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3、結構いい感じのダンジョン


「ここ、モンスターハウスじゃねえ?!」


 息を切らせながら、月都が湧き出てくる魔物を切り裂く。

 すでにどれだけのマッドウルフを屠ったかわからない。

 後ろの方からドレインの回復魔法が飛び、弓でユーリナが奥の大きめの魔物にダメージを与えていく。

 ガンツが槍を一閃し、数匹のマッドウルフを光の粒に変えつつも、まだまだ迫ってくるウルフの群れに、『白金の獅子』全員が辟易し始めていた。

 そんな中、目を輝かせるのが一人。


 少し離れた岩の上に立ち、ひっきりなしに宙に魔法陣を描いては、奥のマッドウルフの群れを消し去っていく。減った気はしないが。


「うはあ、これ、「当たり」じゃねえ? くっそやべえ、楽しくなってきた!」

 

 その声が、『白金の獅子』にも届き、メンバーたちが苦笑する。

 セイジの楽しそうな声に触発されて、メンバーたちも気合いを入れなおし、中央の群れのボスと思われるひときわ大きなマッドウルフまで、ようやく到着した。

 セイジは相変わらず岩の上に立っている。


「クソ、HPがむちゃくちゃ高え!」

 

 噛み付きと前足の攻撃をよけながら、巨大なマッドウルフを少しずつ切り刻んでいくガンツと月都は、マッドウルフの頭上に現れるHPバーと呼ばれるものを見て、顔をしかめた。

 そこには青いバーが映っていた。

 一本目が赤。二本目が黄色、三本目が緑、4本目が青。

 大体のフィールドボスが、青のバーで出てくるから、この未だに青のバーが残っているマッドウルフは、そこら辺のフィールドボス並みの強さだった。単なるモンスターハウスのボスが。


「このダンジョン、どんだけやべえんだよ……っ」


 いまだ一本もHPバーを削れていないのに、すでに月都のスタミナが半分まで下がっている。

 

「ヤバいな、初めてのシークレットダンジョンが高レベルとか……」


 必死でマッドウルフに剣を当てるが、削れるHPは微々たるものだ。

 中ボスでこの強さかよ、となかなか削れないHPにガンツが顔をしかめる。


「ほらほら、頑張れよー。こんな敵さん、序の口だぜえ!」


 一人楽しそうに声を上げ、セイジはひっきりなしに魔法陣を描いていく。

 そこから繰り出されるあらゆる魔法がマッドウルフにあたる度、ほんの一瞬だけマッドウルフの動きが止まる。それを狙って、ガンツと月都が攻撃を仕掛けていく。


 ドレインと、稀にセイジが前衛を回復しつつ、魔法を飛ばし、片足を切断したことでマッドウルフの俊敏な動きを封じ込め、弓で視界を奪い。

 片足をなくしてなお動き回るマッドウルフの噛み付きや咆哮をかいくぐり、わき腹をガンツが一閃したことで、ようやくHPバーが赤まで削れる。

 もう少しだ、とガンツが槍を握りなおしたところで、マッドウルフが咆哮した。

 

「やべえユーリナ逃げろ!」


 セイジが叫ぶのと同時に、マッドウルフの口から火球が飛んだ。


「きゃっ!」


 逃げ遅れ、火球がユーリナの右半身に直撃する。

 倒れたユーリナに、ドレインが慌てて回復魔法を掛ける。

 

