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母娘

なんか読みにくいかもしれません。もう少し精進しないと。

ちなみに文章の表現として基本

()は心情や思考、心の声

『』は死者やその場には存在しないものの想いの声

のつもりです。

夕刻頃、夜鬼の言っていた村が見えて来るも人の気配がない。

(はっきりした鬼気は2つ、それに小さいのは三、いや四十か?もう一つ、これは鬼気?いや人の気もある・・・)

「紫苑は確かこの村に来たことがあったよな」

「前に一度だけ。陽の季節に」

天地丸は紫苑に村の見取りを聞く。

「紫苑、俺から離れるなよ」

それだけで理解する。紫苑は恐怖で逃げ出そうとする足を必死に前に向ける。天地丸を信じて。


村に入ればすぐにその違和感に気づく、静かすぎる村。生活の暖かさがない。

そんな村に子供がいた。髪を肩で切り揃えた女の子。言葉なく必死に(たす)けを求める瞳。

「天地丸さん?」

が、その姿は紫苑の瞳には映らない。女の子は死してなを()らわれている。ふいに女の子が怯え、その姿が消える。


「出てこいよ」

「妾の気配に気づくとは人間にしてはやるようね」

声と共に鬼女が現れた。壁から幽霊の様に、その姿は上質な着物を着た鬼女。髑髏の顔に頭部にある白い三本の角。

「あの子の(こころ)をどうするつもりだ」

「フフフ、そう貴方には()えたのね」

太刀に手を添える姿に鬼女が嗤う。

「まさか、その太刀で妾を切るというの?たかが人間風情が」

その時、悲鳴(こえ)がした。音にならない(こころ)の声、そして生まれる罪深き鬼気。が、すぐにその鬼気が消失する。

その方向は紫苑から聞いた社のある場所。天地丸が鬼女を無視して社に急ぐも鬼女も目の前にある餌を逃がすほど愚かではない。牙を剥き肉を喰らうより先に、天地丸の蹴りが鬼女の顎を砕く。そのまま、社に近づけば近づくほど強く感じる想い。天地丸の心に届く、あの子の救けを求める(こころ)。ようやく社の近くに来ると天地丸達と同じく走る女性がいた。髪を振り乱しながら裸足で、傷だらけになりながら走る女性。


「天地丸さん、あの人・・・」

紫苑にもはっきり視えるも、天地丸は動けないでいた。声すら発することすら忘れて。

「いまのは・・・まさか!!」

「お待ちなさい。あの方の元へは行かせません」

「邪魔だ」

「皆、食事の時間よ。男と柔らかく美味そうな少女の肉よ」

鬼女の声に応え四十人の村人が出て来た。もっとも誰一人として生きてないが。死んだ時の姿のままで蠢く鬼。

「屍鬼か」

「ぁ、あぁ。こないで」

紫苑の脳裏に恐怖が蘇る。

「心配するな。屍鬼程度なら問題ない」

「随分な自信ね。なら見せてもらおうかしら、その自信のほどを」

「死して堕とされてしまった人よ。せめて、人を喰らい真に鬼となる前に切る」

太刀が動く、水の如く静かに、風の如く疾く、舞の様に美しく。

千舞(せんぶ)

その場には鬼女しか残らなかった。

「馬鹿な。あれほどの屍鬼を一瞬で切るなぞ」

鬼女はそのまま壁の中へ消えた。それよりも社へ一刻も早く向かおうと焦り隙が生まれた。壁の中から爪が伸びる。爪撃をかわし腕を掴むと強引に引きずり出す。

「お、おのれ離さぬか。妾を誰と思うておる」

「たかが鬼女が何を言う。たとえ人間だった時が何者であろうと、今は血肉を精神を貪る鬼だろう。そして、鬼ならば切る」

「妾を屍鬼と同じに思うでない」

掴まれた腕を自らの爪で切断すると、一気に間合いを広げる。

乱風刃(らんぷうじん)


