過去~久遠の絆、悠久の愛
これにて過去編終了です。
周囲すべてを天地の一族に囲まれる。
「秘神、最後にもう一度機会を与える。その力をもってこの不浄の地を浄化せよ。定められし神(真)命に従うのなら、すべての罪は赦される」
「もし、断ったならどうなさいます?」
「断ることなど赦されぬ」
「私はこの世界が不浄とは思いません。たとえ不浄の地であっても、天地丸の生まれ育ったこの地を滅ぼすつもりもありません」
翡翠はすべての一族を見つめはっきりと伝える。
「私は世界よりも天地丸を選びます」
翡翠の言葉に一族は騒ぎ始める。人間を愛する、それは決して赦されぬ、あってはならない想い。
「秘神、どうあっても神(真)命に従わぬと、天や神、我ら一族を裏切り、世界よりもその人間を選ぶと言うのか?」
「私は媛神、そして今は天地丸の妻です」
「そうか、ならば人間の子よ。そなたは何故秘神にこだわる」
「たった一人、この世界で唯一人の特別なひとなんだ」
「だが、人間と我ら天地の一族とでは時間の流れが違う。不老にして寿命なき秘神とでは決して幸せにはなれん」
「勝手に決めるな。幸せかどうか決めるのは俺達だ」
「天地丸。私は幸せよ、貴方を愛して、貴方に愛されて」
「愚かな」
その言葉と同時に武器を持った天地の一族に囲まれる。
「人間よ、天地の一族がたかが人間を愛するなど絶対の禁忌、何より秘神はこの不浄の世界を浄化し天の姫へと至る、最も神(真)聖な方。人間ごときが汚してよい方ではない。身の程をわきまえよ」
「ふざけるな!翡翠の真(神)名すら呼ばず、秘神と呼びその力を欲して、必要なのは秘めたる力を持つ繰神としての秘神だろう。今、此処にいるのは俺の妻、俺の媛神としての翡翠だけだ」
「人間が何を言う。秘神は現存において最高位の力を持ち、唯一我らを統べる皇たる神の位を継承する皇神。たかが人間の妻など許されぬわ」
「私は天地丸の妻と言ったはずです。たとえ禁忌であっても、私の身も心もすべて天地丸と共にあります」
「愚かな。よいか秘神、其方は我ら天地の一族の統神にして皇神そして、天の姫に列なるのだ。たとえどれほど望もうともその想い、その願いは天が赦さぬ。それでも、天に叛いてでもその人間を選ぶか」
「はい」
たった一言。それだけにすべてが込められている。想いと決意。
「教えてくれ」
「人間の子が何を知りたい」
「何故、俺と翡翠が愛し合ったらいけない。神と人だからか?一族に背くからか?どうして愛する想いが禁忌になる」
「神が人間を愛するなど理から外れた行為。何より天の姫が世界よりも人間を選ぶなど・・・世界の、天の定めた真(神)なる理から外れるなどあってはならん。人間の子よ、人間は人間の理に戻り生活するがよい」
「そうか・・・あの日、俺と翡翠が出逢った。あの時から俺達の運命は始まった。天でも神でもない、俺達自身が望み選んだ運命だ」
「戯れ言を人間のはすべてが絶対真(神)理にのみ従うべきだ」
「ふざけるなよ。神だろうと天だろうと、俺達の想いは俺達が決める」
「神に、天に叛く罪人が」
「神と天に叛くか、関係ない。俺も世界を神と天を敵にしても翡翠と共にある」
「人間がならばその想いを抱いたまま死ね」
翡翠の前に庇うように出る。翡翠は九鬼との戦いで失った神気が未だ回復していない。たとえ戦う力はなくとも守るために立つ。
「人間風情が」
そう言いながら、動けないでいた。相手は普通の人間、簡単に殺すことも出来るのに、絶対的な力の差がありながら。
天地の一族は唯一人の人間に恐怖を感じていた。
「信じぬ、たかが人間の想いが、我らを神を越えるなど・・・・・・やはりこの人間の存在は赦されぬ。我らが祖神よ神の意志たる天よ」
「天地丸」
「守るから、すべてを・・・たとえ何があろうと」
不意に冷たいものが触れる。空は晴れ渡っているのに、季節外れの雪が降る。真白き雪が。
晴れた空のなか、止むことなく雪が降り積もる。
突然、轟音と共に雷が降りる。翡翠の目の前に。
「天地丸・・・・・・いやぁ、やめて!」
周囲に一切の被害を出さず、雷が打ち付ける。
「止めて、やめて、やめてぇぇぇ!!!」
泣き叫ぶ翡翠に雷はやっと止まるもいまだ雪は降り積もる。
「あ・・・あぁ、そんな・・・天地丸」
「泣くな」
身体中傷だらけの上、焼け焦げてなを立ち、そっと翡翠を抱き締める。
