隠
随分た久しぶりの投稿です。せめて週一で投稿出来るようにしたいと思います。
「翡翠」
「天地丸、逢いたかった。ずっと、ずっと待っていたの」
「ずいぶん待たせたな。それにしても、あの時の天が与えた罰がまだ翡翠を苦しめてるのか」
「ええ、いつ狂いこの地を滅ぼすか不安だったけど、天地丸との約束が私を支えてくれたの」
翡翠に触れる。相反する気が渦巻き翡翠の魂を蝕んでいる。
普通なら、狂い死にしていてもおかしくない苦痛に耐え続けて、待ってくれた。
翡翠の精神(聖心)は天罰を受けてなを天地丸を求め耐え続けた。
「翡翠。もう一度呼ぶよ真(神)名を」
そして、その名を口にする。愛する人の名を力ある神の御名。
「天地紡神名秘翡翠御洲媛」
真なる神の名が翡翠の力をその神性を甦らせる。それでも天罰の呪いは翡翠のなかにある。神気の内に妖気が鬼気が存在している。
「ねぇ、天地丸。天はまた罰を与えるかしら?」
「そんなことは決してない。幾千年前の悲劇はもう繰り返さない」
「でも、私達の想いは禁忌。それは今世においてさらに深いもの、幾千年前よりもずっと」
「約束しただろ。たとえ魂魄を無くそうと、俺の消滅が天の望みであり意志だろうと、それが天の与えた運命だろうと、俺はすべてを越えると。そして俺は・・・・・・俺達は越えたんだ。魂魄が消滅しようと想いは残り、想いは魂魄となり生まれた。そして何より刻を越えて絆は結ばれ続けたんだ。だから俺達は再会した。もし再び天が翡翠と俺に罰を与えるならば・・・天よ、その時は俺が天を滅ぼす覇となろう」
まずは翡翠のなかにある天罰の呪いを解く。
「お願い、天地丸」
「ああ、くそったれな天罰から今、解き放つ」
太刀を抜き呼吸を整える。翡翠から送られる神気に自らの気を合わせる。
「真・神気絶刃―透過」
神気と気を合一し翡翠のなかにある妖気のような鬼気のようなものを斬る。
翡翠のなかにあるものが外へと出てくる。それは黒い人形をしたもの。
それが出たとたん、翡翠は本来の神の姿を取り戻す。
天地紡神名秘翡翠御洲媛、その姿は足元まである長く美しい髪とその背にある一対の翼。髪と瞳それに翼も刻々とその色を変えていく。
「大丈夫か?」
「大丈夫よ、それより」
翡翠から出て来たものは、何も話さない。それでもその身から溢れる力は神に等しい。そればかりか、その禍々しい力が鬼を生む。二つの顔を持つ両面鬼。それと、全身が骨の鬼骨の二体。
だが、その鬼骨を両面鬼は喰らった。鬼同士の共食い。
「天地丸は鬼をお願い。今度は私が天の与えた罰を越える番だから」
「わかった」
「気をつけて、相手は宿儺一族よ」
「大丈夫だ。見ててくれ」
「妾の相手は人間の坊やね。両面姫たる妾の相手が人間程度ね。でも久しぶりの餌、たっぷりと味わっていただきましょう」
相手は宿儺一族、しかも鬼骨を喰らいその力を得た鬼。
「早く終わらせて、出来れば天地の一族を食べてみたいわね」
「早く終わらせるのはこっちだ」
「愚かな坊や」
振り降ろされる爪撃を受け止める。
確かに強い。翡翠の神気の加護とこの神域により両面姫の力は本来の半分以下にまで低下している。
それでも、このままでは勝てない。そう、いまのままでは
「翡翠。見ててくれ、俺の力を、そして両面姫、見せてやるよ鬼に恐怖を与える力を、同族殺しの力を」
光の渦が身体を包む。そして、光の渦が消えると転身していた。
真紅の髪と瞳に頭部から生える細長い黄金色の一対の角。
「その姿は、お・・・に」
隠・・・それは、同族殺しを天命とするもう一つの鬼の一族。鬼にあっては鬼に非ず。人にあっては人に非ず。存在するべきではない隠されし一族。
「馬鹿な、隠の一族は人間を身限り何処かへ隠れたはず。それがこの地にいるなど」
「見せてやるよ、隠の力を誇り高き隠の御技を」
「ふ、フフフ、たとえ隠といえど妾にかなうものか。いえ、隠の血肉はどんな味かしらね」
両面姫の背後から骨の腕が四本伸び四方から攻撃してくる。
「四風八旋」
両腕を突き出しながら交叉し、引きながら両手の甲を打ち鳴らすと四方八方から風刃が鬼骨を砕く。
が、それもすぐに再生してしまう。
右足を半歩前に腰を少し落とす。
再び鬼骨が四方から襲う。
「蒼月」
鞘より太刀を抜きその太刀筋が月を描く抜刀技。
切り落とされた鬼骨は止まること無く迫る。
「乱風刃」
振り下ろした手刀から風刃が生じ、風刃は幾つにも分かれ乱れ飛び鬼骨を砕く。
が、砕かれた鬼骨の破片が刃となり腕や脚に傷をつくる。そして、再び再生し二本の腕と二振りの鬼骨の太刀に姿を変える。
鬼骨の二刀流を避け受けながら間合いをとる。
そして隠気を練り高める。
「連火弾」
数十もの炎の弾が出現し、そのすべてが両面姫を襲う。
