いで、品格のある口調で、優雅な笑顔で「くそ親父」とためらいなく口にするジャスミンに、セイジは思わず吹き出した。あまりの違和感ある言葉が、どうにもおかしかった。

 セイジが笑っていると、アルはきっちりと騎士団の鎧を身に着けて颯爽と現れた。


「ジャスミン、行ってくる。俺以外の奴が来ても絶対に扉を開けるんじゃねえぞ。世の中危ないことだらけだ。もし無理やり入ってきたら撃退していいからな。あ、ルーチェ頼む、そこのドアに俺以外入れないような魔法陣を描いてくれ」

「そんなもん描いたら買い物に出たジャスミン嬢まで入れなくなるだろ。それにしばらくここで厄介になるからよろしくな。もちろんお前らの愛の育みの邪魔はしねえと約束する」

「いるだけで愛の育みの邪魔してるんだよ」

「そんな程度で育めなくなる愛し方なのかよ。幻滅したぜ……」


 セイジが呆れた声を出すと、アルが「そ、そんなことねえ! ルーチェの一人や二人いたところで俺たちの愛は揺らがない!」と叫ぶ。

 セイジの身の置き所が決まった瞬間だった。



 

 寝に帰る場所が決まったことで、セイジは悠々と北の探索に乗り出した。

 次元の亀裂は見つからないときは何日もお目に掛かれないことなどざらである。

 しかもどこに出るかもわからない。

 それでも探さないと、欲しい物は絶対に手に入らない。

 北の森にも大分異邦人たちは進出してきているけれども、亀裂があるところに常にだれかがいるとも限らない。

  

 アルの家に滞在し始めてから一週間。いまだひとつも亀裂は見つかっていなかった。

 

 



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