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29、ダンジョン内で同士討ち


 そこはじめっとした空間だった。ところどころに水がしみだしていて、足元がぬかるむ。

 たまに天井から水滴が落ちて来ては、ピチョン、と水音を立てる。


「これは歩きにくいダンジョンだな……」

「うえ――……靴が汚れちゃうじゃん」


 ハルポンと乙が声を出すと、その声がこだまする。


「ちょっと、声が反響して煩い。文句を言うんなら心の中でだけにしてくれる?」

「へいへい」


 ミネに文句を言われて、乙がおざなりに返事をする。その間にも、ムコウダは索敵をしているようだった。


「ミネも煩い。ここ、音が反響すると索敵がぶれるみたいだから静かにしろよ。奥右に曲がったところに3体、その先に2体。あとは曲がってみないとわからない」

「らじゃ」


 ムコウダの言葉に頷くと、ハルポンがムコウダと並んで進み始めた。

 しんがりをセイジが進み、角を曲がった瞬間、何かがにゅうっと伸びてくる。

 それを危なげなくムコウダが盾でガードし、ハルポンが改めて戦闘態勢に入った。


「やだぁ、カエルじゃん。気持ち悪い~~」

「まあ、こんなじめっとしたところじゃな、こういう敵だよな」


 顔を顰めながら杖を構えるミネと、それを見て苦笑しながら弓を構える乙が、一斉に攻撃を放つ。

 

「文句は心の中で言うんだろ」


 その後ろから、セイジが笑いながらミネにそう突っ込み、魔法陣を描いた。

 全体を魔法陣が包み込み、身体能力が上昇する。

 3体の巨大なカエルが、ハルポン目がけて跳躍してきた。


「速い!」


 そのあまりのスピードに、乙が思わず声を上げる。

 ハルポンは抜き去っている剣を構え、カエルの動きに合わせて剣を突き出した。自ら刺さりに来るかと思われたカエルは、一瞬にして長い舌を壁に飛ばし、難なく態勢を変える。


「うわあ、ヤバい動きのカエル。これ、3体同時って辛くねえ?」

「まあ、やるしかねえだ、ろ!」


 今度はハルポンが飛び出し、カエルに剣を向けていく。

 ムコウダが手に持って構えている盾を地面に打ち付けガツンと音を出すと、3体のカエルが一斉にムコウダに目を向けた。

 その隙にハルポンの剣がカエルに突き刺さる。そこから薙ぐ。

 カエルの口から耳障りな音が鳴るが、ハルポンは怯むことなく次の手を出す。

 そこに雷の魔法と黄色に光った矢が次々着弾した。


 一瞬にしてカエルの頭上にあるHPバーが空になる。

 一体が光となって消えていく中を突っ切り、ハルポンが次のカエルに襲い掛かった。

 カエルはムコウダに舌で攻撃しつつも、飛んだり短い手で振り回したりと、ハルポンの攻撃を避ける。

 避けた瞬間、脳天に光の矢が突き刺さり、その矢に雷が落ちる。

 痺れたらしいカエルにハルポンがとどめを刺す。

 最後の一匹の視線がハルポンに映った瞬間、ムコウダがもう一度盾を鳴らし、カエルの注意を引き付ける。

 その繰り返しで、カエルは特にてこずることなく、『マッドライド』によって消されていった。

 セイジの出番もなく、セイジは見物人と化していた。


「なあなあ、乙。その矢って属性付けれんのか?」

「んー、俺が出来るのはさっきのだけ。『光の矢』っていう名前そのままの奴」

「それ、光属性だろ。もっと他の属性もつけれると思うんだけど、他の魔法覚えてねえのか?」

「前にセイジと入ったダンジョンで水魔法覚えた奴くらい。魔法より弓関係伸ばしてたから」

「その魔法詠唱唱えながら矢を飛ばしてみろよ。水属性出るはずだから」


 セイジの言葉に、乙が「お」と一言短く声を出した。


「前の奴――フレンドリーファイヤー気を付けてね」


 前を歩く二人に声を掛けて、何もいないところに乙が弓を構える。


「いっくよ――」


 何も番われていない弦を引き絞り、「フロゥイングスピア――!」と唱えた瞬間、いつもは金色の光輝いていた矢が、水の塊の矢に変わっていた。

 手を離した瞬間、その矢が真っすぐ飛んでいく。闇に消えていった瞬間、先ほど消したカエルが発した音と同じ音が闇の中から聞こえた。途端に目に映るHPバー。減ったのは、ほんの少し。


