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30、お宝!

こっそりとアルファポリスさんのファンタジー大賞にこの作品で参加させてもらっています。

もしよければ、ぽちっとしていただけると嬉しいです。


「ああくそ、途中途中操られるのがマジうぜえ!」


 シークレットダンジョンに入った時点で、すでに手持ちの回復薬がほぼなくなっていた状態だった。決して万全とは言えない。

 それなのに、魔物の攻撃に加え、レベルを上げてある程度の魔物なら一回の攻撃で葬れるほどの力を持ったパーティーメンバーからの攻撃も防がないといけないという事態に、『マッドライド』はかなり精神的に疲弊していた。


「ゆっくり休める場所も確保できないときた。こりゃあ、ランクの高いダンジョンだな」


 カバンに詰め込まれた手製のハイポーションを煽りながら、セイジがひとりごちる。

 皆にも手渡し、ついでに回復の魔法陣を描いていく。

 目に見えて回復する外見とは裏腹に、メンバーの表情はすっかり疲れ切っていた。


 少しだけ休憩とばかりに、魔物を倒したその場所で、ハルポンとミネと乙が座り込む。

 立ったままのムコウダは、静かに先を索敵サーチしているようだった。

 


「……あの先に、全然見えない部屋がある。横にそれる道は、その部屋を迂回するように先に続いてる。どっちを行けばいいと思う。ちなみに、その部屋は、入ったとして先に進める保証も、出てこれる保証もない」


 ムコウダが先を示して告げるのを、皆が真顔で聞いている。

 セイジは、誰もがその怪しげな部屋を回避する方向で行くと思っていたのだが。

 ハルポンは立ち上がり、尻の埃を払って、顔を上げた。


「部屋一択だな」

「リーダーやるう」

「いい物があるといいなあ」

「誰かマジックハイポ頂戴。気合入る!」


 ハルポンの一声に、皆の顔が一斉にヤル気に満ちていく。

 その様子を見て、セイジは思わず苦笑していた。


「おいおい、疲れ切ってたんじゃなかったのかよ」

「わかってないな、セイジ。そういう索敵効かない部屋には、かなりの確率でレアもののアイテムがあるんだよ。もちろん敵もいきなり強いが、それの経験値も美味い。もらえる素材も有用な物ばかり。これを回避したらもったいないの一言に尽きるだろ。あ、なあ。出てきた宝箱の中身は、俺らが貰っていいんだろ?」


 目をキラキラさせてそう訊いてくるハルポンの前向きな強さに、セイジは呆れ半分で頷いた。


「ああ。俺に必要なのはクリアオーブのみだ。他は全部お前らの物だから、好きに貰えよ」

「聞いたか皆! 気合い入れるぞ! レア! アイテム!」


 皆を鼓舞するハルポンに、セイジは「いや、前向きな強さじゃなくて、物欲の強さか」と笑った。




 古ぼけ、蔦の絡まった石の扉は、重そうな見た目に反して、音もなく軽く開いた。

 全員が部屋に踏み込んだ瞬間、石の扉が勝手に閉まる。


「あ、やっぱりこれか。部屋の主を倒さないと出れないシステムか」

「ねえねえ、アレかもよ。まるまるしないと出れない部屋的な」


 ハルポンと乙が同時に同じようなことを言って笑っている。

 今のところ魔物の影は見えないが、皆肌で何かがいると感じ取っていた。

 何もいないはずなのに、ビリビリと威圧が来ている。

 そして、視線の先には、祭壇のようなところがあり、そこに装飾のついた宝箱が鎮座している。まるですぐに取りに来い、と誘っているように。


「うわ、超行きてえ。でも行ったら死亡フラグ確定」

「っていうか上にいる」

「いねえよ?」

「あの編み込まれた枝の上でこっちを見てる。ヤバいのが」


 ムコウダの冷静な声に、皆が一斉に上を見た。

 確かに、枝の間から、赤く光る縦長の眼光が覗いていた。


 目があった瞬間、枝が一斉にバキバキ……と折れ、巨体が上から地響きを立ててドーン! と降ってきた。

 

『グァアアアアアオオオオオオ!』


 叫び声と共に、威圧がさらにかかる。


「うぁ……っ、空気、おっも……」

「カエルカメレオンと来て、でかいトカゲか……」

「ちょっと、ムコウダ、ドラゴンって言ってくれない?! もう、威圧で手が上手く動かないじゃん!」

「大丈夫だ。ミネは手が動かなくても魔法を撃てるからガンガン行け」


 乗せるの上手いわリーダー、とまんざらでもなさそうに、ミネがゆっくりと杖を構える。

 ムコウダが盾で地面を鳴らし、ドラゴンの意識を自分に向けようと試みる。

 乙が空の弓を構え、口元でもごもごと何かを唱える。

 セイジの手から魔法陣が飛び、皆のステータスを一段階上昇させる。

 

「腕が鳴る!」


 ハルポンが飛び出し、本格的に戦闘が始まった。

 四角い閉塞された部屋はしかし、3メートルものドラゴンを中心に配置しても全く狭さを感じなかった。

 ハルポンの剣がドラゴンの足を抉り、エフェクトの血が飛び出す。

 同時にミネの風魔法が硬い鱗を襲い、水の矢がドラゴンの目を射抜く。しかしドラゴンの意識はムコウダに向かっている。

 鋭い爪のついている手を振り上げ、ムコウダの盾に振り下ろす。


 ガキィィィィィン!!


