28、エルフの里への道中(※地図あり)
「ったく、なんだよここの魔物。辺境のが流れてきてんじゃねえかよ……!」
魔法陣を次々描き、出てくる魔物を屠って行く。
セイジは、セッテの奥の湖から、エルフの隠れ里への道を突き進んでいた。
セッテ周辺の魔物とは一転、辺境でアル達が倒し続けているような強さの魔物が次々と出てくる。
そこまで苦労はしないものの、こうもやたらと出てこられると、うざったくてしょうがない。
魔法を飛ばし、片っ端から光の粒にしていくと、セイジはふと魔物相手に苦戦しているパーティーを見かけた。
「あれは、確か、『マッドライド』……?」
前に一度だけ、シークレットダンジョンに一緒に入ったことのあるパーティーだった。
今にもくたばりそうになっている盾役に、疲労困憊の前衛、魔力の尽き掛けた魔法使い。そして、腕を怪我したアーチャー。
見る限り、今にもくたばりそうだ。
セイジは立ち止まると、足をそっちに進めた。
そして、『マッドライド』に襲い掛かっている魔物を、魔法で消し炭にした。
ハッと一斉にセイジの方を向いた『マッドライド』の面々は、セイジの姿を見た瞬間、目に見えて身体の力を抜いていた。
「大丈夫か? もうなんかくたばりそうだけど」
セイジが声を掛けると、『マッドライド』のリーダーであるガタイのいい男、ハルポンが力なくそこにしゃがみ込み、ハハハと笑った。
「まさにくたばりそうだ。助けてくれてサンキュ」
肩で息をしながら、ハルポンはカバンからポーションを取り出して、それを呷った。
途端、疲れ切った顔に生気がよみがえってくる。
すっと立ちあがって、メンバーにポーションを配っているのを、セイジは目を凝らしてみていた。
正確には、見ていたのはその瓶だった。
裏側に、クラッシュの入れた劣化防止の魔法陣が描かれている。
「なあ、その薬、トレの雑貨屋から買ったのか?」
奪われた薬の先もわかっていない今、それがどこで買われたかで何かわかるかもしれない。
セイジは期待を込めて質問したが、『マッドライド』は笑顔で首を振った。
「これは個人的に取引してもらったんだ。後輩の友人ってやつが薬師でな。そのつてで少しだけ売ってもらった。あとはトレの雑貨屋で買えって言われたんだが買いそびれてしまって」
「そうか。変な質問したな」
「いや、もしかして、セイジもトレの雑貨屋を懇意にしてるのか?」
「まあ、そんなもんだ」
当てが外れてがっくりしたセイジは、すぐに気を取り直して魔法陣を描いた。
描いた魔法陣が大きくなり、全員を覆うように光り輝く。その光が消えた時には、傷だらけでぼろぼろの『マッドライド』は消え、傷のない元気そうな『マッドライド』が現れた。
一瞬何が起こったのかわからなかったハルポンは、腕の傷が亡くなったのを見て、セイジに「ありがとう」と礼を言った。
「ここら辺にシークレットダンジョンでもあったのか? こんなところで会うなんて驚いた」
「ああ、俺も驚いたよ。っつうかこの道を進んでるってことは、この先に用事があるんだよな」
少しだけ警戒してセイジが訊くと、ハルポンは屈託ない笑顔で「ああ!」と答えた。
「前に、この先に進んだらエルフの里があったから、もう一度行ってみようってことになって今進んでるところなんだけど……なかなか、な」
「そうか。エルフの里か」
目的地は一緒だった。
セイジは少し考えてから、口を開いた。
「俺もそこに行きたいんだけどよ、一緒に行ってもいいか?」
途中シークレットダンジョンがあったら、そのまま『マッドライド』に付き合って貰えればこれほど楽勝なものはない。最近ではシークレットダンジョンがあってもなかなかそれに見合う強さの奴らを見つけることもままならない。
「え、マジか?! そりゃ助かる」
「ただ、途中シークレットダンジョンを見つけたらそのまま一緒に入ってもらうことになるけどな」
「願ったり叶ったりだ」
ハルポンがセイジに向かって手を差し出してくる。セイジはその手を軽く合わせると、それにしても、とメンバーを見回した。
「なかなかどうして力付けたじゃねえか」
