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鬼のいる街

凄く短いですが、よろしくお願いします。

陽が中天に差し掛かる頃、街の入口に到着した。

紫苑には、上手い言い訳を思い付かず天地の一族のこと、前世のことを内緒にほぼ全て話した。

それでも、紫苑は何も聞かずにいてくれた。その信頼に応えたいと思った。

「・・・・・・大きな街ね」

「ああ、ここより大きな街は見たことないな」

街のなかは相変わらず賑やかで活気に溢れている。


街は大人の倍はある大木を使用した柵で四重に囲まれ、出入り口は三つ(内一つは閉鎖中)それぞれに二人の見張りと三人の護人が日中夜に渡り守り続ける。


(この鬼気の数は封が解けたか。それにこの妙な鬼気と霊気は、確かめるか)

「それで、これからどうするの?」

「とりあえず、しばらくはこの街で過ごすか」

向かう先は街の北側。その区画にあるのは広すぎる一軒の平屋と閉鎖中の門。

この区画は相変わらず何も無い。鬼を封じた門とそれを守護する符術士の家だけがある。

その家が目的地だが。


「誰もいないのか?ばーさん、いないのか」

「やれやれ、聞こえとるわい。久しいの天地丸」

「ばーさんも元気そうだな」

「で、どうかしたかの。会いに来ただけではあるまい」

「ああ、しばらく世話になる」

それだけ伝え、紫苑を紹介する。

「あ、あのお世話になります」

「紫苑さんかい、ワシは夜花(やばな)と言います。何の気兼ねもなく、ゆっくりしなされ」

そのまま、家の中に案内され戸惑ったままの紫苑は夜花に連れていかれた。


夜、居間にはすでに食事の用意がしてある。

その場には夜花以外に三人の姿。寡黙な男性と幼さの残る女性、それに勝ち気そうな女の子。

男性の名は玄夜(げんや)と言いこの街の符術士。

女性の名は涼華(すずか)で玄夜の妻。

そして、二人の子供の蓮華(れんげ)

「久しぶりだね、てんちゃん」

「・・・・・・」

みた目通り子供っぽい声の涼華と無言の玄夜。

「で、天地丸。説明は」

見た目は清楚そうなのに、男みたいな話し方の蓮華。前からそうだが、この家族は何も変わってない。

食事をしながら、紫苑との出会いから今までの経緯を説明する。

「紫苑さんも大変でしたの」

「あっ、でも天地丸さんがいてくれたから」

「急がないのか?天」

「さすがにほっとけないだろ」

「気づいたの?てんちゃん」

「当たり前だろ」

「その話しは、また後にせんかの」

夜花の言葉を合図に、旅の話しや街の話しなど談笑しながら、箸を進める。

その間、ずっと蓮華は紫苑を視つめている。そして納得したみたいに一人頷く。

「な、何?」

「別に、ただちょっと気になっただけ。天地丸が他人(ひと)と一緒に旅するなんて無いと思ってたから。でも、合格かな」

「え?」

「合格って言ったの。貴女からは〈悪いもの〉は感じないし」

いまいち理解してない紫苑に説明する。おかわりをしてからだが。


「蓮華の瞳は特別なんだ。鬼の気配や幽霊だけじゃなく、人の悪意や想いが視える。人間には珍しいけどな。浄眼(じょうがん)さ。ま、よーするに紫苑は良い人ってことだ」

「ねぇ、しーちゃん」

「あの、涼華さん。そのしーちゃんって言うのは・・・」

「だって紫苑(しおん)だから、しーちゃんでしょ。ほら決まり」

「紫苑、母上に何を言っても無駄よ。僕が言っても駄目なんだから」

「蓮ちゃん、ひどい。それよりも、しーちゃん明後日御祭りがあるの」

「そうだよ、ちょうどいい時期に来たね」

それから、涼華と蓮華に紫苑が祭りの話しで盛り上がり。すっかり紫苑も馴れたのか、片付けと洗い物を手伝っている。

俺は玄夜と夜花と一緒にお茶を飲みながら話をする。

「天地丸、すまない」

「玄夜さんのせいじゃないさ。あの封域のなかの鬼を外に出ないようにしてるだけで凄いよ」


あの閉鎖された門の内は、隠の一族が封じたもの。一年前にこの街を出る時は完全に封印されていた。

聞くと、数日前に突然封が解け、玄夜をはじめとする符術士、符封士の力で再封印したが、おそらく後一日持つか持たないかと言ったところだろう。

だが、それよりも気になるのは、鬼気と呼べないような妙な気質と霊気の集団。確かな意志を持っているあれは・・・人に憎しみと怨みを持ったもの。だがあの鬼気?の持ち主は今ならまだ救えるはずだ。

「玄夜さんにばーさん。訊きたいんだが、この街で人に憎まれ怨まれる奴はいるか?相手が鬼に堕ちるほど憎む奴が」

「色々とおるが、それほど憎まれる者にワシは心辺りがないの」

「証拠があるわけではないが、一人いるな。蓮華曰く『外道、鬼以下、人間のクズ、ゴミ』だそうだ」

普段は浄眼の力を押さえている蓮華がそれでも視てしまったのなら、それは本当に最低の人間なんだろう。

「そいつの名は?」

「この街の長で名を式和(しきわ)

「式和か、そっちはまた明日かな。とりあえず今から封域の方を片してくる」

「さすがに一人では危険じゃろう。婿殿も一緒に」

立ち上がろうとする玄夜を押し止める。あの封域の鬼相手なら今の姿では勝てない可能性がある。ならば俺一人のほうが都合がいい。

「ばーさん。紫苑には上手く誤魔化してくれ」




天地丸が出ていってから、ほどなくすると涼華、蓮華、紫苑が居間に戻って来た。

「?天地丸さんは」

「ああ、やはり疲れたのか今日はもう休むと言ってのう。紫苑さんも先に湯浴みをして休むといい」

その言葉に甘え紫苑が居間を出るとすぐに涼華が口を開く。

「で、てんちゃんは何処に行ったの?」

「天地丸の事だから封域でしょ」

「ああ」

「じゃが、封域にいる鬼の数は百を越えておる。それにあの鬼の力は他の鬼の比ではないのじゃ」

三十年以上も昔。あの場所に鬼が封じられるのを夜花は見ていた。そして覚えている。鬼の力と恐怖を、だからこそ当時の皆でこの地に街を作り隠の一族が人間を見限るまで、符術を教わり戦うすべを身に付けたのだ。

「でも父上が行っても足手まといになるだけでしょ」

蓮華の言葉は確かに事実だ。天地丸の正体を知らなくても、その実力は玄夜も知っている。

「大丈夫だよ。天地丸は絶対に負けないから」

「蓮ちゃん、何か視えたの?」

「うん。すべてを越えた想い。理を越えて存在するもの。とにかく、凄すぎて視えたのに、凄すぎて視えなかった」

それから、ゆっくりと穏やかに微笑みとさらに続けた。

「天地丸は強いから。僕の知る誰よりも」










次は封域の鬼との戦闘です。

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