天地丸が手刀を降り下ろすと同時に風が刃と化し、風刃は幾つもにわかれる。


鬼女の四肢と胴体を三つに切断した。それでも生きて再生しようとするも、天地丸は無言のまま眉間に太刀を突き立てると塵と消える。

社の入り口は鬼気の結界があるも、天地丸が腕を振るだけで霧散したが一歩足を踏み入れると、境内の中には奇妙な相違が創られていた。


「!!!」

「!!!」

二人は絶句するしかなかった。そこには、先程見かけた女性が小さな腐乱死体の首を泣きながら絞めている姿があった。

けれど、天地丸には天地丸だけには視えていた。あの時、救けを求めた女の子が首を絞めている姿が。

「いや。水貴(みずき)、水貴。止めて・・・もういや、また殺したくない。誰か止めて私を。お願いこれ以上殺したくないの」

水貴が誰を救けて欲しいのかすぐに分かった。そして天地丸が動くと同時に鬼気の塊が直撃し大きく吹きばされる。


「天地丸さん」

「つ、大丈夫だ」

(わっぱ)、邪魔をするな。この餌を喰い終わるまで待つがよい」

天地丸は紫苑を抱え大きく後退する。

残風刃(ざんぷうじん)の柵ー(まどか)ー」


風刃が紫苑の周りを囲む。消えることなく風刃は残り、紫苑に触れようとするものを切り刻む結界として在る。


「いいか、絶対に動くな」

紫苑が頷くのを確認し、再び向き合う。

天地丸だけでなく女性にも視えている。幼い水貴が苦しみ、涙や涎、鼻汁を流しながら懸命に何かを伝えようとしていることに。

「クカカカカ、もうすぐだ。カカカ、また味わってやろう。甘露な精神を」

声に応えるように、女性の力が強まる。首が絞まり、それが水貴の魂を苦しめる。そして、その時が訪れる。

「お・・・かあさ、ん。おねが・・・い。ぉか・・・あさ・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・・や、嫌よ。水貴、水・・・貴?わた、し・・・私、わたしが殺したの?私がこの手で?水貴を、娘を・・・・・・」

「カカカカ、そうだお前が殺した。お前が望み願ったのだ」

「・・・そ、うそ、嘘、ウソ。」

声にならない叫び。魂の慟哭。

女性の周りの空気が異質に変わり、鬼道へ繋がる。

「嘘ではない。ワシはこの社に宿る神霊、お前はワシに嘆願したのではないか」

女性は遂に鬼界と交わり堕ちた。鬼へと変生する。

顔色は土気色に、頬は痩け瞳は濁り、爪は鋭く伸び、口は裂け牙が生える。そして額にある一本の角。


「くそっ、間に合わなかったか。しかし、般若だと」

「殺せ、喰らえ、憎め、恨め、血を肉をよこせー!」

般若は手頃な餌として天地丸に目をつけた。まるで天地丸を喰らえばこの消失が全てのものから解放されるとでもいうかのように。

「何度味わっても美味いわ。娘が母に殺される瞬間の想い、娘を殺した罪に耐えきれず鬼へと堕ちる瞬間の想い。人間の血肉などより余程の美味よ」

一声ごとに天地丸の予想は当たっていた。この鬼の正体に。が今はそれどころかではない。般若の攻撃をことごとく避けるだけ。般若を切るのは容易い。しかし般若はまだ真に鬼へと堕ちてはいない。いつの間にか、水貴の死体のそばに来ていたが般若は動かない。

(そうだ、まだ諦める訳にはいかない)


