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2、ダンジョン捜索者(サーチャー)


「なあ、ダンジョンサーチャー、いたか?」

「最近全然見かけねえ」


 各地に散らばったギルド内。

 数年前から突如現れた、ここの住人に異邦人と呼ばれた冒険者たちが、掲示板の前で雑談をしている。

 

「ここの街じゃねえところに移動しちまったのかなぁ」

「俺、ここにダンジョンサーチャーがいるって聞いたから、クワットロの街からわざわざ移動してきたんだぜ、こんなやり尽くしたドゥエの街に」

「わかる。俺もクワットロの街から来た口だ」

「お前もか」


 はぁ……と鎧を着た大柄の男がため息を吐く。

 巷では、都市伝説のように、ダンジョンサーチャーの話で盛り上がっていた。

 ダンジョンサーチャーを見つけたら、シークレットダンジョンに連れて行ってもらえる。そこではあの・・オーブが手に入る。

 一攫千金もよし、自分で使って魔法を覚えるもよし。

 ダンジョンサーチャーを見かけたら、声を掛けるべし。


「でもあのスレ、一時すげえ勢いで埋まったけど、今また緩やかになったよな」

「最近見かけないからじゃねえか、ダンジョンサーチャー」

「そいつってやっぱイベ用NPCなわけ? 中の人が運営とか」

「さあな」


 出現条件は不明。

 どうやったらシークレットダンジョンに連れて行ってもらえるかも不明。

 連れて行ってもらったメンバーは、あまり情報を外に漏らさない。

 一部のプレイヤーから情報の秘匿はやめろとのバッシングを受け、一度運営を挟むほどの問題になったのにも関わらず、やっぱり情報はなかなか出てこない。

 そこからダンジョンサーチャーを探す会が発足し、徒党を組んで、いたるところでダンジョンサーチャー探しが行われている。

 この二人も、その会所属のプレイヤーだった。


 それぞれが依頼の紙を手にした瞬間、ギルドの扉が開く。

 そして、頭からすっぽりローブを纏った男が一人入ってきた。

 どこにでもいそうな魔導士風の男に、一度はちらりとそっちを見た掲示板前の二人も、すぐに興味をなくす。

 ローブの男は、きょろきょろと当たりを見回すと、ギルド奥の食堂に目を向けた。

 その視線の先には、一組のトップランカーと言われているパーティーがいた。

 ちらりと見える口元が、にやりと持ち上がる。

 ローブの男は、そのパーティー『白金の獅子』に近づいて行った。


「なあ」

 

 ためらいなく声を掛けるローブの男に、飯を食べていたパーティーの面々が視線を向ける。


「もう依頼受けちまった?」

「いや、まだだが……」

「今日一日、俺からの依頼を受けてくれねえ?」


 頼むよ、と手を合わせるローブの男に、『白金の獅子』 の一人がハッと息を呑む。

 そして、慎重にあたりを見回し、自分のパーティーの面々に目配せし、そして最後にローブの男に視線を向けた。


「受けよう」

「ちょっとリーダー、そんな勝手に」

「大丈夫だ。絶対に受けるべき依頼だ」

「えー、今日はAランクのスイングベアを倒しに行くって言ってたじゃん」

「それはいつでもできるだろ。今日はこの人を手伝う」


 少し揉めかけているパーティーに、ローブの男が首を傾げる。


「用事があるなら他を当たるけど」

「用事はない。大丈夫だ。受けよう」


 強引に話を進めてしまうリーダーに不審の眼差しを向けるメンバーをしり目に、リーダーの男は席を立ち、ローブの男とパーティーメンバーを奥の個人依頼用の個室に促した。



 ドアを閉めると、そこは完璧に防音された空間になる。

 中を使っているものが許可しない限り、ギルドの上のほうの権限を持っているものじゃない限り、入ることもできなくなるその個室は、主にでかい金額が動く個人依頼や、シークレットクエストの受注に使われる。

 

