戀歌(こいうた)
今回は非常に短いです。そして二人目のヒロインも少しだけ登場です。
木々の隙間から照らされる淡い月明かりと焚き火の炎が周りを明るく染め上げる。焚き火の周りには茸と蛇や鳥が香ばしく焼けていた。他は木の実と果実に干し飯。
この森を抜けると天地丸の里への近道だからだ。
ちなみに蛇は見た目さえ気にしなければ美味い。
「天地丸さんの里ってどんな所?」
「そうだな、他所と変わらないよ。穏やかでゆっくりとした生活で」
「それで、どうして旅に出たの?」
「そうだな」
そう呟きながらそっと首飾りに触れる。紫苑にはそれがとても哀しく、愛しく見えた。それが決して踏み込んではいけない心の聖域に触れたことに気づいた。
「あっ、その・・・ごめん」
「別に気にするな。そうだな、旅に出た理由か・・・考える時間と場所が欲しかったのと、もっと外のことを知りたかったんだ」
話しながら、無意識に緋色の勾玉に触れると、優しく口づけを交わした。
(三年もかかったけど、やっと帰るよ。冬菜、母さん・・・なつ)
「天地丸さん?」
「何でもないよ。明日は本格的に森を歩くから、そろそろ休むか」
目を閉じると、疲れからか紫苑はすぐに寝息きをたて初めた。
「・・・・・・夏津」
誰かが天地丸を背後からそっと抱きしめた。
『天地』
いるはずのない少女の声、温もり、息づかい。
「夏津、久しぶり」
『やっと帰って来た。もういいの』
「ああ」
声はする、気配もあるが姿はない。
『天地、いい加減に待ちくたびれたんだから早く来てよ』
「分かってるよ。冬菜も待ってるしな」
『はぁ、相変わらず妹大好きね』
「これくらい普通だろ」
『・・・・・・・・・』
「イヤ、黙られても困るんだが」
『はぁ、でもそうね一つ伝えてあげる。私達はずーっと待ってるんだからね』
「達?」
『そのうち分かるわ。あんまり遅いとこっちから迎えに行くからね。それと守ってよ、その娘もこれから逢う娘も全部』
「約束する」
『なら、これは私からの御守り』
唇に触れる感触。
そして、歌が聴こえる。その歌を聴きながら天地丸も眠りにつく。
『天地、私は凛菜のことしか知らないけど、でも大丈夫。天地ならきっと』
そして、辺りはまた静寂に包まれる。
次回はある意味メインヒロインの登場です。