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16、オーブ



「ウインドストーム! カッター!」


 まさかの空中戦に、前衛がぽかんと空を見上げている。

 大鷲も巨体に似合わないスピードでユイを攻撃してくるが、ユイもそれを上手く躱し、魔法を連発する。


 その間に、とセイジは全員にスピードアップとパワーアップの魔法を掛けていた。

 クラッシュも剣に手を掛け、マックも手に何かを持っている。

 

 ユイは、魔力残力お構いなしに、魔法を連発している。なくなったら降りてマジックハイポを貰おうと考えているからだ。

 風魔法はあまり効かないみたいだが、綺麗に魔法が決まった時は大鷲が態勢を崩すので、あわよくば落下してもらおうとばかりに、さらに魔法の連発速度を上げていく。

 

 セイジは全員の能力の底上げが終わると、今度は大鷲に向かって魔法陣を描き始めた。描き上げ、弾き、大鷲に飛ばす。飛んで行った魔法陣は空中で光り、大鷲のさらに上で止まった。

 大鷲がそこの下を通過する瞬間、そこから何かが発射される。不意打ちに、大鷲はその攻撃を受けて大いに態勢を崩していた。

 魔法陣から飛ばされたのは、岩だった。そこまで大きくはないが、スピードがあり、羽根にその岩が当たった大鷲は、ひと声鳴いて、墜落してくる。

 

 ズドン!

 という地響きとともに、大鷲の身体が地面に叩きつけられた。





 いまだ! とばかりに『高橋と愉快な仲間達』が攻撃を仕掛ける。その間にユイも戻ってきて、マックからマジックハイポーションを受け取っていた。

 地上での攻撃には弱いらしい大鷲は、態勢を立て直してる間に大分高橋に削られていた。

 片方の羽根をバサッと開き、岩が当たった翼を遅れて開こうとしたところで、マックが前線まで走っていき、カバンから何かを取り出して投げ付ける。

 

『グエェェェェェェェエエエ!』


 途端、大鷲が大きな苦痛の声を上げ、飛ばずにその場で暴れ始めた。今までのしっかりと獲物を狙っていた視線は、今は閉じられている。

 羽根と尾羽根の追撃に運悪く当たってしまったブレイブが飛んで行ったが、そんなことを気にせず高橋と海里が剣を振り回した。


「よし、効いてる」


 こっそりと握り拳を握りながら後衛に戻ってきたマックを視界の端にとらえ、セイジはあれも錬金したものなのか、と感心する。

 たとえざくざくと切り刻まれていても大鷲は反撃をせずにただ苦痛で暴れているだけなので、攻撃の好機だった。


「どんなものを投げたんだ。あんなデカいのに効く物なんてそうそうないぞ」

 

 セイジがそう訊くと、マックはもう一つ何かを取り出しながら、口元を緩めた。


「俺も驚いてます。あれ、視界を奪う錬金アイテム」

「いや明らかに視界を奪う以外の何かだよな?!」


 苦痛を訴え暴れまわる大鷲の動きに、セイジは目をむいて薬師のふりをしている錬金術師に突っ込んだ。

 マックはすでに飛ばされたブレイブの元に行って、薬か何かを渡している。

 空も飛べずただ暴れている大鷲はすでに瀕死に近く、セイジはクラッシュとともに見物としゃれこむことにした。

 クラッシュの横に立つと、剣を握ったまま、クラッシュは何もできない悔しさで唇を噛んでいた。

 若いなあ、と、セイジが苦笑する。


「あとは任せとけば大丈夫だ」

「でも、俺、何も出来なくて……」


 いつもより小さな声で、クラッシュが呟く。


「マックだってやれることをやってるのに」

「クラッシュ」


 ぽん、とセイジがクラッシュの頭に手を置いた。

 小さいころからよくやってくれるその手が、固まっていたクラッシュの身体を少しだけ解していく。


「クラッシュは戦うのが本職じゃねえだろ。あいつらは戦うのが本職。そして薬師だって半分はそうだろ。俺だって、こういうところの宝探しをするのが本職だから戦えないといけない。でもクラッシュは違うだろ。クラッシュの今すべきことは、生きて戻ること、たった一つだ」

