月夜語り
遅くなって申し訳ありません。当初の予定からかなり変わってしまいました。
まだまだ拙いですが少しでも楽しんでもらえたら幸いです。
その屋敷はあまり大きくないも、よく手入れされ庭には桃と桜の木に季節の草花が咲き誇こりそして、清浄な空気に包まれている。
「まずは湯浴みを、それから手当てをしましょう」
「・・・助かる」
湯浴みでは桃の木を使用した湯槽に清浄な水を沸かしたお湯がはられ身体を洗い、湯につかるだけでも癒された。
着物を着替え居間に行くと、お茶が用意してある。
お茶を飲みながら待つと、長い銀髪を結い上げ着物を着替えた月夜が襖を開け入ってきた。その手に癒しの符を持ち。
身体に符が貼られ、そこから暖かな気が身体全体を包む。
(この術・・・なら月夜の正体は。しかし月夜の気質は人のそれと同じ・・・いろいろと確かめたいが後だな)
先程の傷ばかりか古傷すらも完全に治っている。そればかりか、天地丸が式和の屋敷で鬼界とまじわり鬼の術を使った。それにより天地丸の魂魄の表面にこびりついた鬼気の残滓も完全に祓われ浄化されている。
「天地丸様、あなた様にお訊きしたい事が御座います」
「治療の礼もあるしな、答えれることなら答えよう」
「ありがとうございます」
空の湯呑みにお茶を注ぎ、月夜は一度呼吸を整えた。
「あの時、式和が心から罪を認めその償いをすると言ったのなら見逃したのですか?」
祈るような、どこか願うような月夜に天地丸はハッキリと首を横に振る。
「!何故ですか?」
「例え本当に改心したとしても、その事を頭で理解ってようと感情が赦さない」
「天地丸様、殺して命を奪って終わりにしてどうするのですか。私達には言葉があります。確かに多くの鬼や妖には通じなくとも」
「月夜、言いたいことは分かる。その考えの素晴らしさもな。だが言ったろ感情が赦さないと。俺は鬼だろうと人だろうとそれが神であろうと、想いを汚すやつを、許されざるものを許すつもりはない」
「それはあなた様の自己満足なのでは?」
「なら月夜、友を家族を愛するものを奪われた人達はその相手が罪を認め償いをするから赦せと?目の前で娘を喰われても、愛する人の目の前で殺され再会することさえ罰せられても赦せと言うのか。それこそ想いをわかってない。そんな綺麗事でこの世界は成り立ってないさ」
「それは確かに・・・しかし私達には心を制する事ができます。人間はそんなに弱くありません」
「確かに人は弱くない。強いから・・・心が想いが強いから制する事が出来ず鬼を生み鬼に堕ちる。それでも、だからこそ鬼を打ち破り越えることが出来る・・・・・・そう、鬼も神も天すらも越えて在ることが出来るんだ」
「そうですね。確かに私は理想ばかりを追い求め過ぎていたのかもしれません」
(この方は本当に禍者なのでしょうか?此方の試すような言葉に解っていながら真摯に応えられ、また人を想いを護られている。確かに鬼界と交わりもされましたがそれも魂魄の表面に残滓が残っていた程度・・・・・・もうしばらく見守りましょう)
「どうかしたのか?」
「いえ、少し考え事を」
「そうか、なら俺はこれで失礼するよ。傷を癒して貰ったうえ鬼気の残滓まで祓ってくれて感謝する」
「私達の方こそありがとうございます。式和を止めてくださったこと、封(符)鎖結界内の鬼を退治して下さったこと、街の民に代わりお礼申し上げます」
「ああ」
そして天地丸は屋敷を出ると帰って行った。その後ろ姿を月夜じっと見つめる。
「天地丸様・・・貴方様は本当に私達に仇なす禍者なのですか?」
その呟きに答えるものはなく、ただ闇夜に溶けて消える。