『救けて』

声がした。いるはずのない者の声。視ると水貴がいた。両目にいっぱい涙をため、けれど泣くのを耐え。

『お願い、お母さんを救けて!お願い』

「心配するな。きっと救ける。だからもっと願い想うんだ。それこそがきっと鬼すら越えるちからになる」

水貴の姿が陽炎の様にゆらぐ。魂の想いだけになろうと母を想い世界の理を越えて存在()る。


「憎め、殺せ喰らえ。恨め、怨め」

「いい加減にしろ!!その想いが怨嗟の声がさらに口を裂き鬼へと近付けるのがわからないのかよ」

「無駄よ童。この者の心は精神はワシの意のまま、飽きるまで、子殺しの想いを喰い尽くすまで人間と鬼を行き来する」

「黙れ」

静かな、けれど底知れぬものを秘めた声に鬼は沈黙した。そのまま、無造作に般若へと近づく。

「天地丸さん!?」

紫苑は信じられないものを見た。一撃で人間を引き裂く鬼の豪腕を受け止めるだけでなく、さらに押し返す。

「これが望みか?水貴を殺し鬼になることが願いか」

「グァ、ガァァァ。喰らえ憎め」

牙を突き立てようとする般若を殴り飛ばす。

「そうすることで誰が哀しむか知っているのか。命を失っても母を想い、理を越えて存在(いき)ている娘を哀しませるとわかっているのか」

「う、うぁ・・・み、ず・・・・・・グガァァァ」

般若が一気に跳躍するも呆気なく蹴り落とされる。たとえ相手が鬼であろうと力の差は歴然としていた。


『お母さん、私ヤダよ。ねぇお母さん。帰って来てよ』

「グゥ、黙れ。憎め、恨め。喰ってやる、喰ってやる。お前も男も全て」

「いい加減にしやがれ。それ以上水貴の想いを無にするなら、俺が鬼として切る」

その迫力に般若が止まる。

「確かに娘を殺した。例え操られていようと・・・・・・けどこのままじゃ、今度は自らの意志で水貴の想いを魂すらも砕く気か」

「ワ、ワタ・・・シ。ワタシは」

『お母さん』

その時、紫苑にも般若の目にもはっきり視えた。

「!?ウァ、ア、嘘よ、みんな嘘よ。だから引き裂いて喰ってあげる」

般若の爪が水貴の頬をかすめ一滴の血が流れる。たとえ死に身体を失っても、強い想いが母への想いが水貴を繋ぎ止める。これは奇蹟なんかじゃない。純粋な強い想いが可能にする真実。

『大丈夫だよ。お母さん』

「答えろ。あんたの爪は人間を引き裂くためにあるのか?その口は人間を喰らうためにあるのか?・・・違うだろ、その腕は愛する人を優しく抱くために、その口は優しい子守唄を歌うために。それとも、本当に娘を水貴を殺したかったのか、鬼になることが本望なのかよ」

「違う」

その声は般若から発せられた。けれどそれは紛れもなく母親の声。

「ただ助けたかった。そばにいたかった」


般若の身体に縦横無尽にヒビが入る。


「ただ水貴と一緒に生きていたい。一緒に暮らしたい、それだけなの」

般若の身体が剥げ落ち、その場には女性がいた。水貴の母親が。

『お母さん』

「ごめんね。水貴、水貴」

母娘の絆が結ばれ抱きしめた瞬間、その身体を木が貫いた。

「つまらん。母親でも娘でもいい、最後にもう一度ワシを楽しませてから死ね」

『お母さん、私ずっとずっとお母さんと一緒だよね』

「もちろんよ。私達はずーっとずーっと一緒よ」

そのまま、母親は動かなくなった。水貴を抱きしめたまま、優しく美しく微笑んで。そこには、恐怖も何もなくただ母親の愛がある。

『お兄ちゃん、ありがとう・・・・・・お母さんを救けてくれて』

身体を貫く木をそっと抜く。

「水貴、すまない」

『ううん、私が思った通りお兄ちゃんはお母さんを救けてくれたもん、だから送って。もう二度と離ればなれにならないように、それから悪い鬼なんかやっつけて』

「ああ、約束するよ。おいで」

母親の身体を抱き上げると、水貴の死体の隣に寝かせた。一度、水貴の頭を撫でると優しく詩う。



もし許されるならもう一度母になりたい

もし許されるならもう一度娘になりたい

もし許されるなら笑顔で暮らしたい

再び動く時の白雪の炎よ

いま再会す母娘を包め



降り積もる白雪の様な真白き炎は、母娘に降り積もり包み隠す。今度こそ幸せに笑って暮らせることを想い。

やがて炎の雪が溶けるとそこには何もなかった。


「出てこいよ」

その声に応えるものはいない。

地雷火(ぢらいか)


抜刀した太刀に雷と火を纏わせ、太刀を大地に突き立てる。雷火は地中を疾りその衝撃が大地を揺らす。


「おのれ童が調子にのりよって」

社を破壊し地中より現れたのは鬼。天地丸の三倍はある体躯は筋肉で逞しく、けれど顔は骨と皮で瞳は異様に濁っている。そして、左側頭部に二本と顎に一本の角を持つ鬼。

「やはりきさまか、追罪(ついざい)

