20 「年収一千万円以下の男」
シュルツ「ではお次は紅組の8組目だねー」
美卯「はーい、紅組はがんばるよー」
シュルツ「それはいいとして、さっき愁さんが『三代目Kenji onlys』さんを裏に引っ張って行ってと思うんだけど、大丈夫? 血とか流れていなかった?」
美卯「それは大丈夫だけど、マジガチなトーンで説教していたよ」
シュルツ「そ、そうなんだ」
美卯「でもたまには、けんじくんにガツンと言ってくれる人がいてくれて、よかったよ。けんじくんはガツンしないとどこまでも調子に乗るからね」
シュルツ「なんなの。竹なの?」
美卯「さて、残す紅組はあと二組だね」
シュルツ「そーだねー」
美卯「あともう一息、がんばるぞい」
シュルツ「がんばるぞー」
美卯「というわけで、『BRM1』さんの登場ですー」
シュルツ「わーボクなんかヤな予感するー」
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Q:あなたは誰のためにこの曲を作りましたか?
ブルーメ『婚活のために決まってやがります。歌を歌ってアピールするのです。インタビューする前にその程度のことは調べてきてほしいのです。これだからイマドキの女は仕事ができないって叩かれるのです』
Q:曲作りは難しかったですか?
ブルーメ『大したことはありませんのです。ワタシみたいなスーパーOLはいくつものカルチャースクールに通っているのです。その中のひとつ、作詞作曲教室での経験が活きました』
Q:その経験、感動しました。ありがとうございました。
ブルーメ『ワタシはデキるスーパーOLですから、この程度のこと朝飯前なのです』
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ひょこひょこと、ステージの上には一匹の白猫のぬいぐるみが現れた。
それはとてつもなく小さい。三十センチもないだろう。明らかに遠隔操縦めいて見えるが、それにしては精巧な出来栄えだ。
これがただのテレビならばCGであることを疑わなかっただろうが、しかしホールには観客も詰めかけている。いったいあれはなんなのだろう、というムードが広がる。
そんなバリバリのアウェイ感にもかかわらず、白猫は胸を張っていた。自信あふれるポーズであった。
そうして玩具みたいな大きさのマイクを手に、歌い出すのである。
シュルツ「……なんであいつが来ているんだよ……、それでは歌っていただきましょう。『BRM1』で、『年収一千万円以下の男』。どうぞー」
『年収一千万円以下の男』:BRM1
作詞作曲:ブルーメ
お仕事なにをされてます?
えっ お医者さんなんです?
開業医です? 大学勤めです?
あ 勤めなんですか へえ
世の中には どうして
年収一千万円以下の 男がこんなに
多いの? wow wow wow
お仕事なにをされてます?
えっ 企業してらっしゃる?
お住まいはどこに? 地方です?
あ 地方なんですか へえ
世の中には どうして
年収一千万円以下の 男がこんなに
多いの? wow wow wow
どうして どうして
アタシと巡り会ってくれないの
年収一千万円の男
どこにいるの? もうもう
神様は意地悪だ プンプン
いい暮らしがしたい いい暮らしがしたい
エステに ランチ ヨガに ディナー
理想の暮らしがしたい 家事なんてバイバイ
二度寝 お昼寝 お菓子は 一万円から
理想の男よ 寄っといで
こっちの水は 甘いゾ☆
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シュルツ「『BRM1』さん、ありがとうございました」
シュルツ「しかしこれ全国放送で流すってすげえ胆力だなオイ」
シュルツ「よくよく考えれば、自分で歌を作ることができるAIっていうのも、なんか革新的なのかもしれないけど。よくわかんないけど」
美卯「ねえねえ、シュルツくん」
シュルツ「んー?」
美卯「どうしよう美卯、ブルーメちゃんのことブン殴りたいかもしれないよ」
シュルツ「気持ちはわかるけど、放送中なんで……」
美卯「だってブルーメちゃん、自分のことしか考えていなくない!? 男はアクセサリーなの? 添え物なの? 自分を楽にさせてくれるATMなの? 二十代後半っていうキャラクターの設定でその考え方? 首刎ね兎に変身したくなってきちゃったんだけど!」
シュルツ「あ、はい。あとでお願いしてもいいですか?」
美卯「憤懣やるかたないこのパワーが! 美卯を目覚めさせようとしている!」
シュルツ「やるんなら楽屋裏でお願いします」
美卯「わかった!」
シュルツ「えー、というわけで、お二方をステージに……。お招きしていいのか? これ? ボクのストレスがマッハなんだけど」
シュルツ「じゃあ、はい、問題児のおふたりを、お招きしようと思います……」
シュルツ「次回、スタジオには血の雨が降る――かもしれない」
ブルーメより一言:ふふふ、番組に伝説を残してやったのです。あ、この放送を見た年収一千万円以上の方は、ぜひとも連絡してほしいのです。