鬼のいる街~朱葉~
もう少し、戦闘シーンが上手表現出来たらいいな。
「妖鬼妃か」
「ええ、ワタクシの名は朱葉」
艶然と微笑む朱葉。
「貴方の名は?」
「・・・・・・・・・」
無言のまま太刀を構える天地丸。
「答えてはくれないのですか?名を知られ言霊や呪に囚われることを恐れるなら、ワタクシはそのような真似はしません」
「・・・・・・天地丸だ」
「天と地を冠する名とは、貴方の両親は何を思い名付けたのかしら」
これ以上、話す必要はないと言うように天地丸が一気に間合いを詰め首を薙ぎ払う。躱されると太刀筋の軌道を変化させるも、かすり傷すらつかない。
「せっかちですこと」
何も答えず、天地丸は左足を半歩前へ、右足を少し下げ腰を落とす。太刀を持つ右手を顔の位置まで挙げるとその切っ先に左手を添える。
「閃突・槍」
天地丸が駆けると同時に突きが繰り出される。疾く、鋭く、間合いの外から槍のごとき一撃。
朱葉は半身ほど反らし避ける。その動きを読んでいたのか、天地丸は腕が伸びきる前に強引に戻すと同時に上半身を捻り、その力を放つ。
腰から肩、肩から腕に伝わり捻りながら突きを放つ。
「閃突・旋」
その一撃すら朱葉は何事もないように避けた。
「その技は誰に教わったのかしら?天地丸、貴方は人間?それとも隠?どちらかしらね」
「俺は俺だ、ただ鬼を討つのみ」
「ふふ、ここには鬼しかいないのだから隠す必要は無いでしょうに。さて、確かめさせて下さいな。・・・・・・鬼畜」
朱葉の鬼気が大きくなり、その力に多くの霊が集められる。犬や猫、蛇や蠍に狐や狸、狼や鷲や鷹等。特に肉食の獣、毒を持つ蛇や蠍等の虫や爬虫類、猛禽類の鳥。
「まさか!!」
「ふふふ、さぁ堕ちなさい」
朱葉の言霊と鬼気に霊が反応し実体を持ち始める。
この世の理をねじ曲げる外道法。鬼の操る鬼道(導)法。
「無理矢理に鬼に堕としたな」
「ワタクシはキッカケを与えただけ。そのものが鬼に堕ちるか否かはそのもの次第」
そう微笑む朱葉の隣にそれは堕ち生まれた。
獰猛な獣の頭が三つ、巨大な大蛇の頭が五つ、猛禽の頭が三つ。それが一つの四足獣の身体にある。その身体には二対の翼、尾は九又でありその全てに角が棘のように生えている。
鳴き声が響く。人間でも獣でもない、不快な音としか言えない声。
「鬼畜が邪魔だ」
大蛇の首が伸び五つの頭が別々に襲ってくる。
「千舞」
天地丸の動きより先に鬼畜がその巨体を浮かび上がらせ、瞬時に空を舞う。
「貴方の強さはこの程度?いいえ、早くあの姿を見せてちょうだい」
「普通の鬼畜と格が違うか」
鬼畜が舞い降りると十一の頭と九又の尾が複雑に動き襲う。
天地丸は太刀を逆手に持つと背に隠すように構え正面から駆けた。
「風駆け」
逆手のまま太刀を振り抜く、二つの獣の頭を切り落とすも最後の獣が刃をその牙で噛み止めた。
「くっ」
天地丸は咄嗟に太刀から手を離し横に跳ぶのとほぼ同時に、さっきまで天地丸がいた場所を大蛇の牙が襲う。
「しつこい」
さらに追ってくる大蛇の頭。
天地丸が態勢を整え、右足で一つ蹴り上げ、そのまま蹴り上げた足を降り下ろし二つ目の頭を地面に打ち付ける。
背後から迫る大蛇に左回転肘打ちで三つ目の頭を弾くと、右掌打で四つ目の頭を打ち抜く。五つ目の頭に膝蹴りを決め、太刀をくわえている獣の左目を抉り抜き、力がゆるんだ瞬間、太刀を振り抜いた。
たまらず空へ逃れようとする鬼畜の翼を『風刃』で二枚切り落とす。
「まだでしょう。貴方の力をワタクシにもっと見(魅)せてちょうだい」
鬼畜が痛みに狂いながら九又尾を振り回す。
「九流刃」
九又尾全て切り落とし、更に鬼畜の身体が九つに切断されていく。
