再会
今回の話しも短いです。
「天地丸さん、迷ってないよね」
朝から歩いているが一向に森をでる様子がない。あまり大きくない森なのにだ。
「ふぅー、いい風だな」
「天地丸さん」
「大丈夫だって、単に今の場所が分からなくて方角も分からないだけだから」
「大丈夫じゃないから。それ」
(しかし、この微弱な鬼気はなんだ?)
微かに水の音がする。
「よかったぁ。喉が渇いたし、顔も洗いたかったんだ。これで水浴びも出来たらいいのに」
紫苑が行くのを止める。微弱とはいえ鬼気があるため、とはいえ雑鬼以下の鬼気しか感じられないが。だが水中に棲む鬼もいるため念のためだが。
すぐそばにある泉、そこでは一人の女性が水浴びをしていた。
「え、あっと・・・ご、ごめん」
そして、静寂な森に響き渡る悲鳴。
「天地丸さん、どうしたの?」
「あーっと・・・なんだ」
不可抗力とはいえ女性の裸を見てしまった後ろめたさからか、言葉を濁していると木陰から女性が姿を見せた。
「すいません、先程は大声をあげてしまって」
「い、いや・・・こちらこそ。まさか人がいるとは思わなくて」
「ふーん、天地丸さん覗いたんだ」
「ばっ、なっ、ち、違っ・・・・・・ごめんなさい」
無言の圧力につい反射的に謝ってしまう。
「ふふ、それよりもどうされました?」
そこで道に迷っていることを伝えると丁寧に教えてくれる。
そこで初めて、紫苑は女性をしっかりと見た。
足元まである長い髪は黒よりも薄く淡い色。瞳も同じ色。何より美しい。同性から見ても。
「・・・ん、・・・苑、紫苑」
「えっ、あ、どうしたの天地丸さん」
「いや、とりあえず道も分かったし出発するぞ」
見とれて聞いていなかった紫苑はあわててついていこうとする。
「もし良ければ、家に来ませんか?もうじき日も暮れますし、それに出口のそばですから」
「でも迷惑じゃ」
「いいえ。一人ですし、色々な話を聞けると喜びます。それに貴方は大丈夫かもしれませんが、お連れの方は女性ですもの」
「どうする紫苑」
「私は別に」
「湯浴みをして休んだ方がいいわ。私もずっと一人で寂しいから、話し相手になってくれない。ダメかしら?」
結局、お風呂の誘惑に負け一晩泊まることにした。
「そういえば、自己紹介もまだでしたね。私は翡翠と申します」
「俺は天地丸でこっちが」
「紫苑です」
「天地丸さんと紫苑さん、・・・よろしくお願いしますね」
「翡翠さんはどうして一人で暮らしてるんです?」
「そうね、待ってたんです。そして、やっと逢えた」
「?・・・」
「ふふ、紫苑さんには分からないわよね。でも永い間待っていてやっと逢えた。再会できたのよ。」
その優しく愛しい声の内に秘められた愛しい想いが天地丸に伝わる。
「ずっと待っていた。久遠の刻の中で、貴方ともう一度逢うためだけに」
翡翠は微笑みながらそっと天地丸にだけに聞こえる声で呟く。
「なっ、翡翠それは」
「ほら天地丸さん、紫苑さん、見えてきましたよ」
見ると少し大きめの平屋がある。かなり古い建物だが、造りはしっかりしている。
紫苑は久しぶりに野宿じゃないことに喜び、翡翠に話し掛けた為、先程の言葉の意味は訊けなかった。ただ、家を見るとどうしようもない懐かしさが溢れてくる。
少し長くなると思うので、最初は短くしました。
出来れば、1週間に1~2話を発表出来るよう頑張りたいです。