 盾から火花が散るが、ムコウダは微動だにせず、安定した守りを披露していた。

 もう一度ドラゴンが手を振り上げたところで、すかさずハルポンがドラゴンの腹の下に潜り込み、剣技スキルを放った。

 スパン、と腹が割れ、血が飛ぶ。


「グオアァァァァァッ!!」


 仰け反ったドラゴンが悲鳴を上げる。

 もう一撃、とハルポンが冷静にコンボを繋げた。

 

「すっげバーが減ってる! さっすが!」


 自らも光の矢を放ちながら、乙が歓声を上げた。


「ドラゴンは、たいてい腹が柔いんだよ!」


 ハルポンが叫びながら連続で技を繰り出していると、仰け反っていたドラゴンの上半身が重力に乗って戻ってきた。

 そのまま前足でハルポンを狙う。

 ハルポンは転がってその場を切り抜ける。しかし、さらにドラゴンの攻撃が息を吐く間もなくハルポンに襲い掛かった。


「お前の相手はこっちだって!」

 

 盾を再度地面にガンガンと打ち下ろし、ハルポンに映ってしまったヘイトを戻そうとムコウダが叫ぶ。

 しかし、ドラゴンはハルポンに照準を合わせてしまったらしく、攻撃の手を緩めようとはしなかった。

 

「仕方ねえな……」


 ハルポンに照準を定めているドラゴンの目の前で、ムコウダは盾の後ろ側から斧を取り出した。

 それを振り上げ、目の前の太い脚に振り降ろす。普段大盾を構えた力自慢のムコウダが力任せに振り下ろした斧は、ドラゴンに再度悲鳴を上げさせることに成功した。

 サッと斧をしまって、ドラゴンの攻撃に備えると、間を置かずに尻尾が横薙ぎに飛んできた。

 盾にぶつかり、そのままムコウダの身体ごと尻尾で払い除ける。


「うわああぁっ!」


 後方に飛んで行ったムコウダは、すぐさまセイジに回復の魔法陣で回復してもらい、前線に復帰していく。

 すぐに盾を構え、爪を盾で防いでいく。


「最ッ高の飛び具合だったな、ムコウダ!」

「まあな!」


 軽口をたたきながら、一方がドラゴンの攻撃をいなし、一方がドラゴンを攻撃していく。

 その動きに翻弄されていたドラゴンは、らちが明かないと思ったのか、一度手を止めて、顔を上に向けた。うろこ状の胸が上下しているのが、見ていてわかる。


「ああ、なんか来るな、でかいのが」

「来るな。無効に出来ねえかな」

「逃げた方がいいと思うぞ」


 二人は手を止め、後方組のあたりまで即座に下がっていく。

 次の瞬間、ドラゴンの口から炎がゴオオオっと吹き出した。首を回し、部屋の中を満遍なく炎で燃やしていく。

 その炎は床や壁に触ると即座に消えていたが、僅差で攻撃間合いから逃れるのに間に合わなかったハルポンに襲い掛かった途端、炎の威力が一段階上がった。


「うわっちちちち!」

 

 慌てて手でバタバタしても、炎は消えない。


「水!」


 セイジが魔法陣を描いて、ハルポンの頭上にそれを飛ばすと、そこから水が滝のように流れ落ちた。

 ようやく鎮火して、ハルポンが「はぁ、助かった……」と胸を押さえる横から、ムコウダがそれを庇う様に盾を構えた。途端に聞こえる金属音に、ハルポンはすぐに剣を構えて、次の攻撃に備える。


 


 

 攻撃して攻撃して、ブレスを吐いたときは逃げ、また攻撃を繰り返し、『マッドライド』は漸くドラゴンのHPを削り取った。

 時間はかかったが、そこまでの大きな被害がなかったことに、すでに回復アイテムのないメンバーはほっと胸を撫で下ろした。

 光消えていくドラゴンを見送り、息を吐いてから、奥に鎮座している宝箱まで進んでいく。

 

 宝箱に鍵やトラップはなく、綺麗な装飾に包まれた豪華な箱は、すんなりと中身を『マッドライド』にさらした。


「うっわ武器! 武器入ってる! 剣と弓と杖と盾って……! 俺らに合わせた宝か!」


 中身を出すと、伝説級に近いランクの武器だった。

 ハルポンが今使っている「プレッシャーブレイド」のさらに上の攻撃力の「イングレイブソード」。乙が使っている魔弓の上位の魔弓「オールネイチャーボウ」。ミネが愛用している黒曜石の杖よりも魔力消費が抑えられてどの属性にも対応できる「アルミナの杖」。防御力は今世界にある装備の中でも上位に位置する「ボラゾンシールド」。

 それぞれが自分に合った物を手に取っていく。

 光り輝く剣を構え、ハルポンの頬が緩んだ。


「レベルは上がる、武器は手に入る。ここを出ればエルフの里に行ける。今日はイイコトづくめだな」

「現金だな」


 ハルポンの表情に、セイジが笑った。さっきまでのあの疲れ切った顔など、すでにメンバーたちのどこにも浮かんでいなかった。



 しかしやはりというかなんというか、オーブが出なかったことから、今のドラゴンがここのボスではないということが知れる。


「はやくこの剣の切れ味を試したいから、進もう!」


 足踏みしそうな勢いで、ハルポンが皆を煽っていく。

 皆も同じ気持ちだったようで、新しい武器を手に、「おお!」と気合いを入れていた。



 


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