「鬼水の雨音」
両面姫に直撃する直前で鬼気より生じた雨が炎をすべて消す。そればかりか、雨音に混じり声がする。恨みの憎しみの、鬼へと通じる心を壊す声が。
「心打ち」
太刀を鞘に納めると澄んだ音が響き、声を打ち消す。
「妾の怨声の呪をそんな方法で破るなんて。楽しいわ、でもそれも終わり。食べてあげる、頭から」
両面姫の鬼気に瘴気が混じり始める。禍々しい不気味な風が吹きすさむ。
「死滅の風」
全ての生を奪う風が迫る。
「さあ、魅せて、あなたの絶望の表情を」
「約束したんだ、誰よりも強くなると。守ると」
太刀の切っ先を『死滅の風』に向け水平に構える。
「焔眼風写し」
全神経を瞳に全て集中する。ただ一点だけを、風を、その源を見破る瞳術。
「真円の月」
水平に構えた太刀を横に薙ぎ払い、その軌跡が満月を描く。
それでも、衝撃を相殺しきれず大きく吹き飛ばされてしまったが。
太刀を納めると一気に駆ける。早く、速く、疾く。
「双落踵」
跳躍し回転しながら踵を落とす。
両面姫がつまらなそうに受け止めると時間差で逆の踵を落とし、直撃させる。
「風車」
さらに、着地までに空中で連続の蹴りを浴びせる。
「鬼骨連刃」
鬼骨の太刀が幾重にも振られるも、その刃を掴む。
「空炎焼」
一瞬のうちに炎は鬼骨を包み焼滅させる。
「妾の鬼骨が・・・」
「忘れたか?俺は同族殺しの隠、鬼の天敵だ」
残された二本の鬼骨の腕が長大な爪状へと姿を変えた。
「もう遊びはおしまいよ。坊やを食べた後は、天地の一族を最後に人間の娘を食べてあげるわ」
その言葉と同時に鬼骨の爪の一撃を太刀で受け流すも、速く鋭い攻撃が続く。
「閃牙爪」
左右からの連突きから切り上げ切り下ろし、そのすべてが閃くも鬼骨の爪に阻まれる。
「諦めなさい坊や。宿儺一族の力を鬼骨の力を持つ妾に勝る隠など存在しない。ましてや妾は千年を生きる鬼」
「たかが千年だろう。俺は幾千年の刻を越え、隠の力を人の魂魄を持つ俺は負けない」
鬼骨の爪を直撃こそ避けるも、徐々に傷が増えていく。
「炎・雷・紅ー炎舞紅雷撃」
炎と紅き雷が鬼骨の爪を粉砕し両面姫の身体の半分近くを消し飛ばした。
「きぃ、やあぁぁぁ、妾の身体が」
「氷結」
再生しようとする傷口が一瞬で凍りつく。
さらに両面姫が次の行動を起こすより速く動く。
「無閃」
閃速を越える速さで両面姫の首をはねる。
「妾が、妾が・・・・・・死ぬなど、妾が」
「瞬炎」
一瞬にして両面姫の首と身体が炎に包まれ塵と消えた。
黒い人形のものは動く事もなくそこに存在している。
「そう、貴女はそういう存在なのね」
何もなく見つめ合う。
そして、天地丸が両面姫が滅ぼすと戻って来た。
「大丈夫か?」
「ええ」
黒い人形は一切動かない。天の与えた罰はこの不浄の地を浄化するためのもの。それはこの世界を滅ぼすことに繋がる。
それでも目の前にあるのは、確かに鬼気に似たものを感じる。と同時にその姿は純粋なものを感じさせる。
「天地丸も気がついた?」
「なんとなくだけどな。はっきりとはしないが」
翡翠はその黒い人形に触れるとゆっくりと抱き締めた。
「彼女は私。きっと天地丸と出逢わなかった私。ただ使命を果たす操神としての秘神。其の可能性に邪気を与えたものを私のなかに与えた。ただ、私のなかには九鬼の鬼気の残滓があったから」
だからこそ、変質したのだと。
「貴女は私のなかで感じたのね。愛する想いを絆を。だから、還りましょう。貴女は私で、私は貴女なのだから」
「翡翠!」
「大丈夫よ。せっかく分かれたけど、こうして向かい合って話して感じて理解ったの。もう一度一つになるべきだって。あの刻、天地丸と出逢ったように。私の想いを伝えて元に戻るの」
それで、すべて理解した。
「天地丸、待っていて。一つになってきっと逢いに行くから」
「アイニ、イ・・・ク。テンチマルの・・・ソバニ」
初めての言葉。それはやはり翡翠の声。
「しばらくはこの神域に籠ることになるけど、大丈夫よ天地丸が私の名を呼んでくれたもの」
「マッテ、イテ。ヤクソク」
「待っているよ」
「天地丸・・・・・・負けないで、私の視た先未にある冥い影に。愛してるわ、天地丸」
「俺も愛してるよ。翡翠・・・・・・天地紡名秘翡翠御洲媛」
約束の口づけを交わし、黒い人形、いや翡翠の頭をそっと撫でる・
いつの間にか夜が明け、何もなかったように部屋にいた。
それでもはっきりと翡翠を感じる。そして、俺の記憶が戻った瞬間結果を張り、位相の異なる空間に隔離していたのに気がついた。
現に部屋に行くと呑気に寝ている紫苑の姿があったからだ。
「さてと、起こす前に飯の準備と何か言い訳でも考えるか」
メインヒロインはまた後程、出番が出てきます。