「ほう、ワシの鬼種(きしゅ)を知るか」

「知っているさ。人間の、その人の最も忌避する罪を行わせその時の感情を想いを喰らう。そればかりか、その罪を何度も何度も喰い飽きるまで追体験される穢れた鬼」

「同じ餌ならば美味く喰らうのが当たり前であろう。それ以外に人間の存在価値などないのだからな。それにワシはあの人間の願いを叶えた。その代価を貰ったまでよ」

そこで思い出したのか、厭らしい笑みを浮かべた。

「教えてやろうか、あの母親の願いを。次々に村人が死に消えるなかで、この社に神霊が宿ると信じてワシに、鬼に嘆願したのだ『どうかこの娘と一緒にいられますように、水貴が鬼に殺されませんように』とな。だから叶えた。鬼に殺されないように母親ので殺させ、死体を母親と一緒に居られるようにした。娘を殺し狂い鬼に堕ち、娘を視れば人間に戻る。幾度もワシを楽しませてくれたものよ」


「ひ、ひどい、そんなの」

「ひどい?クク何を言う。この社に願いをする人間など利己的なものばかりだったぞ、しょせん人間などその程度。ぬしもワシに願うかつばをつけられた娘よ。ワシに願えばその印を消してやるぞ」


「さっきから話しが長いな。殺してやるからさっさと来い」

その言葉に豪腕が降り下ろされるが天地丸は片手で受け止める。

「追罪、きさまには理解るまいあの母の願いを、あの母娘の想いの強さを。きさまが願いを叶えるなら、俺は約束を守るさ水貴との約束をな」

「昔の人間がすがり付いた寝物語の様に鬼退治でもするつもりか」

「鬼退治?違うな・・・鬼殺しだ」


そのまま、無手で間合いを詰めると追罪の脚に拳を打ち込み肘を打つ、その二連撃で追罪は片膝をつく。その脇腹に掌打を当てると同時に脚から腰、腰から肩、肩から腕、腕から掌へとひねりを伝え相手の体内へ打ち流す。

狂水殺(きょうすいさつ)


追罪の体内を螺旋の衝撃が突き抜け、血を伝わり全身に狂うほどの痛みが広がる。


四断裂肢(しだんれっし)


抜刀された太刀が閃くと四肢を断裂していた。


連火弾(れんかだん)


天地丸の周囲に出現した数十もの炎弾が追罪を打ち燃やす。そればかりか、切断された四肢を焼滅(しょうめつ)させる。


(ワシが、ワシがこうも一方的にやられるとは。再生の時間をかせがねば)

「そうまでしてワシ等を鬼を滅ぼしたいか?根絶やしにしたいか?クク、ならば教えてやろう人間を殺せ。鬼の餌の人間を殺せ。それに知っているだろう、鬼は人間から生まれることを、人間が鬼に堕ちることを、鬼を滅ぼしたければ人間を滅ぼせ。容易かろう、人間など爪も牙も持たぬ、脆弱な精神しか持たぬ」

「それがどうした。どうして人間が鬼を生む、どうして人間が鬼に堕ちる。想いが善くも悪くも、その強すぎる想いが人間を鬼に誘う。ただそれだけだ」

太刀を鞘に納める。

「それに勘違いするな、鬼だろうと人だろうと俺は、許せないものを討つ。何より水貴との約束だ。そして見せてやる、鬼側(そちらがわ)の力を」

炎が生まれた。黒く禍々しい炎。紫苑の村や水貴達を送った炎とは対極の炎。

「ひぅっあ・・・ぁぁ、ヤ、ヤメ、止めろ」

それは恐怖。本来、恐怖を与えるはずの鬼が恐怖していた。

獄炎(ごくえん)


黒く禍々しい炎が追罪に触れると爆発的に広がり燃える。


天地丸はさりげなく移動すると紫苑がこの惨状が見えない様に身体で隠していた。

鬼の再生能力を越え、完全に焼滅するまで続く狂炎(饗宴)。



全てが終わると、天地丸は紫苑を促し村から出た。

紫苑は話したかったが、天地丸の表情を見ると話しかけず、ただそばに寄り添って歩いた。

そんな二人を月は優しく癒すように照らす。






こんな話ですが、書こうと決めた時はコメディの予定でした。名残が一切ないですが。

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