31、蝙蝠無双⁈
カエル、カメレオン、そこに蝙蝠が加わり、操られつつ何とか先に進むと、ようやくボス部屋と思わしき広間にたどり着いた。
「よっしゃー、俺の勝ちぃ」
「待て、乙が4回だろ。引き分けだ」
「違うって、リーダーは5回だろ。俺4回だから、俺の勝ちだろ」
ハルポンと乙が勝ち負けの口論をしているのを、ムコウダが盾を鳴らして止める。
「操られた回数なんて数えてるなよ。ほら。ちょっと回復したら、最後行くぞ」
「これだから男はガキだって言われるのよ」
呆れたようにミネが言うのを、セイジが笑いながら見ている。
途中もやたらカメレオン風魔物が出てきては操られて同士討ちさせられていたメンバーは、最後は何回操られていたのかで勝負をして遊んでいたようだった。
一番先頭にいて、操られる率の高かったハルポンは、「くそ」と悪態をつきながらも、楽しそうな顔をしていた。
「蝙蝠落とすの楽しかったあ。シューティングゲームしてるみたいだったよ」
ニコニコと弓を弄る乙は、蝙蝠を無双していた。ほぼ外すことなく一撃で蝙蝠を屠り、戦闘が一気に楽になっていた。
「ささ、最後の敵さんを捻りに行こうよ。それにしてもこの弓、補正が付いててほんと外す気がしない。楽しい!」
新しい武器を手に入れた面々は、攻撃力が明らかに一段階アップしていた。
その武器を手に入れたというテンションも加わり、ほぼ苦戦することなくここまでたどり着いた。
岩の間を通り抜けて、広間に足を踏み入れる。
すると、真っ黒だった天井が、一斉に羽音を立てた。
天井一面の蝙蝠が、一斉に襲ってくる。
「うほぅ! 何百匹いるんだよおおおお! 俺無双、行っきまーす!」
目をキラキラさせて、乙が弓を構え、手の動きが見えないほどの連射で蝙蝠を落としていった。
「これ、振り回しゃあたるんじゃねえ?」
ハルポンが剣を一振りするたびに、それの犠牲なった蝙蝠が地面に落ちて光になっていく。黒い羽根と消えていく光が入り乱れ、何とも幻想的な景色が広がっていた。
ミネも魔法をガンガン打ちまくり、ムコウダは蝙蝠のヘイトを盾を打ち鳴らして集める。
「おいおい、ムコウダが蝙蝠に囲まれて真っ黒い塊になってる! 手空いたらスクショしてえええ!」
ムコウダが蝙蝠に包まれているのを見て、ハルポンが思わず笑う。笑いながら剣を振り回しているのが何とも不気味だった。
セイジも魔法陣で魔法を繰り出し、蝙蝠を順調に屠っていた。
もう一人何匹倒したのかわからない、というくらいに蝙蝠を倒していたが、蝙蝠は無尽蔵に湧き上がってきていた。
「なあ、この手応えのねえ蝙蝠がボスとか言わねえよな!」
少し離れたところで魔法陣を紡いでいたセイジに向かって。ハルポンが叫ぶ。
ほんの少しのHP減少も、しばらくの間受けていれば結構な減少になる。
ムコウダは前は守れても、後ろには盾はなく、四方八方からくる蝙蝠の攻撃にHPを地味に削られていた。
全身にまとわりつかれているせいか、周りからの攻撃をするとムコウダにまで攻撃が通りかねない。
セイジはちっと舌打ちすると、腰から短剣を引き抜いた。
飛び交う蝙蝠の間を走り抜け、ムコウダの周りの蝙蝠目がけて短剣を振り回す。
一振りごとに手に肉の切れる感触が伝わり、少しずつムコウダ本体が見え始めた。
「生きてるか!」
「何とか」
くぐもった声が黒い塊の中から聞こえてくる。
さらに短剣で蝙蝠を切り続けていると、手が動くようになったムコウダが盾を地面にガン! と打ち付けた。
瞬間、その衝撃で盾に群がっていた蝙蝠が落ちていく、すかさず足で踏みつぶすと、落ちた蝙蝠は光となって消えていった。
「くそ、きりがねえ!」
剣を振り回しながら、ハルポンが唸る。未だ天井は黒く、岩の黒さなのか蝙蝠の塊りなのかすら判別できない状態になっているのが気を滅入らせていた。
そしてそれは誰もが考えていたことで。
ミネが耐えられないという様に、ムコウダの所にいるセイジに声を掛けた。