「わお、全然効かない!」


 先にいた魔物に当たったらしいが、水属性に水の矢は相性が悪かったらしい。乙は「魔法も覚えよう。使いようによっちゃめっちゃ便利」と言いながら、光の矢を番え直した。

 ムコウダの盾を鳴らす音が洞窟内に響き、途端に暗闇の中から、カエルが二匹飛び出しながら舌を伸ばしてきた。

 負けないスピードでハルポンも飛び出す。


「やだもうあのベロきもい!」

「え――。エロ漫画の定番だよカエルのぬるぬるの舌。案外気持ちいいかもよ」


 顔を顰めつつ、ガンガン魔法を撃っていくミネに、横から同じようにガンガン矢を射ていく乙がニヤニヤしながらからかう。途端に杖の先が乙に向けられ、乙が慌てて「敵あっち、俺仲間!」と杖の先をカエルに戻す。

 「ちっ」と聞こえた舌打ちに、乙が身震いした。

 


 残り一匹のカエルのHPバーもそろそろなくなるというところで、乙の弓が突然照準をハルポンに合わせた。


「え? え?」

 

 弓を持っている乙も、困惑した声を出している。

 乙の手が光の矢を引き絞り、狙いのハルポン目がけて、矢を射た。


「リーダー! 避けて!」


 乙の悲鳴に近い警告と共に、瞬時に振り返ったムコウダの盾で光の矢が消滅する。


「乙! 何してるの! ふざけるにはちょっと質悪いわよ!」

「ふざけてないって! 身体が、勝手に! 誰か止めてくれないかな!」


 ギリギリと音がしそうなほどに力の入っている乙の顔が、自分の身体を必死で律しようとしていることを物語っている。が、無情にも弓はまたもハルポンを狙って構えられる。


「やべえのがいるな……」


 セイジはそう呟くと、即座に魔法陣を描いて、乙に飛ばした。

 魔法陣の光は、乙に届く寸前に、カーンと弾かれる。


「なになに、何で魔法陣弾かれるの?!」


 砕け散っていった光の陣を見ながら、ミネが声を上げた。


「何でって、それだけ敵さんの精神力が強いってこったろ。もう一回」


 またも魔法陣を飛ばす。

 今度はうまく作用したらしく、乙の身体に魔法陣が張り付いた。

 ようやく弓を下ろせた乙の口から、盛大に息が洩れる。


「だああああ、仲間割れとか同士討ちとかさせる敵って、ほんと姑息だよな……有効だけど。焦ったぁ」

「森羅万象あらゆる事象をこの目に表せ! サーチ!」 


 ムコウダが索敵サーチを唱えると、ムコウダの目に、天井に張り付いたカメレオンのような爬虫類型の敵が飛び込んできた。

 半円球に飛び出した目が、当たりをきょろきょろと伺っている。


「いた、天井!」

 

 叫ぶ間にも、カメレオン型魔物がハルポンに狙いを定めて移動している。


「ミネ! 俺の真上の天井を狙って魔法!」

「大空を翔る風の聖霊よ、形を成して切り裂け! ウインドカッター!」


 ムコウダの声に合わせて、ミネの杖から風の刃が飛ぶ。風の刃がカメレオンに命中すると、透明だったはずの魔物は本来の色を取り戻しながら天井から落下してきた。

 それを見ていたハルポンがすかさず叩き切る。防御力は高くなかったらしく、数度の攻撃で光となって消えていった。


「やべえな。あれ一匹じゃねえだろうし。セイジ、あれに操られないようにする方法って知ってるか?」

「何だろうな。気合い?」


 首を傾げながら適当に答えるセイジに、乙が「ダメじゃん」と突っ込む。

 

「とりあえず状態異常を緩和するやつ掛けてやるよ。ただし、効くかはわからねえ」


 そう言いながら、セイジが魔法陣を紡ぎ、全員が入るように飛ばす。

 光が『マッドライド』のパーティーを包み込み、状態異常緩和の魔法が効いたことが分かった。


「よし、進むぞ!」


 ハルポンが声を上げ、前に進んだ瞬間に振り向く。

 そして驚いた顔のまま、剣を振り上げた。

 その異常な動きに、操られているというのがわかったムコウダは、すぐさまサーチで敵の姿を探した。

 ガキン! と金属と金属のぶつかり合う音が、洞窟内に響く。

 

「わりいムコウダ!」

「ミネ! 左壁、乙の斜め横首の高さ!」

「ウインドカッター!」


 見事な連携だった。

 今度もみごと風の刃が魔物を切り裂き、魔物が姿を現す。

 途端に身体の自由を取り戻したらしいハルポンが、仕返しとばかりにオーバーキル気味の攻撃を魔物に仕掛けていた。

 すぐさま光となって消えていく魔物に、操られた二人は、これから先のことを思って身震いするのだった。


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