月夜
久しぶりの投稿です。
数分後、式和はあまりの恐怖と生への執念に鬼へ堕ちた。
千切れた腕は着き、腱は再生し四肢は筋肉で数倍に肥大化し身体も大きくなる。さらに肩甲骨の辺りから腕が生え4本腕に鋭い爪を持つ。
顔は身体の大きさと比べ不釣り合いなほど大きく4つ目に大きく裂けた口に牙と大人の腕ほどある舌。なにより頭部に一対の角と後頭部と顎にも一本づつ角が生えている。
その鬼気は屋敷を中心に街へと広がっていく。
「堕ちたか」
天地丸は呟くと、人気のない戦うに相応しい場所へ移動する。
「誰だ」
誰何の声に答えたのは先程の符術師達。式和が鬼に堕ち、天地丸を追っていることに気づき先回りしたのだろう。
「今さら、あなたが何をし何故式和が鬼となったか訊くきはない。だが民を守るのが我々の使命、そして民に仇なす鬼が式和・・・・・・街の者ならばこの場は任せてもらおう」
そして、式和が鬼が来た。
「魂喰み、か」
天地丸の呟きに、鬼・・・魂喰みは吠えた。そのひと吠えで周囲を彷徨う雑多な霊を喰らった。
「長よ、いや式和よ心だけでなくその身すら鬼と堕ちたなら、我らの名の元に滅する」
「ジャ、ジャ、ジャマヲ、じゃまを・・・邪魔をするな。お前達はあとから喰らってやろう。が、まずは貴様が先だ天地丸」
「俺も言ったはずだ。鬼に堕ちたなら完全に殺すと」
「ククク、出来もしないことを言うな。この力を得てやっと理解た。鬼の力の素晴らしさが、この力があれば全てを手に入れられる。まさしく神と皇と成るに相応しい」
「そこまで堕ちたか、だが我らがいる限り好きにはさせん」
符術師達が上衣を脱ぎ衣の糸をほどくとそれは大きな一枚の符になった。符術師達が己の血で書き常に身につけ気を込め続けた符。
「鬼滅天神符ー天の御火(神)槌」
符が空へと舞い上がり、次の瞬間凄まじい雷火が降る。
「これこそ我らの秘技。いかなる鬼であろうと滅する」
徐々に雷火が収まっていく。
「そ、そんな・・・」
「さすがこの街を守護する符術だが鬼の力の前では無意味だな」
魂喰みの鬼気が符術師達に向けられる。それだけで恐怖により呼吸すらままならなくなる。
「貴様の相手は俺だ」
符術師達に向けられていた鬼気が全て天地丸に向けられる。
「恐怖し命乞いをしろ。無様な姿を見せてみろ」
圧倒的優位を確信する魂喰みの顔面に蹴りが決まる。完全に不意をつかれ無様な姿をさらした魂喰み。
「今のうちに逃げろ」
「我らに逃げろと言うのか」
「気づいたはずだ魂喰みとの力の差に」
魂喰みはすぐに起き上がり、天地丸を引き裂こうとする。
「連火弾・四風八旋」
十数もの炎弾が魂喰みに直撃し、四方八方から風刃が切り裂くも足止めにしかならない。
「行け」
「貴様なら勝てるのか?」
無言のまま視線が交わる。
「確かに我らでは勝てぬ、貴様に賭けるしかないか。式和が堕ちたのは貴様の責任だからな。だが逃がしてくれるか?」
「俺が戦っているうちに逃げろ」
天地丸は魂喰みへ、符術師達は街中へとそれぞれ駆けていく。
「四断裂肢」
抜刀と同時に四肢を切ろうとするも、太刀の様に伸びた爪に斬撃を防がれる。と魂喰みの蹴りを後ろに下がり避けるも足の爪が伸び服を切り裂く。
「く、クク、どうした?鬼に堕ちたなら完全に殺すんじゃなかったのか?ククク、ひゃはは、俺は感謝してるよ。お前のおかげでこんな素晴らしい力を、手に入れることが出来た俺は鬼がこれほど素晴らしい存在だとは思わなかったぞ」
「炎・雷・紅ー炎舞紅雷撃」
炎と紅き雷が魂喰みを襲う。
「鬼哭の雷」
魂喰みの不気味な鬼(奇)声が大気を震動させ雷が生じる。二つの術式がぶつかり消滅する。
その人を越えた戦いに符術師達は逃げるのを忘れ魅入っていた。
「早く逃げろ!」
天地丸の声に慌てて動こうとした符術師達を魂喰みの舌が巻き付き縛る。その舌を切り離し、新しい舌が生える。
「さて、終わらせてもらおう」