「セイジ! マジックハイポーションまだ持ってるなら買い取らせて! もう手持ちがないの!」
「いいぜ! 少しならある!」
セイジも即座に応じ、カバンからマジックハイポーションの瓶を取り出して、正確にミネの所に放り投げた。
それをしっかりとキャッチし、ミネが飲み下す。
「よっしゃあああ! MP回復! ちょっと離れて! 面倒だからMPドカンと使ってそこら一帯焼くから! 『偉大なる炎の聖霊を束ねる者よ、その……』」
「待て待て待て! 巻き込む気か!」
即座に詠唱を始めたミネの言葉に、皆が慌てて後方に下がった。
「『……ここで解放せよ! フレイムインフェルノ!!』」
ミネの杖の先がカッと赤く光り、そこから特大の炎の塊が飛び出していく。
蝙蝠の群れの中心付近に飛んだところで、その炎の塊が四方に盛大に燃え広がった。
天井の半分ほどが炎に包まれ、ギーギーと蝙蝠の苦渋の鳴き声が炎の燃える音にかき消されていく。
炎が消え去ると、そこは灰色の岩肌が見えていた。
いまだ蝙蝠は飛び交っているが、今までの真っ黒な天井からすると、そこが灰色になっただけ明るくなったような錯覚すら覚えた。
「……完っ璧MP切れ。でもすっきり」
へたりこんだミネの横に移動したセイジが、ニヤリと笑ってミネを見下ろした。
「もう一本いるか?」
「貰うわ。っていうか、すごく効果高いわね、このマジックハイポーション」
「だろ。俺のお手製だ」
「ダンジョンサーチャーのお手製マジックハイポなんて、すっごい付加価値付きそう。転売ダメ?」
「くくく、ダメ。トレの雑貨屋で買えよ」
もう一本をミネに渡し、セイジは残りの蝙蝠の殲滅にかかった。
かなりの数が減った蝙蝠は、これ以上増えるようなことはなかった。
最後の一匹を光の矢で倒した乙は、蝙蝠が光となって消えた瞬間「おわったあああああ!」と快哉を叫んだ。
そこにムコウダが冷や水を浴びせた。
「いや、乙、これからだ」
「へ……」
笑み崩れていた乙の顔が、一瞬にして引き攣った。
蝙蝠が消えた天井に、ぴしりと亀裂が入ったのが目に映ったからだ。
「本命のお出ましだな」
「くっそくっそ! ぬか喜びさせやがってえ!」
亀裂に弓を向け、悔し紛れに的を絞る。
「まあ、あんな数だけの魔物がボスだとは誰も思わねえけどな」
「途中からわけわかんなくなって「こいつらいなくなったら終わるひゃっは――!」なってたよ俺! 馬鹿みてえじゃん!」
「乙は最初から馬鹿だから大丈夫」
「ミネ! それフォローでも何でもないよ?!」
「ああうん。フォローしたわけじゃないから」
「ひでえ! ミネがひでえ! デフォだけどやっぱりひでええ!」
「ほらほら、出てくるぞ」
ふざけている間に、地響きとガラガラという岩の落下音がだんだんと大きくなってくる。
剣と盾と弓と杖が向けられる中、亀裂から、鱗に覆われた、大きな爪のついた手が出てくる。
「ドラゴンきたあああ!」
「乙煩い。ウィンドカッター!」
突っ込みつつ、出てきた手に向かってミネが風の刃を飛ばす。
ザクっと鱗が切れて、そこから緑色の血がどろりと垂れる。
「うっわ粘着質な血やだあ! 私絶対近付かない!」
「ミネは元から遠距離でしょ!」
今度は乙がツッコみつつ、頭を出してきた魔物の目に向かって光の矢を射る。
間を置かずにもう一本射ると、二本とも魔物の両目に突き刺さった。
『シャアアアアアアア!』
先制攻撃されてしまった魔物が、大きな口を開けながら、亀裂から落ちてくる。
それは、先ほどの部屋にいたドラゴンとはちがい、巨大なトカゲ、という様相をしていた。
落ちてきたトカゲの魔物は、ハルポンの剣の餌食になる前に、気を取り直したように素早く地を這った。そのまま壁を這い、天井に張り付く。その動きは目で追うのがやっとという速さだった。
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