「戦えた方が、いいんでしょうか。そうすれば、セイジさんの手伝いも」

「あの店どうするんだよ。クラッシュがいなかったら店開けれないだろ。あの店から買いたいってやつも、あの店に物を売りたいってやつも、クラッシュがいないと困るんだよ」

「セイジさん……」


 肩の力は抜けたものの、まだいまいち自分の中で弱さを消化できないでいるクラッシュに、セイジが苦笑した。


 そうこうしている間に、大鷲は光になって消えていった。

 『高橋と愉快な仲間達』の歓声が聞こえてくる。

 剣を持ったままのクラッシュの背中をポンと叩き、セイジは大鷲がいた方に足を向けた。

 残されたクラッシュは、一度視線を落としたあと、大きく息を吐いてから手元の剣を鞘に納め、セイジの後を追った。



「セイジ! オーブ出たぜオーブ! またグリーンだったけど」

「だな。でも今回はオーブ目当てで入ったわけじゃねえから仕方ない」

「あ、そうだった。忘れてた。あのデカいのから逃げたんだった。もっとレベル上げてリベンジしないとな」


 緑色に光るオーブを見つめながら何やら不穏なことを言い始める高橋に、セイジがニヤリと笑う。


「あの化け物を仕留めたら、間をおかずにポロフォンド森林にもう二体いるあれ以上にデカい魔物も倒さねえとだめだぜ。これは絶対だ。回りにも伝えといてくれよ」

「え、なんで?」

「森林の生態系バランスが崩れるからな。下手するとセィとセッテの街が崩壊まで行くか、砂漠都市のほうまで影響出るかもしれない。最悪街として機能しなくなるから、それを覚悟して挑めよ」

「ふぁっ?! そ、そんな大事になるんだ……掲示板に書いとこうかな。あ、でも今まで倒されてないってことは、最前線組もまだ倒せないレベルなのか……それとも存在を知らないのか」

「俺としては、三体を一気に倒してもらえば暮らしやすくなるから、そんなことが出来るやつが出てきてくれるのは大歓迎なんだけどな。それより、そのオーブ、いるか?」

「もちろん!」


 聞いた瞬間、『高橋と愉快な仲間達』が一斉に返事した。


「何だこれ。『ストムプレス』? ってどんな魔法だ?」


 グリーンオーブを調べたらしい高橋が首を捻る。

 

「『ストムプレス』っていうのはな、これくらいの空気の弾が飛び出して」


 セイジが手のひらで20センチくらいの丸を作る。皆が注目してふんふん頷いている。


「ぶつかった瞬間、そこから爆発したみたいな突風が吹き荒れる魔法だ」

「へぇ!! すげえ!」


 早速高橋は覚えたらしい。ユイにオーブを手渡した後、少し離れて向こう側の樹に「ストムプレス!」とやっていた。が、小さな透明な弾が現れ、樹にぶつかった瞬間ぶわっと風が吹いてそこの近くの枝の葉がなくなったくらいで風がやんだ。なんでだ! と一人大騒ぎする高橋を尻目に、次々と皆が魔法を覚えていく。そして、そのオーブはマックに手渡された。


「あれ、俺も?」

「だって4/6 って書いてあるもん。だからマックも」

 

 海里から手渡されたオーブを、マックがじっと見つめる。そして、オーブが光ると、マックが驚いたような表情をした。


「ほんとに覚えてる。俺魔法とか全然取ってないのに」


 少し感動したような顔をして、そのオーブを、最後クラッシュに手渡した。

 それに目を見開くクラッシュ。


「あれ、俺も?」

「ダンジョン捜索者である俺は、そのオーブの数に入ってないんだよ」


 何せ一人では入ることも出来ないダンジョン。誰かを連れてくることが出来るだけで、自分一人ではどう頑張っても攻略できない。

 だからこそ、オーブもセイジを認識しない。セイジ以外の、ダンジョンに入った人数が、そのオーブに記憶される。


「えっと、でも俺、何もしてないし」

「こういうところでは、最後に生きてるってだけで一つのことを成し遂げたことになるんだよ」

「……セイジさん」


 手の中に納まったオーブを見つめ、クラッシュは困惑したようにセイジを見上げた。

 そして、セイジが言った言葉を噛みしめる。

 一度瞬きをして、口元を緩めた。


「これ、俺が使わないで売ったら、どうなるんですか?」

「そりゃクラッシュが大金持ちになるな。そして、店にもっとオーブがないかと物取りに入られ……っと」


 そこまで言って、セイジはクラッシュの店の惨状を思い出した。

 クラッシュは無事だったけれど、どう考えてもあの店は無事じゃなかった。建物自体は壊れていないけれど、商品がなくなっている。

 きっと、クラッシュが店を空けているすきにああなったと思うと、あの惨状を、クラッシュは知らないはずだ。

 どうしたもんかな、と思う。

 

「物取りに入られるのは勘弁願いたいので、使うことにします」


 微笑をしてそういうと、クラッシュは手の中のオーブを見つめた。

 オーブが光り、クラッシュの手の中から光の粒となって宙に消えていく。

 その光を、全員がそれぞれの思いを胸に、目で追った。


 

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