いかに、天地丸の心が精神が九鬼や神を越えようと、天地丸自身は人の身に違いない。それでも人の身でありながら、天の与える罰の雷をあびながら、天地丸は立っている。
「バ、化け物が。天の怒りを受けながら生きているなど・・・・・・きさまは、人間でも鬼でも、ましてや神でもない。きさまこそ禍者」
雪の降る空が耀くと強大な雷が幾重にも螺旋を巻いて降臨する。
まさしく天罰。天の怒りにて振り降ろされる御火槌(御神槌)
その瞬間全ての音が消えた。
それでも雷は振り降ろされる。
「お願い、もう止めて。言う通りにするから、罰なら私が受けるから。これ以上、天地丸を傷つけないで・・・・・・お願い、します。天よ」
「ひ、すい。だ・・・イジョウぶだから、行く、な」
「天地丸、もういい、もういいから」
泣きながら抱き支えてくれる。翡翠に優しく口づけする。
「翡翠、ぐっ、がぼっが、あ、あぁ」
胸が焼けたと思ったら、太刀で貫かれていた。其所には顔を隠したものが立っている。
「秘神よ、この人間の死こそが天罰と知れ」
翡翠は反応をしない。ただ降り積もる雪のなか天地丸を抱き締める。
「翡翠、泣くな。たとえ死んでも俺の魂はずっと傍にいる」
「人間よ、きさまの魂に自由などない」
「たとえ魂が無くなろうと、俺は愛だけになって翡翠を探し見つける」
それは、死を目前としたものとは思えないほど、強くはっきりした想い。
「天地丸、私も・・・私も待ってるから、天地丸が再び私に逢いに来てくれるの。幾千年の遥か未来で、幾千年の遥か過去で、天地丸をずっと待ってる」
「翡翠、きっと見つけるから。刻の果てだとしたも、今度こそ守れるように、誰よりも強くなって迎えに行くよ」
もう一度、口づけを交わす。約束の決して消せない絆の口づけを、命尽きるその瞬間まで。
天地丸の命が尽きると同時に雪も止んだ。
「秘神よ戻るぞ」
「行きません。天地丸と約束したから」
急速に神気を高める。神殺し、同族殺しとなろうとも、この世界を離れるわけにはいかない。
その瞬間、声が・・・いや意志といったほうが正確かもしれない。
『天津姫、其にこの名は能わず。故に天に帰すこと叶わず』
「私は天の姫の名はいらない。天に帰る気もない。天よ私はあなたを赦さない。これが禁忌を犯した罪への罰なの」
『禁忌を犯せし罪、その罪に真(神)罰を与える』
その意志は、つまりまだ罰を与えてないとこれから罰を与えるということ。
『すべての刻の内、刻果てる場所であろうとも再び逢うこと叶わず。この人間の魂と魄すべて滅し、世の理より消すものとす。決して再会出来ぬことこそ其の罰としれ』
天の下したものは天地丸の魂魄の消滅。それが、天津姫が人間を愛し結ばれたことへの罰。
腕のなかの天地丸の身体が消えてゆく。塵になるわけでもなく消えてゆく。存在の消滅。
再び雪が降る。天の意志とは関係なく、私の心に呼応して。
『天地の一族よ、この世界より出て其の真(神)命を果たせ』
「しかし、まだこの地の浄化が残っています。秘神の力なくば其を果たすことが」
『変生せよ。変生せよ。其の力もち世界に仇なすものとなれ。変生せよ。変生せよ。其は世界を滅ぼすものとなれ』
私の神気の内に何かがうまれる。妖気のような鬼気のようなもの。相反するものに蝕まれていく。全身を痛みが駆け抜け、自分が自分で無くなっていく。
『此で、このものが変生すればこの不浄の地は浄化される。天地の一族よ行け』
そして、その場には誰もいなくなった。天地の一族も天も。
痛みに気が狂いそうになるも耐える。天地丸との想いを失わないために。
『翡翠』
微かに声がした。一番聴きたい人の声。
『翡翠!』
「て、天地・・・丸」
『翡翠、待っててくれ』
辺りを見回すもその姿はない。
『翡翠、俺は帰ってくるから。たとえ魂魄を無くそうときっと生まれ変わる。それが俺の意志だから。たとえ俺の消滅が天の望みだろうと、天の意志だろうと、天の与えた運命だろうと、すべてを越えてみせる。俺は天を越えて逢いに来るから』
確かなぬくもりが私を包む。そこには自然の天の神の理を越えて天地丸の姿があった。そして、今までで一番永い口づけを交わす。
翡翠の唇が離れると、気がついた。
「今・・・のは」
幾千年前の前世の記憶。はっきりと思い出した。自然の天の神の理を越えて転生したのだ。愛するもののために。
次回は天地丸の正体が明らかに。
バレバレだとは思いますが。
楽しんでいただけるよう頑張っていきます。