見た限り、『マッドライド』のメンバーは前よりもかなり強くなっているように見えた。
前の時でも危なげなくシークレットダンジョンを踏破し、クリアではなかったものの見事オーブを手に入れたにも拘わらず、あのやられっぷりに、ここの魔物の強さにセイジは眉をひそめた。
まるで、エルフの里が来る者を拒んでいるかのように。
「まああんな力があるんじゃ、仕方ねえよな……」
アルフォードから聞いた情報を思い出して、セイジは溜め息を吐いた。
総勢5人でけもの道を進む。現れる魔物は、セイジ補佐の元、ほぼ『マッドライド』が倒していた。
「いやあ、セイジがいるだけで全然違うねえ。楽チン楽チン」
次々と光の弓を飛ばしながら、背の高いアーチャーの男、乙がニヤリと笑って言い放つ。
勿論、全然楽チンなんかではない。一回一回の戦闘ごとに回復をしないといつくたばってもおかしくないほどの強さの魔物が次々来るのだ。セイジも回復の魔法陣を描くのに忙しいくらいだ。いつもなら回復も担当している魔法使いの女性ミネも、回復に回ってしまうと途端に火力不足に陥ってしまうので、そちらに手を回すことが出来ないでいる。前衛の一人、盾特化の全身鎧の男ムコウダが攻撃のほとんどを受け止めてくれていなかったら、最初の一撃で後衛二人がやられているところだった。
バランスはいい。でも、正直ここを進むのに4人ではとても心もとない気がした。
「前行ったって言ってたな。そん時もこのメンバーで行けたのか?」
「いや、前は『高橋と愉快な仲間達』っていうパーティーと一緒に進んだからこそギリッギリで里に着けたようなもんだ」
「高橋……」
なるほどな、とハルポンの答えにセイジは納得した。
クラッシュを捜索しに行って無事セッテに付いた後、そのまま『高橋と愉快な仲間達』はエルフの里に向かったってことだ。
ということは、あの「錬金術師」だというマックもエルフの里に向かったということだろうか。
「その中に、マックっていう薬師はいたか?」
「いや」
セイジの質問に、ハルポンたちは驚きつつも首を振って否定した。
「ただ、この道を知るきっかけをくれたのはマックだけどな。彼は農園を救ったらまっすぐトレに帰っていったから一緒には行かなかったんだ」
「へえ」
トレに向かったのだったら一緒に連れ帰ればよかったか、と少しだけ思ったセイジだったが、きっとあの状態で他のことをさせる時間的余裕はなかったはずだ。
あれだけ素早くクラッシュを連れ帰ったのにも関わらず、エミリの所にはわけのわからない請求書まで届いたのだ。あれで一日遅かったら、本当に騎士団が派遣されて、そこからギルドに対してかなりの難癖をつけてきたはずだ。今の状態だったら、逆に相手を糾弾することもできる。エミリの力だったら。向こうはエミリが何もできないと侮っているはずだし。
厄介な問題がほとんど解決していないことに、セイジは溜め息を吐いた。
「んじゃ、進むか」
少しの休憩を挟んで、セイジたちは進み始めた。
それほど苦労することなく、無事セイジと『マッドライド』は目的の地に着こうとしていた。
もう少し斜面を登れば、あとは里まではすぐ、というところに来て、慣れ親しんだ気配をセイジは感じた。
横を向くと、いつもの黒い霧。
「もうすぐだってのに……」
舌打ちと共に足を止めたセイジにいぶかしんだハルポンが声を掛けると、セイジは「悪いな」と苦笑した。
「出た。そこにシークレットダンジョンが」
霧の方を指さして教えると、メンバー全員が指さしたほうに一斉に視線を向けた。
「特に何も変わったところはねえけど」
「セイジはなんか見えるの? 俺にもなんも変わったところがわからないよ」
「当たり前だな。これは俺にしか見えてねえから。悪い。付き合って貰ってもいいか?」
セイジにだけははっきりと見える黒い霧の存在感をたっぷりと感じながら、セイジは『マッドライド』に左手を差し出した。
その手に、誰一人躊躇うことなく全員が即座に触れる。
瞬間、セイジの右手が魔法陣を描き、目の前の景色が一転した。