「飛空符刃」
涼やかな声と共に数枚の符が符術師達を縛る舌を切り刻む。
「月夜姫様!」
そこには女性がいた。長く美しい白にちかい銀髪と澄んだ紅い瞳の神秘的な女性。
「今のうちにお逃げ下さい」
「月夜姫様こそ、どうして此のような場所に?あまり屋敷から出ようとされなかったのに」
「刻が廻りきましたから、ようやく神命を思い出しました」
「月夜姫様?」
「あとはわたくし達に任せて下さい。そして戻り街の守護を」
「月夜姫か・・・ずっと前から犯したいと思っていたぞ。ちょうどいい月夜姫には子を孕ませてやろう」
「あなたには出来ません」
「その気高さ、すぐに快楽に喘ぐ表情に変え俺なしではいられぬようにしてやろう」
「皆様は早く街に戻り民の守護を」
符術師達は一瞬躊躇うもすぐに各々が街中へと散らばって行く。
「まあいい、奴等などいつでも喰える。それよりも今は天地丸きさまを殺しその頸の前で月夜姫を孕ませてやろう」
言いながら三本の腕を振るうも天地丸は全て躱し左右の掌打を挟むように打つ。
「挟撃螺旋」
「がぁぁぁ、人間ごときが調子にのるな。鬼哭の雷・散」
狙いもなく、ただ闇雲に周囲を破壊する雷。
「氷・炎・蒼―氷円蒼炎衝」
氷と蒼き炎が円を描き天地丸と月夜姫を守り、雷を打ち消す。
「魂喰み・・・いや式和、お前は少しでも考えたことがあるか。凜菜の彼女達の想いを」
「想いだと、くくく。馬鹿馬鹿しい女などただ欲望の捌け口よ。」
そして魂喰みは人間のときと同じ下卑た笑いを浮かべた。
「あの凜菜もいい声で啼いてくれたな。海に捨てずに慰みものとして飼ってやればよかったと少し後悔したよ」
「そうか」
そして、突然魂喰みの腕が2本切り落とされる。
「いつの間に、・・・鬼哭の雷火」
「連火弾」
魂喰みの雷と炎は天地丸の術式に相殺される。
「鬼気霧生壁」
魂喰みの鬼気が濃くなり、視認出来るほど高まりその鬼気は濃霧となり魂喰みの姿を隠す。
姿は見えず、周囲を覆う鬼気の濃霧が魂喰みの鬼気と同化し正確な位置もつかめない。
かといって攻撃を仕掛ける様子もみられないでいた。
「風天昇走破」
天地丸を中心に風が巻き起こり、鬼気の濃霧を巻き上げ天へ昇る。
「それが狙いか」
そこには月夜姫の顔に爪を向ける魂喰みがいた。そして余裕の笑みを浮かべる。
「確かに人間の割には強かったがそこまでだ」
爪を向けられた月夜姫は恐怖することもなく、ただじっと天地丸を見つめた。
天地丸は太刀を鞘に納め背を向ける。
(早く、速く、疾く、閃く)
天地丸は前を向きながら身体を捻り、太刀を鞘走らせる。
「神月・飛閃」
太刀が風を切り裂き、その刃が魂喰みの顔に一筋の傷をつくる。
魂喰みの意識が一瞬逸れた隙に間合いを詰める。
「水蓮掌」
隠気を込めた掌底が魂喰みを大きく吹き飛ばす。
「連火弾・乱風刃」
数十もの炎弾を叩き込み、間髪入れずに数十もの風刃が身体を切り裂く。
「絶風刃」
風刃すら断つ風の刃が魂喰みの下半身を切断する。
「た、助け・・・たすけてぐぶげぇぇ」
最後まで言う前に天地丸は魂喰みの顔面を踏みつける。
命乞いをしながらも下半身は徐々に再生し四本の腕を振るう。
「風牙連爪・四刃」
風が、まるで獣が爪と牙を振るうように魂喰みの身体を引き裂き抉り、太刀が閃き四本の腕を切断する。
「終わりだ」
天地丸の太刀がゆっくりと魂喰みの首を切ってゆく。恐怖を与える鬼が恐怖に顔を歪め命乞いを口にする。
人間の時に恐怖し、鬼に堕ち、また恐怖の果てに死ぬ。
そうして魂喰みは塵に消えた。
「終わりましたね」
「月夜だったな。何者だ?ただの符術師じゃあるまい」
「全てとはいきませんが、少し話しましょう。それに、あなたの魂にこびりついた鬼気の残滓も祓わなければ」
「気づいたのか」
「ええ、まずは此方へ。わたくしの屋敷に案内いたします」
次は今月中に投稿出来るように頑張りたいと思います。