「個室、高いだろ。でもありがたい。じゃあ早速依頼内容を話すか」

「ああ頼む」


 いまだについてこれてないパーティーメンバーをよそに、リーダーはローブの男と話を始めた。


「依頼ってのはあれだ。一緒にダンジョンに潜ってほしくてな」

「!!」


 ローブの男の一言で、全員がようやくこの依頼がどんなものか気付く。


「ダンジョンサーチャー……」


 手に杖を持った小柄な男が、小さく呟いた。


「あー、巷じゃそんな感じで呼ばれてるけど、そんな大層なもんじゃねえよ。セイジって呼んでくれ」


 あはは、と男は笑って、鼻先まで隠れていたローブをめくり、顔を晒した。

 シルバーの髪を後ろにひとくくりにし、瞳はブルー。整った顔立ちはその繊細なつくりを感じさせないような楽し気な表情を浮かべ、青年なのか少年なのか、歳の判別できない顔をしていた。

 そこでようやく『白金の獅子』メンバーもセイジに自己紹介をした。

 リーダーが騎士のガンツ、魔導士のドレイン、シーフのユーリナ、剣士の月都。


「依頼料っても俺金欠だから大したもん出せないんだけど、それでも依頼受けてくれるか?」

「もちろん。ぜひ受けさせてくれ」


 リーダーの男、ガンツがしっかりと頷くと、セイジはほっとしたように胸に手を当てた。


「よかったぁ。今日見っけたダンジョン、ちょいときつそうな感じだったからさあ、あんたら以外ここにいなそうだったんだよなあ。一緒に潜れそうなの」

「そうか。ちなみに、なぜ俺たちが強そうだと?」


 ガンツが質問すると、セイジはう~ん、と首を傾げてから、口を開いた。


「なんか強そうだったから」


 その答えに、『白金の獅子』 の面々があきれ顔になった。


「レベルがわかるわけじゃなかったんだな」

「なんだよそのレベルって。強そうか弱そうかのどっちかしかわからねえよ」

「あはは。なんかすごいねその選ぶ基準」

「こればっかりは勘だよなあ」


 笑ってるドレインと一緒に、セイジも声を出して笑う。

 それを、驚いたようにパーティーメンバーが見ていた。


「条件はただ一つ。ダンジョン奥の魔物を倒して、出てきたオーブが透明だったら俺が貰う。それだけ」

「オーブ……それは、必ずあるのか……?」

「まあ、出なかったことはねえなあ。でもって、色んな色が出てくるわけよ。でも俺が求めてんのは、透明なもんだけ。それ以外だったら好きにしてくれていいし、途中に出てくる遺物はあんたらの好きにしてくれていいからさ。それが依頼料っちゃ依頼料になるのかなあ。金が欲しいんなら、今から向こうの討伐依頼こなしたほうがいいぜ」

「いや、十分だ。すぐに行くか?」

「あんたらの用意は大丈夫か? 頼む俺が言うのもなんだけど、結構強いぜ、敵さん」

「いつでもすぐに出られるから」


 じゃあ、外に出るのもアレだから、とセイジは少しだけ椅子をよけて、自分のもとにパーティーメンバーを呼んだ。

 腕に掴まらせて、指で宙に魔法陣を描く。


「わぁ……綺麗」

「サンキュ」


 指を動かしつつ、聞こえてきたユーリナの言葉に振り返ってセイジはニヤリと笑う。

 次の瞬間、セイジと『白金の獅子』のメンバーは光に包まれ、個室から消えていった。



 ダンジョンサーチャーを探す会、そこには、トッププレイヤーと呼ばれる者たちは所属していない。

 そして、トッププレイヤーたちの間だけで回っている情報があった。


 ダンジョンサーチャーは、シークレットダンジョン推奨レベル以上のパーティーじゃないと絶対に自分から声を掛けてこない。

 そして、「NPC」と言われたら、二度とその人物には接触してこない。

 

 出会ったら、絶対にNPCという言葉は封印しろ。

 金は絡まなくても、絶対に依頼を受けて損はしない。

 そして、ダンジョン攻略が終わったら、ダンジョンサーチャーに飯を奢ってあげよう。懐く。


 この情報を聞いて、初めてトッププレイヤーの仲間入りとなる。


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