「おら前衛! 後ろに気を取られてねえで、攻撃しろ!」


 思わず振り返った二人に、セイジが喝を入れる。

 我に返り、二人はマッドウルフに対峙した。


 回復して立ち上がったユーリナは、焦げた服をそのままに、またも弓を構える。


「こんな時、シーフなんて役に立たないよね!」


 自分の弓じゃほとんどダメージを与えられないことに歯噛みしながら、ユーリナが次々弓を射ていく。

 短剣か弓しかスキルレベルを伸ばしてこなかったことが、ここで悔やまれた。


「ユーリナ! 少しだけ、魔力を乗せてみろ!」


 上から声がかかり、ユーリナは目を見開いた。


「魔力を乗せる? そんなこと、できるの?!」

「出来ねえのかよ! 矢に、付加してみろよ!」


 セイジのアドバイスに、さらにユーリナの目が見開く。


「やだスキル覚えた……! 『魔力付加』これね!」


 早速覚えたてのスキルを使用して、ユーリナが弓を引き絞る。

 すると、手元の矢が、パキパキ、と音を立て、白くなっていった。


「氷属性……!」


 驚きながらも、マッドウルフの眉間に狙いを定め、矢を放つ。

 その矢は、今までと違い、青白い機軸を描きながら、マッドウルフに飛んで行った。


「ギュオォォォン!」


 刺さった瞬間、マッドウルフが苦痛の叫び声をあげる。

 HPバーは、ガンツの槍の一閃と同じくらい削れた。


「やった! ガンガン行くよお!」

「やればできんじゃねえか!」


 セイジからの誉め言葉にえへへと笑うと、ユーリナは氷を纏わせた矢を放ち続けた。



 一人攻撃に参戦するだけで、HPバーの減りは目に見えて増えていった。

 ドレインにスタミナを回復してもらった月都が、壁を蹴ってジャンプし、マッドウルフの頭上から剣を叩きつける。

 それと同時に身体のほうにセイジの火球が炸裂する。


「あちい!」

「あ、わりい」


 その火球の余波が、月都にもかかり、月都は慌てて火の粉を払った。

 その光景に苦笑しながら、ガンツが槍をマッドウルフの胴体に押し込む。


「グアァァァァ!」

「和んで攻撃できなく、なるだろ!」


 そう言いつつ、さらに力任せに押し込んでいくガンツ。

 ガンツを振り払おうと前足を上げたマッドウルフは、上げたままの状態で眉間にユーリナの氷付加の矢が刺さり、それがとどめとなって、体の端から光の粒になって宙に舞った。


 最後の光の粒が消えたところで、正面の岩がゴゴゴゴ……と動き出す。

「終わった……。っつうかここ、モンスターハウスじゃなくて、もしかしてボスの間……?」


 へたりこんだユーリナの呟きに、岩から降りてきたセイジが苦笑する。


「いいや、単なるモンスターハウスだな。こういったダンジョンで、ボスがあんな雑魚敵なはずないしな。オーブだって出てこねえし。ほら、まだまだ先は長そうだぜ」

「だから序の口って……ハァ」


 溜め息を吐き、ユーリナがカバンからスタミナポーションを出して煽る。


 宙を睨んでいたガンツも、セイジのほうに向きなおって肩を竦めた。


「あれだけ苦戦したのに、ゲットしたのは魔石[中]とマッドウルフの毛皮[大]と牙くらいだった。参ったな、本当にあの強さのが単なるモンスターハウスの雑魚だったとは」

「俺魔石ゲットしなかったよ。毛皮が二つ。毛皮なんて使わねえ!」


 ああああ! と沈み込む月都に、ドレインが慈愛の眼差しを向ける。


「うん、俺も同じようなもんだから」


 同志よ! と肩を組む二人をよそに、ガンツがセイジの横に立った。


「それにしても、セイジもしかしてスキル解放とかできるのか?」

「あ、あたしもそれ聞きたい! 戦闘中にいきなりスキルを手に入れたとか、びっくりじゃん」


 二人にじっと見つめられ、セイジは眉を寄せた。


「ああ? スキル解放? なんだそりゃ」


 言葉の意味自体が分からない、とでもいうように、首を捻る。


「だってセイジの言葉で、あたしスキル覚えたよ?」

「俺はただ、ユーリナは魔力持ってんのに使わないのがもったいねえと思って言っただけだ」


 その道を極めるか、極意を掴む。もしくは、金銭を払って学園というものに行き、教師に教えを乞うことで、スキルは覚えることが出来る。ネットではそう書いてあるのを、ガンツは読んだことがあった。

 

「もしかして、セイジは都市学園の教師か何かをしていたことがあるのか?」


 ガンツの問いに、セイジが吹き出した。


「俺が教師って柄に見えるかよ。ほらほら、先は長いぜ、そろそろ疲れも取れたろ。進むぞ」


 まるで話を区切るかのように先を促したセイジに、ガンツは首を傾げながらも、進むべく足を動かし始めた。


それからの道は、宝箱が二つと、やはり通常のフィールドよりは強く感じる雑魚敵が出てくるのみで、先ほどのモンスターハウスのような苦戦はなかった。

 宝箱の中身は、ランクの高い剣と、魔力を上げる腕輪で、それぞれ、月都と、魔力付加を覚えたユーリナが身に着けた。


 キノコ型の毒を撒き散らす敵を切り刻んだところで、ようやく目の前に扉が現れた。


「ここが最後だな」


 セイジの言葉に、皆の顔が引き締まる。

 あらゆる回復薬を飲み、調子を整えて、深呼吸をして、皆が扉に向きなおった。


「どれ、ちょっとまじないでもしとくか」


 セイジが目を輝かせながら、勇んでいる『白金の獅子』に向かって何か魔法陣を描いた。

 複雑な光の紋様がパーティー全員を包み込んでいく。

 そして、光が粒子となって宙に消えた。


「うわ、すげえやる気出てきた」

「なんか、私強くなった気分」


 驚いたように自分の身体を見下ろす面々を笑顔で見まわし、セイジは一人一歩踏み出した。


「しばらくの間、ほんとに強くなってるから、頼むぜ」

「セイジ、バフまでかけれんのかよ?!」


 驚いて月都が声を上げると、セイジは「ばふってなんだよ」と首を傾げていた。



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