「鬼畜」
朱葉の言霊と鬼気に反応し、新たな霊が鬼畜の身体を再構成されていく。
周囲の霊が尽きるか、一撃で消滅させるしか鬼畜を倒す方法ない。
「ならば見せてやるよ。俺の本気を」
光の渦に包まれ、そこに姿を現すのは隠の姿に転身した天地丸。
天地丸の姿とその身に纏う隠気に朱葉は魅とれた。
「風・雷・雪ー風槍雪雷降」
風の槍が鬼畜の身体を貫き止める。そして、真白き小さな雷球が幾つも雪の様に降り鬼畜に触れたとたん雷が全身を閃り貫く。
その一撃で鬼畜は完全に消滅した。
「やはり隠の術式は美しい」
「次はお前だ、朱葉」
「同族殺しの隠。ワタクシ達の天敵たる一族・・・何度見てもその姿の美しいこと。・・・・・・〈大連〉」
朱葉の手には両刃の直刀が握られている。
「六連」
「死(四)連」
天地丸の六連の斬撃を朱葉は四連の斬撃で全てを防ぐ。
「なっ!?」
「天地丸、なぜ貴方は鬼を狩るのです?天命だから、それとも自身の望み?」
「何が言いたい」
「ワタクシと共に来ませんか?」
「ふざけるな」
「残念ね」
「千舞」
「死手の舞」
二人の剣舞が重なり離れる。
「四断裂肢」
四肢への斬撃を朱葉は全て防ぐも、それを囮に天地丸の鋭い蹴りが決まる。
「?この感触」
天地丸の蹴りは直刀の面で止められていた。それも朱葉の身体が隠れるほどに巨大化した〈大連〉によって。
その巨大な直刀を軽々と降り下ろす。かろうじて避けるも、土煙に視界を奪われる。
「死へ送る牙」
咄嗟に跳び退くも左肩から袈裟斬りに、引き裂かれ血飛沫が舞う。
「ぐぅ、あがぁ」
「逝きなさい」
頭上から降り下ろされる刃。
「昇陽」
跳び上がりながら迎撃する。刃と刃がぶつかり合う、さらに〈大連〉の側面に蹴りを打ち込む。
着地と同時に『風刃』を放ち『閃突・旋』に繋げる。
「大いなる死の連夜」
〈大連〉がさらに巨大になり、朱葉はそれを瞬速で振るう。
「風に舞う散りゆく花片」
ゆっくりと動く。流れる様に花の舞散る様に。
十数合の打ち合いに〈大連〉は音も無く砕け、天地丸の太刀には亀裂が走る。
「はぁはぁ、終わりだ」
「ふふふ、本当に隠の一族は強いわね」
艶然と微笑みどこか恍惚とした表情を浮かべる。
「死雷大連」
〈大連〉の破片全てが雷球となり。天地丸の周囲を埋め尽くす。
その小さな雷球一つ一つが天地丸の『迅雷』を遥かに越える威力を秘めている。
「ワタクシが隠の術式から造り出した最高の術。美しいでしょう」
確かに美しい。それは破滅の美しさ。
「なら俺も見せてやるよ。隠の術を」
天地丸は片膝を着くと、左手を地に着け右手を天に掲げる。
「天雷・地雷・神雷ー天地雷翼神」
激しい雷が天と地を閃り、周囲を覆うほど広がり翼となる。雷の翼が羽ばたくと轟音と共に全てを滅する。
それでも朱葉はかろうじて生きていた。
もっとも身体は徐々に崩れて逝く。
「本当に美事ね」
憧れるように微笑むと、朱葉は天地丸に手を伸ばす。
「これは祝福よ。貴方は鬼の祝福を嫌がるでしょうけどね」
すると天地丸の傷が完全に再生する。
そして、朱葉は花のように散り消える。
天地丸の見たなかで、それは一番美しい鬼の散り際。
「さて・・・と」
天地丸は辺りの鬼気を探るも、この場にはいない。
もっともあの妙な鬼気と複数の霊気はまだ街をさ迷っている。
(まぁ、鬼気と呼ぶにはあまりにも儚いがな。だが確かめるのは明日だ)
天地丸が去った後、封鎖結界跡に人影がある。
「これは・・・・・・」
しばらく、激しい戦闘の傷跡を視詰めると無言のままその人影は夜闇に消えた。
次は最低な人間を登場させる予定です。




