別離と始まり
紫苑が気を失っている間に、天地丸は喰い散らかされた肉片を一ヶ所に集めた。もちろん生き残りを探したがいるはずもなく、殆どは原形すらない肉塊か原形を留めていようと正視出来ない死体ばかりだった。そして、その惨状を見せないため足早に村の入り口へ向かう。
「・・・天、地丸・・・さん?・・・・・・!!皆は、村の他の皆は」
あわてて村に戻ろうとするのを止める。
「天地丸さん、離して、私さがさなきゃ、きっと誰か生きて」
黙って首を横に振る天地丸にしがみつき、夜の闇に嗚咽が響く。
そんな紫苑をそっと抱きしめると、天地丸はその背中をポンポンと叩きながら『大丈夫』と繰り返した。
「紫苑、あの時聴いただろ。両親の声を、たとえ死のうと想いは残る。だから・・・」
「ありがとう、天地丸さん」
「何か伝える事はあるか」
その言葉に村を見回した。鬼の爪痕が残る村を。
「・・・・・・ごめんなさい。それと、ありがとう」
万感の想いを込めた言葉。それは、別離と感謝の想い。
二人は村を出た。月は中天に輝き周囲を照らす。天地丸は足を止めると、ゆっくり呼吸を整える。
「紫苑、忘れるな。今から伝わる全てを」
そして紡がれる。詩
いつも君のそばにある想いを忘れないで
いつも心にある風景を忘れないで
いつも君と共にある魂を忘れないで
その魂と想いを伝える真紅の炎よ
いま紫苑の元へ
詩に合わせ生まれた炎はその色を赤から紅、そして真紅へ。それは全てを包んだ。人を村を送るための送り火。優しい炎。
炎に包まれすべては還る。人と村が炎で浄火され消える。その炎は紫苑を包みひとつになる。
「ありがとう」
「・・・・・・来るか?」
「それって」
「俺は誘鬼を追う。奴を切れば紫苑につけられた印も消える。鬼を切るために鬼を捜しに行くか?それとも何処か他の地で暮らすか?俺ならその印を隠すことも出来る。どうする?」
「私、私は天地丸さんと一緒に行く」
「いいのか?今日よりも、もっと辛く哀しい思いをする。もっと強い恐怖を感じる。それでも本当に来るか?」
「私、最後まで見ないといけないから」
「なら、誘鬼を切りその印が消えるまで俺が紫苑を守る」
「うん」
そして、二人は東へ向かう。夜鬼の言っていた村へ。
野宿に適した場所を見つけると、手早く準備を済ませ二人は休む。東の村へは明日の夕刻頃には着く予定らしい。紫苑の話では。その紫苑はあまりに多くのことがあり、心身共に疲れていたのかすでに寝息きをたてている。
「夜鬼か。あの妙な鬼気、俺のよく識る気に似て非なる鬼気。本気を出して勝てるか?・・・・・・それよりも、三十年前の封が解けたなら夜鬼だけじゃない、多くの鬼ともう一匹の双鬼士。何より純血の鬼・・・・・・」
天地丸が焚き火に枝をくべると静寂の夜に枝のはぜる音が響く。
無意識に天地丸の手は首にある緋色の勾玉に触れる。
「今は、紫苑の印を消して早く里に帰ろう。里へ冬菜のそばに帰らないと」
そして、天地丸も眠りについた。